雨中紀行〜sleepless rainy days   作:お茶会おじさん

13 / 18
 最近は意識が向いているので投稿頻度もマシなはず。この話で雨中紀行は終了です。


13.食事の後には口を拭わないといけない

 雨が降りしきる中、ぬかるんだ土には新しい足跡がつけられていく。大きさはいろいろ異なっているが一つの方向へと着実に進んでいた。

 

「この雨、いつになれば止むと思う?」

 

 高砂が尋ねる。

 

「…正直ボクにはわからないな。いまから倒しに行く神様が完全な原因だとは言い切れないように思う。もしかすると、実は、いまからボクたちがしようとしていることは、完全な無駄足かもしれないし、してはいけないことかもしれない。」

 

 マイはえいっ、と言って落ちていた小石を蹴った。

 

「じゃあ、なんで俺たちは向かってるんだ?してはいけない事って言うんなら、大人しく雨に当たり続けるっていうのも一つの手なんだろう?」

 

 昌は傘についた水滴を飛ばした。

 

「フッ。まだまだだな。うーんそうだな。あれだ、雨にただ濡れるよりは、どこの海から雲になって風に運ばれて、雨になって自分に降ってきたか知りたい、っていう時があるじゃないか。今がその時なんだよ、昌。」

 

 高砂はポケットからタバコとライターを取り出し火をつけた。

「…きみ、タバコ吸うのか…」

「ああ」

「まぁ構わないけど」

「ああ」

 

「……その時か…ふっ、何がその時だよ。中二病?」

 

 バタバタドタドタしだした高砂と昌を横目にマイはため息をつく。なぜこいつらは今からはるかに強い神と戦うかもしれないっていうのに緊張感がないのか…。ふつう、ゲームでもボス戦の前はドキドキするもんじゃないのか?まぁ彼らにはそんな気持ちがないのかもしれないが。

 

 九合目にたどり着いた一行は、黒々とした空に思わず目を見開いた。そこには、5mほどで頭が8つある一匹の竜が空を飛んでおりそこを中心として稲妻が飛び交っていた。

 

「な、なんだあれ!?竜!?」

 

「あれはきっと、さっきの蛇だな…どうやってあそこまで成長したんだ…」

 

「グゥハハハハハハッ!お前タチ、オソカッタナ…コノ俺、落地は、わずかばかりとはいえ、ヨミの力をエタノダ!!本来の門はオマエタチのせいで壊サレテいたが、周りに食べかすの様に落ちていた残滓をクラッテこの姿にまでもどれたのだヨ!!ぐぅはははっ…は…ぐっ…!ふぅぅ…意識がヨミにノットラレテしまうマエニ!オマエタチを食ってやる!」

 

「おいおいおい、大丈夫かそんな満身創痍で。俺の棒の錆になるだけだぜ?」

 

「蛇…君、落地っていう名前だったんだね…いままでの戦いの決着をつけようか…」

 

「…⋯え、あ、俺もなんか言わないといけないのか?えーと、うー、あー、てめーは傘に弾かれる雨粒にすら満たない。とか…⋯?」

 

 地を這うものと這っていたものの戦いが始まった。

 

 初めに動いたのは高砂。大きく跳躍すると落地の胴体に金棒を振り下ろす。が、落地はぐるんと体をまくと、大きく左に移動して躱した。次に高砂は軸を金棒に垂直にし、落地のほうへと突進しに行った。

 

「オラッ!」「フンッ!」

 

 落地はその体のうろこで高砂を滑らすと尻尾で弾き飛ばした。重力が本来の方向とは90度異なっているため、より勢いを増し、高砂は山の斜面にたたきつけられる。

 

「グフォッ…!うっ…」

 

 高砂は血を吐き出すとぐったりとした。

 

「なぁマイ。あれって結構強い感じなのか…?俺には高砂が押し負けているように見えるんだけど…⋯しかも余裕で…⋯。なんかさっき棒の錆になるとか言ってたのに笑」

 

「そうだね(笑)」

 

「…ぐほっ…お前ら、許さねぇ…」

 高砂はすこし涙目だ。

 

