転生特典を得て努力しなくて済むようになった幸せ者のお話 作:水属性大好きマン
まだ自分達しか気付けないだろう位置で、久しぶりに目にした芝生で横たわるグラの姿にヴァジラ……遅れてステルクも違和感を感じた。
普段のグラは明るく、二人以上に修行バカで、いつも空いた時間が有ればスクワットをしたりと体を鍛える事に余念を持たず、常にその茶色に近い黒の瞳に、強くなるという信念が感じられた。
だというのに、今のグラの瞳からはなんの思いも感情も感じられず、そのせいかいつも以上に黒く見える瞳でただボケっと空を見上げていた。
普段とは様子の違う友の姿にどう声を掛けるか二人は戸惑いながらも、意を決して話をすべく、1歩踏み出した所でーー想定外にもグラが反応を見せた。
「ーー神社に来なくなった者に会いに来るのは禁止されてたと思うけど?」
まるで歩み寄るのを拒むかの様に視線を空に向けたまま投げかけられた言葉に、二人は驚きを隠しきれなかったが、なんとか返答する。
「お爺から特別に許可を貰ったんだ。……本当はいけない事だが、お爺もグラだから特別に許してくれたんだと思うぞ」
「長老がそう簡単に掟を破るとは思えない。……予想よりずっと孫バカだったか」
そう呟いて溜め息を吐くグラ。
その姿にいつもの日常の片鱗を感じた二人は嬉しくなって小さく笑った。
そしてこの雰囲気が残ってる間にとステルクは質問を投げかける。
「ーーーーそれで何があったんだ? 1週間も鍛錬を休んだりして」
「別に何も無かったよ。ただ行きたくないから行かなかっただけだよ」
「……おいおい、そんな下手な嘘をつくなんてらしくないぞ?……やっぱり何かあったんだろ?」
「嘘じゃないし何も無かったよ。ーーただ、もう鍛錬する気が無くなっただけだよ」
まあ俗に言う挫折ってやつさ。
そう言葉を添えて返された返答に二人は驚愕を隠しきれなかった。
自分達よりもーー誰よりも強くなる為に努力するグラからそんな言葉が出るなんて想像も出来ないーーまだした方が無かった二人はタチの悪い冗談だとグラを注意しようとした。
……が、その言葉を発した幼馴染からはそんなふざけた感情は一切感じられなかった。
「……どうしてだよ? 1週間前まではあんなも頑張ってたのにどうして突然……!」
「ふと気付いたんだ。結局才能なんだなって。
今まで才能も無いくせに二人に付き纏って本当にごめんね。
これからはもう邪魔したりしないから二人は存分に修行して強くなって欲しい。僕の分まで
二人が大成することを一時でも一緒に修行した一人として応援してるよ。本当に」
次々に信じられない言葉を発し続けるグラは、困惑で言葉を挟めない二人を無視したまま立ち上がると、二人に背を向けて歩き始めた。
「長老にはちゃんと手紙を書いておくよ。よく考えたらあんなにも時間を割いて貰ったのに勝手に辞めるのは流石に無いね。
手紙さえ出しておけば二人もこんな場所に来る事もなかったかもしれないしね」
「ちょっと待てグラ! まだ話は!!!」
「頑張ってねステルク。君ならいつかヴァジラから1本取れるって信じてるよ」
このままじゃ本当にグラは島に来なくなると察したステルクは混乱で大して回らない頭を必死に回転させて何度もグラに呼びかけるが、グラは軽く言葉を返すだけでその歩みを止めることは無かった。
グラが遊び半分でその選択をした訳ではないとステルクは理解しながらも逃げるように去ろうとするグラをひとまず力づくで止めようと動こうとしたその時、迷いない言葉が辺りに響いた。
「そっか、わかった。お爺にはわしから言っておくから手紙は出さなくていいぞ」
「ヴァジラ!? お前何言ってーーーー」
「思えば何年も鍛錬の毎日だったからなぁ〜。グラが疲れるのも無理はないぞ」
わしも実は結構疲れてたんだ。そう呟きながらヴァジラはゆっくりと背中から芝生に倒れ込んだ。
受け身を取らずに倒れ込んだせいか、着地時に小さな悲鳴をあげながらも、そのまま大の字になって空を見上げた。
驚愕の言葉に加え突然の行動にステルクーーいつの間にかグラも立ち止まり僅かに振り向いてヴァジラを見ていた。
「うーん! 鍛錬で疲れてない体でただ芝生に寝転がるだけでこんなに気持ちなんて知らなかったぞ!
