転生特典を得て努力しなくて済むようになった幸せ者のお話 作:水属性大好きマン
子供の捜索をいの一番に引き受けたアニラは、捜索班と合流して情報の照合を終えるや否、他の者達に今一度町の中の捜索を任せた上で自らは魔物の巣窟である夜の森へと駆け込んだ。
「町近辺の捜索は他の騎空士達に任せ我は兎に角、奥を捜索じゃ!」
魔物を薙刀で斬り伏せながらアニラは森の奥へと進む。
行方知らずとなっている子供の名を叫びながらアニラは走り続けるが、その声に呼応するようにどんどん魔物がアニラに襲いかかり、アニラはそれらに応戦しながら捜索を続ける。だが、子供の手掛かりすら見つける事は出来なかった。
「こんな時にヴァジラか、アンチラがいてくれたらのぅ……えぇい!何弱気になってるのじゃ我は!」
ヴァジラの鼻があらば子供の匂いを追え、アンチラの分身が有ればより広範囲を範囲を同時に捜索する事が出来る。
自身よりも探索能力が高い仲間の顔が脳裏に浮かぶが、今この場にいない者を考えても仕方ないと思考を切り替え自らを必死に鼓舞する。
……ただでさえ強力な魔物が数多い上、現在は魔物の世界と呼べる夜の時間。アニラの脳裏に僅かながら子供の生存が絶望的だと言う考えが浮かぶが、その考えを一刀両断してアニラは更に奥へと歩みを続ける。
そして何十体目か分からない魔物を斬り伏せた際、突如遠くの方から大人の男性と思われる悲鳴が微かに耳に入った。
まだ他にも遭難者が居たのか!?それとも捜索に出た町の者か?
兎に角助けるべき声と判断したアニラはその悲鳴の方へ駆け出した。
そしてアニラが辿り着いた場所は想定外の状況が広がっていた。
「な、なんじゃこれは!? 」
アニラの視線の先には、20を超える武装者を含む集団が地に伏す光景が広がっていた。
驚愕を抑える事が出来ないままアニラは近くに倒れていた男性1人に近づき声を掛ける。
男性は装備していたであろう鎧を何者かによって破壊されてはいたものの、外見に怪我らしいものは見られなかった。
が、男はまるで悪夢を見ているかのようにうなされた声を上げるだけで目を覚ますことは無かった。
他の者達にも同じように声を掛けたがどれも同じような反応が返ってくるだけだった。
「…これは明らかに偶発的に起きたものでは無い……それにこやつ等の正体も少し引っかかるのぅ。どうしてこのタイミングで集団でここに居たのか。……そして一番引っ掛かるのは、そもそも此奴らに危害を加えたのは一体ーー!?」
「ーーーーまだ仲間が居たのか」
言葉と共に振り下ろされた背後からの一撃をアニラはほぼ勘だけで受け止める。
受け止めたのは鈍器のような見るからに丈夫な棍棒らしき武器。
アニラは短時間でそこまで理解すると、均衡している攻撃に力を込め、勢いのまま棍棒ごと相手を吹き飛ばした。
ーーーーが、相手は難なく空中で回転する事でその勢いを逃すと、そのまま地面に座り込むように着地する。
「ーーーー大した一撃だ。これほどのモノは俺の人生でもそうは無い」
声からして大人とは呼ばぬだろう若い声をした男は、下を向いたままアニラにこれ以上無い賞賛の声を贈る。
「お主こそ、背後から攻撃するとは輩とは思えぬ一撃だったぞ。
ーーしかして、この者に手を掛けたのはお主で間違い無いかのぅ?」
確認とは呼ばぬ声色で男にそう尋ねながら武器をしっかりと構え直すアニラ。その額から1筋の汗が流れ落ちる。
ーー証言の確認など必要はなかった。必要だったのは相手に明確な敵意があるか否。そしてそれに対して相手は顔をゆっくりと上げながら返す。
「この状況で犯人探しとは……随分と場違いな強者だな、お前は」
言葉と共に顕になった男の顔は、自分よりも若い顔立ちでありながら、それを台無しにするように額から両目元にかけてクロスの傷が入った盲目の男の姿。
魔物にやられたであろう姿に一瞬同情の感情が浮き上がったが、それを一瞬で飲み込むかのような深い殺意を感じ取り、すぐさま甘い考えを捨て去ってこれまでにない程武器を握ぎる手に力を込める。
「ーー南南西の守護神、アニラ。参る!!」
手加減など出来る敵ではないと悟ったアニラは掛け声と共に全力で踏み込んで男に向かって跳ぶ。
ーー実力はおそらく相手の方が上、ならば此方が取るべき行動は、一切に妥協なき攻撃の雨。
一瞬でそう判断したアニラはすぐさま行動を起こした。
がーーーー
「ーー南南西の守護神? まさかーーーー」
対して男はというと、アニラの言葉があまりに想定外のモノだったのか、数瞬隙だらけの棒立ちとなるが、何かに気付いたのか慌てるように棍棒を手放すと、そのまま自分に振るわれた薙刀の一撃を片手で摘んで止めた。
「……な!?」
あまりに信じられない光景にアニラから驚愕を隠しきれない声が漏れるが、その光景を作り出した男は逆に考え込むように目を閉じたままアニラの方をじっと見つめていた。
そして今まで強気の声とは違う声でアニラに尋ねた。
「……もしかして、貴方は『十二神将』様、だったりしますか?」
「…………そうじゃと言ったらどうするのじゃ?」
アニラの問いに男は答えるように薙刀を掴んだ手を離すと、
その場に片膝をついて跪くと、そのまま謝罪するように頭を下げた。
「……………………申し訳無い。盗賊達が雇った用心棒と勘違いしました」
想定外の出来事が立て続けに起きすぎたアニラの脳内はひっそりと羊が回っていた。