いざ歌詞を吟味してみるとぼっち→喜多だけでなく、喜多→ぼっちなところも感じられるんですが、本作はぼっち作詞という前提で書いています。
「えっと。これ新曲の歌詞です……」
私はいつものようにSTARRYに集合した結束バンドの面々に、そっと歌詞ノートを差し出した。
「拝読いたす。タイトルは……星座になれたら、か」
最初にリョウさんがノートを開いてジッと熟読し始めた。……歌詞を読まれるこの瞬間はいつも緊張する。まるで私の心の中を覗き見られてるみたいだから。
で、でも今回は一際傑作だという自負がある! この曲をきっかけにライブから口コミでジワジワと広がっていってレーベルから声がかかりメジャーデビュー、最後にはオリコン一位を取っちゃうようなそんな傑作! ぐえへへへ。問題は曲の題材がバレることくらいだけど、そんな簡単にわかるわけ……。
「……あの、ぼっち」
「はっ! ……どうかしましたか、リョウさん」
いけないいけない、完全に意識が夢の彼方へトリップしてた。
空を彷徨っていた焦点をリョウさんに合わせると、なぜか微妙な顔をしていた。えっ、もしかしてイマイチだった⁉︎
「ゴミみたいな歌詞書いてすみません……すみません……」
「あ、いや。歌詞は良かったよ、良かったんだけど……ほんとにいいの?」
そう言ってリョウさんはらしくもなく気まずそうな顔をしている。元々あまり多くは語らないリョウさんだけど、今回はいつにも増して要領を得ない。それになぜかチラチラと私以外の方向に目線をやっていた。
「なんだよリョウ〜、煮え切らない感想なんてリョウらしくないじゃん」
虹夏ちゃんがそう言ってリョウさんからパッとノートを取り上げて歌詞を読み始めた。
「ふんふん…………ん?」
最初は張り切って読み始めた虹夏ちゃんの表情が、途中からピタリと固まる。そして段々と赤くなったかと思えば今度は青くなったりして、リョウさんとは違った意味で様子がおかしい。
「……」
最後まで歌詞を読み終えた虹夏ちゃんは、錆びついたロボットのようにギギギとぎこちなく顔をこちらに向けた。
「ぼっちちゃん……これってさ……」
赤くなった顔をノートで半分隠しながら、虹夏ちゃんはリョウさん同様何かを言い淀んでいた。目線がこっちに向いてないのも同じだ。
一体何を見てるのだろう、と二人の視線の先を追うとそこにはーー
自分の順番を今か今かと待ち望んで、キラキラと星のように目を光らせた喜多さんがいた。
……。歌詞、歯切れの悪い二人、視線の先にいる喜多さん。
歌詞、歯切れの悪い二人、視線の先にいる喜多さん。
えっ、もしかして題材が喜多さんなのバレてる⁉︎
思わず顔を上げて二人を見る。私の驚愕の表情に、二人は天を見上げた。
今の私にはそのジェスチャーの意味がわかる。
(題材、バレバレ)
(題材、バレバレだよ〜〜)
「アッアッアッ」
声にならない絶叫が私の喉奥から捻り出される。もう……生きてけない……。
「もう〜〜、みんなして私を仲間外れにして。私にも後藤さんの歌詞読ませてくださいよ!」
一人蚊帳の外だった喜多さんが虹夏ちゃんの持つノートに手を伸ばそうとしたのを見て、一瞬で意識を取り戻す。喜多さんに……喜多さんにバレるのだけはダメだ……!
『え、後藤さん。私のことこんな風に思ってたの……? ちょっと引いちゃう』なんて言われた日には、いよいよこの世全てを破壊せざるを得なくなってしまう……!
隣に座っている虹夏ちゃんから慌ててノートをひったくる。
「ダ、ダメです……! これは喜多さんには見せられません……!」
「え……どうして……?」
うっ、喜多さんがとても悲しそうな顔をしていてちょっと胸が痛い。で、でもこれは私の尊厳に関わる死活問題だから……!
「と、とにかくダメです! この曲は没なんです!」
そう言って歌詞ノートを後ろ手に隠すも、喜多さんは私の正面の席から立ち上がって私の方に向かってきた。
「そんなこと言われたら余計に気になるじゃない。絶対新曲の歌詞見てやるんだから!」
私の頑なな態度が喜多さんの心に火をつけてしまったらしい。どうにか後ろに回ってノートを取ろうとしてくるのを必死に躱しているけれど、はっきり言ってこのままじゃ取られるのは時間の問題だ。
こ、こうなったら……!
