雨中紀行〜sleepless rainy days 作:お茶会おじさん
でもあと少しだけ続くんだ。個人的にはまだまだキャラ案と話の流れの案だけは、たくさんあるから、さっさと書いて構想をすべて吐き出したいんだけれど。そういうわけにはいかない。一度書き始めたのなら、最後まで責任をもって書かねば(使命)。
晶はふと腕時計を見る。午後三時三十八分。昼寝にはぴったりの時間である。すでに夢の中にいるようなので眠る必要はないけれど。
シアが本を開いた瞬間、何層かのバリアのようなものが二種類展開していた。幸い銃弾一発で割れるような弱いものだったが、割ったと同時に何枚も新しく展開されていく。薄いバリアは何度も出てくるが、青色の硬いものはどうやら五枚しかないようだ。
ああめんどくさい、そんな言葉がふっと漏れる。最近の、ここ一週間の出来事を思い出すと、今目の前で起きている現象にも自然と納得できてしまうのが、すこし、腹立たしい。
確かに今年に入ってから、高校のレベルが自分よりちょっと低かったり、受験シーズンからの解放、ということでかなり自堕落な生活を送ってしまった気がするが、それにしてもここで一気にツケが回ってくることは無いだろうに。
高砂に殴られたことや、マイたちとの共闘、飽咋失から『黄泉』を得たこと。そして今日のシアとの遭遇───。
「へっ。誰がどうしたって感じだな。」
「考えはまとまった?ぶつぶつ言ってたから少し待ってたんだけど、準備はできたかしら?」
「ん、ああ。わざわざ待ってもらって悪いな。そんなことをしなくても俺の方が強いと思うぜ。」
「強がりはやめたほうが良いわ。この空間では私が有利だもの。⋯⋯じゃあ、始めるね。『オルタナティブ・スリープ』。」
晶のまわりに魔法陣が何個も出現し、そこから泡のようなものが放たれる。泡弾は晶の横をかすり、別の魔法陣へと入っていく。
「何だこの泡。あたっても何ともなさそ──」
ぽっ、と手で触れた瞬間、意識が奪われる感覚に襲われ、急いで手を離す。
これはやばい。
そう直感が告げた。今意識が奪われかけた間に、次は魔法陣から光の矢が高速で飛んでくる。間一髪で体を捻って避けるが、また泡が飛んでくる。
「うぉっと! これはやばいッ! あの泡に当たったら、次は躱せなくなる!」
「さてさて。どう対処するのかしら。」
晶は魔法陣に向かって傘を構え、引き金を何度も引く。泡玉は弾丸に当たっても割れることはなく、何事もなかったかのようにすり抜けて晶に向かってくる。
──晶は泡の軌道を読んで第二波をすべて躱しきり、光の矢を傘で捌きながらシアに弾丸を撃つ。
バリアが割れるだけだが、今はそれで良い──
そう、晶は考える。
さっきから見ているが、どうやら攻撃しているときはバリアを張れないらしい。ならば。順に割っていけば魔法を使っている隙に一発くらいなら撃ち込めるだろうと。
「そんなに見つめられると少し恥ずかしいな⋯⋯//」
「はっ。こっちも人の夢の中にいるなんて恥ずかしいよ。⋯⋯さっさとここから出しやがれ!」
第三波を躱しきったところでようやく銃弾があたり、バリアが一枚割れた。
「あら意外。まだまだかかるんじゃないかと思ったら、すぐに慣れちゃったのね。つまんないの。」
「残念だったな。トットリトリックってやつだ。」
「初めて聞いたわ。……次ね。『ビューティフル・ドリーマー』。」
「休憩時間はねぇのかよ!?」
先ほどの魔法陣があった場所に、花の形をした魔法陣が出現する。そこから円を描くように色とりどりの光弾が発射される。光弾はシアを中心としてゆっくり集まっていき、次の渦が魔法陣から出てきたタイミングで崩れ去って、上空に散らばって消える。
「……あれ? さっきみたいに攻撃してこないのか?」
「……どう? この魔法は? 私が一番好きな陣形なんだけど……」