こんな気持ちいい事を知ったら鍛錬なんてする気が無くなるな! ーーーーよし決めた!」
ヴァジラは寝転んだまま足を曲げると、よっと!いう掛け声と共に足を伸ばしその勢いのまま飛び起きた。
「わしもグラと一緒に暫く鍛錬を休む事にするぞ!」
ーーーー突如その場の空気が僅かに凍ったが二人は気付かない。
「将来犬神宮の主になる為 ーー十二神将になる為ーー闘神になる為にだっていわれて今までずっと鍛錬してきた。……まあ鍛錬が楽しく無かったわけじゃ無いが、わしだって鍛錬せずにダラダラしたり、何も考えずに遊んだりしてみたいと……思ったことはある!
だからグラが休むならちょうどいいからわしも鍛錬を休むぞ!」
「そんなことしたら長老や母親に怒られるぞ?」
ステルクのツッコミにヴァジラはその未来を想像し、僅かに青ざめたが、ブンブンと首を横に張ってその想像を払った。
「お爺や……お、お母が何を言ってきても知るもんか!
わしは絶対に休みを勝ち取って見せるぞ!」
むしろ早めの反抗期を喜んでくれるかもしれないぞ?
そんなヴァジラの無理のある未来をステルクは笑いながら同意した。
「確かに孫バカの長老なら喜ぶかもしれないな!
ーーーーよし、しばらくは鍛錬を休んで子供らしく遊ぶとするか!」
「流石ステルク! 話が分かるぞ!」
2人はお互いを褒め合いながらこれからの日々どうするかを話し合い始めた。
今日はどうするか、明日は、明後日は……と二人は想像を膨らませ、そのまま1ヶ月分の予定までも想像の中で立て終わった。
「まだまだやりたい事はたくさんあるなぁ〜。
……グラ、見ての通りわし達も実は鍛錬を休みたくて仕方がなかったんだ。だから一緒に鍛錬を休んで遊ぼう! …………あ! ダラダラする毎日でも勿論構わないぞ!
だから ーーーーもしも遊び飽きて、鍛錬してもいいかなぁ〜って思うような方があったらまた一緒に鍛錬をしよう!」
「こいつはお前も知ってる通り意外と強情だからな……多分そう決めたら半年だって1年だって続けると思うぞ? まったく、お互い退屈せずにすみそうだ。そうだよな? グrーーーーーーーー
ーーーーステルクが言葉を発し終わるその刹那、突如突風が吹いたと二人が察知したその瞬間に二人の間にグラが現れた。
二人の間合いに入ったグラは、ステルクに蹴りを繰り出しながら、ヴァジラにいつの間にか持っていた木刀を振り下ろす。
ステルクはグラの攻撃に反応出来ずその蹴りで後方に吹き飛ばされ、
ヴァジラはグラの突然の行動に反応こそ出来なかったが、類稀な才能を持つ故か無意識に腰に差している木刀を取り出しグラの攻撃を防いだ。
…………が、攻撃を防いだものの、攻撃はあまりに重く、数メートル後方に飛ばされるがなんとか受け身をとった。
「くぅ……! グラ!? 突然何を!? …………そうだ! ステルク!! 大丈夫か!!?」
「…………ああ、大丈夫だ。立ち上がれないほどじゃ無い。こういう時、ドラフに生まれて良かったと思うぜ! 母さんありがとう!」
ステルクは軽口を叩いてヴァジラに問題ない事をアピールするが、内心は驚愕で何も笑えていなかった。
ーーーー見えなかった。グラの動きが何一つ。何年も一緒に修行して来たはずなのに先程の動きはグラの
一体グラに何があったのか? その疑問を投げかけようとしたその時、それを遮るようにグラが本当に何でもないように二人に殺気を放った。
だというのにその殺気はーーーー人生経験の為に向けられた現十二神将の一人に向けられた本気の殺気より遥かに死を感じた。
「一緒に鍛錬をした仲だ。二人のことを考えて多少言葉を濁して話を済ませようと思っていたけど、そっちが自分から腐ろうとするなら話は別だ。
ーーーー島に行かなかった本当の理由を話してあげる
ーーーーお前達の島に行かなかったのは鍛錬をしたく無くなったからじゃ無い。もうする必要が無いからだ」