雨中紀行〜sleepless rainy days 作:お茶会おじさん
行く当てもなくさまよっているとふと、この間の事件が起きた場所に再び言ってみようかという気持ちになった。なんとなくだが、なにか面白いものが見れる気がしたのだ。ここからヨモヤマまで行くのに20分、高砂が地面をえぐったところまでは10分程度だろう。
「さてと。いっちょ行ってみるとするかな。気分もいいしな。」
山に着き、一週間前に戦った場所に行ってみると「この先土砂崩れ発生。侵入禁止。」と書かれた看板が立っていて、プラスチックのフェンスで入りにくいようになっていた。高砂の組織はこんな感じで対応しているのか、と少し感心しつつ、そこを通り過ぎてさらに奥へと進んでいった。
うっそうと茂った森を突き進んでいるとマイと遭遇した。マイは何かを探していることに夢中になっているのかこちらには気づかなかった。
「よおマイ。調子はどう?」
マイは驚いたようで、体をビクッと振るわせて振り向いた。
「誰!?……なんだ、晶か。もう、驚かせないでよ。」
「ここで何をしてるんだ?探し物?」
「ううん、違うよ。まぁ一部探し物でもあるけれど。特に用のないことだよ。君はここから去ったほうがいいね。」
「何でだよ?見られちゃまずいものでもあるのか?」
「まぁそんなところだよ。ともにこの山の平穏を守った仲だ、ボクのためにここから離れて家に帰るなりなんなりしてくれよ。」
「…お前、動揺しているな…? 一週間前に飽咋 失が地面から飛び出してきた時と同じ顔をしてるぞ。そんなに見てほしくないものが気になってきた。面白そうだから見させてもらうよ。」
晶はそう言ってマイに一歩近づいた。マイの手元を見ようとして無意識に前のめりになる。
「ぐっ…!本当に嫌なんだよ。お願いだからさ。この可憐な少女のためにここから去ってほしいんだ。」
「可憐な少女…? まぁいいや。や、でも気になるし少しだけでいいからさ。」
ピキッ! ここでマイの苛立ちが沸点を超えた。手を前に出して、愛用の弓と矢を顕現させる。それをみて晶も傘を取り出して後ろに飛ぶ。
「しつこい。実を言うと君のことは結構前から調べてたんだ。友達と全然遊んでなさそうだから、ぼっちなのかなと思ってたけど、その理由がいま明確になったよ。気絶してな。『だいろ様の恋の矢』」
「お、おまっ、ふざけやがって!てめぇはあれだ! エスカルゴにして喰ってやるよ!」そうして山が再び騒がしくなりだした。
初手はお互いに距離を取ることから始まった。マイの撃った矢は大きな衝撃の塊となり、晶を正面から圧倒した。晶はそれを避けるために後ろに下がって傘を開く。神の気弾を弾いた傘をもってしても威力を半減することしかできず、晶は大きく吹き飛んだ。吹き飛びながらも晶は傘の先から弾を撃ち、衝撃の中に隙間を作った。そこに体をなんとか捻じ込むと手を前に突き出し、飽咋から手に入れた黄泉エネルギーを放つ。『黄泉』は周りのあらゆるものを吸い込もうとするかのように大気の吸引をはじめ、マイを引き寄せる。黄泉の出現を感じたマイは、咄嗟に放った矢につかまって黄泉から逃げた。そこに晶は矢を落とそうと傘から弾を撃つ。
晶が撃った弾はマイの矢にあたり、足場を失ったマイは地面に落下する。そこでマイは再び矢を放つ。
「くっ…!『螺旋的な恋の矢』! 」
「またかよ!矢単体を狙うのむずいんだよ!…ここだっ!(あの塊の近くにマイが行きさえすれば、エネルギーを吸い出して勝てるんだ。慌てることはないぜ)」
しかしここに晶の誤算があった。『黄泉』が少しずつ小さくなって消えてしまったのだ。もう一度出そうと試みるも、なにも起きなかった。晶ははっと思い出す。
そういえば、戦いが終わった後出そうとしてもしばらく出ず、次の日に再び黄泉を出せたことを。
(まさかとは思っていたけど、『黄泉』のインターバルって結構長いのか!?)
