レ級に転生したんだけどどうすりゃいいですか? 作:ウィルキンソンタンサン
ちゃす笑
誠にごめんなさいでした。
沢山書いたので許して。
戦闘において最も大切なものとは何だろうか。
兵力? 成程確かにそうだ。数とは力、馬鹿でも知っている。しかし、この場においては否と言わせてもらおう。
武力? それもそうだ。
島津、奥平、織田、スパルタ……良い武器、良い力を持った軍とは数が劣っていたとしても大いなる脅威である。
だが、否。
戦闘に最も大切なもの───それは、
はるか昔、紀元前218年。第二次ポエニ戦争。
その地に君臨した、兵力武力共に最大であったローマ帝国。その勇猛果敢な戦士たちは100万の軍勢を恐れず、しかしただ1人の男を恐れた。
カルタゴの将軍、人類20万年の歴史においての
故に、戦いに大切なのは指揮者。有能な戦士がいようとも、状況を鑑みて適切な司令が下されない事にはただのカカシも同然。現場判断で戦士が動き戦況が覆る、そんなものは古代ギリシャだけのお話だ。
……では、戦っている双方に指揮官がいない場合は?
「…………はぁ…………ぁあ……」
「……………───……………──……」
互いが互いの間合いの中、対面して尚行動することは無く。肩で息をするのみの時間が続いている。
互いの隙の探り合い。頭の中で何パターンもの戦闘を繰り広げ、相手を攻略する動きのイメージをする。
もし、彼女達のバックに指揮者がいるのであればそのイメージはもっと容易に深いところまで到達していた筈だ。
戦っていては気が付きにくい一挙手一投足のクセ、付け入る隙、予備動作。これらの観測の大部分を肩代わりしてくれる存在がいない、これでは戦局が膠着するのも仕方が無い。
「……! ……ッ!」
「どこ見てんの! 相手は私ら!」
数で勝っているのなら状況は違ったが、それを見越した艦娘の面々がヲ級と空母棲姫を引き付けている為にこの状況が覆ることは無い。泥沼である事を理解し、応戦に向かおうと視線を逸らした瞬間に雷撃と空爆が飛んでくるのだ。さらに逃げ道を限定し、徐々に戦艦棲姫とレ級から離れさせる手腕は見事の一言。
なれば意識を2つの戦場に割く様な芸当は難しく、それは艦娘陣営も同じこと。もしある程度支援が出来てもウラは
『そろそろ、諦めて殺されてくれないかなぁ……?』
『ほざけ雑魚が……、
『うるせぇな……さっさと死ねや
ようやく主砲一発。しかしそれを必要最低限の動きでひらりと
『バレバレなんだよ…………! んなトロい弾撃ってんじゃねぇよ、
『きゃあきゃあよく鳴くなレ級……発情期か?』
『コヨミちゃん相手なら
お返しとばかりにウラも主砲を一発。
しかしそれは彼女の艤装の手が受け止める。何か第3の介入がなければ、このまま戦局は横ばいに続いていくだろう。
『私ん相棒の事ダンゴムシとか言うんじゃねぇよゴミクズがよ』
『お前の艤装がダンゴムシだなんて一言も言ってねぇし世間一般で言えばゴミクズはテメェだよ
『お前も似た様なもんだろ便所虫』
『見た事無い癖に無理して例えんな』
このマッチアップの勝利者、それ即ち体力が回復するのが速かった方。あるいは先に致命的な隙を晒した方。
だが、そんな事は起きない。双方腐っても深海棲艦、戦う為に生まれてきたような存在だ。こと戦闘において無様な真似はしない。必ず。
戦闘を嗅ぎ付けて時たまイ級などが寄ってくるが、それらは瞬きの内にウラが薙ぎ払う。
その隙を突くように戦艦棲姫が主砲を放つが、ウラはそれを後ろ向きのまま躱し海面へ副砲を斉射して水飛沫で射線を遮る。
海面に手を着いてその場で180度回転。艤装から魚雷を吐かせて蹴飛ばし、勘を頼りに戦艦棲姫へ発射。間髪入れずに艦載機を数機吐き出させる。
ひと息に一杯まで船速を上げ、魚雷の爆発と艦爆によって新たに作られた高く舞う水の壁を突き破るようにして戦艦棲姫へ肉薄。
『……ッ!』
顔へ突きつけた主砲。それを視認し、戦艦棲姫は舌打ちと共に身を守るようにして艤装の手を動かす──が。
『あはっ、引っかかってやんの』
主砲はブラフ。本命は弓のように引かれた腕から放たれる、腹へ向けた右ストレート。
『どこ見てんだ、よッ!!』
見事に、炸裂。
白い細腕としなやかな腹から鳴ったとは思えない程の鈍い音が辺りに響く。
