アサルトリリィ~Episode of Bug Human~   作:風斬颯丸

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こんにちは、風斬颯丸です。
だんだんと気温が暖かくなり、春の到来を感じる今日この頃ですが、皆さん如何お過ごしでしょうか?
今回は前回よりもストーリーが長く、人によっては疲れるでしょうが、何卒ご容赦ください。
それでは、第2話「試練そして旅立ち」をお楽しみ下さい。


試練そして旅立ち

俺の名は狂巌寺真人。

 

真「はぁ、はぁ.............」

 

武「どうした真人?お主の力はその程度か?」

 

軍「そのような体たらくでは我々を負かすなど不可能だぞ?」

 

師匠たちの圧倒的な強さに心が折れかけている元一般人だ。

 

前世での俺はダンプカーに牽かれそうになった子供を庇って若くしてこの世を去った。本来であれば輪廻の循環に従って現世に生まれ変わる筈であったが、他者の為なら自分の命すらも平然と投げ打つ俺の人となりに可能性を抱いた神様によってその運命は大きく変わった。化け物が蔓延り滅亡の時が迫る異世界の人類を救う為に「ヒューマンバグ大学の全キャラクターの能力」を特典に転生することが決まったが、凡人が身の丈に合わない力を持った時のデメリットを鑑みた俺は、特典を完璧に使いこなせるように修行をつけて貰うことにした。

 

しかし、この修行が俺の想像を遥かに上回るものであった。

 

戦闘に関する修行は武神様と軍神様がマンツーマンで見て下さり、神界トップクラスの猛者なだけありとても効率的な指導をしてくれた。その指導法は神様が言っていた通り常人ではとても耐えきれない壮絶なものであったが。

 

武「遅い。やられてばかりじゃなく少しは反撃せぬか!」

 

真「あばばばばばばば!」

 

ある時は武神様にスポチャ専用の刀でひたすらフルボッコにされ.......

 

軍「見て避けるな!予測して避けろ!」

 

真「ぐほぉ!!」

 

ある時は軍神様に練習用の槍で突かれて腹を貫かれたような感覚に陥り........

 

武「ほれほれ、四方に注意を向けんと死ぬぞ~」

 

軍「もし、一発でも攻撃を受けたら初めからやり直しだからな。」

 

真「む、無茶ですよこんなの~」

 

ある時は実戦と称して100名の屈強なバーバリアンとのガチンコ勝負に参加させられたり.......

 

武「刺したら素早くナイフを捻ろ!内臓を破壊するんじゃ!!」

 

軍「そしてそのまま胸まで裂け!小林幸真のように!!」

 

真「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

ある時は小林の兄貴必殺の「グリングリン」を会得するためにひたすらナイフ術を叩き込まれたりと、とにかく楽なものなど一つもなく、何度も死にかけた。(実際に何度か死んでその都度蘇生させられている)また、戦闘以外の能力も使いこなせるようにと神様は他にも様々な神々を教官として紹介してくれた。

例えば......

 

医「針の縫い方が甘い。舐めてるの?」

 

真「す、すいません...........」

 

やたら言い方に刺のある医神様から医術の手解きを受けたり...

 

自「気を付けなよ~。ワニガメは一度噛みついた相手を絶対に離さないからね~。」

 

真「いだだだだだだだだだだだだだだだだだ!!」

 

自然神様に動植物に関する知識を叩き込まれたり...

 

豊「トンマ、ウスノロ、穀潰し。お前の手は何のためにあるんだ?この万年ペーペー野郎。」

 

真「ひぃぃぃぃぃん!」

 

まるでお伽噺話に出てきそうな老婆の豊穣神様に罵倒されながらメロンパンの作り方を教わったりとピンからキリまで多種多様な知識や技術を身に付けっていった。中でも一番キツかったのはやはり邪神様による拷問の指導だろう。

 

真「ほ、本当にこれをやるんですか.....?」

 

邪「あぁん!?あたりめぇだろうが真人!その程度で躊躇って拷問ソムリエが務まるか!!」

 

地獄からわざわざ取り寄せた罪人をモルモットにした拷問のレクチャーはどんな修行よりも精神にダメージを与え、余りの凄惨さに当初の俺はまともに拷問も出来ずに吐いてばかりいた。当然、邪神様はそれを許す筈がなく、無理やりにでも拷問をさせたため次第に慣れていった。その甲斐あって現在では伊集院先生同様にどのような拷問でも一切躊躇うことなく行えるまで精神が鍛えられている。

 

どの修行も厳しくも的確であり、俺が「彼ら」に近づくために非常に有効であったと今の俺なら断言できる。途中で何度も挫折し心が折れかかったが、俺は諦めるという選択を取らなかった。生憎と俺の辞書には「諦める」という文字は存在しないのでね。

そんなこんなで修行を続けて数年、数十年、もはやどれぐらい経ったのかわからない程の年月が経った頃、俺は突然神様に呼び出された。

 

神「やぁ、真人。久しぶりだね。」

 

真「神様、ご無沙汰しています。」

 

創造主である神様は業務が多々あり、多忙なために俺と会う機会がめっきり減り、今回は久し振りの会合だ。

 

神「君とは最近全然会ってないけど、随分と変わったね。見違えてしまったよ。」

 

真「これも全て修行の成果ですよ。」

 

神様は俺の現在の姿を見て感想を口にする。

長い年月に渡る修行は俺の心身に大きな変化をもたらした。俺の身体は服の上からでも解るほど鍛え抜かれ、筋肉に一切の無駄がなく引き締まっている。顔も地獄のような鍛練の繰り返しによって戦士然としたものとなり、目付きは剣のように鋭く、瞳は氷のように冷たい印象を与える。精神も極限なまでに鍛えぬかれ、今の俺ならどのような理不尽が降り注いでも笑って対処してしまうだろう。全ては修行の賜物であり、ここまで鍛え上げてくれた神々には感謝してもしきれない。

 

俺の言葉に神様は満足気な表情を浮かべると、話しを続ける。

 

神「君はこれまで能力を使いこなす為に様々な修行を続けてきた。どれも常人では到底成し遂げられない厳しいものであったけど、君は見事に乗り越えてみせた。」

 

真「じゃ、じゃあ..............」

 

神「これを以て君の修行を終了とする。今まで本当にお疲れ様。」

 

真「や、やったぁ.......」

 

神様のその言葉に俺は思わず顔を緩め、喜びの言葉を口にする。自分の努力が認められるのは何とも言えない達成感と高揚感が湧き出る。

しかし、神様の話しはまだ続いた。

 

神「よってこれより最終試験を行う。これに合格した場合、君の転生を認めるものとする。」

 

真「最終試験?」

 

神「そう、君が本当に能力を全て使いこなせるだけの実力を備えているのか筆記と実技で試させてもらうよ。」

 

成る程、確かにそれは必要なことだ。修行を全て履修し終わってもそこで得たものが確実に身に付いていないまま転生してもデメリットでしかない。いつか必ず馬鹿を見るのは明白だ。

 

神「ちなみにこの試験で万が一不合格になったら修行を一からやり直してもらうよ。」

 

真「なん、だと....................」

 

神様のその言葉に俺は絶句する。自分から修行を申し込んだ身であれだが、あんな凄惨極まる修行は一度きりで十分だ。それをもう一度やり直すとなると今度こそ廃人になるかも知れない。

そんな俺の様子を見た神様は黒い笑みを浮かべながら俺に励ましの言葉を投げ掛ける。

 

神「というわけで、頑張ってくれよ?

