「さて、まずは金策かぁ」
ため息が出てしまうのは仕方あるまい。ナナセ・コウイチ担当の分身と違って俺の方は宿無し戸籍無し。この世界にいない人間だから当然だけどさ。
同じ人間が2人いるという混乱を防ぐために変身魔法で姿も変えているのだ。
身分証明はこの世界の電子化が進んでいるおかげで、
まあ犯罪でなければいいか。
ガンプラ完成品をいくつか複製したのでそれをインターネットで販売する。
ちなみに複製はレジンキャストによるものではなく、チートアイテムによるもの。その名も『まな板』だ。うん、マインクラフトで有名なMODアイテムを
まな板は使用しただいたいのものを複製できる無茶苦茶なアイテムだ。ただし、まな板ではこめられたEPまでは複製できないのが玉に
インターネット接続はビニフォンでオッケー。プロバイダー契約しないでも接続できるのは便利すぎる。口座開設もできちゃったよ、いいのかねコレ?
それにしてもGBNが世界的に流行ってる世界なだけあって高額で売れるなあ。アップした写真だけでもわかるぐらい出来がいいってのはあるけど、それでもすぐに全て売れてしまったのには驚いた。さらに複製すれば商品は補充できるけどしばらくはいいだろう。全く同じ商品が続くと偽物感が増すだろうから。
入金確認後、全部発送を終えたら次はガンプラ製作代行の依頼者募集っと。
◇
元手が入ったのでガンダムベースに移動。作業スペースをレンタルして作業中の俺に依頼者が現れる。
「あなたがケイゼロ?」
「ああ」
俺の作品は見るやつが見ればケイワン作ってわかるので関係者っぽくケイゼロを名乗ることにした。同じ流派だからってことで誤魔化すつもり。ビルドファイターズにはプラモの流派があったしね。……そのうちこっちの世界じゃガンプラ道は乙女の嗜みとかなってしまうんじゃなかろうか?
だってほら、依頼者が女の子だ。うん、GBNは女性プレイヤーも多いからそれはありえるんだけど、それだけじゃなくて。
「ええと、まいったな。俺の料金は高いから子供向けじゃないんだが」
目の前の子はマジに女の子で。というか幼女? 小学生ぐらいじゃないのか、この子。
分身の俺はJCフォース加入に苦悩してるけど、俺の初依頼者がJSって……。
「お金ならちゃんと払うわ」
「いや、高額だからね。君が良くっても後で親がやってきて返品なんてされると困る」
「そんなことしないわよ!」
「それは私が保証します」
そう依頼少女の前にスッと出てきたのはメイドさん。あれ? コスプレじゃなくて本物のメイドさん? この子って本物のお嬢様? そういうロールプレイじゃなくて?
「GBN用のガンプラがほしいんだよな? まだGBNやるには早そうに見えるが」
「問題ありません。支払いはカードでよろしいですか?」
「悪いな。カードは受け付けてねえ」
「では小切手でよろしいですね」
どうしよう。なんかこのメイドさん美人だけどすごい威圧感で断れそうにない。無茶苦茶な高額ふっかけてもあっさり払いそうで怖いからそんなことできん。受けるしかないのか。
うっわー、気づけば周囲の注目集めちゃっているよ。これではぞんざいな扱いはできないか。ガンダムベースの職員が変な商売するなって止めに現れる様子もないし。妹ちゃんには会いたくないからいいけどさ。お兄ちゃんだってバレても困る。
「わぁったよ。ガンプラは決まってんのか?」
「い、いえ。なんでもいいわ。すぐにほしいの!」
「なんでもいいが一番困るんだがなあ」
なんだよ、ただGBNがやりたいだけでガンプラには全く興味のないお嬢さんかよ。張り合いのない。
女の子向けだったらやっぱりSDがいいか? お嬢様らしいからビルドファイターズのお嬢様キャラみたく
少し考えていると、お嬢様は待ちきれなかったのか作業テーブル上の俺が制作中のガンプラを指差した。
「それでいいわ!」
「これ? ノーマルのV2だけどいいの……って言われてもわかんねえか。まあこれでいいんならあと30分ぐらいで出来るが」
「もうできているのではなくて?」
確かにほぼ出来てはいるけど、マジで原作どおりのV2。関節の強化や設定に似せる改造はしたけど、俺独自設定のカスタム化は武器1個だけだ。俺がGBNに慣れるための練習機のつもりで作ってたんだよね。正直この程度で高い金は取りたくない。
「このままでいいならレンタルのを借りればいい。それから自分のガンプラを探せ」
「いやよ! わたしはそれがいいの! それをよこしなさい!」
なんちゅうわがままお嬢さんだよ。まあ、オリジナルの嫁さんにもこういう
仕方ない、か。
「こいつは塗装がまだ乾いてねえんだよ。対ビーム加工の塗料は乾きがちいと遅くてな。それを待てるか?」
