圧倒的だった。悪魔達が為すすべも無く倒れていく。
あるものは首を刎ねられ、あるものは心臓を貫かれ。
(ここまで強いなんて思ってもいなかった・・・)
明らかにこれは異常だ。
とても人間とは思えない。
(本当に人間なの?カインは)
そう思ってしまっても無理はない位に強い。
それにカインが使うあの魔法、確かに普通の魔法とは違っている。
魔力が高まる感じもしないし、それに殺意や殺気も感じさせない。
なによりノーモーション。手をかざす訳でもなく、腕を振るう訳でもない。
不可視に近い。
印象的なのは、悪魔達を嬲り殺していくカインの表情だ。
――――嗤っている
まるで悪魔達を愚かだと思うかのように。
そして悪魔達を嬲る事に喜びを感じるかのように。
カインと共に過ごした期間は短いが、あんな表情を見たのは初めてだった。
悪魔よりも悪魔らしく、人間とは到底思えない。
そんなカインが恐かった。
◆◆
逃げて悪魔を追い詰めたが、死にたくないらしい。
命乞いにしてはとてもじゃないが良いとは言いがたいが、身窄らしく、涙や涎を垂らし、嗚咽を漏らす姿はそそるものがあるかもしれんな。
まあそういった背徳的なものにも興味はある。長い年月生きたが、枯れているわけではない。
だが、それよりも悪魔の体に興味がある。
人間と同じ姿ではあるが、背中の辺りから生えている羽などは実に興味深い。
人間と同じ構造なのか、体は
研究材料としては最適か?
できるならもう少し忍耐力、痛みに耐性のある男性の悪魔が良かったが。
この女性悪魔でも十分か。
精神的な部分では女性が強いしな。
そう決めて、悪魔にこういう。
―――なら、生かしてやろう
◆◆
この化け物みたいな人間は私を生かしてくれるらしい。
思わず嘘ではと思って聞いてしまった。
「ほ、本当に生かしてくれるの?」
そう言うと人間は、一瞬目を細めるが、
「君が生かしてくれと言ったのだろう。なら生かしてやる。私にもメリットがあるしな」
そう言った。
メリット?どういう事なんだろうか・・・
「ふむ、怪訝な顔だな。説明してやろう」
どうやら顔に出ていたみたいだ、あまり相手を刺激すると危険なので、黙って聞くことに徹する。
「本来なら君を逃がすと私の顔が広まってしまうので、処分してしまうのが最も最善だ」
処分、という単語に思わず体を強張らせてしまう。
そんな私を見て人間は慈愛の表情を浮かべる。
「そう恐がるな、もう君が死ぬ事はない。話の続きだが、君が私の仲間になってくれるなら、君を死なずに済むし、私も悪魔と言う種族について色々分かるのだ」
それのどこにメリットがあるのか分からないが、死なずに済むのなら正直どうでも良かった。
「どうだ?分かったかね?」
頷いて肯定する。
「なら良かった。では、この中に入ってくれないか?」
そう言うと、人間の背後に驚くほど白い、穴のようなものが出てきた。
その穴は人一人が入れる程度の穴だった。
「あの・・・これは一体?」
さすがにこんなモノの中に説明も無しに入りたくは無い。
「ああ、これは私が“創った”空間の入り口の様なものだ。君のことが他の悪魔や連れのものに知られると少々問題があってな。
安心しろ、特に危険は無い。用がある時は念じて私を呼べばいい。それと、過ごしやすいようにいくつか物も“創った”から不自由は無いと思う」
確かに、私の事がバレると彼も私も色々と問題があるだろう。連れのもの、とは恐らく黒歌のことだろうけど、何故彼女に知られるのが問題なのだろうか?