戦艦レ級の渾身の右ストレート、まともに喰らえば並の深海棲艦はひとたまりも無い代物。腕の力だけでは無く足、そして艤装を下方向へ振り抜く重心移動による強力な運動エネルギーが相乗された一撃。
殴りつけられた腹は普通ならば大きな穴が空き、叫び声をあげる暇も無く爆発四散する程の威力。その拳はまさに李氏八極拳の生みの親たる李書文の如き二の打ち要らず。
────だが、相手は戦艦棲姫。かつて数多の提督から恐れられた鋼鉄の不落城。その渾身の一撃を腹の筋肉で受け切り、ウラの腕を掴みとる。
『どこ見てるかって? …………強いて言うなら、テメェを殺す景色だ』
『……へぇ、やってみなよ』
それを皮切りに始まったのは、お互い耐久任せのゼロ距離全門斉射。途切れること無く連続する爆音、そして水飛沫。爆炎と水蒸気で辺りは満たされ、2人の姿はあっという間に覆い隠される。
その中から響き渡るのは2つの笑い声。どこを切り取っても狂気的なそれは、聴く者へ底冷えする恐怖を掻き立てさせる程の獣性。
複数回一際大きな爆発音が響いた後に、煙の中から2人が互いに反対方向へ飛び出す。
「なんて無茶な戦い…」
「
「……狂ってるわ」
思い思いの言葉を口にする艦娘陣営。その中で、1人だけ沈黙を貫いていた赤城が口を開く。
「日が、沈む……」
そもそもが本来帰投する時間を超過している。派遣任務というのは日が沈む前に終える事が殆どの為、鎮守府あるいは基地に戻る頃にはすっかり日が落ちているもの。
で、あれば。
今現在の時間、そして太陽の傾きがどうなっているのかは自ずと分かるだろう。
────対面する2隻の身体から漏れ出る瘴気が、より濃く、より輝く。
一方は赤、一方は黄。灯りの無い暗闇が2色に彩られる。暗赤色と黄金色。見るもの全ての視線を奪う、いっそ芸術的なまでの色。
しかしてその光に込められた物は、悍ましい殺意だ。
「ふぅ──────……」
『…………』
大きく息を吐くウラ。手を後ろに回して前へ払い、長い髪をバサリと広げ首を鳴らす戦艦棲姫。
『…………もういい頃だろう。』
『……だね、センカンセーキちゃん』
『ちゃん付けするな』
右足を前に出しながら腰を落とし構えるウラ。戦艦棲姫は仁王立ちで両手を広げ、艤装は大きな両の手を彼女より前について体で覆うように構える。
そして、両者互いを真っ直ぐ見据えて────
『『
その叫びを皮切りに、右足を踏みしめ飛び出すウラ。それを予想して艤装の手で防御する戦艦棲姫に、空中で縦に回転し蹴りに切り替えて対応。衝撃で波が大きく揺れる。
艤装の手を壁を蹴る要領で再び距離をとる。そのまま副砲で牽制。
『下手な鉄砲数打ちゃ当たる、か? 当たったところでどうもしないがな!』
腹の底に響くような轟音と共に、戦艦棲姫が主砲を放つ。ウラはそれを猫じみた挙動で紙一重に避け、連装砲を返す。
『ぐっ……野郎!』
『野郎じゃないよ』
驚異的なスピードで旋回し、戦艦棲姫の死角へと回る。そして艤装の口から魚雷を3本ほど取り出し、海面へ蹴り落とす。起動した魚雷は真っ直ぐと戦艦棲姫へ向かい、巨大な爆発を起こした。
同時にそれを目眩しとしても使って懐へ飛び込み、その額に生えた双角を掴んで心臓部に両足で蹴りを打ち込む。
『きゃは、すっとろいね!』
『この……クソが……ぁ!』
これは流石に効いたのか、少々ふらついた様子を見せる。それを見て再び距離を取りながら大きな目を細めるウラを他所に、第三者から念話が届いた。
『────ちょっと、聞こえてる?』
『もう補給無いよー』
離れで戦艦棲姫への支援を妨害され続けている、ヲ級と空母棲姫からのものだった。
『夜戦にもつれこんでノせないならこれ以上やっても無駄! 帰るよ!』
『弾も残り怪しいでしょ。潮時だね』
その内容は、引き上げを示すもの。無論、この戦いに水を差された戦艦棲姫はすぐさま憤りをぶつけようとして────やめる。こう言った時にまで感情で行動する様であればここまで生き残れない。経験値からくる理性によるものだ。
『……逃げられると思う?』
『は、あれだけやってこれしか傷を与えられなかったチビが言うと説得力があるな。』
ウラの揺さぶりも特に効果は無く、むしろ煽り返される結果となった。売り言葉に買い言葉で返そうとして、ウラも同じく自制。今は眠っている自身の主、コヨミから獲得した理性だった。