「オマエラ、協調性ガないのか…」

 少し呆れたように落地が言った。

 

 

「まあ仲間割れなんぞどうでもよい、今からお前ら全員をコロスだけだからな!」

 

 落地は高砂を森の奥のほうへと弾き飛ばし、マイと昌のほうに向かって口から炎を吐き出した。とっさに、マイは殻にこもり昌は傘で防御した。熱気が辺りを包み湿った木々に引火するほどの炎。奴らが息絶えるのももうすぐだ、と落地は考える。

 

 しかし、マイの殻の表面が焦げ、一部溶けてはいたが傘は何事もなかったかのようにそこに存在していた。

 

「ナッ!」

 

「暑すぎる!お前やばすぎだろ…。もう少し傘出すのが遅かったら俺死んでたかもしれねぇぜ?その時は保険とかって出るのかなぁ。なんて。」

 

 昌の服が少し焦げてはいたが、平気な様子だった。

 

「なぜ今の炎を浴びても生きている!?お前は人間のはずだろう!?」

 

「ああ。人間だ。正真正銘の」

 (え、もしかして俺にも特殊な能力とかあるのか…!いや、いかんな。こういうのも中二病に含まれるのかもしれない。高砂にあんなことを言った手前、普通にしておこう)

 

「フフッ。俺はッ…ドゥフ…人間だぜ…!エヘっ」

 

 抑えれなかった。

 

「うわぁ、ちょっと気持ち悪い…」

 

 殻から出たマイが思わず引いた。

 

 

「クソッ!人間ごときが…!」

 

 落地は体をねじり、回転しながら昌とマイのほうへ突っ込んでくる。傘で弾こうとするも勢いに負けて吹き飛ばされる。マイの殻にもヒビがはいり、小さな体が岩壁にぶつかった。

 

 そこから二人とも顔を見合わせて、命の危険を察したのか真剣になり、エネルギー弾を撃ったり、矢を追尾させたりしたが、そのダメージは微々たるものだった。

 

 初めは何度も立ち向かった昌も弾き飛ばされるうちにだんだん動けなくなっていった。マイは殻がすぐに壊れてしまうことを認め、塊をそのままぶつける様になった。

 

 しかし、そんな攻防も5分ほどで幕を閉じた。今の落地とマイには神格に差がありすぎているのだった。それは長年の眠りと封印で失った信仰のせいであったり、相性のせいでもあった。

 

「うう…もう無理…」

 

「ああ⋯…俺もだ…⋯全身打撲みたいになってる…⋯。これ大丈夫なのか⋯⋯?」

 

「なンだ、モウ終ワリカ。ツマらンな。所詮は旧く弱イ神ダッタカ。トドメだ。今までの戦い楽しかったぞ、マイよ…。死ね!」

 

 落地は二人に尻尾をたたきつけようと高く上げた。振り下ろそうとしたその瞬間──

 

「ムッ!!」

 

 超高速で動く「何か」が頭を狙って飛んできたのだ。落地はそれを感じ取りすぐに頭を移動させる。

 

 ぎりぎりで落地の頭の横を通過したそのナニカは天に昇って行く。

 

「何だイマのは!?」

 

「今の…⋯もしかして…⋯」

 

 

「お兄ちゃん!大丈夫!?」

 

 それは雫のレールガンだった。最大展開されており、4つの球体の発射口が落地の頭に狙っていた。

 

「雫!どうしてここに!?」

 

「私も散歩したかったから!ここまで来るの大変だったんだよ?」

 

 落地はグググと唸って雫を睨みつけた。

 

「如何してこうもオマエラ人間トいうものは…!」

 

 落地は怒りのあまり炎を吐き出すが

 

「それしかできないのか?」

 

 すべて昌の傘にかき消されてしまう。

 

「ウガァァァァァ!全員!消し潰す!シネェぇ!」

 

 集めた黄泉のかけらをすべて使い、死のエネルギーを持った塊を生成していく。それを三人にぶつけ────

 

「…油断大敵、片腹痛し。すべての敗因はそこにあるんだよなぁ。」

 

