コカビエルとの戦いの翌日。
いつも通り学園へ向かうとあの惨状だった校庭や体育館は元通りになっていた。
恐らくは支取達、生徒会の悪魔達が修復したのだろう。
普段の学園での仕事は変わらない。兵藤達が所属するクラスでHRを行う。その時の兵藤の顔は複雑そうだった。大方、今まで仲良くしていた相手が、実は只者ではなかったという事実。それと、自分の力を利用と近づいたのではという疑念があるといった感じか。
だが、本人が優し過ぎる為に敵と断定はできないのだろう。甘いところでもあるが、長所でもあるかな。彼のそういう所は。
歴史の授業を担当しているので、他のクラスにも行ったりしたが、生徒会の悪魔達やグレモリー眷属達は警戒していた。仕方が無いことではあるな。
そして放課後、レイナーレ、ルルエルと合流し現在は旧校舎のオカルト研究部の部室の前まで来ている。
それと紫藤さんはコカビエルの戦いから帰ると意識を取り戻していた。そして事情を説明すると、礼を言ってから家を出ていった。さすがに神が死んでいた事は伝えていない。恐らく教会へと帰れば知らされるか、気付くかするだろうけどな。
ゼノヴィアの行方も知らない。神の死で精神の均衡を保てず自殺でもしているのかもな。何にせよコカビエルを倒した時点で協力関係は終わっている。後の事は知らん。
さて、それじゃあグレモリー達とご対面だ。
「行くぞ。ルルエル、レイナーレ」
頷く二人を見て、扉を二回ノックする。すると中からどうぞ、と声が掛けられるので入室する。
部屋の中には生徒会の面々とグレモリー眷属達が全員揃っていた。それほど広くない部屋によくもまあ集まるものだな。
「全員お揃いのようだな。それほどの事と言う事かな?」
「ええ、そうね。とりあえず座ったらどうかしら?」
グレモリーがそう返してくる。ソファに座るように促されたので遠慮なくソファに座らせてもらう。
ソファに座っているのは≪
それと相変わらず兵藤の表情は暗い。
「それで、聞きたいことはなにかな? 全て答えよう」
大体の筋書きは既に頭の中にあるしな。
「そうね最初は私から質問をするわ。まずは……貴方の名前は?」
名前か……偽名であることを疑っているのか。
「名前か。そのままカインだ。クロイツという姓は偽名だが、カインは本名だ」
「そう……まあとりあえずはそれでいいわ。次よ、貴方は人間なのかしら?」
私が話すこと全てを信用する訳ではない、という事か。それにしても人間なのか、とは…随分な質問だな。
「どこからどう見ても人間だろう? 大体気配で分かるだろうに、人間か人間で無いか」
そう言うとグレモリーは眉間に皺を寄せる。
「本気で言ってるの? 確かに貴方の気配は人間だわ。でもただの人間が堕天使に、それも幹部クラスの人外に勝てると思っているのかしら? それに気配なんていくらでも誤魔化せるわ」
そう言われると痛いな、しかし…
「事実私は勝ったのだ、その目で見ただろう? 気配に関しても私が魔法や仙術の類を今ここで使っていれば気付くだろう」
グレモリーは大きく溜め息を吐いた。それほど私はおかしな事を言っているのだろうか。
「ごめんなさい……疑い過ぎるのもあまり良くないわね、話が進まなくなるし」
なるほど、どうやら自分に対しての溜め息だったようだ。肩の力が少し抜けたのか、体を少しだけソファに預けるように座りなおしたグレモリー。
「いや、謝る事はない。疑うのは当然のことだろう。眷属達の命を預かる身であり、この地を治める身でもある。仕方が無いことだ」
過去にオツムが足りないといった事は心の中で謝ろう。君はオツムが足りない訳ではない様だ。
「ありがとう。それじゃあ次の質問ね。仮に人間だとして、あの力はなに? そしてあの姿は?」
「それの事についてだが、端的に言えば≪神器≫だよ。人間に宿る、神が授けし力だ」
私の力に関しては≪神器≫と言う設定にしてある。これなら私が凄まじい力を持っていても不思議ではない。
「へぇ……≪神器≫ね。それにしては、複数の力があったように見えたのだけれど?」
まあそうだろうな。実際それぞれ別の力だ。
「全て同じ≪神器≫の力だよ。姿が変わるのも、そこの彼、兵藤一誠の≪赤龍帝の籠手≫の様なモノだ」
「だとするなら、貴方は既に≪禁手≫へと至っているの?」
「ああ、≪神器≫を宿した人間がどうなるか分かるだろう? 悪魔に狙われ、堕天使に殺されかけていれば嫌でも≪禁手化≫するさ」
そう言うと、少し同情するような目を向けるグレモリー。隣の支取や周りの眷属も同様だ。
まあこれも設定なのだが。≪神器≫を宿していると悪魔や堕天使に狙われるという話はよく聞くからな、使わせてもらった。
「無神経だったわね。ごめんなさい……それで、貴方の≪神器≫の力はどんなものなの? 名称は?」
「≪
「≪原初の遺伝子≫…聞いたこと無いわ。それに能力も相当なものね」
「聞いたこと無いのは当たり前だ。私が考えた名前だからな」
「はぁ?」
