う、うーん…頭痛い、背中バキバキ、胸重い…
うっすら瞼を開くと、眩しい朝日が目に飛び込んでくる。
まだ頭が覚醒しきっていないや。ぼんやりしていて、二度寝をしたい衝動に駆られる。まるでお布団に縫い付けられたかのようだ。
でも起きなきゃ…こんなとき二度寝したら一生起きられない。もう観念して無理矢理目をこじ開けよう。あっ、眩しい…
すると目の前には、丁寧に研磨されて鏡のように反射する石が広がった。その石の表面には、エッチな格好の巨乳美少女が見える。
…あっ、これ僕だったわ。
そしてついつい言いたくなるこの台詞、今こそ告げるとき。知らない天井だ。
嘘です、見たことあります。帰離集で最も神聖で荘厳な建物である帰終様の自宅の天井です。
僕は石の種類なんてよく分からないけど、大理石?っぽい綺麗な石の天井。絶対高級なやつ。
本当はもっと小さめで普通のお家で良いって言ってたらしいんだけど、『塵の魔神』信者さんたちが頑張ったから断り切れなかったってこっそり僕に教えてくれた。
ん、あれ?どうして僕はこんなところで寝てたんだっけ?
えーっと、襲撃してきた『夢の魔神』とそれが使役する『夜叉』五人からこの帰離集を防衛しろとの通告を受けたんだよね。
それで僕は足と尊厳を犠牲に魈様を足止めして、ついでに治療したんだ。
でも自分を回復する仙力と体力を温存できずに気を失ったのだった。傷と出血がエグかったし、ぶっちゃけ死んだと思ってた。
…あれ、本当に何でここで寝てるの?胸を貫通してた槍もいつの間にか消えてるし。結構な致命傷だったんだけど。うーん、謎なり。
困惑しながらも、僕はすっかり元通りになった足の存在を確かめるかのように寝具から降り、ひとまず誰か人を探そうと部屋を出る。
石の床を靴で踏みならす音が廊下中に響く。…足音がコツコツ鳴り響く感覚、なんだか格好いいな。出来る女上司っぽいよね。
やがて、見知った仙力がものすごい勢いで近づいてくる感覚を覚える。同時に仙獣の聴覚でも、大慌てで駆けてくる足音を感じ取った。
この仙力は間違いない。僕がこの世で一番信頼してる人、一緒に居て一番安心する人、最高のお師匠様。
普段は人型で走ることなんて絶対にないのに、おそらく僕の安否を確認する為に急いてくれているのだろう。
どんどん気配と足音は近づいてくるにつれて湧き上がる安心感と、ふつふつと戦いや死への恐怖が蘇り、少しずつ涙が零れてきた。
「甘雨、甘雨!無事か、どこか痛いところはないか!…あぁっ、泣いているではないか。待っていろ、妾が今すぐに医者を呼んできてやるからな!」
僕の顔を見て涙を確認するやいなや、そう言って出口に向かって駆けだした。
ちょっ、ちょっと待って!なんでこの人はすぐ離れようとしてるんだ!
別に僕は体に不調だあるわけではない。ただ、少しだけ怖かっただけだ。
戦闘中は興奮気味で全く気にならなかったが、あのまま胸に槍が突き刺さったり両足切断なんて出血で死んでてもおかしくない。
今でも両足がないときの感覚を思い出すし、ぞっとする。神経と血管がぐちゃぐちゃに溶け合った足の断面なんて、想像するだけで吐きそうだ。
踵を返した反動で靡く留雲真君の服を、震える手で掴む。
「…すみません、留雲真君。ちょっとだけ怖かったので、側にいてもらってもよろしいでしょうか?」
僕の発言に少し間が空く。夏の昼頃なのに、体中に鳥肌が立っている気がした。
あぁでも…変なこと言っちゃったかな。僕ももう大人なんだし、こんなの言うべきじゃなかったか。胸の内が申し訳なさでいっぱいになり、うつむく。
だが、急に身体がふわっと暖かくなった気がした。同時に、鼻先をくすぐる微かな清心の香り。留雲真君の匂いだ。
不思議に思う暇も無く、頭と背中に手を回され、撫でられる。今まで何万回撫でられたときよりも更に優しく、角まで丁寧に。
僕は今、とても安心できる腕の中に包まれていることを理解した。きつく目を閉じると、堪えていた涙が頬を伝う。
「…うぅ…こ、怖かった、死んじゃうところでしたぁ…」
口に出してしまえばもう止まらない。じんときて涙が止めどなく溢れてくる。もう大人なのにワンワン声を上げて泣いた。
