傭兵TS娘が敵の惑星から脱出しようとする話   作:皆方 ho_

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投稿遅れました。ストックが無いので次も遅れます。


合流

 

 

 惑星降下母艦が撃沈された。

 

 何が起こっている?

 

 地上に墜ちていく母艦に、皆が意識を向けている。

 誰が母艦を撃沈したんだ?敵なのは間違いない。けど惑星解放戦線が?

 まだ、周りにいるかもしれない敵艦を探す。

 

 どこだ?

 

 周りを見渡していると、空に違和感を感じる。

 都市から離れた方向の空。色合いが少しだけおかしい。

 

 間違いない。艦載の偽装ホロだ。

 あそこにいる。

 

 次の瞬間、その空間の風景が揺らぐ。

 

 

「おいっあれを見ろ!!」

 

 

 数キロ先の空中に、偽装ホログラムを突き破って現れたのは全長500メートルほどの戦闘艦だった。

 見たことが、いや乗ったこともある。たぶんあれそのものではないけど、同型艦には。汎人連の軌道降下艦だ。

 そして、おそらく敵だ。

 

 

「ラム、あの船の詳細を調べてくれ。」

 

「はい」

 

 

 電子戦型には敵味方識別と敵勢力の偵察のためのシステムが載っている。調べたら何かわかるかもしれない。

 

 

「畜生、対艦装備なんて持ってないぞ。どうしろっていうんだ。」

 

 

 愚痴を言ってる間に解析が終わった。

 

 

「解析終了。軌道降下強襲艦ODS-5型です。塗装からトラピストに配置されていた、95号艦の可能性が高いです。50年前の旧式艦ですね、前部貨物室には実体弾の対宇宙ミサイルが積まれています。それに偽装ホロの精度も高い。どちらも旧式艦に積むようなものじゃないし、識別信号も出していません。母艦を沈めたのはあの船だと思います。」

 

 

 治安維持という名の反乱防止のための船だったのだろう。簡単に奪われたのなら元も子もないが。

 軍からそんな話は聞いていない。

 奪われたのもこちらに伝えなかったのか。

 

 

「軍の奴らは俺達に情報を回さなかったのか!?奪われたこと自体隠蔽されてたのか。」

 

「ってことは、反乱防止用の旧式艦に惑星降下母艦が撃沈されたのかよ。ついでに俺らの身体も。ふざけんな!!」

 

 

 不安なのだろう。苛立ちをぶつけるかのように皆、文句を言っている。アルベリックは恐怖で青い顔をしているが。

 

 今、するべきことはなんだ?

 優先順位を考えて行動しなくては。

 

 

「全員、落ち着いて話を聞け。アレがこちらを攻撃してくる前に味方と合流しよう。この町に降下したほかの部隊、近場で連絡の取れるのはあるか?」

 

「えぇと、一番近いのは行政所の制圧に向かった502小隊です。制圧は完了したようですが。他の部隊は全て2kmほど離れてますね。」

 

「わかった、502と通信を繋いでくれ。話すからヘルメット貸せ」

 

 

 アルベリックからヘルメットを奪い、被る。

 ブカブカだ。マイクに口を近づけて固定しようとしてもずり落ちる。

 軍の標準ヘルメットを付けれないということは、先ほど壊してしまったヘルメットは専用装備だったのか。頭の防御を考えると、壊れたからただの重りだと思って捨ててきたのは失敗だったかもしれない。

 ヘルメットの被り心地がいつもと全く違う。

 

 いや、いつもと違うのは撃破されたら死ぬ、ということだ。

 

 ああ、わかってるさ。この状況はかなりまずいんだ。

 

 

――――――

 

 

 どうにかヘルメットを斜めにかぶり直し、手で固定する。

 

 相手に通信を繋げる。

 呼び出し音が鳴り、すぐに止まる。

 相手が出たようだ。

 

 

「こちら506小隊、小隊長のリルだ。通信機の持ち主と違うのは、ヘルメットが壊れてしまったからだ。隊員に通信機を借りている。」

 

「502小隊、副隊長のアストロイだ。IDは?」

 

「506328だ。照合してくれ。」

 

 

 相手は慎重な性格なのか、状況的に疑心暗鬼になっているのか、傭兵番号*1まで聞いてきた。

 慎重なのは悪いことではないが、急いでいるのだから早くしてほしい。少しイライラする。

 