光弾は晶を攻撃することはなく、ただ美しい幾何学模様だけを描いていく。思わず晶も銃口を下に向けてその光景に見とれていた。
「その……休憩にはなったかしら?」
「え? ああ。わざわざそのために? 敵の前で? どうしてだ?」
「はあ。……私なりに好意を寄せているのだけれど……」
「好意? 夢の中に人を閉じ込めるような奴のセリフじゃないな。そうやって人を油断させる作戦だったってんなら、大したもんだな。あ、もしかしてそれも親御さんから教えてもらったのか?」
シアはプルプルと震えて、目を見開いた。そして晶をじっと見る。
「……っ! も、もう知らない! 休憩は終わりよ! 『エンドレスナイトメア』!」
シアは本をばたんと閉じて、そう叫んだ。あたりが闇に包まれたかのように暗くなり足元さえも怪しくなる。手探りで見たところ、腕二本分くらいの視界は辛うじて見ることが出来た。しかしシアの姿も光弾もどこから来るのかが分からない。さっきの魔方陣の位置からして、自分の後ろから飛んでくることはないだろう。となると最も警戒すべきは───
「⋯⋯これが案外後ろなんだよな。全く、油断も隙もない魔法だな。」
晶は背後から飛んできたナイフを躱して撃ち落とす。その後、地に落ちたナイフがカタカタと音をたてて再び宙に浮き、晶を追跡し始める。晶は傘を構えて、前へ前へと走っていく。時折、光弾が頬をかすめるが、ナイフという、『わかりやすい恐怖』から逃げることのほうが優先だ。
「それにしても『エンドレスナイトメア』か。そのまんまって感じの弾幕だけど、あのナイフはやばいな。『恐怖』そのものって感じがする。刺さったら…………いや、今は考えないでおこう。」
晶は直前にシアがいた場所までかいくぐり、ナイフに向かって右手を突き出す。
「さぁ上手く働いてくれよ。……『黄泉』。」
ナイフにまとわりつくように、闇より黒い物体が出現する。そして、餌を我慢していた犬のような速さでナイフを飲み込み、周りのもやも吸って飲み込んだ。
視界がクリアになり、もやが薄まった。晶はシアのいる場所へと精進を合わせて、渾身を打ち込む。
弾丸はシアが反応するよりも先にバリアを打ち壊した。同時に魔法と、時間切れとなった『黄泉』が夢の世界から消える。
「あのナイフは結構本当に怖かったよ。あれってどういう原理なんだ?」
「……あれから逃げきれたの?普通は足がすくんで動けなくなるはずだけど。」
「後ろにあるって気づいたときは、シアの言う通り動けなかったけど、すぐに慣れたよ。」
「やっぱりあなた人間じゃないわ。」
「ははは。勝手に言ってろ。」
シアは本を開きながら、レーザーを何度も打ち込んでくる。魔方陣からはまた、あの泡玉が現れて逃げ場を少なくしていく。傘を開いてレーザーを反射させ、泡玉のない道を作ってそこに転がり込む。
そういう動作を何度か繰り返して、シアは次の魔法を放つ。
「『電気羊たちの夢』!……これをどう対処するのかしら?」
そうシアは恍惚とした表情で言う。
魔法陣から大量にとがった雨粒のようなものが高速で飛んでいく。そして同時に、デフォルメされた羊が数体、晶をめがけてゆっくりと近づいていく。羊は晶の腰あたりまであるだろうか。ぬいぐるみのようなモフモフとしている。
試しに銃弾を羊に数発撃つと、羊は火花を散らして爆発した。
「ああ! クソッ! 爆弾か!」
「爆弾じゃなくて機械なんだけど……」
「どっちも同じだよ!」
高速で振り続ける雨粒の隙間を移動しながら、ゆっくりと、しかし確実に近づいてくる電気羊たちを躱すのはなかなか骨が折れる。羊たちを早めに処理しないと魔法陣からどんどんと湧いて出てくるので、本当にキリがない。
集中力が切れかけた時、羊が背後に回っていた。
「しまっ…」
言葉を言い終えるより先に羊が爆発した。爆発で体が吹き飛んでいく。傘に風を受けてさらに遠くへ。晶の思考は静かに、しかし焦りを感じながら高速で回転する。