そういう反応はすると思っていたが、されると腹立たしいな。
「今まで会ってきた悪魔や堕天使達は見たことも聞いたこともないと言っていた。だから元々は名称が無いが、それだと不便なので私が付けた」
「それじゃあ、新種の≪神器≫ということかしら…」
予想通りだな。新種だと思い始めた。これが狙いで、自分で名前を付けたと言った。新種ということにしていたほうが自然だからな。既存の≪神器≫で私の力の様なモノは普通はありえん。
「恐らくはそうだろう」
グレモリーは少し疲れた感じで溜め息を吐く。あまり吐き過ぎると幸せが逃げるぞグレモリー。
「なるほどね……色々と厄介な存在ね、貴方」
失敬な言い方だが、そうなるだろうな。
「まあ≪神器≫についてはまた今度聞くわ。それで、次なのだけれど…」
そう言ってルルエルとレイナーレを見る。次はこの二人の事についてか。
「どうして悪魔の彼女が貴方と一緒にいるのかしら。そして何故あの時レイナーレを助けたの?」
ここが難関だな。正直この話が多少でも信じるに値すると良いのだが。
「それは……」
「カイン。その事については私自身が説明する」
私が説明しようとすると、ルルエルが話しに入ってきた。打ち合わせでは全て私が説明することになっていたが……どういうつもりだろうか。
「信じてくれ、カイン」
そう言って私の目をしっかりと見つめるルルエル。まあ…この目なら私に不利益な事を言うような感じはしないし、問題無いか。
「分かった。信じよう――グレモリー、その事については彼女から説明するそうだ」
「ありがとうカイン」
小声でそう言うルルエル。お手並み拝見だ――――
◆◆
「じゃあ説明をお願いするわ、ルルエルさん」
グレモリーが促すので、私は一歩前へ出る。
「まずは私の本名からだな。私の名前は――ルルエル・ダンタリアン。ダンタリアン家の娘だ」
「なっ…ダンタリアン家の娘ですって!?」
驚愕するグレモリー。シトリーも目を見開いて驚いているようだ。
「ああ、私は代々軍に所属してきたあのダンタリアンの娘だ」
私の家系は代々悪魔の軍部に所属してきた。戦闘能力が高いこともあって、軍に入れば大抵高い地位に就く事ができた。大戦で家が廃れるまでは……
大戦により私の家は廃れ始めた、おじい様が亡くなり、父は大戦で生き残りはしたものの、戦うことに恐れを抱き、逃げ出した。大戦が終わった後は軍を追われた。私の父は大戦の途中で戦闘を放棄し、逃げ隠れたのだ。
臆病者に成り下がった父の所為で、軍に所属することで高い地位を示してきた私の家は衰退していった。周りの者からは臆病者と罵られ、石を投げられるような日々が続いた。
私はそれが耐えられなかった。誇り高きダンタリアン家がこんな事で、父の失態だけでこうなってしまうのが……だから私は努力した。力をつけるだけではない。軍の信頼を取り戻す為にどんな仕事でもこなしていった。
例えどんなに汚い仕事だろうと、どんなに小さな仕事でも。
そうして私は上級悪魔の地位を手に入れた。軍では討伐隊を指揮する隊長の座まで上り詰めた。これが私の過去。生憎眷属達を集める事にはならなかったがな。
最初はカインを恨んだ。例え眷属でなくとも、隊のメンバーは私の部下で、私を慕ってくれていた。その仲間達を殺したのだ。許せる筈が無い。あの空間から出された後、隙を狙って殺すつもりだった。
だが、カインは最初に謝った。仲間を殺してしまってすまないと。許せとは言わない、恨んでくれてかまわない、そう言った。
流石にその時は怒りでどうにかなりそうだったが、その後カインと行動を共にしている内に色々分かった。カインは仲間を大切にすることを。決してカインは血も涙も無い怪物ではないことを。本当にただの人間だった。確かに少し人間らしくないところもあったが。
カインは確かに人間だった。あの時カインは仲間を、黒歌を守る為に私達を殺した。私だって仲間を守る為に相手を殺す。それは普通のことだ。例え黒歌が犯罪者であっても、カインにとっては仲間なのだ。
だがカインは恨んでくれてかまわないと言った。それが当然の事だとしても、許される事ではないと思ってのことだったのだろう。そんな在り方に、考え方に私はどんどん惹かれていった。カインの一挙一動を目で追うようになった。
滅多に感情を表さないカインが笑った時の顔、考え事をする時に髪の毛をいじる仕草。どれもに惹かれてしまった。そして気付いた、私はこの人が好きになったのだと。もうカインしか考えられないくらいに好きになってしまったのだと。
だから私はカインについていこうと決めた。決して彼の傍を離れないと心の中で誓った。仲間を殺した事を許したわけではない。でも、それでも好きになってしまったのだから……仕方ないじゃないか。
そしてまだその気持ちは伝えていない。
だからこの場で、想いを伝えようと思う。好きだと、愛していると。その為に自分が説明すると言ったんだ。ここで言わなきゃ…女が廃るだろう!
