無垢の少女と純粋な青年   作:ポコ

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何とか予告通り今月中に書けた…3年ぶりだと書き方忘れまくってますね
拙い作品ですが、よければどうぞ


22話 六神将

「いつまで馬鹿みたいに盛ってんのさ! この色ボケどもがッ!!!」

 

 ルークの自室でオリジナルであるアッシュが帰ってくる事が自分達にメリットしかない事を確信し、二人の明るい将来を夢見て盛り上がるルークとアリエッタ。

 最初は面白くないながらも黙って耳をすませていたシンクだったが、少なからずアリエッタに好意を寄せている彼がいつまでも我慢している筈もなく。苛立ちを隠そうともせずに扉を開けると、突然の乱入者に呆然とする二人を問答無用でファブレ夫妻の下へと引き摺っていくのだった。

 

「ったく、人の気も知らないで……流石に不公平がすぎない? 同じレプリカだってのにさぁ……!」

 

「……シンクのやつ、何であんなに不機嫌なんだろうな? レプリカの俺が将来の事を楽しそうに話すのが気に入らないとかか?」

「わかんない……」

「もしかしてオリジナルのアッシュに対して俺が別になんとも思ってねえからか? つっても、見たこともないヤツに対して何か思えって言われてもなぁ…まぁナタリアの事が無かったら少しは思う事があったかもしれねえけど、アイツを引き取ってくれるかもって思ったら感謝しかねえんだよな」

「アリエッタ、ナタリア様の事、好きじゃないけど……アッシュはナタリア様、好きなのかな?」

「確か一緒に国を盛り立てていこうだっけか? そんな約束をするくらいだからそん時は好きだったろうけどなぁ……今の馬鹿をやらかしまくってるアイツを知ったらどうなるだろうな? ヤナギが好きな恋愛小説みてえに、百年の恋も一発で冷めるかもな」

「もしそうなったらアッシュ、ナタリア様と夫婦にならないの?」

「二人の仲がどうなるかは知らねえけど、流石に結婚はするだろ。そうしねえとナタリアの奴は廃嫡になりかねねえし、そんな事を叔父上は認めねえと思うぞ」

「……ルークと、ナタリア様との婚約、絶対に無くなる?」

「無くなってもらわねえと困る。だってそうじゃねえと、その……な?」

「あ……う、うん」

 

「さっきから人の後ろでごちゃごちゃとさぁ……そんなにぶち殺されたい?」

「ぴっ!? ご、ごめんなさいシンク……」

「お、おう、悪い……え、そんなに悪いこと言ったか俺?」

「あ゛ぁ゛?」

「あ、うん、俺が悪かった。だから頼むから落ち着いてくれ」

「……チッッ!!!」

 

 不機嫌を通り越して怨念を煮詰めたような声で威嚇されたルークは、それなりに隔意のある筈のシンクに即座に真摯に謝罪した。

 それでも怒りは収まらない様子で、通路中に響き渡る大きさの舌打ちを残しさっさと先を行ってしまう。

 一連の流れを見る事しか出来なかったアリエッタはルークの手を強く握りしめながら、涙目でその背中を見送った。

 

「……あ、アリエッタ、シンクに嫌われちゃった……?」

「いや、アイツが怒ってるのは俺に対してだろ? 多分……まぁ、なんにせよあれだな」

「うん……」

「「…………怖かった」」

 

 結局シンクがあれほどに怒りを露わにしていた理由は分からず。

 残された二人は目を合わせると溜息をひとつ吐き出し、トボトボとシンクの後を追うのだった。

 

 

 ◇

 

 

「あぁ、来たか……ルークとアリエッタは、何故そんなに憔悴しているのだ?」

「あ、その……」

「少し、衝撃的な事があっただけです……」

「フンッ!」

「「……?」」

 

 入室してきた二人の様子を不思議に思うファブレ夫妻だったが、深刻な理由ではないようなので話を進めることにした。

 

「まぁいい。結論から言えば、私達はシンクの提案を全面的に飲むことにした」

「彼の提案を飲むデメリットより、飲まないことによるデメリットの方が遥かに大きいというのが一番の理由です。

勿論、それ以外にもいくつかの理由はありますが、まずはあの子と……アッシュと接触してからです」

「ま、賢明な判断だね」

 

 自分の提案が受け入れられた事に気をよくしたのか、先程までの鬱憤が嘘のような笑みを浮かべたシンクは満足気に頷いた。

 

「あの、父上母上。シンクの奴の提案を飲むのは良いんですけど……俺の部屋への出入り自由ってのは断ったんですよね?」

「…………」

「父上? 何で目を逸らすんですか?」

「……それが絶対条件だそうだ。それさえ飲むなら他に大きな要求はしないとまで言われてな……その……すまない」

「はぁ!? おいシンク! そんなしょうもない事が絶対条件って何でだよ!? 別に正面から来たらいいだろ!」

「煩いなぁ……別に何を絶対条件にしようが僕の勝手だろ? これはファブレ夫妻との契約なんだから、無関係なアンタは黙って頷いとけばいいんだよ」

「俺の部屋の出入りが条件になってんのに無関係なわけあるか!!」

 