どうすれば助かるのか、どうすれば死なないのか、どうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすれば────
衝撃が全身を駆け巡ってから少しの時間が経って、晶は立ち上がった。このままじゃ埒が明かない。あともう一回あの爆発を喰らったのなら本当にまずいだろう。高砂の攻撃も信じられないくらい痛かったが、今思えば手加減されていたような気がする。ここまで痛くはなかったのだから。
「あれ? まだ動けるの? さっきの爆弾だったんだよ?」
「け、結局は爆弾だったのかよ……。さっき機械だって言ってたくせに……。それに、そんなことを……笑顔で言うんじゃねぇよ……。本当に……死ぬかと思った……。」
傘を杖代わりにしてなんとか体を立て直して、そのまま構える。魔法陣からまた新しく攻撃が始まる。羊が出てくるところを予想して銃弾を撃ち込む。狙い通りに、羊の頭が出た瞬間に爆ぜる。
「魔法陣は爆発しても消えないのか。本当に何というか……」
「褒めてくれてありがとう。長年研究をし続けているかいがあるわ。」
「褒めてないんだよなぁ……」
羊が全部いなくなった瞬間を狙って青色のバリアを割り、残り一枚となった。シアは少し驚いた顔で本を閉じる。
「まさかこっちの本の魔法が全部破られるとは思っていなかったわ。」
「へぇそうかい。そりゃ仕方ないな。」
「だからこれで最後になるの。いまから三つ連続で魔法を使うから全部倒せたら、あなたを家に帰らせてあげる。」
「⋯⋯よし。掌の上にいる感じがするけど、本当だな? 受けてやるよ!」
シアは鞄からもう一冊の黒い本を取り出して開いた。今までの攻撃に使われた周りの魔法陣が消えて、赤と青と黄色の魔法陣がシアの前後左右に四つ出現する。
「一つ目! 『盛者必睡』!」
それぞれの魔法陣から色に対応した光弾が発射される。赤色の弾は連なって線を描き、青色は斜めに線を描いた。そして黄色の魔法陣からは、大きな光弾と矢とナイフがそれぞれ異なるスピードで発射される。
大きな光弾はまっすぐ発射され、矢は自分を狙ってくるが、ナイフはばらまかれているだけだ。よく見れば矢を躱せばいいだけなので、すぐに慣れた。第一波を躱したところで赤色の魔法陣からさらに赤色の矢が一発ずつ、ゆっくり飛んでくる。晶を目標に飛んできており、着実に逃げるスペースを減らしてくる。
左に一気に駆け抜けたあと、しばらくとどまってから右にまた潜りこみ続ける。うまくいかなければ、矢に追いつかれてしまうので、常に緊張状態であった。足がもつれそうになる。靴紐がほどけないか心配になってきた……なんて思うのは少しおかしいなと自分でも思う。
そして第三波。青色の魔方陣から霧が出てくる。その霧を浴びた瞬間、体に力が入らなくなった。いや、正確には急激に眠気が襲ってきたのだ。
「う……これって初めのやつと同じか……。」
さっきまでは走って動けていたが、この眠気のせいでゆっくりとしか動けない。いざとなったら『虚無』を使うか……?
そうぼんやりと考えていたとき。
『それ以上使っちまうと、オレの存在とお前の精神世界がつながっちまうぜ?』
突如として聞こえた第三者の声。禍々しく、おどろおどろしく、それでいてすべてを内包するかのような声。
「だ、誰だ!」
晶はそうとしか言えなかった。声に覚えがあっても、この眠い頭では深く物事を思い出せない。そう、声に覚えがあるのだ。どこかで聞いた声。最近だったはずだ───
あ。
「あ、飽咋か……?」
少しの沈黙を挟んで、
『⋯⋯そうだ。お前の意識が深いところまで落ちようとしているからな。こうしてコネクトできたという訳だ。』
「ああ、くそ! めんどくさいのが増えた!」
「アキラ? 誰と喋っているの?」
シアの焦ったような声が聞こえた。自分の魔法が破られているかもしれないことに危機感を覚えたのだろうか?