ウラの至上命題はコヨミの防衛。最優先すべきはコヨミの生命であり、自身の戦闘欲求はそれに比べれば非常に些細でくだらない物だと言うことを思い出す。
であれば、最大の脅威が自ら消えようとしているならそれを引き止める道理は無い。
むしろ、彼女からすればこの状況を招いた艦娘陣営の方がよっぽど危険度が高いと考えられるところだ。
あくまでもウラの至上命題は防衛。そこにコヨミ本人の意向は考えられていない為、ここから脱してしまうというのも手のひとつ。
しかしまぁ、3対1の数的不利を打ち消す事が出来たのも彼女たちの功労。その事も理解しているし、むしろそれを期待して彼女たちへ向かう攻撃を妨害した節がある。
その点を踏まえれば、わざわざ孤立無援となる理由は今のところ無い。
数的不利を覆す。これがチームワークというヤツだな、と得意気に胸を張る。*1
それに、威勢よく飛び出しはしたものの戦闘経験の差という穴は埋められない。それはFlagshipという新たな力を得ても尚だ。
率直に言って、ウラも限界が近かった。
ゆっくりと遠ざかっていく3隻を眺める。後ろを振り返ると、少し離れた位置から艦娘達が警戒した目でこちらを見つめていた。
総員ボロボロで、暁や電などは僅かに震えている。それ程の恐怖を押し殺し、文字通り必死になってヲ級と空母棲姫の足止めをしていたのだろう。
一際背の高い──赤城に至っては、ヴェールヌイに肩を貸してもらう事でやっと立っている様な状況だった。
それがなんだかおかしく感じ、思わず笑い声が出た。その笑い声を聞いてか警戒を強めた一同に、敵意は無いと示すように両手を挙げてみせる。
また暫くは内側で引きこもり生活かな、とウラが目を瞑りかけたその時。
「───ッ!?」
ウラの肩が、抉り取られた。ほんの少し遅れて遠くから、静寂を吹き飛ばす砲撃の音。
目を見開き小さく悲鳴を漏らす艦娘達をよそに、噴き出す青い血を無言で押さえてウラはため息を吐く。
「……嵌められタ。」
続いて左脚。太もも辺りを貫通し、その場に崩れ落ちるウラ。
「─────!」
「来んなシ、巻きコまれルヨ」
寄ろうとする艦娘に手のひらを突き出す。
今まで所謂数値受けをしていた装甲も限界が近く、夜戦の効果もありゴリゴリと耐久が削れていく。時折外してはいるけれど妙に安定しているなとふと見上げると、ヲ級か空母棲姫かの艦載機が見下ろしていた。
「こういうカンジのコトもしちャう系? ……まッたク。」
弾着観測が極まってきている。次の一撃は頭か、心臓部か。
どちらにせよ、その一発は確実に当たるだろうと確信する。
足を撃ち抜かれた手前、ここから動く事は難しい。射線をあの手この手で遮っても無駄。尾でガードしたところで、弾着観測射撃によって放たれる戦艦棲姫の主砲ならば余裕を持って貫通してくるだろう。
「ねェ、カンムス。」
暗闇へ言葉を投げかける。
「これガ、詰みってヤツ?」
潮風に吹かれ、パタパタと音を立てて揺れる黒いフード。その奥にある顔には、あの笑みなどはどこにも存在しない。
そこには、どこまでも空虚な無表情があった。
「………酷い気分だ。」
言い切ると同時に、奥から僅かな光が見えた。紛れもなくそれは戦艦棲姫の主砲のマズルフラッシュ。音を置き去りにする凶弾は目で追う事すら許さず、真っ直ぐとウラへ向かって──────
「──………?」
来ない。鋼鉄のぶつかるような着弾音も、遅れてくる砲撃音も間違いなく聞こえたはずだった。それなのにも関わらず、ウラの体に穴は増えていない。
眉を顰め、後ろをゆっくりと見る。
「……!」
目の前。そこに、自身を守るかのように人影。その後ろ姿から誰なのかを断定したウラは、目を見開きながらも脳内を疑問符で埋め尽くす。
それも無理のない話。ウラは
それを知る機会のあった期間、ウラは内側でコヨミの今までの記憶に齧り付いており外界の事など二の次。故に、なぜここにいるのか、そして守られているのか検討もつかないのは当然だった。
『………おいおい』
二股に別れた蛇のような艤装、そしてトカゲのような尻尾。そして、後ろからも分かるほど伸びた片角。
『危ないじャないか』
ゆっくりと、余裕な調子で言葉を発する。なぜ自身を守るのか、何もかもが分からない状態のウラを見下ろして、イタズラが成功したかのようにニヤけて彼女はこう言った。
『よう、久しぶりだなァ……
「重巡、ネ級……?」
『だから改だッての。』
