転生特典を得て努力しなくて済むようになった幸せ者のお話 作:水属性大好きマン
ーーーー言われてみればウチの親もいつも家族で祝ってるな。
たまに位友達同士でやればいいと思うのに何でだ?
ーーーーどうやらどんなに仲がいい友達同士でも一度途切れると自然とやらなくなるみたい
ーーーーならわし達は途切れない様にずっとやり続けよう!
大人になっても、お婆になってもだ! 約束だぞ!!
まだ眠りについているヒト達もいる早朝の犬神宮ーーそこで忙しく駆け回る二つの影があった。
「急げステルク! 早くしないとグラが島に着いてしまうぞ!」
「まだ船が来るまでには全然余裕が……ああ、わかったわかった! 急ぐから地面で引きずるのだけはやめてくれ!!」
片腕で小さな犬を抱えながらの筈なのに容易く自分を引きずる少女ーーヴァジラに少年ーーステルクは必死にそう懇願する事でようやく自分の意思で地面に立つ権利を得ることに成功した。
「全く……それで神社を飾り付けするのはいいが、今年はちゃんと長老様の許可は貰ってるのか?」
「勿論! ……去年はお爺に相談しないでやったせいで大変な目にあったからな…今年は神社の予定も空けてもらってお爺達も居ないから一日中騒ぎたい放題だぞ!」
「……伝統ある十二神将様の神社でどんちゃん騒ぎするのは気が引けるが…まあ俺とグラが気を付ければ大惨事になることはないか」
ヴァジラに聞こえない様にそう決心しながらも、ステルクは気持ちを入れ替え、グラの誕生日会の準備に取り掛かった。
自分達の中でも初めての二桁台の誕生日という事もあり、今まで以上のものにしようと張り切る2人は、普段の修行以上の頑張りでなんとかグラが来るであろう時間までには準備を終える事が出来た、
「よし! これで後はグラが来るだけだな!
最近はいつも以上に厳しい修行だったからグラも今日が自分の誕生日だって忘れてる筈だ!きっと驚くぞー!」
「……そ、そうだな」
自分やヴァジラと違い、グラに限ってそんなことはないだろうとステルクは内心思いながらもそれを口にする事は出来無かった。
(……まあアイツならいい感じに場を納めてくれるだろ)
そう答えを出したステルク自身も難しく考えることをやめ、もうすぐ始まるであろう祝いのイベントを純粋に楽しもうとその時を待った。
「まだかなーまだかなー?」
「主役が来る前からそんなふうにはしゃいでたら体力が……いや、お前に限ってそれは無いか」
「まだかなーまだかなー?」
「おかしいな、いつもならとっくに着いている筈だが。
……さてはアイツ、寝過ごして船一本乗り遅れたな……」
「……遅いな」
「……もしかしたら何らかのトラブルで船が遅れてるのかもしれないな。
ーーちょっと確認してくる! 入れ違いにならない為にもヴァジラはここで待っててくれ!」
「……船は予定通り往復出来てるんですか。
ちなみにグラはーー! ……今日は誰も見かけてない、ですか」
「………………………遅い、な……」
「……もしかしたら家族か、グラ自身が病気で来れなくなったのかもしれない。……もしそうなら仕方がない、さ」
「……………………」
「……ヴァジラ。もう今日のこの島に来る船はないそうだ。
間違いなく、やも得ない事情があったんだろう。
……明日この神社に来る人達の為にもそろそろ
片付けよう。また長老様に怒られるぞ」
「……そうだな!誕生日会は日を改め開催しよう!
その時は今日以上に凄い誕生日会にするぞー!」
そう口にしながら立ち上がったヴァジラはせっせと片付けを始めた。
ステルクもそれに続く様に誕生日会の装飾を綺麗に取り外し始めた。
次回も問題なく使える様に、と。
そんなステルクの耳にヴァジラの小さな独り言が聞こえてしまった。
「……厨房に隠してたお母に教えてもらったわしの初めての手料理、
グラに食べて欲しかったな…」
刹那げに笑う幼馴染の姿を見たステルクは少しだけ、もう1人の幼馴染を恨んだ。