 

「……照合できた。一体何の用だ?」

 

「すまないが隊長はどうしている?話し合いたい。」

 

「もう戦死した。撃破じゃなくてな。」

 

「……それはすまなかった。母艦が、敵に奪われた軌道降下艦にやられたのは知っているか?」

 

「あぁ」

 

「今すぐ合流したい。生存率を上げるためだ。我々がそちらに向かう。」

 

「わかった。到着までここで待機する。」

 

「よし、すぐに向かう。」

 

 

 合流に異議は無いようだ。

 素早く話がまとまったことに安心する。

 

 

「……から、お前ら、死んだら死ぬってこと忘れんなよ。生き残るぞ‼︎」

 

 

 ヘルメットを外すと、ウィルフが仲間を元気付けているようだった。

 俺が何も説明せずに通信に没頭しているうちに、代わりにやってくれていたらしい。

 

 まだ熱弁を振るっているウィルフの肩を叩く。

 振り向いて熱弁を止めると、ニッコリ笑ってサムズアップしてきた。

 よくやった、と手でグッドを返すと、また隊員に向き直った。

 まだ喋るのか?

 

 

「こんな小隊長だが、気遣いのできる良い上司だ。ついていけば生存間違いなしだ!」

 

 

 うん。恥ずかしいわ、これ。

 止めよう。

 

 

「もう良い、ウィルフよくやった。さて、全員すぐに出発だ。行政所の味方と合流するぞ。軌道上には他にも味方艦がいるはずだ。降下艇の一隻くらいは来るだろう。希望はまだある。行くぞ。」

 

「「「「「「「了解」」」」」」」

 

 全員、次々とトラックに乗り込んでいく。

 

 全員が乗ったことを確認して、助手席に飛び乗る。

 すぐにトラックは走り出した。

 

 工場を離れ、市街地中心へ、1kmも無い道のり。

 

 敵の襲撃も無く、静かだ。本来なら市民で賑わっているはずの町並みは人っ子一人見当たらない。

 町並みにエンジン音が響きわたる。

 市民は全員逃げたのだろうか。数万人が住む工業都市がここまで静かなのも奇妙だ。

 

 大通りに入ると、行政所が見えてきた。

 

 行政所は、殖民惑星の都市としては高層の五階建ての建物だった。

 放送通信施設としても使われるらしく、上部には大型アンテナが取り付けられている。安価で頑丈なコンクリート製の建物だが、窓ガラスのほとんどは割れている。

 

 前を走る大通りは特に戦闘の後が激しい。防御用の障害物で、車は通れなくなっていた。

 

 

「車は降りるぞ。出発しやすい位置に止めろ。」

 

 

 車を降り、50mほど進むと行政所だ。

 

 前には装甲車が止まっている。通りの反対側からなら車でも入れたようだ。

 

 入口は特に戦闘の後が残っていた。

 窓は割れ、シャッターも大きく抉れている。黒く焦げ付いた爆発痕は手榴弾だろうか。「第59地区行政所」と書かれた看板は割れて地面に転がっている。

 

 周りを観察していると中から足音がした。

 建物内に銃を向け、目線だけウィルフに向けると首を振られた。*2

 敵ではないようだ。

 

 銃を下げ、出てくるのを待つ。

 

 出てきたのは、突撃型の義体だった。

 

 

「あなたがアストロイか?」

 

 

 問いかけると、しばらくこちらを見て、固まった。

 

 

「おまえが506の隊長なのか?」

 

「ああそうだ。506小隊、隊長のリルだ。よろしく。」

 

「あ、ああ。よろしく。ヘルメットが違うから声も違うとは思っていたが、ここまでとは。」

 

 

 反応に少し苛立つ。

 ヘルメットの変声機のおかげで、この声でもスムーズに話が進んだのか。

 こんな所で自分の見た目が問題になるとは。

 全員義体なのだから、見た目など関係ないはずなのに。

 ムッとしつつも、互いに敬礼。

 

 

「早速だがすこし見てもらいたい物がある。実際に見てもらった方が早いと思うからついて来てくれ。電子戦型に来てほしい。」

 

「ん?わかった。隊員は?」

 

「休憩させてもいいし、させなくてもいい。我々の他の隊員は休憩中だ。」

 