「まさか……死んだと聞いていたわ。隊を率いてはぐれ悪魔の討伐に向かって、消息を絶っていたから…」
少し考え事をしてしまったが、やはり悪魔陣では私は死んだことになっていたらしい。当たり前だな。討伐失敗だったし…
「ああ、実際死んだと思ったよ。けど、生きていた」
そう言ってカインを見る。
「なるほど…彼に。でもどうして戻ってこなかったの?」
「負傷した傷を癒すのに時間が掛かった事もあるが……なにより、私が彼…カインに惹かれたからだ」
カインを見つめながら告げる。ううっ……言ってしまった。すごい恥ずかしい!! って…
「なんだその顔は……しかも全員!」
思わず顔を手で覆ってしまい、指の隙間からチラッと見たらグレモリーがきょとんとした顔をしているじゃないか。手を顔から離して周りを見てみれば、シトリーも、眷属達も同じ顔をしているし。
カインも同じだ。ああ、そんな顔も素敵だな……って違う!
「い、いえ。まさかいきなり告白されるとは思わなくて…ご、ごめんなさいねっ!」
半笑いでグレモリーが謝る。おい! 失礼だろう! 一世一代の愛の告白だぞ!
「いや、私もまさか告白されるとは…すまんな」
やめろおぉぉぉぉ! カインにそう言われるのが一番堪える!
「酷いぞ! 頑張ったのに! わたし頑張ったのに!」
思わず蹲る。恥ずかしい! 死にたくなる! くそぅ…こんな事なら言わなきゃ良かった……
すると突然誰かに抱きしめられた。
「本当にすまない。こんな反応は本来してはならないな。決心して告げたのだ、これはなかったな」
耳元で優しく囁かれる。カインだ。
「今、この場では答えられないが…必ずその思いに答えを出そう」
っ……
「…ああ、ちゃんと答えるんだぞ」
顔を上げ、カインを見ると、笑っていた。今迄見たことがないくらい優しい笑みだった。
言ってよかったと思う。この顔が見れただけで、そう思えた。
◆◆
まさか、告白を受けるとはな。さすがの私も戸惑ったが…答えは出そう。
ルルエルの手を引いて立ち上がらせる。
「すまんなグレモリー」
そうグレモリーに言う。
「いえ、いいものを見せてもらったわ。お礼を言うべきかしら?」
「やめてもらえると助かる。これ以上やるとルルエルが羞恥で死ぬことになる」
グレモリーに言われたてまた顔を赤くしているルルエルを見ながら伝える。
「ふふっ……貴方達、面白いわね」
少しだけ場の雰囲気も和んだようだ。これもルルエル効果か……なんて冗談は言わないで置こう。
「う、うむ。まあなんだ…とにかくカインは私を助けたし、私は助けてくれたカインに惹かれて行動を共にしているということだ」
気を取り直してといった感じでルルエルが詰まり気味で言う。
「そして、レイナーレを助けたのも…カインは死に掛けている者を見捨てて置けないからだ。深い意味はないと思うぞ」
最後にレイナーレについてのことも答え、恥ずかしがりながら後ろに下がっていく。
「分かったわ。ありがとうルルエル」
どっちの意味での感謝なのか分からんが、礼を言うグレモリー。やめてやれ。
「さて、次の質問はなにかな?」
とりあえずルルエルからターゲットを外させようと話を戻す。
「そうね…私からは最後の質問よ。貴方の目的は?」
目的か……
「私の目的は、言い方は良くないが後ろ盾が欲しい。今の立場は危ういからな。正直言うと悪魔達の仲間になるのが目的…だな」
「だから魔王様に会わせてくれと言ったのね」
合点がいったという感じのグレモリー。
「ああ、別に魔王でなくとも、君の仲間でも良かったのだがな。しかしどちらにしろ魔王へは情報がいくと思って頼んだ」
うんうんと頷くグレモリー。一応は納得したかな。ルルエルのおかげで場も和んでいる。下手な事を口走らなければ荒れることはないだろう。
「まあ後はお兄様の采配だわ。私からの質問は以上よ。ソーナは?」
その後は支取からの質問にいくつか答えた。大した質問ではなかった。主に学園に関することである。なにかしら学園にでも思い入れがあるのだろうか。
私の今後は、魔王からの通達で決まるらしい。魔王と話ができるかどうかも。まあ話が出来なくとも、とりあえずグレモリー達からの信用はいくつか獲得できただろう。