 高砂がそう口にする。はるか上空には金棒が浮かんでおり、軸は地軸と同じ傾きに調整されていた。遥か上空から飛んでくるのは雫のレールガンで放たれた球。落下エネルギーはより強い重力で高められておりその速さは音速を超えていた。

 

「『天爆』。…⋯これで死ねるなんて本当に運がよかったな。蛇野郎⋯…」

 ────球が落地の頭に触れた瞬間、落地の頭が爆ぜ、地下深くへその巨体を沈めた。

 

「「「⋯…」」」

 

 一同は目の前で起こったことを理解することができなかった。爆風と泥、そして血が昌の傘と自動展開していた超霊子砲に弾かれていた。

 

 しばらくして、高砂が金棒を回収し三人のもとへとやってきた。

 

「よぉ。大丈夫か?」

 

「え、ああ。うん。え?」

 

「…⋯今、何が起こったの…⋯?」

 

「…⋯別に言わなくてもいいだろ。それより、もう終わったんだから帰ろうぜ。いつまでも雨に濡れて⋯…」

 

 高砂が口を閉ざした。

 

「どうしたんだよ。」

 

「…⋯まだ、雨がやんでない…。こいつ以外に原因があるのか…⋯!?」

 

 高砂は煙草に火をつけて思案する。

 

 その傍らで晶は雫とマイと一緒に休憩していた。

 

「いやぁ、それにしても疲れたな。ただの調査のはずがこんなに体を動かすことになるなんて。雫、帰ったらゲームでもしようぜ。」

 

「うん。そうだね!」

 

「落地…⋯。君との戦いがこんな風に終わるだなんて。少し名残惜しいよ。お互いが野望を持ちボクたちは争いあったけど、目的がかなった瞬間に追いかけていた楽しさはなくなってしまうものだとも思うよ。ボクの野望はまだ達成できていないけれど、正直達成したくないとも感じたよ。君のおかげでね。ありがとう。そして永遠にさよなら、だ。」

 

「神がいなくなったって言うのにどうしてだ?この悪寒…⋯。まるで土の中にいるみたいな…落地にそんな能力はなかったはずだ…⋯。《アイツ》の言ったことを信じるのなら…⋯」

 

「《アイツ》って誰だ?」

 

「ん?なんだ聞いてたのか。⋯⋯いや、お前には関係のねぇ話だよ。そういえば。⋯⋯お前はその傘の手入れでもしておけよ。」

 

「⋯⋯ふーん。そうか」

 

 

 タバコ一本分の灰が出来上がった頃。突如として地面に亀裂が入り穴が開きだした。

 

「な、なんだ…⋯!?」

 

「危ない!高砂!離れろ!」

 マイが叫ぶ。

 

 高砂がその場所から飛びのいた瞬間、地面が一気に消えて紫色の結界が浮かんできた。

 

「ああ、なんだ一つしか食べれなかった。食べれなかった!腹がたつわねぇ…。全員添えものみたいな感じだったのも残念だ!残念だ!」

 

 そこに現れたのはピンクの長い髪に、銀の王冠。鼻にピアスを着け、長袖のワンピースを着た女の人だった。巨乳だった。巨乳だった!

 

「お兄ちゃん…おっぱいに反応しすぎでしょ…」

 

 

「私は飽咋 失《あきぐい うしな》。神様なんだよ。腹が減ってる。腹が減ってる!今からあんたたちを食べようと思ってやってきたのだけれど、どれも小ぶりだったみたいね。みたいね!でも、多少は足しになるでしょうから。食べるね。食べるね!」

 

 そういうや否や、手を空中にふるった。すると、グゥオンという音が聞こえ、昌が飽咋の近くに引き寄せられる。

 

「え!なんだっ!?」

 

 昌の体にかぶりつこうとする飽咋の胴体に雫のレーザーが直撃した。

 

「お兄ちゃん!大丈夫!?」

 

「ああ。何とか助かった…。あれはやばいな。空間というか空気を喰ってるみたいな感触だった。」

 

 高砂は金棒をしっかりと握りしめ、マイは矢を弓に構える。

 

「『合・喧』!」「『螺旋的な恋の矢』!」

 