でもそのたびに、留雲真君は背中と頭を撫でてくれて、互いの心音が聞こえるくらい密着する。暖かいなぁ。
「もう大丈夫だ、敵はもうおらぬ。安心しろ、妾がついているからな。大丈夫、大丈夫だ…」
「すみません…留雲真君、もう大丈夫ですのでお膝から下ろして下さぃ…」
あれから場所を移動し大広間、椅子に座った留雲真君の膝の上で僕が落ち着くまで優しく撫でられていた。
涙を止めようと奮闘はしたものの、マジで止まらなかったので廊下から近くの大広間へと連れて行かれたのだ。
されるがままに身を預けていたら、いつの間にかこんな姿勢に。
それに僕ももう大人とは言え、身体の一部を除いて女性の平均より小柄である。
人化した留雲真君は美脚スレンダーというのも相まって、懐にすっぽり収まってしまった。
…だが、背中にふと柔らかな感覚があり、泣きじゃくっていた僕も冷静を取り戻す。自らが大賢者になったかのような錯覚に陥った。
あれ、今僕の背中で感じてるムニュっとしたのって、もしかしてあれじゃない…?あの…あれ…
気づいてしまえばもう無視することは出来ない。僕は先ほどまで抱えていた恐怖心などどこかに捨て去り、全神経を背中に集中させる。
あぁ~なるほどなるほど…ほぉ…これはマシュマロよりも…ババロアの海で泳いでいるかのようだ…デュフッwぐへへw
「やはりまだまだお前も子供なのだな。どれ、昔のように角を撫でながら妾と一緒に寝るか?」
そんな僕の下心を余所に、留雲真君は聖母の笑みを浮かべて僕を撫でる。
貴方ちょっとキャラ崩壊してません?ゲームではもっと高圧的な性格してた気がしたんだけど、これじゃああらあら系人外ママだよ…
純度100%の愛情を感じる。心の底から僕の安全を喜んでくれているんだ。
これじゃ勝手に役得なんて下衆じみた思考をしていた僕が愚かすぎて悲しくなってくるな…反省しろや、僕の心の息子。
だが、留雲真君は変わらず膝に乗っけながら頭をなで続けた。逸れすなわち、密着して胸を当て続けながら愛しい人が微笑み続けること。
この状況では、
は?この人さぁ…僕が普段どれだけ我慢してるか分かってんの?普段も
この前旅団の駐屯地で男どもが人間形態時のエロタイツを視姦してたの気づいてないな。エロゲみてぇな身体と服しやがって。
はぁー…あんなドスケベタイツ近くで見たら男は性癖壊れるに決まってるのに、よくも健全な僕や帰離集の住民達を狂わせてくれたな!もう淫魔じゃん!
もうこうなったら、まんがタイムき●らやコミック●合姫も超えて、快●天すら掲載出来ないほどのドロドロ百合プレイでぐちゃぐちゃにしてやろうか…
僕童貞だし性知識はエロ同人ぐらいでしか知らないけど、お師匠様って快楽に弱そう(偏見)だし押したら意外とイケそう(偏見)。
半ばそう思い始めていた時、これまた勢いよく何者かが入ってくる気配を察知した。
この気配は…
「目覚めたと聞いたけど、大丈夫かしら?…あら、お邪魔したみたいね」
「うわぁぁああああ帰終様ぁ!まだです!まだなんにも悪いことしてません!」
「…そう。無事だったならいいの。私も久しぶりに力を使ったから、正直不安だったわ」
曰く、ほとんど死にかけだった僕を胡元たちが運び込んでくれて、帰終様が『塵の魔神』としての力を行使しなんとか助かったらしい。
ほえー…僕が気を失っていた間に色々大変だったんだなぁ。槍が身体にぶっささってたし両足もなくなってたから普通に死を覚悟してたんだけど、よくあそこから生き返ったよね。
「ふふ、『塵』は遍く生き物の終着点。でも、まだ貴方が行き着く場所じゃない」
ここ璃月では、『塵』という言葉には「生き物ならいつかは還る場所である土」とか、「世の至る所に存在する小さきもの」といった哲学的な意味が含まれているらしい。
再生の象徴であり、力を使えば壊れた万物を元の形へと導くことが出来るのだとか。
僕は無学故に存じ上げておりませんでした。なんなら埃とか灰とかそういったイメージ持っていました。初めて『塵の魔神』って単語を聞いたとき、あんまり強くなさそうって思っちゃってごめんなさい。
だから帰終様は『塵の魔神』の名前の通り、俗人の世の中、つまりは塵世を守ることを使命だと考えているようだ。
すげぇ…流石帰終様や!