 自分の私生活が脅かされる契約内容に猛抗議するルークだったが、全く相手にされず。そこまで嫌ならアリエッタとヤナギの部屋への出入り許可に変えても良いと嘲いながら提案され、自分と恋人を天秤にかけられたルークは、泣く泣く承諾するしかなかった。

 

「ちくしょーー!」

「ルーク、大丈夫? ルークが嫌なら、ヤナギにお願いするからアリエッタ達の部屋でも」

「い、いや! 俺は平気だからそれだけは絶対ダメだ! 頼むから!!」

「う、うん」

 

 アリエッタが一人部屋なら躊躇なく自分の部屋を提供していただろう事を察したルークは、恋人の無防備さにより一層庇護欲を高めた。

 そんな二人を愉しそうに眺めていたシンクは、取り敢えず満足したようで話の再開をファブレ夫妻に促す。

 

「それで? 僕にまずは何をして欲しい? 早くアッシュの遠征情報が欲しいなら、さっさと調べてくるけど」

「いや、それよりも先にアッシュの環境を知りたい。先の会話で、お前はアッシュを【六神将】鮮血のアッシュとしてヴァンの下で働いていると言ったが、その六神将とやらはヴァン直属の六将軍という認識でいいのか?」

「ああ、その認識で間違ってはいないよ」

「構成員の詳細を聞いても?」

「んー……まぁ大した情報じゃないしいいか。まず一人は何回も言ってるように、そこのレプリカルークのオリジナルである【鮮血】のアッシュ。別に虐殺やら殲滅やらの経験があるわけでもないのに、髪色がそう見えるってだけで鮮血なんて物騒な二つ名を付けるとか、ヴァンの馬鹿は名付けのセンス無いよねえ」

「え、その二つ名ってヴァン師匠(せんせい)が付けるのか?」

「当然だろ? そうじゃなきゃ大々的には活動してないやつもいるのに、全員に二つ名なんか付くわけないじゃん。箔をつけたいんだろうけど、痛々しくて涙が出そうだよ」

「そ、そっか……」

 

 内心少し格好いいと感じていたルークだったが、本気で嫌そうなシンクを見てその感想を即座に引っ込める。

 

「アッシュはヴァンの秘蔵っ子って事で、まだ決まった役職にはつかずに色々幅広くさせられてる筈だよ。仮にも他所の国の王族を顎で使うわ変装もさせずにあちこちに送るわ、ヴァンは本当に馬鹿だよねえ!

で、次がこの僕。【烈風】のシンクさ。主な活動内容は隠密に護衛、情報収集と、まぁ要するに裏方仕事担当だね」

「烈風……」

「一通り僕が形になったところで、素早さに秀でてたから速そうな二つ名って事で烈風だってさ! 本当早く死んでくれないかなあの髭」

「お、おう(そんなに駄目なのか……)」

 

 またしても闇を吹き出すシンクに、ルークはもう何も言えなかった。

 

「三人目は【黒獅子】ラルゴ。長物を使う巨漢で、軍事関係は大体こいつの仕事だね。出身とか詳しいことは知らないけど、妙に気品があるからそれなりに良いところの出だと思うよ。

 四人目は【魔弾】のリグレット。ヴァンの秘書みたいな事をやってるクソ真面目な女だよ。元は戦闘教官だったらしくて、ヴァンの妹に手解きした事もあるってさ」

「ヴァンの妹の元教官? ヴァンには妹がいるのですか?」

「ああ、今はダアトで下級詠士やってるらしいよ。お世辞にも有能とは言えず、ヴァンの七光りって事で周りからはあまりよく思われてないとか。本人が悪い意味で世間知らずっぽいから猶更ね」

「なんか面倒くさそうなやつだな……」

「世間知らず同士、アンタとは気が合うかもよ? レプリカルーク」

「うっせえ! 世間に出られねえんだから仕方ないだろ!」

「あぁそうだったね。お可哀そうな箱入り公爵子息サマって事を忘れてたよゴメンゴメン」

「この野郎……!」

「シンク、あまりルークをイジめちゃダメ……!」

「フンッ」

 

 一言発するだけでこれでもかとルークを揶揄うシンクだったが、見かねたアリエッタがシンクを咎めると面白くなさそうにしながらも話を進める。

 

「五人目は【死神】ディスト。本人は気に入らないみたいで【薔薇】のディストを自称してるけど、まぁどっちもどっちだね。やってる事を考えれば、死神の方が合ってると思うけどさ」

「死神の二つ名が合っているというと?」

「こいつがレプリカを造りだすフォミクリー技術の開発者だからだよ。正確には幼馴染らしいマルクトの【死霊使い】ジェイドとの共同開発みたいだけどね。つまりこのディストが僕やレプリカルークの生みの親って事。