未来の救世主殿?」

 

真「は、はい........」

 

俺にとって負けられない戦いが今始まった。

 

 

 

 

 

まず最初に行われた試験は筆記だった。

医学や薬学、法律に自然科学などその分野は多岐に渡り、どれも現役東大生ですら安易に解けないほど難易度の高いものであった。しかし、長い勉学を経て専門家とも渡り合えるほどに成長した俺の頭脳をもって難なく問題を解いていき、全科目満点という結果を叩き出した。

前世では赤点回避が関の山であったのに我ながら凄まじい成長ぶりだと実感した。

 

続いて実技に入り、そこでも様々な試験を受けた。

オペの実践やハッキングに女装、そして拷問など筆記試験に負けず劣らずの多様さであったが次々とクリアしていき、遂に最後の試験となった。

最後の試験はこれから転生する上で一番重要となってくる戦闘能力に関するもので、闘技場にてこれまでの修行で俺が培ってきた戦闘力を計るらしい。

そんなこんなで神様と共に闘技場に行くとそこには武装した武神様と軍神様の姿があった。

 

武「おぅ!真人、待っておったぞ!」

 

軍「ここに来たということはその他の試験は無事に突破したようだな。」

 

真「武神様!軍神様!どうしてこちらに?それとその姿は?」

 

俺は思わず彼らにそう問いを投げ掛ける。

御二方の今の雰囲気がいつもとは異なり、まるで獲物を前にした獅子のように鋭く圧倒的であったため、何か嫌な予感がする。

そして返ってきた答えはおおよそ俺の予測通りのものだった。

 

武「なに、お主の最後の試験に試験官として立ち合う為に推参したまでよ。」

 

軍「主神殿に聞いていないのか?今度の試験はお前の戦闘力を計る為に我々と手合わせするのだぞ。」

 

真「えぇ.................」

 

その返答に俺は困惑する。

今この方たちは何て言った?

戦闘力を計る為に手合わせする?

神である御二方と人間である俺が?

 

御二方の言っている意味が解らず俺は隣にいる神様に声を荒げて質問する。

 

真「か、か、神様!どういうことですか!?」

 

神「どういうことも何もそのままの意味だよ。君はこれから彼らと手合わせするんだ。2対1で。」

 

真「2対1!?只でさえ一柱の神を相手するだけでも無謀なのに正気ですか!?」

 

神「僕は至って正気だよ?これから人類の希望となる者がこれぐらいの試練は乗り越えて貰わないと僕としても転生を許可するわけにはいかないからね?」

 

さも当然と言わんばかりの神様の言動に俺は全身の血の気が引くような感覚がした。神とは俺たち人類にとって超常的な存在だ。そんなのを相手に手合わせするなど花火背負って火事場に突っ込むようなものだ。しかも今回は神界でも指折りの強者である武神様と軍神様を同時に相手しなければならない。俺自身長年の修行でかなりの実力を着けたと実感しているが、この御二方を相手に勝利するなどほぼ不可能に思える。彼らとの修行で何度も手合わせして貰ったが、今に至るまで勝つどころかまともなダメージも与えられずに惨敗を帰している。

そんな俺の不安を察したのか神様は補足を加える。

 

神「それでも流石に彼らを相手に完全勝利しろなんて言わないよ。少しでもフェアにするためにハンデをつける。」

 

真「ハンデ?」

 

武「左様。具体的に申すとまずお主は戦闘不能になるまで戦闘を継続出来るのに対し、儂らはお主から少しでも攻撃を一回食らったら儂らの負けとする。」

 

軍「そして今回の手合わせに際して我々は神器を一切使わずこの一般的な武器で戦い、武器と鎧には行動を制限するための重しが掛かっている。」

 

そう言って武神様と軍神様は俺に自身の武器を見せつける。確かによく見ると普段使用している神器ではなく何の変哲のないごく一般的な武器だ。

俺はそのハンデの内容を聞いて熟考する。

正直ハンデ無しのガチンコ勝負なら俺に勝ち目などゼロに等しいが、ハンデありなら少しだが可能性はあると感じられる。決して自惚れではないがこれまでの修行を経て俺は人としても戦士としても大きく成長できたと自覚している。ここまで来て退いてしまえばそれは今まで俺を育ててくれた神々に対してその顔に泥を塗るようなものだ。何よりも「救世主」として修羅の道を歩むことを決め、「彼ら」の能力を授かった者としてこの程度で諦めていては救えるものも救えないだろう。

俺は覚悟を決める。

 

神「どうする真人?もしこの試験をリタイアするのなら、残念だか今回の最終試験は不合格に「やります」....ん?」

 

真「神様、俺やります。この試験受けます!」

 

俺は決意を固めた表情を向けて神様に試験の受諾を告げる。それを聞いた神様は待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべる。

 

武「よし!これで決まりじゃな。ならさっそく構えい!」

 

軍「ハンデありとはいえ、手加減はしないぞ。」

 

俺の返答を聞いた御二方はそう言って戦闘態勢に入る。

それぞれの得物を構え、殺気を込めた目でこちらを睨む様は正に猛獣であり、先程よりも纏うオーラが強大になっておりそれだけで相手を殺せそうな威圧感がある。

だが、覚悟を決めた今の俺は怖いもの知らずだ。

 

真「はい。胸をお借りしますよ、御二方。」

 

俺はボクシングを模したファイティングポーズを取ると虚空から数珠を巻き付けたドスを顕現させ、右手に構える。これが神様から授かった「ヒューマンバグ大学の全キャラクターの能力を扱える能力」だ。頭の中でイメージすることで望む能力と武器を自由に行使することが出来、俺は長年の修行を経てこの能力を完全にマスターすることに成功した。ちなみに今俺が使っているのは「ドスの工藤」こと工藤清志の能力だ。

俺は元から鋭い目を更に鋭くさせ、御二方に負けず劣らずのオーラを出す。

 

神「それじゃあ僕はここで観戦しているから、精々頑張ってね~」

 

いつの間に観客席に移動していた神様が俺たちに励ましの言葉を投げる。

こうして俺たちの戦いが始まった。

 

真「.........................」

 

武&軍「........................」

 

開戦当初は実に静かなものだった。

お互い相手の様子を注視するだけでその場から一向に動かない。しかし、御二方が俺の様子を単に伺っているだけなのに対して、俺は動けないだけであった。

 

真(くそ、全然隙がねぇ..........)

