まあでも現実は陰キャ同士だからくっつくことないんだけどな
5月。
学生にとっては新学期を迎えて1ヶ月ほど経つ頃。
ある程度の関係性や、ある程度の慣れを感じ始める季節。
俺は、未だに何にも慣れずにいた。
クラスメイトの大半はいつものグループを作り青春を謳歌している。
対照的に、俺は1人で小説を読み耽っていた。窓際の1番後ろの席──なんてご都合主義的な位置ではなく、同じく1番後ろではあるのだが廊下側の方なのだ。
側から見ても陰キャのぼっちだ。
安心してほしい。主観的にみても陰キャぼっちだ。
颯爽と学校に来ては業務的な会話だけをこなして颯爽と帰宅する。きっと今日もそんな日だ。
がらり、と。
右後方のドアが開く。
俺自身が1番後ろの席にいるのだからその音はしょっちゅう聞くものだ。
だが、俺レベルになるとドアの開け方でそいつの人柄がわかってしまう。
これは、友達のいないやつのドアの開け方だ。友達いないやつは教室に入る時目立ちすぎぬよう開ける習性がある。もちろん俺も。
少しだけ足音が聞こえて、俺の左側に着席する。
ちらりと目をやると、いつも通りのピンク色のジャージと──
(統一感のないバンドグッズ……)
少し変な子だなとは思っていた。
挙動も変だし、近寄り難い雰囲気も漂っていた。
俺も人のことは言えないが。
雑誌を広げてみたり、周りを少し気にする様子であったりと、変な子なりに友達を作ろうとでもしているのだろう。
そんな事よりも、俺は彼女の背負っていたギターケースに意識が向いた。
あんまり嬉しいものではなかった。
と言うか見え見えだ。
このギターとサブカル系女子みたいな風貌は話しかけられ待ちなのだと。
諦めた方がいい。
新しくグループが作られる時ならまだしも、既に5月にもなればグループは出来上がっている。
すでに出来上がったグループにとっては外からの脅威を受け入れる理由はないのだから。
転校生だとか、コミュ力があるだとか。そういう理由がなければ既存グループに入るのはかなり難易度が高い。
俺たちはスイミーのように、既存のグループに自身を売り込んで加わることなんて到底出来ないのだ。
なんて、言っていて悲しくなってきた。
……今日は水族館にでも行こう。
・
数日後、放課後。
俺と後藤ひとりは二人きりで誰もいない教室に残り向かい合っていた。目は合っていないが。
誰もいない放課後、男女2人きりとなればラブコメの波動を感じそうなシチュエーションではあるが、残念ながら俺たちみたいなコミュ障ぼっちには心配せずとも起こり得ない事態であった。
「じゃあ後藤さん、俺は机と椅子下げてるから箒お願いね」
「あ、はい」
そう、学園モノ漫画ならよくあるような放課後の掃除の時間だ。隣の席同士である俺たちは、当番が回ってきたのでこうして放課後ふたりぼっちで残っている。
「……」
だからと言って、ここは学園ラブコメの舞台では当然ないのでお互い無言でもくもくと作業を進める。
ちらりと横目に彼女を見るが、俺に背を向けるようにして不器用に箒を扱っていた。
……気まずい。
俺だって当然コミュ力は低い。低いのだが、コミュ力の低い人間ほど沈黙は苦手なのだ。
だから仕方なく、俺は口を開くことにした。
「後藤さんって、ギター弾くの?」
「え、あ、はい」
びくりと肩が跳ねると、ロボットのようにぎこちない挙動でこちらに顔を向ける。
……目線は地面に向いているのだが。
「なんかバンドとか入ってるの?」
口にしてから慌てて自分の失敗を悟る。
──やばい、ミスったかもしれん。
だって彼女を見てみろ、どこからどうみても完璧なぼっちだ。そんな彼女がバンドに加入できるのだろうか。
おおかた一人でカッコいいからという理由でギターでも始めたのではなかろうか。ちなみにぼっちがカッコつけてギター始めても9割はやめる。
しかし、俺の予想とは裏腹にびくりとアホ毛を揺らして、
「あ、はい、そうなんですよ」
ドヤ顔で言い放った。
なぜだかマウントを取られた気がして腹が立った。
「へー、バンドやってるんだ。かっこいい」
「かっこいい……!? うえへへへ、ま、まあそこそこですよそこそこ」
かっこいいは否定しないのかい。
まあなんかすげえ嬉しそうだからいいんだけど。
「…………あ、あのあのあのあのあああの」
「急にどうした」
さらに、そこで何を思いついたのかよく分からないが、突然早口になって奇声を発し出した。
「よ、よかったら1500円!」
「新手のカツアゲ?」
突然金銭を要求された。
私みたいな美少女が掃除を手伝ってあげてるから1500円払えと? なんちゅー悪質なやり口だ。しかもカツアゲにしては無駄に良心的な金額設定だな。