 直線的な単純物理と放物線を描く回転エネルギー。二つの攻撃はそれぞれ飽咋の右手と左手に喰われてしまった。

 

「フンッ」「ま、一筋縄じゃ行かないか…」

 

 昌は傘を開いて、雫は超霊子砲を展開する。

 

 昌は雫の前に立ち、雫は4つの球体で構成された超霊子砲の射出角度を合わせる。

 

「ははは!そんなことをしても黄泉の力にはすべてが無に等しいのだよ!等しいのだよ!」

 

 大量の黒いもやの塊を雫に飛ばしていく。

 

「…⋯ハァ。何のために防御役として俺がいると思ってるんだよ…⋯!」

 

 昌は傘を回して妹に飛んでくる塊をすべて上空に打ち上げ

 

「いまだ!雫そこに撃て!」

 

「そんなこと知ってる。えーと『レールガン・跳・散』。あ、間違えた。」

「ゑ…?」

 

 超霊子砲からは大量の弾丸があちこちに跳ね回りながら飛び出た。

 

「そんなものが当たるとでも…む。この霊子…純粋な生命のエネルギーか。こんなの食べても不味いだけだ。不味いだけだ!」

 

「好き嫌いしたらいけません、って言われてないの?次はこれ!『スポットライト・レーザー』」

 

 3つの子機が周りはじめ、親機の示した方向────飽咋の体にすべてのレーザーが集まる。

 

「むっ、人間のくせに、いったい誰が黄泉を中和できるほどの生命エネルギーを作ったというのか。いうのか!」

 

「親父ィ、さまさまだな。」

 

「そうだね」

 

 飽咋の動きが鈍くなり追撃をかけるように高砂とマイがとびかかる。

 

「『天翔・偽』!」「『maimai』!」

 

 高砂はアッパーのように飽咋の顎を打ち、マイは高速で動き回り殻で体当たりを何十回もして、跳ね飛ばした。木々の隙間に飽咋が跳ね飛ばされる。少しうめいたあと何かをボソッと言って、体の下に出現させた結界で移動し、消えた。

 

 ふと昌が頭上を見上げると、飽咋がそこには浮かんでおりちょうど呪文を唱え終えたようだった。

 

「少しお前らに黄泉の一部を見せてやる!『ヨミノイカヅチ』」

 

 直感的に高砂は伏せ、

「お前ら!伏せろ!」と叫ぶ。

 

 マイは殻にこもり、雫はうずくまる。昌は伏せようとしたが視界の端に雫が映り────

 

 傘で防ぎきれなかった雷は昌の体を貫き、意識を奪っていた。体には焦げ目がつき、白目をむいていた。

 

「お、お兄ちゃん!!」

 

 雫は倒れた昌に駆け寄り超霊子砲の機能の一つである、治癒機能を使いだした。

 

「甘いねぇ。甘いねぇ!人間というものは!」飽咋は背中を見せた雫に雷を落とした。

 

 

「人間というものは、協力する生き物なんだぜ。神様よぉ?」

 

 高砂が金棒を避雷針にして雫を守っていた。放り投げられた金棒はマイが矢で回収し、高砂のもとへと移動させる。

 

「おい、昌、しっかりしろ!」

 

「ぐぅ…⋯うう…⋯いってぇ…⋯マジでやばい…」

 

 昌はそう言いつつも、何とか立ち上がる。マイは子機2つを昌に預け、レールガンを構える。高砂は次の技を準備し、マイは矢を放つべき時を待っていた。

 

 飽咋が動き出し、高砂が動き出す。マイは弓を構えて、その矢じりを。昌はぼーっとした顔で体の中に入ってきた《ナニカ》を感じながら技を準備する。8つの目の先にいる飽咋は線を、比喩でも何でもない死の線を。

 

『アルティメットレールガン』、『覇・昔日の夢』、『だいろさまの恋矢』、『刺突・傘』、『絡まりデッドライン』

 

 何度も何度も技がぶつかり、小一時間ほどが経った。全員が疲れてくる中、昌はナニカについて一つの確信を得ていた。

 