「リョウさん、パス!」
ぼーっとこちらを傍観していたリョウさんにノートを投げた。
「うわ」
リョウさんはちょっと慌てながらもノートをキャッチ。……ここからリョウさんがどうするかは正直賭けだ。
「……郁代がこの歌詞を読んでどんな反応をするのかは、ちょっと見たい」
「じゃあ……!」
早速賭けに負けたーー!
「でも結束バンドが崩壊するのは嫌だから郁代は見せられない」
「リョウ先輩そんなご無体な!」
どうやらリョウさんの中で好奇心よりも結束バンドの崩壊を阻止する気持ちの方が勝ったらしい、助かった。
「もうっ、ほんとに私だけ仲間外れにするつもりですか! そんなの、許せません!」
喜多さんがいつもの態度からは想像もできない勢いでリョウさんに掴み掛かる。結束バンドで一番運動神経がいいのは間違いなく喜多さんだから、本気になった喜多さんを前にリョウさんもタジタジで。
「虹夏、パス」
辟易とした様子で虹夏ちゃんにノートをぶん投げた。
「何となくこうなる気はしてた」
虹夏ちゃんは軽くため息をつきながら空中を舞うノートをキャッチ。
「はぁ……はぁ……先輩は私にも歌詞見せてくれますよね……?」
さすがの喜多さんもずっと動き続けて息も絶え絶えだ。
そんな喜多さんの僅かな希望を込めた視線に、虹夏ちゃんは気まずそうに目を逸らしながら答える。
「見せたいのは山々なんだけどねー、これは……ちょっとね……」
「もう……みんなひどいですよ……」
「「「……」」」
そう言って息を切らしながら俯く喜多さんに、私たち三人が罪悪感を覚えた瞬間だった。
「おいおい、流石に喜多が可哀想だろ」
虹夏ちゃんの後ろから現れた人影が、ヒョイっとノートを取り上げた。
「あ、お姉ちゃん!」
「バンドメンバーなんだからちゃんと歌詞くらい見せてやれよな。こういう疎外感が後々尾を引いてバンド崩壊を招くんだぞ」
「それ店長の体験談ですか」
「そんなわけねーだろぶっ飛ばすぞ山田」
リョウさんに悪態を吐きながら店長さんが喜多さんにノートを手渡す。あぁ……ついに渡ってしまった。
「ありがとうございます、店長さん!」
喜多さんが目をキラキラさせながらノートを開く。終わった……。
「なあぼっちちゃん、私も歌詞読んでいいか?」
店長さんがそんなことを聞いてくるけど、もう人生終わった私には関係のないことだ……。
「好きにしてください……」
「いつにも増して様子が変だな……」
店長さんはそう言いながら喜多さんの後ろから歌詞ノートを覗き込む。
そして歌詞を読み進める店長さんの顔からみるみるうちに血の気が引いていく。
「おい、これ……」
喜多さんの後頭部と私のことを交互に見ながら歌詞ノートを指差す。……そうです、私がバンドメンバーを歌詞の題材にして綴った痛いクソポエマーです。
机に突っ伏して喜多さんからの断罪の言葉を待つ。
パタン、とノートを閉じる音が聞こえ、喜多さんが息を呑んで、口を開く。
「後藤さん、この新曲……」
「はい……」
「と〜〜ってもロマンチックね!」
「はい……え?」
「「「え?」」」
喜多ちゃんの予想外の感想に、店長さん含め私たち四人から間の抜けた声が漏れる。
「だってこの曲って、手の届かない一番星に恋した男の子の話でしょう? 七夕みたいでとってもロマンチック!」
「……」
「あ、あれ? もしかして私なんか的外れなこと言った?」
私たちの鈍い反応に喜多さんがキョロキョロとみんなを見回しながら混乱している。な、何か言わないと……そう思いながらも言葉が出ない私よりも先にリョウさんが口を開く。
「郁代」
「は、はいリョウ先輩」
「歌詞の解釈は人それぞれ。郁代がそう思ったならそれでいい」
「そ、そうですよね! 私、この男の子の気持ちになりきって歌います!」
リョウさんの機転の効いた言葉に、喜多さんは納得したように頷く。
恐らくこの場にいる喜多さん以外の四人は全く同じ気持ちを抱いていただろう。
((((た、助かった〜〜〜〜))))
店長さんにはこの後めちゃくちゃ謝られた。