 フォミクリー技術の完成の為にどれだけの犠牲を生み出したのかを考えれば、死神扱いも当然だろ? 逆に言えば、こいつがいなくなればヴァンの計画は頓挫するか、そうでなくてもかなりの遅れが出るだろうさ」

「成程、【死神】ディストか……覚えておこう。それで、最後の一人は?」

「あー、最後の一人ねえ」

「?」

 

 ディストの重要性を語り終え、最後の一人についてクリムゾンに聞かれたシンクだったがアリエッタを見ると言葉を濁す。

 皆がその様子を不思議に思うが、ヴァンがアリエッタにしていた事を思い出したシュザンヌが一番に気付いた。

 

「成程。六神将の最後の一人はアリエッタちゃんがなる予定だったのですね」

「え、アリエッタ、が……?」

 

 シュザンヌの発した言葉に、思わず自分を指さし呆然とするアリエッタ。

 だから言いたくなかったんだとばかりに乱暴に頭を掻くと、諦めたように息を吐き続きを語った。

 

「……ご名答。あの髭はアリエッタの魔獣使役能力を高く買ってたからね。だったら自分で面倒見りゃよかったのに、オリジナルのイオンに丸投げするから見捨てられるんだよ。馬鹿だよねえ!」

「はあ……聞けば聞くほど、ヴァンが何を考えているか分からなくなりますね」

「自覚してるのか無自覚なのかは知らないし興味もないけど、愚かな民衆には自分の崇高な考えは理解できまいみたいな感じだからね。自分以外の全てを見下してるから、自分の思う通りに物事が進むのが当然と思ってる世界一の大馬鹿野郎だよ。僕が離反するなんて考えたことすらないだろうね。アリエッタが離反してるってのに、学習能力ってものが欠落してんじゃない? ま、その方が都合がいいけどさ!」

「お前は元はヴァンについていただろうに、よくもまあそこまで悪しく言えるものだな」

「別に尊敬とかしてたわけじゃないし、寧ろ恨みしかないからね。こんなクソみたいな世界を滅べばいいって思ってたから、協力してただけだよ。で、失敗確定な計画に協力しても世界は滅びないし良い事なんて一つもないから見捨てたのさ。ただ沈むだけの泥船に乗ってることを気付かせてくれたアリエッタには、本当に感謝してるよ」

「え、あ、うん。どう、いたしまし……て?」

 

 ヴァンを散々罵ると、スッキリしたようでアリエッタに礼を言うシンク。

 自分が戦力的な意味でヴァンに狙われていたと知り困惑していたアリエッタだったが、シンクの怒涛の勢いに飲まれ、彼の感謝に対し条件反射で礼を返した。

 アリエッタにだけ時々素の笑顔を見せるシンクが少し面白くないルークだったが、それよりも六神将について気になるようでシンクに問いかけた。

 

「それじゃあ今は六神将じゃなくて五神将って事なのか?」

「ん? ああ、今はそうだけどね。セフィロトの数だからか知らないけど、無駄に自分を含めて七って数に拘りがあるみたいでさ。で、前から目をつけてた奴を六神将に誘ってるみたいだよ。まあそいつの詳細を調べたのは僕だけど」

「へえ。じゃあそいつはアリエッタみたいに魔獣使いなのか?」

「みたいだね。調べた限り、そいつはアリエッタと違って鳥系の魔獣しか使えないみたいだけど、まぁ機動力目当てだからヴァンとしてはそれで充分なんだろうさ」

「へえ、鳥系の魔獣だけ……ん? 確かアイツもそうだってアリエッタが……」

「鳥獣の機動力を商売に活かしてたみたいで、そいつの噂はアリエッタがダアトにいる頃から耳に入ってたよ」

「え? 商売に活かしてたって……」

 

 シンクの語る新たな六神将候補の特徴に、思い当たる人物がいるルークとアリエッタはまさかと思いながらもシンクに尋ねた。

 

「な、なあシンク。そいつの名前って分かるか?」

「はあ? 馬鹿にしてんのレプリカルーク。そんな名前だけ調べてないなんて片手落ちな事、僕がするわけないだろ?」

「し、シンク! アリエッタもその人の名前知りたい!」

「……何? 二人揃ってそいつに心当たりでもあるの? まあどうでもいいけどさ。そいつの名前は――――」

 

 

 鳥獣使いの商人。そんな限られた特徴を持つ者など世界広しと言えど複数いるはずもなく。

 

 

「ラルフっていうんだけど……その顔を見る限り、本当に知り合いみたいだね。それも残念な方向性の」

「やっぱりアイツかよ……」

「あの人……六神将になるの?」

 

 アリエッタにとっては最後の、ルークにとっては最初のラルフとの出会い。

 あの時のラルフの光の消えた瞳を思い出すと、彼がヴァンの下に着けば碌なことにはならないだろうという予感しかしなかった。




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