 

御二方からは全く隙が見受けらずどのように攻めてもあっさり返り討ちにされるビジョンしか浮かばず攻めあぐねていた。

そうした沈黙が続くこと数分、遂に事態が動き出す。

 

軍「真人、いつまでも様子を伺っているだけでは勝負は終わらんぞ。」

 

武「そちらが動かぬのなら、こちらからいかせてもらうぞ。」

 

真「ッ!!」

 

痺れを切らした御二方が一気に此方との距離を詰めてくる。まるで閃光のような踏み込みは常人ならば視認することすら不可能だっただろう。

だが、生憎俺は普通ではない。

 

武「ふんっ!!」

 

真「ぐぅ!!」

 

先に俺に攻撃を仕掛けたのは武神様だった。

太刀による中段からの横凪に対し、俺は超人的な反射神経でもってドスで受け止める。

しかし、相手は神々の中でも屈指の怪力を誇る武神様であって両手で持ったドスで受け止めるのがやっとだ。

ドスから嫌な音が聞こえる。

 

軍「俺を忘れるな。」

 

いつの間にか死角から接近していた軍神様がこちらに槍の切っ先を向けて刺突体勢に入っていた。

こうなったら.......

 

真「クソッ、近づくんじゃねぇ!!」ドパンッ

 

軍「ふっ.........」

 

俺は片手をドスから離しその手に拳銃を顕現させるとそのまま銃弾を軍神様に放つ。しかし、軍神様はそれを涼しい顔で避けるも一時的に動きを止めることに成功する。

 

武「片手で儂の刀を受け止められると思うな!!」

 

真「ぐわぁ!!」

 

片方の手を離したことにより太刀を押さえていた力が半減し、その結果俺はホームランを打たれた野球ボールの如く遥か空中にぶっ飛ばされる。直ぐ様俺は上手く着地するべく体勢を整えようとするが、そこに迫り来る飛来物が見えた。

 

真「ッ!!」

 

それは数本の矢だった。見ると武神様が鉄弓を構えている。十中八九武神様が仕掛けたものだ。俺は直ぐ様向かってくる矢を両手にそれぞれ顕現させた近代鉈で対処する。

 

真「ぐぅっ!」

 

空中で身体の自由が効かない状態での相手からの攻撃の対応は既に修行で身に付けていたが、それでも武神様から放たれる正確無比の矢は俺に容赦なく襲いかかり、その内の一本が俺の腕を掠める。

すると今度は軍神様が吹っ飛ばされている俺を追っている姿があった。

 

真(俺の着地点に先回りして、下から串刺しにする気だな。)

 

そう予測した俺はロケットランチャーを構える。

 

真「食らえ!ロケットランちゃ~」

 

間の抜けた掛け声と共に放たれたロケット弾は真っ直ぐ軍神様の方に向かっていき、軍神様のすぐ前方で着弾する。生憎軍神様は直ぐ様盾で防御したため被害は免れたが、その間に俺は無事着地する。

着地後辺りを見渡すと武神様の姿がない。

次の瞬間......

 

武「儂から目を離すのは命取りじゃぞ?」

 

真「ッ!」

 

背後から武神様の声が聞こえる。

 

武神様はいつの間にか俺の背後数cmの距離まで接近していた。

 

武「まずは一発貰っとけ、真人!」

 

真「ぐおっ!!」

 

がら空きになった俺の背中を武神様の刀が切り裂く。幸い咄嗟の反射神経で前方に飛び退いて深手を免れたが出血は多い。すると今度は軍神様が槍を構えこちらに突っ込んでくる。

 

軍「先程のお返しだ!」

 

真「チィ!!」

 

放たれる光速の刺突を何とか横っ飛びで回避するが、脇腹を槍が掠める。そのまま俺は御二方にマシンガンをぶっぱなして牽制しつつ距離を取る。

 

真(くそ、最初から覚悟していたが強すぎる。)

 

神界屈指の強者である御二方との手合わせ。

当初はハンデありと聞いて少しは善戦出来る可能性があると高を括っていたが、全く見当違いだ。

目の前のお二方はまるでハンデなど最初からなかったかのように強い。おまけに連携も完璧であり、どちらか一方に対処しているとそれを狙ったかのようにもう一方からの攻撃が襲い掛かる。油断も隙もない。

 

真(こうなったら御二方を分断するしかないな。)

 

俺は内心決断すると右手にロングナイフを握って御二方に突貫する。狙うのは武神様だ。

 

軍「俺を忘れるなと言ったはずだぞ、真人!」

 

それを見た軍神様が横から俺を串刺しにするべく踏み込もうとするが、そんなのは想定済みだ。

 

真「取り敢えずローストポークになっとけ!」

 

軍「ぬぅ!」

 

踏み込む直前に軍神様に向かって数本の火炎瓶を投げつける。火炎瓶は軍神様の前で割れ、燃え上がった炎が軍神様の動きを止める。俺はその間に武神様との距離を一気に詰める。

 

真「いっぺん死んどけ!」

 

武「戯けが!その程度で儂を殺れるか!!」

 

俺の渾身の突きを武神様は難なく避けるとそのまま俺の右腕を掴み、背負い投げの要領で再び空中高くに放り投げる。空中で自由の効かない俺に対して武神様がするのは矢による追撃だ。武神様は俺を撃ち落とすべく矢を構える。しかし、生憎俺は同じ轍を踏まない。

空中で俺は右手をまるで何かを引っ張るかのように動かすと突如として武神様の弓が連動するかのように前のめりに動く。

 

武「ぬおっ!」

 

突然のことに虚をつかれた武神様は矢を見当違いの方向に放ってしまう。今の現象のからくりを説明すると、武神様に投げ飛ばされる直前に俺は隠し持っていた鋼糸を弓に巻き付け、俺と弓を接続したんだ。後は鋼糸を引っ張ってしまえば矢の軌道を反らすくらい容易い。