頭をガシガシと掻く。更に面倒臭そうに言葉を連ねる。
『見ねェ内になんか変わッたナ? まいいけど、レの字はレの字だしナ。来てんの、私だけじャないぜぃ』
くい、と親指を立てた手を後ろに向ける。それと同時に、ウラの頭にやや強く何かが押し付けられる。
「────すまない、遅くなった!」
頭に押し付けられたそれが無くなると同時に、前を向いていたウラの視界に新たな人影が映り込む。その人物はネ級の隣に並び、遠くの3隻に告げる様に声高らかに宣言をした。
「長門型戦艦1番艦、長門。ただ今着任した! この戦い、私達が受け持とう!」
「ナガ、ト……」
続くように、後ろから複数の気配が感じ取られる。悪意は一切感じない、心身ともに味方だと他でもない自分自身の感覚がそれを証明していた。
「長門型戦艦2番艦、陸奥。ただ今着任……もう、長門ったら速すぎよ……」
「それはネ級さんにも言えますよ。一応監視対象ですし、道中で揃って過熱してしまわないかとハラハラしました……。」
「そのおかげで間に合いましたし、結果としてよかったんじゃないですかっ?」
「まぁ、そうですけれど……。ともかく! 大和型戦艦1番艦、大和。みんな良く持ちこたえてくれました。後はお任せを!」
「はいっ! 陽炎型駆逐艦8番艦、雪風。突っ込みます!」
ウラの目が更に大きく見開かれる。忘れもしない、最初の躍動。それを完膚なきまでに打ち砕いた艦娘達が、あろう事か自身を助けに来たのだ。
「無事……じゃないな。あの深海棲艦どもめ……!」
『ヒュウ、ナガトサンはレの字にお熱だネェ』
「……何か言ったのか? 一応断っておくが、私が心配しているのは全員だ。」
その思考を、違うと頭を振って追い出す。近くにいる第六駆逐隊と赤城を守りに来たのであって、自分は違うだろうと否定。
あったとして、それはあくまでコヨミを守る為だろうと。だとしても及ぼす結果として大差は無い。むしろ自分がコヨミではないとバレた場合、彼女たちの立場上始末される可能性がある。
できる限り喋らないようにしようと開きかけた口を閉じ───
「────バカね。貴女がコヨミじゃない事くらい分かってるわよ?
隣から、そう声を掛けられた。咄嗟に顔を向けると、そこにいたのは黒い帽子を被った長身で金髪の女性。
「
「ナ………エ……?」
水飛沫を上げ、ゆっくりと前へと進んでいく。ネ級と、新手の艦娘。その頭上を艦載機が通る。あの禍々しいものではなく、妖精の操縦する艦載機だ。
振り向くと、いつの間に近付いていたのか第六駆逐隊と赤城が傍にいた。そして、もう一人。赤城のすぐ側で弓を構えている。
「──そう、そんな状況で。……赤城さん。私は、貴女が誇らしい。後は私に任せて下さい。」
脳内のデータベースをひっくり返してヒットしたのは、正規空母加賀。無表情に見える彼女は赤城にそう声をかけて、前へと進み前方の集団へ合流し陣形を形成し始めた。
砲撃がピタリと止んでいることを考えると、増援は既に気付かれているのだろう。だというのに、彼女達は焦る様子も見せずゆっくりと進んでいく。
その背中を呆然と眺めていると、背後に衝撃が走る。
なんだと頭を傾げる暇も無く、両サイドにも衝撃。第六駆逐隊の3人が、ウラを取り囲む形で抱き締めていた。増援が来たことで緊張の線が切れたのか、身体を震わせているのが肌から分かった。
「……は?」
「…生きてる? 生きてるわね?」
「……バカです。バカなのです。」
「ウラ! あんた、誰の身体だと思って───いや、違うわね。言うべきなのは……」
八方から言葉を浴びせられる。これはなんなんだと目が合ったヴェールヌイに無言で訴えると、彼女は隣の赤城と目を見合わせため息を吐いて首を左右に振った。
「ウラ。君に言わなきゃいけない事があるんだよ。」
「えぇ、本当に。あなたは気分のまま戦っただけかもしれませんが……それでも。」
赤城はそこで言葉を切り、あとは皆さんがと言わんばかりに息を吐く。
それを合図としてか、第六駆逐隊の4人は同時にこう口にした。
ありがとう、と。
「………」
「……хорошо.その顔が見れただけでも、言った甲斐があったというものだ。」
そう言ったヴェールヌイに対して、ウラは首元を覆う布を口元まで引っ張りあげながら片方の手で水をパシャリとかけた。
○善意に付け込んで良いように利用した
◎市役所の地図記号