実際、現時点で晶が『黄泉』を現世に出すことが出来る時間は、たったの20秒である。さらに一度使った後は二十分ほど使うことが出来ないという、強力だが効率が悪い能力になっているのだ。高砂やマイからすればただの人間でありながら『黄泉』を行使することが出来るのはおかしなことなのだが、晶にとってそれは重要ではなかった。
そして、自分の能力のデメリットを確かめていなかった晶は、ここでその弱点に気づき大きく動揺した。その上、さらにマイの放った矢が晶を穿とうと追跡してくる。矢は一定距離進んだところで墜落して消えるのだが、マイは連射しているため晶は休む暇を見つけられない。
「こうなったら、『黄泉』なしで勝ってやる!」
そこから晶は木の陰に隠れつつ、マイの矢の軌道を確かめようとしだした、何本かはそうすることによってかわすことが出来たが、ついに木の壁に追い詰められてしまった。
「クソッ!…はぁはぁ…不味い、撃たれる!!」
晶は迫りくる矢の軌道を変えようと、傘を閉じて迎える。ーーー刹那、矢が晶の頭のすぐ横をかすめて後ろに飛んでいく。以前ならここでほっ、と安堵のため息を一つ着くところだが、飽咋との戦いで危険を察知する能力が身についていた晶は勘で次があると考えた。また実際のところ、ここで油断するほど、晶に余裕はなかった。
後ろに飛んで行った矢は曲線を描きながら晶の後頭部を、二本目の矢は腹部を正面から狙う。これに対し、晶は傘の先から弾を前方の木の根元に連射して木を倒した。そして後ろを振り向き、矢尻の部分に狙いを合わせて打ち抜く。命中。そして、ターゲットの位置が分からなくなった矢が木に突き刺さって止まり、矢尻をつぶされた矢は傘に弾かれて消える。
マイはこの攻撃が効かなかったことが意外だったのか、目を丸くして晶を見ていた。
「いつの間にそんなにハードな感じになったんだよ…こないだまでもっと年相応の…いや年齢以下の行動をしてたじゃないか。」
「おおありがとう…って、けなしてるのか! あっぶねぇもっと馬鹿にされるところだった。」
「馬鹿にしてないよ。正確正当な評価ってやつだよ。」
晶は無言でマイの殻を撃ち抜く。
「うわっと!! な、なにをするんだよ!! 少しばかりの冗談じゃないか!!」
「まぁ、流石に分かるよ…」
「そう。もっとだめだめだと思ってたよ。」
晶は思わずため息をつく。いったい俺は何のためにここに来たのだろう。鬱陶しい雨が止んで晴れ晴れとした気持ちはいつの間にか消え失せてしまっていた。……それにしてもマイは一体こんなところで何をしようとしていたのだろうか。何かを探している風に見えたけれど。
「……そういえばお前さ、なんか探してるのか?さっきは売り言葉に買い言葉でついつい戦っちまったけど、手伝えることなら手伝うぜ?」
「ぷぷぷ。あれを戦いだって。そもそも高校生が戦うとか言ってて恥ずかしくないの?」
「お前の探してるものがよーくわかったよ。……それはてめぇの墓だ!俺が今ここで作ってやるよ!」
「ふん、まだまだその予定はないよ。あと千年は生きるつもりだからね!」
そこからまた戦いが再開されるかと思ったが、さすがに話が進まないので、晶は手をひらひらと振る。
「冗談だって。で、なんだよ?」
「……うー、実はボクの上司的な主人がいるんだけれど、そのご主人から監視を頼まれてる『とある人物』がいて、その人物が入ってる箱というか、船というかがここの近くに埋まってるんだよ。」
「埋まってる?どうしてそんなことに?」
「さぁ?ボクも詳しいことは知らないからわからないんだけど、ボクたち神にとって幾らか面倒な人物であることは確かだよ。そうでなければわざわざご主人も言ってこないだろうからね。」
「監視か……。ん?その理論で行くと、俺も神にとってすごく面倒な奴ってことだよな!? な、そうだろう?」
「すごく、とまではいかないけど、他の人間と違ってたのは確かだね。」
「ふふん」
そこから晶もその『とある人物』探しを始めた。三十分ほど探し続けていたが、なかなか見つからない。それに比較的薄いが霧も出てきた。まだ山道が見えている場所だから安心できるが、このまま霧が濃くなって方向が分からなくなったら身近な山であろうと遭難するのは明白だった。
「なぁマイ、ちょっと霧が濃くなるのが怖いから、一度道の近くまで戻ろうぜ?」
「……そうだね……、なんだか、はぁぁわ……、眠くなってきたし。一度道に戻って休憩しようか。」
「おう」
二人は道のわきにあるベンチに座った。マイは殻の中に入れてあった水筒を取り出して、晶に渡した。
「はい。飲みなよ。」
「いや、さすがに知らない女の子の水を飲むのはちょっと……」
「もしかして間接キスとか気にしてるの?ちょっとキモイね。」
「いや、別にそんなの考えてねぇよ。その容姿のくせにその性格だし……、ま、まぁ、お前がそれで恥じらうとかっていう、た、多少の期待はあったけども?」