矢の追撃を受けることなく着地すると俺は力自慢のヒューバグキャラたちの能力をフル稼働して鋼糸を思いっきり引っ張る。これは俺が長年の修行の末に編み出した「能力の重複」だ。複数の能力を一気に引き出すことで強力なバフを得るが、その分精神力を削る。

 

武「ほう、力比べか。なら儂も負けんぞ。」

 

負けじと武神様も弓をしっかりと握りその豪腕で以て鋼糸を引っ張る。

両者による腕力にものを言わせた綱引きならぬ糸引きは、拮抗していた。しかし、突然武神様は何を思ったのか握っていた弓を手放した。俺の腕力で引っ張られた弓はそのまま凄まじい勢いで此方に真っ直ぐ向かってくる。

 

真「しゃらくせぇ!!」

 

俺はその弓を柳葉刀で真っ二つにする。

するといつの間にか距離を詰めていた軍神様が今まさに突きを放つ寸前だった。

 

軍「武神殿の弓を封じたのは見事だ。たが、それだけでは勝利にはほど遠いぞ!」

 

そして放たれるのは無数の刺突。

光速で放たれるそれはまるで何十本もの槍が一気に襲い掛かるかのような感覚であり、俺は柳葉刀で防戦一方だった。その容赦のない突きは俺の身体に次々と切り傷を付けていく。

 

真(クソ!このままじゃあジリ貧だ。)

 

俺が内心愚痴を溢しているとチャンスは突然やってきた。徐々に体力を削られている俺を見て止めを刺す気だったのか軍神様の構えが大振りになる。

それを俺は見逃さない。

 

真(ここだ!)

 

俺は直ぐ様柳葉刀から二刀流に切り替えると放たれた軍神様の必殺の槍をその二刀で以て地面に叩きつける。

そのまま槍を足伝いにして跳躍し軍神様の喉元に向かって突きを放つ。

 

真「食らえぇぇ!!」

 

軍「甘いわぁ!!」

 

だがその渾身の突きを軍神様は盾で防御する。

それだけではなく.......

 

武「お主らだけで楽しむな!」

 

真「がはぁ!!」

 

横から現れた武神様が俺に蹴りを食らわす。蹴りは頬にクリーンヒットし、俺は数m吹っ飛ばされ地面を転がる。何とか体勢を整え立ち上がるも歯が数本折れ、脳にまでダメージがいったのか頭がクラクラする。

だが、戦えないわけではない。

 

真「はぁ、はぁ.............」

 

俺はボロボロになりながらも目の前の御二方を鋭い眼光で睨み付ける。

 

武「どうした真人?お主の力はその程度か?」

 

軍「そのような体たらくでは我々を負かすなど不可能だぞ?」

 

一方の御二方はまだまだ余力を残しているようで余裕が感じられた。

俺は何とかこの状況を少しでも変えられないか思考する。するとふと視界に軍神様の盾が移る。よく見てみると重厚な盾はロケットランチャーの爆撃と先程の二刀の突きによって所々に罅と火傷痕が見える。

俺はそこに打開策を得る。

 

真(まずは軍神様の鉄壁の防御を破る!)

 

右手にアイスピック、左手に拳銃を構えると御二方に向けて狂気的な笑みを向ける。

 

真「ヘーイ、フールゴット ?アイスピックはお好き?」

 

武「軍神よ、あやつ性懲りもなく何か企んどるぞ。

まず儂があやつを押さえるからお主は後方で控えておれ。」

 

軍「承知した。だが、抜かるなよ。」

 

俺の様子に何かあると勘繰った武神様は後方に軍神様を控えさせて、ジリジリと俺との距離を詰めてくる。

それに対して俺は迷いなく御二方に向かって踏み込む。

それは正に稲妻と形容するにも烏滸がましいほどの神速の踏み込み。だが、それを武神様は涼しい顔で対処する。

 

武「やはり来おったか真人!ならば真っ二つにしてくれる。」

 

武神様は再び中段からの横凪を仕掛けるが俺はバク転してそれを回避し、武神様の背後に着地すると武神様を無視してそのまま軍神様の方に駆け出す。

 

武「ぬぉっ!?」

 

これには流石に予想外だったのか武神様は驚きの声を挙げる。俺は追ってくる武神様を拳銃で牽制しつつ軍神様に接近する。それに対して軍神様は槍と盾を構えて迎撃体勢を整える。そして軍神様との距離があと2mの所にまで来て俺は軍神様の顔面に向かって口からあるものを吐き出す。

それは口内のカプセルに収納されていた酸だった。咄嗟に軍神様はその酸を盾でガードするが顔が盾に隠れ視界を一時的であるが奪う。

 

真「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄野田ぁぁ!!」

 

甲高い叫び声を挙げながら渾身の力でアイスピックを盾に突き刺す。アイスピックは盾に深々と刺さり、衝撃で軍神様は数歩後退する。

 

武「真人!儂を無視するとはいい度胸じゃのう!」

 

真「のわぁ!」

 

すると今度は距離を詰めてきた武神様が刀を振る。俺はそれを紙一重で避けると距離をとって右手にインド武器の一つであるウルミンを顕現させる。

武神様との近距離戦は部が悪いと踏んだ俺は中距離からの攻撃が可能かつ相手の動きを封じ込めることに特化したウルミンで対処する選択を取った。

ウルミンを見た武神様は好戦的な笑みを浮かべる。

 

武「ほぉ!ウルミンときたか。ならばその玩具でどれだけ儂とやりあえるか試してやる。」

 

武神様は直ぐ様俺に接近を試みるが、武神様が動く前に俺はウルミンで攻撃する。

 

武「ふん、ちょこまかと鬱陶しい。」

 

軟鉄の刃をしならせたウルミンの斬撃は正に変幻自在。回避は難しく、例え受け止めても食らいつくように刃がしなり、追撃する。相手の動きを止めるのに最適な武器だ。

しかし、流石は武神様だ。ウルミンの縦横無尽の斬撃を冷静に対処している。突破されるのも時間の問題だろう。

 

軍(妙だな。なぜ真人は俺の盾にアイスピックを突き刺した。わざわざ視界を奪ってまで。)

 

一方の軍神様は俺たちの激闘を見ながら俺の一連の行動に対して疑問を抱く。

 

軍(盾の耐久力を削るのが目的か?いやそれが目的なら何もアイスピックにする必要がない。.....ん?アイスピック?................まさか!?)

 

生真面目な軍神様は俺を鍛えるにあたって確実に特典を使いこなせるようにするために参考としてヒューマンバグ大学の動画を全て視聴している。その中には当然「アイスピックの野田」こと野田一が登場する「天羽組シリーズ」も含まれている。

それ故に軍神様は気づいてしまったんだ。

 

何故俺が盾にアイスピックを突き刺したのかを......