「そうだとしたら少し可愛いな……」
ふっと口が緩む。この緊張で頭がおかしくなってしまったのだろうか? だとしたら滑稽だな。
『へいへい! アキラクンよ! そろそろ目の前の現実に向き合ったほうがいいぜ。矢が飛んできてるぞ。』
晶はふっと眠気から起き上がり、目を凝らす。矢が目の前に。比喩でもなんでもなく、眼前に来ていた。
「いまのタイミングで言ってくるんじゃねぇよ!」
『教えてやっただけでも感謝しろよ?』
晶は身体をばっ、と後ろにそらして矢を躱す。間一髪、そう表現するのがふさわしいだろう。まだ矢は飛んでくるが、スピードが上がったのを見てこれでこの魔法は最後だと確信する。そのまま、まだ少し眠い目をこすりながら軌道を確認して逃げ回る。じっと目を凝らすとシアの姿が見えた。ポケットから弾丸を手繰り寄せて、なんとか弾丸を撃つと、白色の膜のようなものが割れ、魔法陣から色が消えると同時に霧が晴れ、攻撃が止んだ。
「はあ。これも効かなかったか。……さっき誰と話してたの?」
「ん?ああ、幻覚だよ。お前よりもはた迷惑な奴だったよ。」
晶は意識を内面に向けてみるが、飽咋の声は聞こえなかった。眠い時しか出てこないのかもしれない。
「本当に迷惑な奴だな……。」
「……、嘘はついてないようね。よし。じゃあ次に行くわよ! 二つ目! 『眠れる巨人』!」
地面が歪み、大きな魔法陣が出現する。そうして晶の体の五倍以上はあるかのような鎧をつけた巨人が出てきた。
「その魔法の名前って、ちょっと意味が違くない!?」
巨人は魔法陣を踏み込み、斧と槍を合わせたような武器、ハルバードを取り出した。そしてそのまま晶の足元を薙ぎ払う。
「ま、まって!これ本当に強いやつじゃん!今までの弾幕要素はどこに行ったんだよ!これ喰らったら確実に死ぬだろこれ!」
「一応夢の中だからね。死なないけど、殺すつもりで攻撃はしてるよ。」
「ふざけてんじゃねぇぞ!」
傘で軌道をずらそうとするが、力が足りずにそのまま柄に当たって吹き飛ばされる。相手の武器はハルバードだけだが、こっちは傘一本と制限付きの『黄泉』だけ。このままどう戦えばいいというのか!
巨人は無言で晶を突き刺そうとしてくる。横に転がって躱すが、直後に頭上で斧が空を切る音がする。冷や汗をだらだらと流しながら、銃弾を足に一気に打ち込み、体勢を崩させて距離を取る。
「こうなったら、使うしかない。癪だが、これしか方法がない。」
「どうするの?」
晶は巨人の脇を抜けて後ろに回り込む。そして足元だけに『黄泉』を発動させる。そうして出てきた『黄泉』は今までが比にならない程に大きなものとなっていた。さっきの飽咋のセリフを思い出す。
『それ以上使っちまうと、オレの存在とお前の精神世界がつながっちまうぜ?』
繋がるとはどういうことなのだろうか。アイツの思考が俺にも共有されるということなのだろうか。そのせいで今、目の前にある『黄泉』は空虚で莫大なエネルギーを持っているのだろうか。疑問は尽きない。
そんなとき頭の中で声が聞こえた。
『おめでとうアキラくん!君は『終焉』に選ばれた!』
『君はこれから、器として、世界を構成する仕組みの一つとして生きることになる。』
『これは普通の人間にはできない。素晴らしい役目だ! 私も君と一緒に担当することになる。これからよろしく。』
『特典として、君の意識と精神は不滅のものとなった。また、力も上手く使えるようになっているはずだ。』
そんな煩わしい声は飽咋のものだった。意味の解らない情報が、突然頭の中に飛び込んできたことで、脳内回路がショートしたみたいだった。『終焉』の器? 精神の不滅? いきなり何の話だよ。俺が何をしたって言うんだ。俺はついこの間まで普通の人生を送っていたじゃないか。
そんなことを考えている間にも、完全なゼロエネルギーが巨人の足を飲み込んでいく。巨人は苦痛を感じないのか、そのまま足を動かそうとして倒れ込む。だが、確実に足が分解されるように消えようとしていた。
少しむごい攻撃だが、こんなところで死にたくはない。自分の命か、敵の命か、どっちを守るのかと迫られたら誰だって自分を取るだろう?