(このナニカは黄泉なんじゃないだろうか。何らかの理由で俺が黄泉が混ざり、そのエネルギーを半永久的に使えるようになった…いや、まさかな…)

 

 依然として目の前では、激しい攻防が続いていた。高砂が金棒を振り下ろすも、手により位置をずらされて無駄になり、飽咋が黄泉を出現させて雫を食べようとしても、出現する門をマイが矢で打ち壊して、使えなくしたり、となかなか決着がつかない様相であった。

 

 ならば、と昌は考える。この混戦している状況なら俺が何かしてもすぐに困ることはないだろうと。思い切って出してみることにした。

 

「『黄泉』…」

 

 そう言った瞬間、自分の手に黒い塊があらわれた。どす黒く、闇を包み込んでいるかのような塊───

 

 そしてまっとうに生きていれば出会うことのないようなモノ。それが今、昌の手の中にあった。無意識のうちにそれから体を遠ざけるように手を遠く伸ばす。

 

(これをずっと持っておくのは絶対やばいな…。さすがに俺でもわかるぜ…)

 

「なあ!高砂!少しそこを離れてくれ!」

 

 突然の昌の呼びかけに怪訝そうな顔をしたがすぐに手に持っているものに気づいたのか左に大きく跳んだ。

 

「オラッ!」

 

 さながらドッジボールで投げるかのように。塊は放物線を描きながら飽咋に向かっていく。飽咋の胴体の真ん中にぶつかると同時に辺りに風が吹き始めた。塊に吸い込まれていくかのような風。それはどんどんと勢いを増していき、ついには木々の雨粒を吸い込みだし、葉っぱをねじり取り、戦いで飛び散った泥さえも塊に入っていく。

 

「お、おにいちゃん!これ、何してるの!?何あれ!」

 

「わからない!」

 

「無責任だなぁ…⋯」

 

「グっ…グググ…⋯。この感覚…⋯黄泉そのもの⋯…?なぜお前のような人間ごときが…⋯黄泉を許容できている…⋯!?黄泉は…黄泉は、『死』そのものなのだぞ!おまえは死んでいるのか?死んだのか?」

 

「生きてるはずですけど…」

 

「お兄ちゃんは生きてるでしょ…」

 

「あれか?二つ階級上がってたりするのか?」

 

 昌はうるせぇ、と言いつつこの変わった状況に興奮していた。

 

 いつもの今まで送っていた生活から離れた不思議な体験───そうだ。これを、これを求めていたんだ!手に汗握る戦い、いつ命を落としてもおかしくない状況で華麗に攻撃をかわし、敵が驚くような攻撃を加える…⋯。

 

 まさに昔あこがれていたような戦隊もののヒーローのように。正義の塊ともいえるパワーで……いや、この黒い塊は正義っぽくないな。むしろ俺が悪役サイド。マジで。ホントに。どこで間違えたのか。おかしいな~?

 

「生まれた時からなんじゃあねぇのか?」

 

「もしくは見ず知らずの女の子に暴力を加えようとしたときじゃない?」

 

 …⋯そんなことした覚えはないぞ。

 

 茶番は横に置いといて。実際、昌の放った「黄泉」は飽咋にかなりのダメージを与えていた。不意打ちかつ、相手も同じ属性であるとはいえ、そのエネルギーは強大であるようだ。

 

「違うよ。『黄泉』っていうのはエネルギーが強いんじゃなくて皆無なの。だから強いんだよ。」

 とは、マイの発言だ。そういうことなのか。いまいちよくわからないが。

 

 飽咋はいくらかつらそうな顔をしていたが、次第になれたようで、ニッと笑って、

「甘い!そんなものだけでわたしを倒せると思われたことが腹立たしい!腹立たしい!『ヨミノヌボコ』!」

 

 飽咋は手の中に現れた槍のようなもので矢やレーザーをはじき、頭上でぐるぐる回転させ、一直線に昌に振り下ろす。

 

「沈めっ!」「嫌だねっ…!」

 

 昌は目の前の圧倒的恐怖に対しておびえていた。だが、目の力はあるままだった。昌はググッと上を向き、手をかざして黄泉を呼び出しなおす。

 