悪魔に知られるのは不味いが、黒歌は仲間なのだし・・・
「どうした?まだ何か聞きたいことでもあるか?」
どうやら長考しすぎたようだ。
「いえ、特には。この中に入ればいいんですね?」
「ああ。それと敬語はいらない。楽に話してくれ、もう私と君は仲間なのだ。私はカイン。君の名前を教えてはくれないか?」
白々しい、先程まで殺そうとしていたくせに・・・
だが、これで死なずに済むならいい。
「私は、ルルエル・・・ルルエル・ダンタリアンだ」
私の名前を伝えると、人間・・・カインは満足気に頷いた。
「ルルエルか、うん。宜しく頼むよルルエル」
手を差し出して来た。握手ということか。
「ああ、よろしくカイン」
握手をして私は白い穴に入ろうとする。
「ああ、そういえば・・・」
とカインが言い忘れていたかのように呟く。
「その空間は時が少し遅く流れていてな。外との時間は一致しないから、少々外の時間の流れに困惑するとは思う。まあしばらくすれば落ち着くだろうから、それまでは外に出るのは我慢してくれ」
分かった、と言いながら私は白い穴に身を投じた。
◆◆
あの悪魔、ルルエルか。
好条件の案を出したら心にも余裕ができたのだろうか、立ち直りが早かった。
やはり精神面では強いな。
しかし、ダンタリアンか・・・
私の世界にもその名はあった。
ソロモン72柱の一つとして。
実際はそんな名前の悪魔は見た事がないが、でも確かにそんな名前が記された書物はあった。
もしかするとある程度は前の世界と一致している部分があるのかもしれん。
この世界では実際に書物に記された伝説、空想の者たちが存在する。
ただそれだけで後はあまり変わらない世界なのかもしれん。
黒歌もあまり多くを知らないようだし、ルルエルからでも情報を引き出すか。
少しルルエルとの話し合いや考え込んだせいで少々時間が過ぎている。
新手が来ると厄介だ、さっさと黒歌のところに戻ろう。
◆◆
「待たせたな」
そう言いながら黒歌の元に降りる。
戻るときは歩くのは面倒なので空を飛んで戻った。
「カインは空も飛べるのね」
「普通だと思うが?」
私の世界ではそれが普通だった。
「いや、普通の人間は無理だと思う」
きっぱりと言い切るが、この世界では人間は魔法を使えないらしいからな。
仕方ない事なのかもしれない。
「ほんと、カインって何者なのか気になるにゃ」
そう言われてもな・・・
「何度も言うが、ただの人間だよ。私は」
「もうなんでもいいけどにゃ。それで?逃げた悪魔はどうしたの?」
「もちろん処理したよ。私の顔がバレるのは困るしな」
ルルエルの事は黒歌には話さない。
研究に使うなんて言ったら色々と面倒だ。
「そっか・・・で、この死体達はどうするにゃ?」
周りを見渡しながら黒歌が言う。
確かに、このまま放置すると不味いな。悪魔達がこの後此処に来たとき、討伐隊のメンバーが一人足りないなんてなると、不味い。
「そうだな、このまま放置も不味いし、私の能力で壊す」
こういう場面だとあの力は便利だ。
死体達が見る見る黒く染まっていき、最後には塵一つ残さず消える。
「便利な能力にゃ~、触れなくても壊せるにゃんて。それにしても範囲が広いのね。どのくらいなの?」
「そこまで広範囲には飲み込めないな。ある程度距離が離れると、視界に入っていても届かん」
実際は視界に入れなくても壊せるし距離も関係ない、飲み込むと言う表現も間違っているしな。
黒歌に教えたのはほんの一部分で、確かなものでもないから仕方ないが。
「さて、死体は全て飲み込んだ。移動しよう」
そう言って歩き出す私に黒歌が後ろから付いて来る。
「あーあ、いい館だったのに勿体無かったにゃ」
「そう気を落とすな。今回の一件で悪魔達も無闇矢鱈と手出しはできなくなっただろう。あの団体が全滅したんだ。私達ばかりに人員は避けられないし、種族自体も数が少ないのだからしばらくは静かだろう」
そう言うと黒歌は頷いて私の腕に自分の腕を絡めてきた。
「じゃあ、カインのおかげにゃ~。カインがいなきゃ今回の数だと負けなくても致命傷は負ってたかもしれないからね」
「まあ私のおかげかどうかはともかく、しばらくは追手も来ないし、ゆっくりと隠れ家を探そう」
「そうねぇ、いい家があるといいにゃー」
そう言いながら私達は新しい隠れ家を見つける為に移動する。
研究材料も手に入れた。
これで少しは楽しめる。
―――本当に醜悪な罪人だな“俺”は―――
思わずそう思ってしまうが、今更だろう。
さあ、これからどうなるだろうか。
楽しみで仕方ないよ。
第三話でした。
本当に進展がありませんが、次回は時間が飛ぶので少し原作開始に近づきます。
でも主人公をどう絡ませていくか悩み所です。
ではまた次回
誤字、脱字、指摘して下さると嬉しいです。
感想お待ちしています。