それとやっていることは、なに一つ変わらないんだ。つい最近まで、何の変哲もない生活をしていた俺にとって、命は一番大切だから。『終焉』だなんてモノを得たところで、いきなり俺が俺で無くなるわけはない。そうだな。そうなんだよ。だって俺は俺なんだから。
そんな風に言い聞かせる。
『そりゃそうさ。アキラクンはアキラクンだものな。同意してやるよ。それで良いのさ。それこそが、君が器になった理由なんだから。』
「うるさい。」
銃弾は残り少ない。感覚を研ぎ澄ませ、思考を最適化する。自然とやかましい飽咋の声も聞こえなくなり、頭の中で静かにカウントを開始する。
空間が消えるまであと三秒。銃口を頭に合わせ、
空間が消えるまであと二秒。心の引き金に゙手を添える。
空間が消えるまであと一秒。⋯⋯何も考えずに撃ち込む───
「その闇が消えるまであと0.5秒。巨人はハルバードで自身を防御する。」
弾丸は飛んだ。が、巨人は素早くハルバードで銃弾を弾き、そのまま晶へ斬りかかる。晶はギリギリのところで大きく右に飛び、巨人の背後に回り込む。
しかし、巨人はそれを初めから分かっていたようにハルバードを横向きに持ち替え、そのまま右足を後ろに踏み込んで回転する。
必然的に晶は巨人の背後から横に位置することになり、三コンマ秒後には真正面、つまりハルバードで胴体を真っ二つにされる─────
────晶はそんな未来を感知し、急いで巨人の背中に跳び乗る。強大な遠心力によって吹き飛ばされそうになるが、死ぬよりかは遥かにマシだ。
「一応、もう一度言うけれど、この世界は夢なんだから死ぬことはないよ。」
「怖いもんは怖いんだよ! それにさっきのなんで当たらなかったんだ! どう考えても、あれ以上良いタイミングは無かったんだ!」
「あれ以上良いタイミングが他に無かったから、防御できたの。たぶんね。アキラが狙ってくるであろう瞬間を作ってあげて、そこに誘導すれば簡単な話よ。」
晶は巨人の背中に引っ付いたまま、動けなくなっていた。このまま離れると確実にぐっちゃん、だ。しかし離れなければ反撃はできない。
『ふと脳裏に浮かんだのは、以前にネットで見た記事。初速こそ遅いが、回り出してからは遠心力でどんどん加速していく。それがハルバードが戦場で恐れられた理由である、と。何故今更そんな言葉を思い出したのか。
あ、これが走馬灯なのだろうか? 自分が思うにまだまだ生きれるような気もするが───あれ、あそこにいるのはこの間一緒に戦った高砂? なんでこいつが俺の走馬灯に────』
「勝手に回想を作ってんじゃねぇよ!」
『オレと君は脳内フレンドだろう? 二人で仲良くやっていこうじゃないか。』
「仲良く出来なさそうな理由を作ってるのはお前だけどな。お前とフレンドだなんて虫唾が走る。」
「やっぱりアキラ、あなたべつに誰かさんと話してるのね⋯⋯。この世界には私とあなたしか居ないと思ってたけど。⋯⋯ちょっと許せない。覚悟しなさい。」
『ヒューヒュー。アキラクンはモテるんだな。オレとあの子で両手に花じゃねぇか?』
『っ! っんなわけねぇだろ。二人とも花ってよりかは害草みたいな感じだし。お前は特に。』
『照れてんな? やっぱりな。お前は確実に童貞だと思ったよ。オレの審美眼に狂いは無かったな。』
晶は頭を何度か振って飽咋の言葉を思考から追い出した。こんな奴に付きまとわれることが分かっていたなら、初めから『終焉』なんて使わなかったのに。後悔あとに立たずとは正にこのことだな、と自嘲する。
巨人の回転もゆっくりになってきて、弾丸をこめる余裕がかろうじて出てきた。よって、再び足に弾丸を撃ち込む。あれほど回転したあとだからだろうか、ついに一発の弾丸だけでバランスを崩して膝をついた。この隙に、少し遠くへ───