「よろしいのですか?」
お嬢さんではなくメイドが聞いてきた。あとギャラリーの中に「対ビーム加工」と聞いて俺の使ってる塗料に注目しだしたやつがいるな。この
「GBN初心者向けに用意していたガンプラだ。ふむ。悪くない選択だろう。お嬢さんは見る目がある」
「え、ええ。もちろんよ!」
依頼者を適当におだてながら作業中のパーツの塗装を一部変更する。彼女のおかげで黄金色好きなお嬢様を思い出してしまったささいな意趣返しとして、V2の胸から翼にかけた黄色のVのラインを金色にすることにした。
といっても普通の金色塗装では黄金感が薄い。かといって金メッキなんて簡単にはできない。あれは業者に頼まないとね。となれば金属パーツ? いやいや、もっと簡単に。
「テープ?」
「そ。メタルテープ。黄色よりも金色の方がいいだろ? アサルトパーツを追加する時も色が合うぜ」
メタルテープを使えば金属色を出すのは楽だ。パーツの形状にもよるけどね。複雑な曲面のパーツには向かない。
金色のメタルテープを一度、別の台紙に貼って形が合うように切ってから剥がれにくいように接着剤を塗布したパーツに貼っていく。それだけの作業なのにギャラリーがわく。
「スゲエ、一発で合った!」
「切る時測ってなかったよね? 見ただけであんなにピッタリ合わせたの?」
「胸のカーブも一切皺がなく貼れてる! 曲面に合わせた切れ込み入れてなかったのにどうやって!?」
そりゃ分身して多少腕が下がったとはいえ、融合したのは世界有数のガンプラモデラーだからねえ。モデラー力だけはオリジナルよりも高いのだよ。ふっふっふ。
メタルテープの使用だってオリジナルが武将の武器モデル製作で多用したから慣れてるのもあるのだ。
歓声を心地よく聞きながら、さらに剥がれにくいように表面を処理して、と。
「指紋が目立ちやすいからここにはあんま触んなよ」
「綺麗……」
「そうかい?」
今にも手を伸ばしそうな表情でうっとり眺めているお嬢さん。やっぱ金色好きだったか。金メッキ百式、さすがにガンダムベースにもレンタル機では置いてなかったけどあったらそれを選んでいたかもな。
◇
塗装が乾くまでの時間、ティータイムとなった。ここに備え付けの自販機のじゃなくて、メイドさんがいれてくれた紅茶だ。どっからティーセットなんて出したんだか。このメイドもスタッシュ持ってたりしないよな?
「へえ。兄ちゃんがGBNに夢中で遊んでくれなくなったから、嬢ちゃんがかまってもらうためにガンプラがほしかったワケか」
「そうよ! 悪い?」
「いや。んなら兄ちゃんに嬢ちゃんのガンプラ作ってもらえばよかったと思っただけ……んだよ、その手があったか! みてーな顔は?」
あ、さっきから俺の口調が気になってるやつもいるかもしれんけど、意識して変えてる。コウイチだってバレないようにね。銀さんアバターは俺が使うことになってるのでそれっぽいイメージ? でもないか。
「あなた、天才!?」
「ったく。兄ちゃんがどれほどの腕か知んねえけど、次はそいつに相談すっこった。それともこいつは止めとくか?」
「ちゃんと買うわよ! はい! これはもうわたしの物なんだから!」
指定した額の3割増しの小切手を握らされてしまった。最初は3倍出すって言ってたのをここまで下げさせたよ。変に疲れる。そんなとこにプライドかけんでいいから。
「へえへえ。もう乾いたな。乾燥機のコンセント使えて助かったぜ」
乾燥機といっても専用のものではなく、食器乾燥機をちょっと改造したもの。塗装中の大敵であるホコリも防いでくれるのでこんな人の多い場所での作業では有り難い。
オリジナルが使っていたやつなんて
「ほい、こいつはもう嬢ちゃんのもんだ。返品は受付ねえからな」
「う、うん!」
お嬢さんはキラキラした目でV2を握りしめながら行ってしまう。お辞儀をして去ろうとするメイドさんに領収書と箱、オプションパーツを渡して初依頼完了、と。
さて、作業スペースのレンタル時間はまだ残ってるし俺がGBNで使うガンプラ作らんと。銀さんアバターにに
やっぱ、オリジナルが大好きって公言してたセンチネル系にした方が嫁さんたちがもしいたとしても気づきやすいだろうかね。融合してて記憶が混乱しててもオリジナルのこと思い出すかもしれん。
それとも同じくオリジナルが大好きだけどこの世界にはないマクロス系か? だけど世界の固有原理によって、この世界じゃガンダムが圧倒的に強いっぽい。あとでGBNでそのデータも取らんといかんけどたぶんそんな気がする。
うーん、VF-1Jはガンダム顎に見えないこともないから、V字アンテナとツインアイつければワンチャンいけるかねえ?
ガンダムベースのことは適当
2人の愛機はなんになるでしょ?