 

軍「ふんっ!」

 

結論に至るやいなや軍神様は俺に向かって盾を投げつける。それを見て俺はウルミンから金砕棒に持ち変えると野球の如く武神様に向かって盾を打ち飛ばす。自身に向かってくる盾が危険であると直感した武神様は盾を上空に蹴り飛ばす。

 

その直後だった.............

 

武「ぬぉ!!」

 

真「ぐぅ!!」

 

軍「くっ!!」

 

盾が上空で大爆発する。これが俺の作戦だ。確実に盾を破壊するためにわざと盾に時限爆弾を搭載したアイスピックを突き刺して爆破する、野田の兄貴必殺の「アイスピックアドバンズ」だ。本来であれば刺した3秒後に爆発するが、武神様を上手く軍神様の方に誘導して巻き添えにしようと考えたため、設定時間を長めにしたがそう上手くはいかないか。

しかし、これによって盾は木っ端微塵となり、軍神様の防御の要を奪うことに成功する。

 

軍「.......まさかこのような方法で俺の盾を破壊するとは。

見事だ。」

 

真「ありがとうございます。」

 

軍「だが、その変わり俺は身軽となった。

悪いがここから本気で行かせてもらうぞ。」

 

すると軍神様は槍を両手で構え、纏うオーラをさらに強める。

嘘だろ、あれでまだ本気じゃなかったのか!?

そして軍神様はまるで瞬間移動をしたかのように俺との距離を一気に詰める。

放たれるのは先程よりも比べものにならない刺突の嵐。

俺は咄嗟に金砕棒からリーチの長い朱槍に変えて迎え打つが、刺突の練度が段違いだった。俺は軍神様の槍を急所から外すのに精一杯だった。

 

武「儂を忘れるでないぞ。」

 

真「くっ!」

 

横から武神様が刀を構えてこちらに向かってくる。上段から唐竹割りを仕掛けるつもりだ。

俺は朱槍を右手に持ち変え軍神様の刺突を防ぎつつ、左腕に手甲を装着して武神様の唐竹割りを受け止める。しか、武神様の豪腕で以て振るわれる剛剣の威力は凄まじく、刃が手甲に食い込み左腕に多大なダメージを与える。俺の表情は苦悶に変わる。

それが一瞬の隙を作ってしまった。

 

軍「貰った!!」

 

真「ぐあぁぁぁ!!」

 

軍神様はその隙を逃さず、俺の右脇腹に槍先を突き刺す。反射的に筋肉を固めたためにそのまま貫かれることはなかったが、それでも受けたダメージは大きい。

 

真「くそ、離れやがれ!!」

 

軍「ふっ。」

 

すかさず俺は軍神様に向かって朱槍を振るうが、軍神様は余裕の表情で避け、バックステップで距離をとる。

すると今度は.....

 

武「左腕は貰うぞ、真人!!」

 

武神様は左手を未だ俺の手甲に食い込ませていた刀から外すと、握りこぶしを作りそのまま刀の峰を思いっきり叩く。すると刀は手甲に更に食い込み、遂には腕にまでその刃が切り込まれる。恐らく骨にまで達しているだろう。

 

真「ぐぁ!くそが!!」

 

俺はたまらず拳銃をぶっぱなす。

武神様は腕に食い込んでいた刀を抜くと銃弾を容易く避けながら後退する。

 

真(やはり一筋縄じゃいかねぇな.........)

 

俺は未だ健在な御二方を見て内心そう呟く。

それもそうだろう。相手は全てを超越した神だ。ハンデありとはいえ人間がそう易々と敵う存在じゃない。それでも俺は今もこうして二柱の神と戦意を失わずに対峙している。常人から見たら正気を疑うだろう。今の俺が戦意を失わずにいられるのはひとえに生来の諦めの悪さと修行で培った強靭な精神力が支えているからだ。

とはいえいくら戦意が残っていたとしても、身体の方はそうはいかない。

既に俺の身体は数十箇所の傷を負っており、流血が足元にたまって血溜まりをつくっている。視界も時折霞み、疲労も激しい。余り長くは持たないと俺は判断する。

 

真(さて、どうするか。)

 

俺はこの強大な御二方をどう攻略するか思案する。

ふと俺は前世で視聴したヒューマンバグ大学の動画の一部シーンを思い出す。それは天羽組シリーズで主人公の小峠華太が天京戦争の折に自身より才能に優れた京極組の久我虎徹との一騎討ちで流れた回想シーンだった。

その回想シーンは天羽組の道場にて工藤の兄貴が小峠に自分より才能のある人間に勝つための必勝法を伝授する場面だ。

 

工『小峠、才能のある奴ってのはな無傷で勝とうとするんだ。』

 

工『そん時はよぉ...』

 

工『腹刺させて相討ちに持ち込めえ。』

 

小『え...でも刺されたら死にませんか?』

 

工『馬鹿野郎 それをやれなかったら手も足も出ず

テメェが死ぬだけなんだよ。』

 

工『腹を刺しあった時はなぁ

気合いが入っている方が生き残る。覚えとけ。』

 

正直に言ってこの方法は正気の沙汰ではないが、これを実践した小峠は見事に久我に深手を負わせて見せた。

 

真(ははっ、そうだよな。自分より強い奴に勝つには腹を括るしかないよな。)

 

俺はこの戦いに勝利するために覚悟を決める。

先程武神様に斬り付けられた左腕がまだ使えることを確認すると右手にロングナイフを構える。

次の瞬間、俺はこれまでにない強大かつ圧倒的なオーラを放出する。それは正に周りを圧倒せんばかりの殺気と闘気の奔流だった。これこそ追い詰められた際に発動する一条の兄貴お得意の「修羅化」だ。

 

真「俺はこんなところで負ける訳にはいかねぇ。

   絶対に

     勝ってみせるぞ

           この戦い       」

 

武「ほぉ........」

 

軍「これは.....」

 

俺は戦闘態勢に入りながら死の五七五を詠う。

その羅刹のごとき様相に御二方は感漢の声を漏らす。

そして俺は御二方に向かって駆け出す。

狙うはまず、武神様だ!

 

軍「狙いは武神殿か。だが、そうは問屋は卸さないぞ真人!」

 

それに呼応して軍神様が横から仕掛ける。放たれる光速の槍の切っ先は俺の顔を捉えており、回避は不可能。

それなら.....