 持続時間はたったの5秒。飽咋の槍裁きとすべてを失わせる黄泉のぶつかり合いにおいて勝負を決するのは、いかにそれを生かすかであろう。タイミング、角度、そしてバランス。二人の戦いのセンスは高まりあい、互角の状況であった。

 

「昌、その角度だ!そこに俺が走る」

 

「雷が来るよ!」

 

「そろそろ限界であろう!もう諦めてはどうだ?黄泉に飲まれれば楽になるぞ。楽になれるぞ!」

 

「うるせぇんだよ!俺は!人間として生きているんだ!てめぇみたいに黄泉に飲まれて生きていきたいわけじゃねぇ。まだ死にたくないんだよ!」

 

 

 そこで飽咋はふん、と鼻を鳴らして語り始めた。

 

「ふん。そうか。一ついい話をしてやろう…⋯。何、そう焦らなくても良い。私はお前を同等だと、今は認めているのだ。今はな。

 

 神というものは人間の願いを叶えるものだと思われているようだが、そんなことはない。われらは人間に試練を与えるだけだ。そうすると人間は勝手に乗り越えるか挫折するか……。

 

 私にとってはどちらでもよいのだが、乗り越えた人間はわれらに感謝をし、挫折した人間はわれらへの信仰が足りなかっただのと言いだすのだ。

 

 馬鹿らしい、あほらしい。お前らは所詮死へと向かっているだけなのだ。それまでの道の中で何をしようがどう生きようが、結果は変わらない。過程なんてものも歴史に変わっていく。人の歴史というものもその文明が消えてなくなってしまえば、誰にも知られないものになる。

 

 ちなみにこの文明はもう七つ目なのだが、前の文明の終わり方は実にあっけなかったな。それまで紡がれてきた言葉も歴史も感情もすべて無になった。灰燼に帰す、という言い方なのかな。

 

 ⋯⋯つまりはなあ!すべては無に収束していき『黄泉』へとなるのだよ!お前もそうだ!センスがあろうと強かろうと全員死ぬのだ……。そう。死ぬのだ!」

 

 

 そこで俺も鼻で笑って返す。

 

「一番大事なのは結果じゃない。それくらい分かっていたはずだろう?」

 

「何が言いたい? まさか過程が重要だと言いたいのか! そんなありきたりな言葉で取り繕うんじゃない!」

 

「ああ。過程だ。文明が滅んだとしてもそれでも俺たち人間がやってきたことっていうのは無駄じゃない。歴史がいつか消えてしまうとかは関係ない。今を生きることしかできないのだからこそ人間は死なずに生きるべきなんだ。」

 

「文明の崩壊は結果だ!すべてのものは等しく無に帰り、過程は無駄になる…⋯そこのカタツムリ!お前もよく知っているだろう!?」

 

「そう思ってるよ…⋯。でもボクはそれでも過程を生きていくよ。ボクたち神が存在できるのは人間がボクたちを信じてくれたからだよ。ボクたち神は結果を通過していくだけで、結果に生きているわけじゃないんだ!!」

 

「あああああ!なぜなんだ!なぜお前らはそうも人間に媚びを売るのだ!われらは誇りを高く持つべきなのだ!人間はただの…⋯!」

 

「ただの?ただの何だよ?…⋯腹ががら空きだぜ。」

 

 高砂は飽咋が話に夢中になっている間に木々の間をすり抜けて飽咋の目の前に立っていた。金棒を振りかぶり飽咋の顔を見る。その顔は涙に濡れぐしゃぐしゃになっていた。

 

 そこに高砂が

 

「これで一回眠っときな。『覇・浄雨』。⋯⋯いくら理論を語っても押し負けちゃあ、テメェの負けだぜ。相手が悪かったな。」

 

 木々が吹き飛び、波が立つ…ということはなく、トン、とお腹にあててーーーーーー

 

 長かった雨が止んだ。

 




 雨が降り止み、空が晴れだした。しかしまだ森の木々の葉には雨粒が残っておりそれらは一人の人間の顔を映していた。

 次回、夢中紀行~sleep traveler~
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。