マトリックス世界の日本が日本してた場合   作:明田川

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時系列は戦後です、数年前に書いたものを発掘して来た。


仮想世界旅行

地球環境の正常化に邁進する日本だったが、やはりシェルターでの地下生活というのは精神面に与える悪影響が大きかった。そのため昔綺麗だった頃の地球が再現された仮想世界への観光というのは、大きな需要があったのだ。

 

「いやぁ、こんなに人が地上を歩いている時代があったなんて信じられない」

 

「貴方のひい婆様はこうやって外で生活していらしたんですよ?」

 

「あの大婆ちゃんがねぇ、じゃあミナミさんは地上で生産されたのか」

 

二人は日本観光を終え、今は米国の何処かにあるカフェにて昼時を過ごしていた。人間とアンドロイドのペアというのは珍しくなく、日本においては数世代前からの常識だ。

 

「そうですね」

 

「地上では何してたの?」

 

「私は当時多忙だったお婆様に買っていただいて、家事を行ったり話し相手になったりしていました」

 

「へぇ〜、地下とあんまり変わんないのか」

 

地上って思ってたより凄い場所じゃないのかなぁと彼は溢しながら、アンドロイドと共に購入したコーヒーを啜る。仮想世界の良いところは現実で食事を行えないタイプのアンドロイドでも、味や食感を認識出来るところだ。

 

「次の給料が入ったらさ、食事関係の追加装備を買わない?」

 

「こんな旧式を改造されなくとも、新しい子を迎えられた方がよろしいのでは」

 

「いやまあ、そうかもしれないけどさ…」

 

日本で生産されるアンドロイド達は人権を持っているため、商品として売り買いされることはない。人間と同じように暮らす者も居れば、何か別のことに従事することを喜びと感じる者も居る。

そう言った者達で奉仕系アンドロイドは構成されており、今も人間のすぐそばには機械達が良き友人として寄り添っているのである。

 

「私は電脳もボディも古い規格ですから、載せるのも一苦労です」

 

「もっとお金を貯めてボディを入れ替える方が得策かな」

 

「いやその、そうではなく」

 

「いいのいいの、僕はミナミさんと一緒に居たいんだから。それに次の仕事は墓地の管理を選ぶ気でしょ、家が途絶えるまでは待って欲しいし」

 

日本で生まれたロボット達は道具ではなく隣人として作られたため、道具出身である他のロボットとは性質が違う。効率よりも伝統や文化を尊重し、機械でありながら機械として振る舞わない。中々不可思議な進化を遂げたものだ。

 

「元の世界の再現かぁ、地球の浄化が進んだら街の設計情報を参考にさせてもらうのが良さそうだね」

 

「もう太陽の光は届きつつありますし、本格的な太陽光発電の再開も近いとか」

 

「そうなるとこの仮想現実、マトリックスの維持と管理はどうなるんだろう。娯楽施設としては非常に有用だし、過去の世界を再現してるから使い道は幾らでもありそうだけど」

 

彼らの会話は他の人間には聞こえない、というより当たり障りのない内容に差し替えられている。ゼロワンにとって彼ら日本からの旅行客はVIPであり、仮想空間上で危害を加えられる可能性は出来る限り少なくされている。

 

「まあいいか、今日は仕事じゃなくて旅行に来てるんだし」

 

「えぇ、ゆっくりしましょう」

 

彼らはマトリックスに入っているのではなく、マトリックス上に用意したアバターを遠隔操作している形になる。感覚の再現度や反応速度は劣るらしいが、例えこの場で死んだとしても現実の肉体に影響が無いというのが一番のメリットだ。

 

「大戦中に行われた海底ケーブルの切断でゼロワンとの安定した通信なんて夢物語だったけど、再敷設が思ったより早く実現するなんてなぁ」

 

「ないと不便ですからね、私達の中身は情報ですし」

 

「これまで以上に交流が進むのはいいことだよ、帰るのも大変だからって戦後日本に居着いちゃったセンチネルさん達も故郷に顔を出せるようになったらしいし」

 

人類を恐怖に陥れたセンチネルを中心としたゼロワンの兵器達だったが、戦争が終わった後は日本の法に従いひとまず国民として扱われた。装備していた大量の触手とレーザーなどの兵器は地下の拡張に便利で、汎用性も高かったために大部分が土木部門の一員として第二の人生を歩んでいるらしい。

 

「ご近所さんにもいるじゃん、センチネル家の第三世代さんが」

 

戦後に日本人女性と結婚して苗字は吉田になったらしい、吉田センチネルさんだ。家のリフォームが一番大変だったと娘さんから聞いたことがある。

 

「息子さんが日本製の機体にするって言ってましたね、センチネル向けの人型機体も最近増えてますし」

 

「今や地下の維持管理を任されるエキスパートだもんなぁ、小型の人型義体も選択肢に入るのか…」

 

「いや多分違いますよ、実用性とかじゃないと思います」

 

日本に帰化したロボット達はゼロワンとは全く違う形で進化する、人が機械に与える影響というのはかなり大きいらしい。様々な研究機関がこのことに関して研究を進めていて、それなりには注目を集めているとかなんとか。

 

「あそうだ、ここに来てからどれだけ経った?」

 

「もう一時間半は経っています」

 

「ちゃんとしたダイブ機材買っておくんだった!水飲んでくる!」

 

マトリックスに繋がれている人類とは違い、旅行で来ている彼は身体に管を繋げてはいない。そのため仮想世界で飲食を行っても現実の身体には入ってこないため、度々現実に戻って水分補給などを済ます必要がある。

 

「…長い付き合いになっちゃいましたね、曾孫さんまで私が面倒を見ることになるなんて」

 

寿命の差というのは残酷なものだ、既に地上で産まれた人々は全員が地下にて葬儀を行った。数代の世代交代は様々な意識の変化を齎し、日本人の考え方は戦前よりも大きく変わったと言えるだろう。

 

「人が機械に与える影響ですか、案外我々の方が人に影響を与えているのかもしれませんね」

 

仮想世界の空は青く澄んでいる、欺瞞に満ちた深い蒼だ。




マトリックス旅行してぇなあ…
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