 

軍「ぬぅ、貴様!」

 

真「とらへまひたせ、くんしんさま。」(捕らえましたぜ、軍神様。)

 

俺はその刺突を敢えて頬で受け、歯で槍の切っ先をがっちり捕らえる。これでもう抜けまい。

そのまま右手のロングナイフで槍の柄を切り裂き、槍を真っ二つにする。頬に刺さったままの槍をすかさず抜き取ると、武神様の方に直進する。

 

真「いい加減退場して下さい、武神様!!」

 

ロングナイフの切っ先を向け、武神様に急接近する。

 

武「戯けが!そんな直線的な攻撃が儂に効くかぁ!!」

 

真「ぐはぁぁぁ!!」

 

しかし、武神様の下段からの袈裟斬りが俺を襲う。

直前に筋肉で防御力を固めていたとはいえ、下から上に斜めにバッサリと切り裂かれる。血飛沫が舞い、焼けるような痛みでそれが致命傷になり得る一撃であると理解させられる。

だが、今の俺は「この程度では」止まらない!

俺は左手で刀を握っている武神様の両手を刀ごと掴んで固定する。

次の瞬間......

 

真「これで決まりだぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

武「ぬおぉぉぉぉぉ!!」

 

がら空きになった武神様の腹にナイフをぶっ刺す。

それでも武神様は超反応で急所を外し、腹を裂かれる前に後ろに飛び退く。

だが、俺からの攻撃を受けたことにより武神様はここで退場となる。

 

武「........よもや同士討ちに持ち込んで儂に一撃入れるとはな。大したもんじゃ。」

 

真「はぁ...はぁ...、ありがとうございます。」

 

武神様は腹に刺さったままのナイフを外すと俺に称賛の言葉を送る。それに対して俺は息を切らしながらもそれに応える。

 

武「儂はこれで退場するとしよう。武運を祈るぞ真人。」

 

そう言って武神様は神様のいる観客席の方に向かっていった。俺はそれを見送ると軍神様の方に向き直る。

 

軍「.....正直同士討ちなんてお前らしくないが、それが功を奏したようだな。」

 

真「..........」

 

軍「だが、その傷ではもう限界が近いだろう?

安心しろ。直ぐに楽にしてやる。」

 

軍神様は腰に下げていた短剣を鞘から抜く。

良く鍛えられた短剣の刃が怪しく光る。

それに対して俺は右手に小林の兄貴の相棒である龍王刀 紫蘭を顕現させ、構える。

互いの殺気がぶつかり合い、場の緊張感が増す。

そして両者は眼前の敵を屠るべく一気に距離を詰める。

 

そこから始まったのは俺にとって正に命を削る攻防だった。

 

真「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

軍「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

両者の得物がぶつかり合い、高い金属音が鳴り響き火花が散る。

だが、俺は数多の負傷と疲労困憊によって身体が思うように動かず、次第に押されていく。

 

軍「隙あり!」

 

真「ぐはぁ!くそがぁ!!」

 

隙をついて軍神様が俺の左目を短剣で切り裂く。眼球が完全に破壊され左目の視界が暗転する。たまらず俺は軍神様の首筋を狙って紫蘭を振るうが、軍神様をそれを屈んで避ける。そのまま間髪入れずに軍神様は俺の腹を容赦なく切り裂く。直前に腹筋を固めていたとはいえこの傷は決して浅くない。俺の顔に苦悶の表情が浮かぶ。

そして........

 

軍「ふんっ!」

 

真「ぐあぁ!!」

 

視界がシャットアウトした左側に回り込んだ軍神様が俺の左肩に短剣を突き刺す。

だがこれは俺にとって大きなチャンスとなった。

俺は短剣を握っている軍神様の右手を掴むと、首めがけて紫蘭を刺そうとする。しかし、紫蘭の切っ先が首まであと数cmの距離に達したところで軍神様に右腕を掴まれ、止められてしまう。

まずい、動きを止められた........

 

軍「この俺に武神殿の時のような手は通用せんぞ?

とりあえず、これで一旦眠っていろ!」

 

真「がぁぁ!!」

 

そこから繰り出されたのは強烈な頭突き。

頭が割れたような感覚と共に俺は後方にぶっ飛ばされ仰向けで倒れ込む。

 

真(くそが、あともう少しの所で.......)

 

視界がぼやけ、身体を動かそうにも全くいうことを聞かない。徐々に意識が薄れゆく中で前世の思い出や神界での修行の日々がフラッシュバックする。俺はこの現象を知っている。死を前にした人間が見る「走馬灯」だ。どうやら俺に限界が来たようだ。

 

真(勝ちたかったな.........)

 

俺は悔しさの余り涙を流し、口を噛み締める。

武神様を退けたことでやっと勝機が見えてきたと思ったが、結局の所俺は一介の人間に過ぎない。傷は簡単には直らないし、死ぬときは普通に死ぬ。始めっから二柱の神を相手に勝利するなんて不可能に近かったんだ。

ここに来て俺の心境に「諦め」の感情が強まっていく。

 

走馬灯の影響なのか、ふと俺はある前世の記憶を思い出す。それは幼少期の俺と数年前に他界した祖父との思い出だった。俺の祖父は仁義と人情を重んじ、正義感の強い人だった。そんな祖父を俺は人一倍慕い、とても懐いていた。幼少期の俺は泣き虫で嫌なことがあるといつも祖父に泣きついていた。それを祖父は優しく慰めるも決まって俺に強い眼差しを向けながらある言葉を口にしていた。

 

祖『いいか、真人。お前はこの先たくさんの嫌なことや辛いことを経験するだろう。だが、決して諦めるな。諦めずに立ち上がればお前は必ず儂よりも強く大きな男になれる。これはじいちゃんとの約束だぞ。』

 

そうだ、じいちゃんのこの言葉があったからこそ、俺は今までどんな苦難も乗り越えてきたんだ。こんなところで立ち止まっていたら天国のじいちゃんに顔向けができねぇ。

 

真「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

消えゆく意識を再び覚醒させ、俺は神界全土を揺るがすほどの絶叫と共にボロボロの身体に鞭を打って立ち上がる。

 

真「俺はまだ負けてねぇぞ.....軍神様.....!」

 

軍「真人.....お前.....」

 

死に身体で紫蘭を構え殺意を込めて睨む様はまるで幽鬼のようだった。俺から滲み出るオーラは殺気、狂気、闘気、執念........あらゆる感情・意志が入れ混じった異質かつ圧倒的なもので、まるで大炎のようにユラユラと揺らめき、周囲の景色を陽炎のごとく歪めていく。

先程とは全く異なる俺の姿に軍神様は言い知れぬ恐怖を抱く。しかし、直ぐにその恐怖を払拭すると止めを刺すべく、駆ける。

 

軍「いい加減楽になれ、真人ぉ!!」

 

真「...............」

 

迫りくる軍神様を前に俺は一歩も動かずに観察する。

不思議だ。確実な死が目の前に迫っているというのに俺の心は不気味な程に落ち着いている。おまけに軍神様の動きがまるでスローモーションのように遅く見える。

 

今の俺なら負ける気がしない!