 

 なにかあったのだろうか。

 とりあえず、建物の中に入る。

 

 入ったところは待合室だったのか、長椅子が並んでいる。

 そこで義体の兵士が二人、武器の整備をしながら雑談していた。

 

 

「おい、502は何人生き残っているんだ?」

 

「私を含めて3人だけだ。」

 

「そこまで減るってのは、何があったんだ?」

 

「アレですよ。」

 

 

 部屋の端すみの方を指差され、目を向ける。

 そこには10体ほどの死体が転がっていた。

 

 

「すべて十分な錬度を持った傭兵だった。星系同盟の義体だ。」

 

「それは……」

 

 

 俺たちが遭遇した奴と同じレベルの奴が部隊単位でいたのか。

 

 

「完全に待ち構えられていたんだ。もういいだろう、行くぞ。」

 

「ちょっと待て。各自、気になる奴はついて来い。他の奴は休憩だ。ラム、お前は確定だ。」

 

 

 ウィルフとオルヴァーはついて来るらしい。

 他は休憩するようだ。

 

 アストロイについて、階段を上がっていく。

 通路には義体以外の戦闘員であろう死体も転がっている。

 

 その中で気になる死体を見つけた。

 手が縛られ、目隠しをされた戦闘員ではないと思われる死体。

 

 

「アストロイ、この死体はなんだ?」

 

「ああ、奴らが捕虜にしていたこの行政所の職員だ。大方体制派とか独裁者の狗とかそんなところで殺したんだろう。」

 

「誰が殺したんだ?」

 

「そんなこと問い詰めてどうする気だ?」

 

「いや、問い詰める気はない。気になっただけだ。」

 

 

 無表情が祟って問い詰めているように見られたようだ。

 だが、今の反応から見てこの死体をつくったのは、解放戦線の奴らではなく502小隊の誰かだろう。アストロイが命令したか直接やった可能性も高い。

 

 こいつは信頼できない。戦場ではこいつに背中は預けれないな。

 うちの部隊は全員、最低限直接的な略奪はしないモラルがある。

 それを他の部隊に求めるのは無理があるだろうが。

 

 二階、三階、四階。

 階段を上っていく。

 

 

「着いたぞ。これだ。」

 

 

 目的地は屋上だったようだ。

 ドアをあけ、屋上に出る。

 屋上にはアンテナがついた鉄塔……の横に高さ2m、横幅は4mもある機械が鎮座していた。

 破壊されたその機械は上部に巨大な半球型の出っ張りがあり、昔の天文台に似ている。

 

 

「これはなんだ?」

 

「都市規模の大型対空偽装ホロ装置です。本来この町にあるわけがありませんね。」

 

 

 疑問を口に出すと、すぐにラムが答えてくれた。

 ラムを呼んだのはこのためなのか。

 

 

「やっぱりそうか。それが知りたかっただけだ。戻るぞ。下で詳細を教えてくれ。」

 

 

 本当にこれだけだったらしい。ウィルフも拍子抜けした顔をしている。

 アストロイはさっさと階段へ戻っていく。

 

 

「あー全員、下に降りるぞ。」

 

 

 アストロイに続いて下に降りる階段へと向かおうと歩を進めた瞬間、ザンッ!!と耳障りな着弾音。

 

 急いで音のした方を見るとラムが倒れ伏していた。

 

 

*1
戦闘員ID

*2
リルだけヘルメットが壊れていて、味方の位置が見れないため。




作中設定

・電子戦型
 他の義体と比べ、内部に搭載された機械が多い。敵味方識別AIや量子通信機、ハッキングAIなどが搭載されている。
・惑星降下母艦
 義体の操縦者が乗っている。積載量、対地攻撃能力それぞれで高いスペックを誇る、汎人連の開拓惑星支配の象徴。対艦戦闘能力はそれほど高くない。
・軌道降下強襲艦
 大気圏内でも活動できる大型艦。大気圏内最強の船。ODS-5型は旧式だが、現在も開拓惑星では治安維持などに広く使用されている。


 ぶかぶかなヘルメットを被る戦う人形傭兵なTS無表情銀髪赤眼っ娘。属性過多でとても性癖に刺さります。

投稿すごく遅れました。たぶん次の投稿も一週間後になると思います。

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