しかし流石の戦士である。晶の逃げた方向に向くと、震える手でハルバードを振って、最期に一撃を放った。ハルバードの斧部から青く光る斬撃は、今までと比にならないスピードで飛んでいく。
迫りくる斬撃に晶が気づいたのは、
飽咋が手を出して『終焉』を作り出し、斬撃をかき消した瞬間だった。
驚く晶と、ニヤッと笑う飽咋の声。そして、巨人の無言と下唇を噛むシア。
巨人を構成していた魔法が少しずつ解けていき、魔法陣に吸い込まれて行く。同時に『終焉』の顕現時間が終了し、何も無かったかのように消える。
晶の胸はこれ以上ないくらいに高鳴り、心臓が悲鳴を上げていた。死ぬ直前だった。そう認識できたのは無意識に止めていた呼吸により、息苦しさを感じてからだった。
恐怖、焦り、そして高揚。この三つが合わさって混じり合い、最終的に巨人の戦士への尊敬に変わった。あそこまで追い詰められてなお、一撃を撃ち込んで来るなんて。
「すげぇな⋯⋯」
言葉は自然と漏れた。静かな心だった。怒りはなく、ただただ感動していた。
シアは巨人が消えた魔法陣を名残惜しそうに撫でたあと、黒い本を地面に置いて魔法陣を展開した。
「まさかあの子が負けるなんて⋯⋯。アキラ、どうやってあれを躱したの? 見たところ、絶対に躱せないと思ったんだけれど。⋯⋯まあ、今は何でもいいわ。約束通りこれで最後。──────『永き眠りのヒュプノス』」
周囲にあった魔法陣がシアの周りを取り囲み、シアが祈るように手を組む。白のスカートがはためきながら、シアの身体に魔力が増していく。
魔法陣からは白や銀色をはじめとする、色鮮やかな光弾が出始めた。晶のそばを入り乱れながら通り抜けていく。
綺麗なまま見惚れていたくなったが、魔法陣から出る量を見るに二番目の『ビューティフルドリーマー』とはひと味もふた味も違うらしい。事実、階層が増えるごとにその密度が上がってきていた。弾丸を撃ち込んでみるが、幾重にも重なった光弾に遮られてシアのバリアまで届くのは僅かだった。
着実に迫りくる光弾を避けながら慎重に足を運んでいく。そして、ふとため息が出る。この一週間の中でこんなに死ぬかと思ったことはない。単なる散歩から、こんなことに巻き込まれるなんて。
「なにが起こるか分からないもんだな。」
『そうだな。本当にそうさ。まさかオレも本調子じゃなかったとはいえ、お前らみたいな人間数人に倒されるとは思わなかったよ。』
「言い訳はよそでしてくれ。」
晶はかつてないほどに落ち着いていた。それはまるで盤上を上から眺めるがごとく。シアの真正面まで近づいていき、弾丸と銃弾を込める。弾丸の中には『終焉』のかけらを入れ、起爆しやすいように銃弾の角度をほんの少しだけ内側に傾かせていた。
「さぁ、これで外れたらもうおしまいだ。当ててくれよ?」
引き金を引いた。洒落た鮮光弾を搔い潜り、弾丸と銃弾は螺旋を描くようにシアの眼前まで。バリアの手前に『終焉』が現れた時、飽咋は独り呟いた。
『本当によくここまで適応できたもんだな。黄泉を遠隔で顕現させるなんてオレでも出来ないのに。流石、『三律の器』だ。やっぱり人間じゃねぇな。』
魔法陣は虹色の光を放って爆発した。地面が崩れて、大理石の柱が沈み込んでいく。シアは驚きながらも口元を緩ませた。
「流石、私の初恋の人だな。」
ぽつりと呟いて目を瞑った。
9000文字を超えてしまった。今までで一番長い話になった。でもようやく終えれそうで感無量だ。
読まれない前提では作っていない。誰かに読んでもらえる作品を作るのが、書いている人の義務だとは思う。なので、今自分にできる精一杯で頑張ろうと思う。
晶クンが少し強くなりました。でも、これが彼の最終的な強さ。ほかのキャラクターはこれからも成長して強くなっていくでしょうが、主人公はここで成長がストップ。バトル系の作品にあるまじき行為ですかね。