 

俺と軍神様との距離が3mを切ったところで俺は懐から煙幕玉を取り出し点火すると軍神様の方に投げつける。直後に煙幕玉は煙を吹き出し、軍神様と俺を包み込む。

 

軍「ぬぅ、ちょこざいなマネを........」

 

予想だにしなかった煙幕による錯乱に軍神様は足を止める。その間に俺は煙幕に身を隠し、「朧の鵺」の能力で音と気配を完全に遮断する。

 

軍(煙幕によって視界を遮り、音と気配を完全に消している。今の真人を視覚・聴覚で捉えるのは不可能。だが、あいつは既に多量に出血している...ならば。)

 

視覚と聴覚が意味を成さないと感じた軍神様は俺が今までの戦闘でかなりの量の出血をしているのを思い出し、流石に血の臭いまで消すのは不可能だと考え、嗅覚を集中させ血の臭いを頼りに進む。神界でもトップクラスの嗅覚を持つ軍神様からしてみれば臭いで他者の居場所を突き止めるなど容易かった。

 

だが、今回はその優秀な嗅覚がかえって命取りとなった。

 

軍「...........!」(臭いが強い!そこにいるのか?)

 

数歩歩いた所で軍神様はある一点の方向から血の臭いが強くなっているのを嗅ぎ取った。軍神様は短剣を構え、その方向に意識を集中させる。

 

その時だった。

 

真(貰った!!)

 

軍「ぬおっ!?」(馬鹿な!背後からだと!?)

 

煙を掻き分けて意識外であった軍神様の背後から突如俺が現れる。突然のことに虚をつかれた軍神様は俺の接近を許してしまった。だが、流石は軍神様だ。直ぐ様俺の方に向き直ると、懐に迫った俺を短剣で突き刺そうとする。しかし、その短剣を左掌で受け止めると、紫蘭の刃が軍神様の腹に迫る。

 

そして........

 

真「ハードグリングリーン!!

これで俺の勝ちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

軍「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

小林の兄貴必殺の「ハードグリングリーン」が炸裂する。

俺は軍神様の腹に紫蘭を突き刺し、腹から胸まで裂くとその場で倒れる。確かな手応えを感じたことにより、緊張が一気に解け、身体から全ての力が抜ける。

消えゆく意識の中で俺が最後に見たのはこちらを見下ろしながら満面の笑みを浮かべる神様の姿だった。

 

 

 

 

 

意識を手放してから数時間、激闘を制した俺は目を覚ます。意識がはっきりしており、両目の視界も回復している。手を動かしてみると思いどおりに動くためどうやら俺が意識を失ったあと神様が治癒を施してくれたようだ。俺はゆっくり立ち上がると、身体中の傷が完治していることも確認する。

 

武「おぉ!目が覚めたか真人!」

 

俺が目を覚ましたことに気付いた神様、武神様、軍神様が駆け寄ってくる。

 

武「いやはや、まさか最後に血を大量に付着した衣服を囮にして軍神を欺くとはなかなかいやらしい手を使うのお?」

 

真「あははは.........」

 

軍「だが、あれには完全に騙されたぞ。ボロボロの状態であのような戦術を思い付くとは、恐れ入った。」

 

先程俺が軍神様に仕掛けた戦術に対して武神様と軍神様はそれぞれの感想を述べる。何故、あの時俺が全く軍神様の意識外から現れたのか、その理由は簡単だ。

軍神様から視界を奪い気配と音を消しても血の臭いまで消せないと察した俺は全身の筋肉を力ませて一時的に傷口を塞ぎ、止血すると身体中に纏わりついていた血を脱いだ衣服で拭き取り、血で真っ赤に染まりきった衣服を軍神様の近くに放置した。まだ血が乾ききっていない衣服から漂う鉄錆の臭いに釣られて軍神様が隙を見せたと同時に意識外から攻撃を仕掛けたのだ。

運が絡む大博打な作戦だが、今回は上手くいった。

 

すると今度は神様が柔和な笑みを浮かべながら俺に近付き、話し掛ける。

 

神「やぁ、真人。体調の方はどうだい。」

 

真「おかげさまでこの通りですよ。回復ありがとうございます。」

 

神「なに、当然のことをしたまでさ。それにしても君は本当にすごいね。ハンデありとはいえ彼らに勝っちゃうなんて。」

 

真「これも全て今までの修行の成果ですよ。」

 

神「ふっ、そうゆうことにしておこう。とはいえ、これで最終試験は全て合格という訳だ。おめでとう、真人。」

 

そう言うと神様は杖をかざし軽く振る。

すると俺たちの直ぐ横に2m程の大きさのワープホールが現れる。

 

神「あれが異世界に通じる扉だ。早速で悪いけどこれから君にはあそこを潜って転生してもらう。」

 

いよいよこの時が来たか..........

最後の試練を乗り越えやっと異世界への転生するのを感慨深く思う反面、長年過ごした神界を離れることになりどこか寂しくもある。

しかし、そんな一抹の寂しさを俺は振り払う。異世界で滅びの危機にある人類を救うために今まで努力してきたのだ。ここで躊躇う時ではない。

すると今度は神様が杖を俺の目の前にかざす。

 

神「これは僕からの餞別だよ。流石にその格好じゃあみすぼらしいからね。」

 

神様はそう言って杖を振る。すると上半身裸でボロボロのズボンに使い古した革靴とみすぼらしかった俺の見た目が一変する。

高級そうな白のシャツにワインレッドのネクタイ、黒のベストとその上には黒のオーバーコートを着込み、手には同色の皮手袋を付けている。下はこれまた黒のスラックスとブーツを履いている。ボサボサだった髪も綺麗に揃えられており、清潔感があった。

全身黒尽くめの服装と鋭い目付きに逞しいガタイが相まって今の俺はまるで裏社会の殺し屋のような風貌であった。

一気に様変わりした俺に神様は懐から取り出したサングラスを手渡す。

 

神「このサングラスは周囲を見えやすいように改良してあるから、人前では常に付けておくといい。今の君の目はとっても怖いからね。」

 

真「あ、ありがとうございます.....」

 

神様のその言葉に俺は苦笑いを浮かべながらもサングラスを受けとる。長年の凄惨きわまりない修行によって俺の目はまるで人を殺して食ったかのような様になり、異世界の人間とコンタクトを取る上で相手に要らぬ恐怖心を与えてしまうのは明白だった。

受けとるやいなや俺は早速サングラスをかける。しかし、まるでサングラスなど初めからかけていなかったかのように周りの景色が裸眼同様に見える。

 