「今度ライブをやるので良かったらチケット買いませんか!?」
「カツアゲではなかったのか良かった」
「カツアゲじゃないです……」
どうやらカツアゲではなくライブのお誘いらしい。
とはいえ、クラスメイトとは言えほとんど初対面の相手にいきなりライブチケットを売りつけようとするなんていい根性だ。
友達が居なすぎて他人との距離感を見誤っているのであろう。
「えっと。ごめん、急に言われても……」
俺も俺で生粋のぼっちなのだ。誰一人知らないライブハウスに足を運ぶなど言語道断。結局行かないか、行っても気まずくて端っこでモジモジして途中で逃げ帰る姿が容易に想像できよう。
「そうですよねごめんなさいチケット全然売れないからって売りつけようとして最低ですよね私今から消えますね」
「いやごめんそーゆーことじゃなく……っ!?」
瞬間、彼女は頭の方からさらさらと粉になり消え始めた。
え、なに、この現象。
あ、やばい上半身ももう消えてる。このままじゃ後藤さんこの世界から消滅してしまうのでは──
「行く! 買います! 買わせてください!」
彼女の命をなんとかこの世に繋ぎ止めようと俺はそう口走ってしまった。
すると、直前まで粉になって消えかけていた彼女はいつの間にか元の形へと復元しており。
「ほ、ほんとですか……?」
生まれたての子鹿のようにガタガタ震えながら上目遣いでこちらをみていた。
前髪長くて目はよく見えないが、こうして見ると割と美少女なのでは……?
「いや、ほら。俺も後藤さんと同じでコミュ力0のぼっちだからさ、ちょっと一人でライブハウス行くのびびってたなーってだけで、せっかくなんで勇気出して行ってみたいなーなんて。カッコいいじゃん? ライブハウスに行くの。憧れというかなんというか」
ここにきて女子と話すのに慣れていない残念な男の習性が出てしまった。よく見ると美少女? な彼女を前にテンパりオタク特有の早口で意味のわからない言葉を口走る。
「そうです、私はコミュ力0のぼっちです……」
いやそこでダメージ受けるんかい。
「い、いや、悪い意味じゃなくてさ、俺はぼっちだから誘ってもらったの嬉しくてさ、これでもう俺たち立派な友達だからぼっち脱却ということで手を打とう」
「ト、トモダチ……?」
「イェア、トモダチ」
急にカタコトになった彼女に釣られて、外国の方に話しかけられて慌てて英語風に喋ろうとした時みたいなリアクションをとってしまう。
「まあ、今更だけど俺は大倉譲。よろしく」
「あ、えと、後藤ひとりです、よろしくお願いします」
「ろ、ろ、ろろ」
すると、彼女は突然壊れてしまった。
「ろ?」
「と、友達になったので、ロインを……」
「あ、ああ、もちろん」
やばいぞ、俺はぼっちだから友達ができること自体は嬉しいのだがいいのか? この子が友達で本当にいいのか? ちょっとびびって引いてる自分を感じないか? だがここで断ると粉となって風と共に去られないか?
ぴこん、と。
脳みそが変な動きをしている間に体が勝手にスマホを開いてアプリで友達追加を行っていた。
「……クラスメイトと初めてロイン交換したわ」
ぽつりと悲しい事実を口にしてしまう。高校が始まって2ヶ月弱、ついに俺はクラスメイトの美少女? とロインを交換した。良かったね? 良かったのか?
「え」
彼女は俺のついぞ口走ってしまった言葉を聞き漏らさずにガバリと顔をあげる。
もしかして今の発言で引かれたのだろうか。まあ事実だからいいんだけれども。本当だ。傷ついてなどいない。傷ついてなど……。
「わ、わたしも……」
「あっ」
……。
…………。
放課後の教室に二人。
男女が取り残されていた。
1人はぼっち、もう1人もぼっち。
二人の間にラブコメの波動は決してなく、お互いにぼっち同士だからこその謎のシンパシーを感じていた。
学園モノとは思えない虚しい空気がそこには取り残されていた。
・
後藤:今日練習行かなくてすみませんでした。
後藤:あとチケット全部売れました! ノルマ超えて6枚です。
伊地知:おめでとうーぼっちちゃん凄い!
リョウ:すぐバレる嘘はつかない方がいい
喜多:後藤さんならできるって信じてましたよ!
喜多:ところで家族以外だと誰に売れたんですか?
リョウ:そこを聞くなんて、ひどい
伊地知:喜多ちゃん、それは流石に言い過ぎだよ……
喜多:そこまでですか!?
後藤:路上ライブした時に3人と、あとクラスメイトの友達です
伊地知:路上ライブ!?
喜多:クラスメイト!?
リョウ:真実は当日になればわかる