「……お、お兄ちゃん、私のお水……飲む?」
「いただきますっ!」
「きもい……」
「失礼な」
「……はぁ、本当に眠くなってきた……晶、睡眠薬とか入れてないよね……?」
「んなもん入れるわけねぇだろ。俺のストライクゾーンはもうちょい上だ。」
「……あ、晶……ま、周り見てみて……。……霧が…。」
言われた通りにすると、霧が先ほどの数倍濃くなっていることに気づいた。そして、呼吸するたびに少しずつ眠たくなる感覚……。
「おお、これはすごいな。久しぶりにこんなに濃い霧を見たよ。ちょっとワクワクしてくるな。なぁ?」
「……」
「お、おい、寝てるのか…?」
「……ね、てない……」
そう言いながらもマイは目をじっと瞑り、すうすうと寝息をかき始めていた。呼吸のたびにマイの白いワンピースの布がこすれる音がする。それほど静かな霧のなかに二人は取り残されていた。
完全にマイが寝てしまった後、晶も少し眠りたいような感覚に襲われた。ゆっくりとだが、このまま何もしなければ、マイと同じように眠りにつくだろう。
「はぁ、めんどくさいけどこいつを連れて移動するか。こいつのこんな薄着のせいで風邪ひかれても夢見がわりぃし。」
晶がマイを背負おうとした時だった。
「あなた、珍しいのね。この霧をずっと浴びても眠らないなんて。普通の人間ならさっきあなたたちがベンチに座った瞬間くらいに眠り始めるわよ?」
「ッは!誰だてめぇ!」
「てめぇだなんて失礼な。まずはお互い自己紹介から始めましょう?先にあなたからどうぞ。」
「名前を聞くときはまず自分からだろう……まぁいいさ。俺は晶。今はコーヒーが飲みたい気分だ。」
「ありがと。……わたしの名前はアナスタシア。……アナスタシア・イープノス。今は、あなたに好奇心が湧いている気分。二つ名的なのを紹介すると『眠り姫』と呼ばれていたりすることもあったりなかったり……。」
「どっちだよ!」
「あんまり人と話したことがないし、この国も言葉もあんまり得意ではないからたまに間違えると思うけれど、許してね。」
「べつに全然いいけど……」
今一度確認してみよう。このアナスタシア・イープノスという少女。簡単に情報を拾っていくとすれば、ブロンドと金色の入り混じったような長髪、オレンジと緑の目、端正で整った顔立ち、白いレースのような服、そして手に持った枕ーーー。おそらく初めて見たとき、多くの人に得体のしれない神秘性を感じさせる少女であろう。対峙している晶からすれば神秘的だと思うよりも先に、奇妙だという印象を持つものだったのだが。
「お前がこの霧の原因か?」
「まぁそうね、アキラ。わたしが目覚めるときにはいつも、この霧をあたり一面に出して眠らせて、誰もわたしを追跡できないようにするの。だから見つかったのは今回が初めて。わたしはあなたをどうするべきかしら?」
「俺はこいつ、マイを連れてお前に対して何をすべきだ?」
「……わたしとしては、あなたについて知りたいからあなたとここで留まりたいわ。」
「俺としては、めんどくさそうだからとっととこの霧から抜け出して、マイを無事なところまで連れていきたいな。」
するとここでアナスタシアは頬を赤らめて、
「……近くにわたしのベッドがあるの。そこに行けばこの霧を止めた上にあなたともじっくりお話ができると思うんだけど……。どう?」
「そんなにかわいい顔で言われて行きたくない奴はいないだろうけど、流石に初対面でベッドに行くなんて勇気は俺には無いね。」
「そんな……。お母さまからはこうすれば『いちころ』って聞いてたのに…。お父さまもそれで落としたって。」
「お前の誕生秘話について聞く必要はないし、このまま帰らしてもらうとするよ。」
「じゃ、じゃあ、わたしの魔法を見せてあげる!あなたにぜったいに危害は加えないし、魔法見終わったら、帰ってもいいから!ね、どうかしら?」
「……ま、魔法だと…。正直言って見たい。本当にお前が出来るんなら。」
「う、うん!じゃあ始めるね!」
そういって魔方陣を書き始めた。鼻歌交じりに書いている姿をみて、本当にこいつが神々への脅威になりえるのか、怪しくなってくる。しかもこいつ微妙な塩梅でコミュ力がないな。自分に余裕がなくなればなくなるほど本来の性格が出てくるタイプか。ソースは俺。
「よ、よし。……見てっ!…ん、んん。見なさいアキラ。これが魔方陣よ。主にはここから魔法を発動させるの。原理を説明したほうがわたしの魔法のすごさがよりよく分かるんだけど、ここでは省略するわ。いや~人に魔法見てもらうの初めてだからうれしいなぁ~」
なんかかわいそうな奴だ、そう思った。
そしてアナスタシアの説明が終わり、いよいよ魔法が発動するときになった。
「じゃあ始めるわ。いい?」
「ああ。」
「それじゃあ……いらっしゃい。私の世界へ…」
やったぜ。ついにアナスタシア・イープノスを出せた!これでほかのキャラの話にもつなげられるね!キャラ案だけは出てくるのが中二病のつらいところさね。