神「便利だろ?それなら戦闘でも支障になることはない。」

 

真「あぁ、何から何までありがとうございます。神様。」

 

神「いやいや、元々は僕が君に人類の救済をお願いしたんだからこれぐらい安いもんだよ。

.......それじゃあ、準備も整ったことだし行くといい。」

 

真「あ、その前にちょっと待ってくれ。」

 

俺は待ったをかけると武神様と軍神様の方に歩み寄り、深々と頭を下げる。

 

真「武神様、軍神様。今まで俺を鍛えて下さり、ありがとうございました。この御恩は一生忘れません。」

 

武「何を改まって。儂らの方こそ毎日退屈せんかったわい。礼を言うぞ、真人。」

 

武「お前のような優秀な弟子を持って俺は誇らしく思う。異世界でも頑張るのだぞ、真人。」

 

真「はい!.........ただ欲を言うと他の神々にもちゃんと礼を言いたかったんですが.......」

 

武「それなら安心せい。その気持ちは後で儂らがちゃんと他の奴らに伝えておこう。」

 

真「本当ですか!?ありがとうございます。

.....それじゃあ、名残惜しいですが行ってきます。」

 

武「おぅ!行ってこい!!」

 

軍「己の役目をしっかり果たすのだぞ。」

 

御二方との別れの挨拶を済ませると、俺はワープホールに向かう。そして、ワープホールの目の前に立つと後ろで見守る神様に顔を向けて声を掛ける。

 

真「行ってくるぜ神様。」

 

神「あぁ、言ってらっしゃい。頼んだよ真人。僕の子供たちを救ってくれ。」

 

真「おぅ、任せろ」

 

そう言って俺は顔をワープホールの方に戻すと、決意を固め踏み出す。

これからこの先、俺は様々な苦難に見舞われるだろう。

時には挫け、逃げ出したくなるような時が来るかもしれない。だが、俺は決して諦めない。それが今は亡きじいちゃんと交わした約束だからだ。

吸い込まれるかのように俺はワープホールに入っていき、神界を後にする。

 

こうして俺は異世界へと旅立っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武「.......しかしこれで良かったのか?あのような前途有望な若者を死地に送るような真似をして。わざわざ新しく世界を創造して、特典まで細工を施して。」

 

俺が神界を去った後、武神様は神様にそう問いを投げ掛ける。軍神様も黙っているがどこか釈然としない表情で神様を見ている。

 

神「良かった?あぁ、良かったさ。今の彼なら間違いなく僕の望む結果をもたらしてくれるだろう。何せ彼は300年もの修行を耐え抜き、神との戦いに勝利したんだからね。もはやあっちの世界にいる『奴ら』なんか彼の敵ではないよ。」

 

その問いに対し神様は笑みを浮かべながら答える。しかし、その笑みは俺にいつも見せる慈悲深く暖かみのあるものではなく、享楽的で狂気を帯びたとても不快なものだった。そして神様は笑みを絶やすことなく話を続ける。

 

神「天地創造以来、僕は創造主として人間たちの動向を常に観察してきた。初めの頃は見込みのある人間が多く、僕も退屈しなかった。」

 

神「しかし、時代が進んでいくごとにそういった『英雄の器』を有した人間は現れなくなり、それどころか人間たちは文明の利器に頼ってその質を低下させていった。」

 

神「それからの僕はとても退屈だったよ。ここまで墜ちてしまった人類に心底失望し、一時期本気で滅ぼそうとも思った。」

 

神「そんな中で現れたのが真人だったんだ。」

 

神「あれは本当に偶然だったよ。どこかに面白い人間はいないかと下界を見ていたらダンプカーに牽かれそうになっていた子供を助けるために迷いなく駆け出す彼の姿を。」

 

神「そして僕は見てしまったんだ。彼の中に宿る英雄の器を、魂の輝きを。」

 

神「そこからの僕の行動は早かったよ。直ぐ様彼の魂を拾い上げ、相応しい舞台として彼に馴染みのある世界を模して作り、特典も用意した。」

 

神「後は受肉した彼に異世界の人類の救済を依頼するだけだった。案の定、彼は承諾してくれたよ。

何故だかわかるかい?」

 

ここで神様は武神様と軍神様に問いを投げる。

 

武「それはあやつ自身がそう在りたいと願ったからじゃろ。『可能な範囲で多くの人を助けたい。』とよく儂らに言っとたからのぉ。」

 

軍「うむ、それが亡き祖父との約束だと言っていたしな。」

 

その問いに御二方はそう答える。

 

俺がなぜここまで他者のために身体を張れるのか。

それはじいちゃんと交わした「もう一つの約束」が関係している。膵臓癌を患い余命宣告を受けたじいちゃんは死ぬ間際に俺とある約束を結んだ。

 

祖『真人。儂が死ぬ前にこれだけは覚えておいてくれ。お前は将来人間として、男として大成するだろう。しかし、忘れないでくれ。世の中にはお前のように強い人間ばかりではない。自分ではどうすることも出来ず、誰かの助けが必要な人が沢山いる。お前はそういった人たちを可能な範囲で助けるんだ。』

 

この時交わした約束が今の俺を形作った。

それ以来俺は出来る範囲で多くの人を助けるようになった。正直これが俺の独り善がりであることも理解していたがやめることはなかった。

何故なら俺自身がそう在りたいと心の底から願っていたからだ。

 

御二方の答えを聞くと、神様は口角を更に吊り上げ再び話しを続ける。

 

神「あぁ、そうさ。彼自身が人々を救うことを願っているからね。全く、とんだ偽善者だよ。そんなことしても自分のメリットに繋がるかもわからないのに。」

 

神「だが、そんなどうしようもない『自己犠牲の精神』が今後彼を英雄として完成させる上での支柱となるだろう。」

 

神「僕は楽しみでしょうがないよ!これから彼が英雄として成長していくのが!人々の希望としてその強烈な輝きを放つのが!」

 

神様は狂気的な笑みを浮かべながら両手を広げ、空を仰ぎ見る。

 

神「さぁ、見せてくれ『約束の英雄』よ!その魂の輝きを!その勇姿を!君の驚天動地の英雄譚で僕の退屈を紛らわしてくれ!!」

 

そして神様は恍惚とした表情で狂ったように笑う。

その様子を武神様と軍神様はただ黙って見守るしかなかった。

 

     アサルトリリィ~Episode of Bag Human~

       第2話「試練そして旅立ち」 完

 




如何でしたでしょうか?
次回からいよいよ真人が本格的にアサルトリリィの世界に介入します。
それでは、またお会いしましょう。
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