「ありがとうございます帰終様!助けていただいたこの命、必ずや貴方様の為に使わせていただきますね!」
信仰がメガ盛りの帰終様といえど、仙人を死の淵から救い出すなんて並の力では出来ないはず。
一度死んだと言っても過言ではないこの身は、もはや帰終様のものに等しい。揉むなり辱めるなり好きにしろ!いや、むしろこんな美少女魔神(年齢4桁)に好き放題されるのはご褒美だ。なんなら残業でもやります。
しかし…
「ううん、いいわ。確かに貴方の愛を一身に受けるのは魅力的だけど、それだと溢れちゃうでしょう。それに、貴方は私一人の為に尽くすべきではない、そう『契約』したじゃない」
そう告げながら僕の前で微笑み、神の目を手に入れたときと同じように抱きしめてくる。
あぁ…バブみを感じるわ…留雲真君といい帰終様といい、なんでこんなに包容力の塊みたいな首脳陣なんだろうな。もしかして璃月ってママの国だった?
本当に生まれたのが帰終様と帝君の国で良かった。もし『最強の魔神』の元だったら、襲ってきた五人の夜叉たちみたいに洗脳されて殺人とか強制されていたかも知れない。そんなIfルート考えたくもないな。
これは僕も覚えていることだけど、帝君が『夢の魔神』を撃破したおかげで夜叉たちも操りの秘術から解放済み。
現在は半分捕虜、半分戦争難民的な扱いをされているらしい。本人たちに争いの意思はないっぽいし、帰終様が直々に保護観察の判断を下した。
うーん、まぁこれは妥当、というよりもむしろ相当甘めな扱いなんじゃないだろうか。場合によっては処刑もおかしくないですしおすし。
でも僕は魈様が決して悪い仙人ではないことをゲーム本編で知っているし、他の四人も(おそらく)同じような境遇だろう。
ひとまず彼らのことを庇って、帰終様と同様に保護するって方針がベストではないかと伝えた。
すると帰終様も僕がこう決断するのが分かっていたと言わんばかりに頷き、すでに帝君と『契約』を交わして僕たちと共に璃月を守護することになっていると告げる。
中でも帝君は彼ら五人の武力を十分に買っており、『仙衆夜叉』の名の下、璃月に蔓延る妖魔を撃退し人間を守る役目を与えられたそうだ。ちなみに期限はない。契約が破棄されるまで永遠に社畜、僕とおんなじだ。
ついに僕にも
経験則からすると、後輩というのは最初の数ヶ月を乗り切れば意外と社畜道を最後まで着いてきてくれるものである。全力で可愛がってあげなきゃ…
そんな感じで思考を巡らせていると、ふと抱きしめて下さっている帰終様に少しだけ違和感を覚える。
あれ?帰終様ちょっとだけ小柄になってない?神の目を手に入れたときは手が僕の背中まで届いていた気がするんだけど、今はギリ届いていない。
「帰終様、もしかしてダイエットしたんですか?気にしなくとも、帰終様は美しいお方ですよ?」
…やばっ!何思ったこと素直に口に出してるんだ!女性に対してめちゃくちゃ失礼な発言だぞ!
だが僕の失言に対しても怒らずにこやかに微笑み、頭を頭を撫でながらこう告げる。
「ふふっ、そうね。……そう、千岩軍旅団の皆も心配していたわ。早く顔を見せに行って安心させてあげて?」
はっ!そ、そっか。確かに胡元たちは僕が生きてること知らないのかな。
それに旅団の皆も、僕が仙人だからそう簡単に死なないこと知ってるはずなのに以前と変わらず過保護なんだよなあ。
「そうですね!ありがとうございます、皆のところに行ってきますね!」
きっと今頃、僕の事が心配すぎて食事も三食しか喉を通らなくなってるはずだ。
やれやれ…顔を見せに行ってやるかぁ!
愛しい弟子が出て行くのを見送った後、仙人は口を開く。
「…すまない、相当力を使ってしまったのだろう。帰終、お前がこれほど弱っている姿は見たことがない」
以前、とある伝承を聞いたことがある。『魔神』という存在は力を酷使すれば弱体化してしまうと。
甘雨は生まれて間もないが、どういうわけかその仙力と元素力は膨大。まるで悪い精霊がいたずらしたかと思うほど、際限なく増え続けている。
そんな相手を蘇生させたのだ。必要な力は並大抵のものではない。
「心配しないで。私とモラクスが思い描く未来にはあの子が必要、そう思ったまでよ。それに、私は謝罪がほしいわけじゃないわ」
先ほどよりも明らかに無理をしている表情なのに、いつもの生意気な笑顔を見せる。
…思えば、妾はこの笑顔に随分と絆されてきたようだ。帰終を通じて、一人きりで生きていた妾にも多くの、その…友人も出来た。
此奴の前では本来堅物であるはずの歌塵や帝君までもが幾分か柔和になる。
本当に人たらしな奴だ。最近は甘雨までそうなってしまいそうで心配だがな。
「…分かった、感謝する。妾も帝君と共に璃沙郊へと攻め助力しよう。愛弟子を救ってくれた恩、返さないわけにはいかぬからな」
帰終様の設定は捏造です。実際どれぐらいの強さなんじゃろなぁ…