彼女達の仲間、という事でも問題はあるまい。しばらくはオカルト研究部の部室に入り浸る事になりそうだがな。
旧校舎から出た後は、レイナーレとルルエルは直ぐに帰宅した。まあ主にルルエルが帰りたがっていた為なのだが……
私は自分の荷物を揃え、帰る準備をしてから帰宅するのだが…校門にある生徒の姿が。
「どうした……兵藤」
一人校門の脇に立っていたのは兵藤一誠だった。
「あ…こんちわっす先生」
やはりいつもの元気が無いな。
「どうした。あまり元気が無いな」
「いやぁ……まあ、その」
「私が君に良くしていた理由が知りたいのだろう?」
「うっ……そう、ですね。先生は気付いてたんですよね? 俺が≪赤龍帝の籠手≫を持っている事に」
図星をつかれて、少し狼狽えるが質問してくる。
「まあ、知っていたな。それがどうした」
「その、やっぱ俺がそういう奴だから先生は俺に近づいたんですか? 利用できる、とか。なんつーか…」
自分で言いながら、段々と落ち込んでいく兵藤。
「ふむ、つまり君はこう言いたいのか。悪魔達に手土産として君は利用できる。だから今近づいて仲良くしておけばうまく扱える駒になるだろう、と」
「そう……っすね」
なんだか捨てられた子犬の様になってきたな。
「フッ……そんな訳ないだろう」
「えっ……?」
私の言葉を聞き返すように、私を見つめる兵藤。
「そんな訳ない。そう言ったんだ。確かに君の力には気付いていたが、別にそれを利用しようと思ったことは無い。君と特別仲良くしていたのも、ただ君が気に入っていたからだよ」
「は、ははっ。なーんだ! やっぱそうですよね! いやぁ、でも良かったぁ…」
まるで新しい飼い主でも見つけたかのような安心の仕方だな。表情がコロコロと変わって、見ていて飽きない。
「そんな事を心配していたのか。安心したまえ、そんな考えは元より無い。君とは、普通に生徒……いや友人に近いか。それと同じ感じで接していただけだ」
「へへっ。先生に友人と思ってもらえるなんて、なんか嬉しいです。先生って実はスゲー強かったし、そんな人にそう思ってもらえると。いやぁ…照れますね」
笑いながら頭を掻く。そこまで照れるのか。
「さあ、そろそろ遅い。君も家に帰れ兵藤君」
そう言って帰るように促す。
「ウッス! じゃあ先生、また明日! さよなら!」
「ああ、さよなら」
元気よく手を振りながら走っていく兵藤に、こちらも手を振り返す。
そして、自宅までの道程を歩き始める。
それにしても――――
“よくもまあ人の言葉を簡単に信じるものだな”
それだけ私を信用しているということなのかな? しかし、簡単に信じすぎだろう。いや、元々はただの一般人だったのだから仕方ないか。
最初は危険因子として殺そうか悩んでいて、次第に≪神器≫へと興味が移り、観察することにした。そしてレイナーレが現れた時は、殺された後に死体を回収して色々と調べようと思っていた。
今は悪魔になってしまってそれも無理だがな。ルルエルも同じだ。私が、“そう都合の良いように思わせる為にした言動”を鵜呑みにしている。
何故仲間を殺した相手を信じれる? どうしてそんな奴に好意を持つ? それは私がそうなるように動いていたからだ。使える駒だから、情報源としても使えるし、兵力にもなる。
後は…娯楽の様なものか。どこまで強くなれるか、どこまで私を信じれるか。色々と試したかったのもあるな。
しかし…我ながら下種だと思う。今更そんな事で心を痛めはしないし、悔い改めるような事も思わん。全ては自分の為だ。
自分の欲望の為だけだ。自分の目的を達成するまでの暇つぶしに過ぎん。だから、暇すらつぶせない存在になったら切り捨てる。
それまでは、仲良く仲間でいよう。その時になったら、どんな顔をするのか……。
何にせよ、今はその時ではないし、まだ暇はつぶせている。まだまだ使ってやるさ。
眠い中書いていたので、なんだか文章がおかしいかも知れないです。
ルルエルさんの過去が分かりましたね。そしてカインさんの下種さも目立ちましたね。
こんな感じで、少し残酷と言うか、ゲスいオリ主なので、注意が必要かもしれないです。
今更ですね!すみません!
誤字脱字、アドバイスや感想お待ちしています!