ぼっち・ざ・ぼっち   作:振り米

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仕事疲れた……コミュ障なのに営業職行ったからつらいよ……ところてん販売では無いよ……


十話 都合が良いのはわかってるが、たまには祈らせてくれ

「いざ上まで来ると、開放的になる」

 

 結局エスカー使い登った結束バンドメンバー一向。

 エスカーを登り、展望台への道を行く。江ノ島の中でも既に十分高い位置にあり、湘南の海を望むことができた。

 陰キャでも流石にここまでの開放感を見せつけられてしまうと明るくなるだろう。

 辺り全てを照らす強烈な光には、陰すらできない。

 

「なんかポジティブな気持ちになってきました」

 

 リョウ先輩につられて、後藤も今だけは目元が輝いている(ように見えた)。

 

「み、みんなで写真撮ります!?」

 

 陽光に当てられた後藤は、疑似的な陽のオーラをほんの少しだけ纏っていた。

 

 喜多さんの自撮り棒を借りると、虹夏先輩、後藤、リョウ先輩の順になり画角を定めた。

 

「へい! ち──ず!」

 

 虹夏先輩の無駄に高めたテンションと共にシャッターは切られる。俺は当然のごとく、カメラに写らぬ位置へと逃げ出していた。

 

「急にハイテンションになり始めた……」

 

 喜多さんはちょっと引いていた。

 

「所詮奴らは似非インドアと似非陰キャということか……」

 

「大倉くんはもう少しテンション上げてもいいからね……?」

 

「いや、もう俺はあの写真のような過ちはしない」

 

「あの写真……? あっ、ふふっ、さっきの変な顔の……ふふっ」

 

「言わなきゃよかった」

 

 「あの」で通じてしまい、即座に笑われてしまう「あの」写真。俺はあそこで陰の緒を締めることができた。

 失敗は成功のもととは言うが、まさにその通りだ。だが失ったものがデカすぎる。この世界には等価交換の法則はないのだろうか。

 

「みてみて〜綺麗〜」

 

「ああ、うん」

 

「ちょっと〜、何ぼーっとしてんの〜」

 

「あ、ごめん。みーたん綺麗だから見惚れちゃってぇ」

 

「んもぅ〜馬鹿♡」

 

 写真を撮る彼女らの背後ではバカップルがイチャつき始めていた。

 

「みーたん♡」

 

「たっくん♡」

 

「みーたん♡♡」

 

「たっく〜ん♡♡♡」

 

 突然の背後からの伏兵に、3人は先ほどまでと打って変わり能面のような無表情に変わると、何も言わずに自撮りをやめた。

 

「うっし、とりあえずあいつら湘南の海に沈めようか?」

 

「大倉くんやめてえぇぇぇえ! というかもう展望台行きましょう〜!!」

 

 ・

 

「わ〜、展望台からの眺めはさらに絶景ですね〜! 目に焼き付けとかないと!」

 

 展望台に到着した喜多さんはテンションも上がっていた。

 そして、ぼっちで捻くれ者で陰キャの俺も当然──

 

「おー! なかなかいい景色だな! あ、喜多さん、藤沢駅の南口のあっちの方に美味しい豚骨ラーメン屋あるんだよ!」

 

「え! どこどこ! どんなラーメンなの!」

 

「濃厚豚骨スープ! 繁華街の路地にあるんだけどお昼はいつも並んでるんだよなー」

 

 ──浮かれていた。

 俺は意外と安直な観光地だとか名物的なものに弱いのだ。

 

「あ! みてみて喜多さん! 片瀬江ノ島の西の方にえのすいあるよ!」

 

「ふふふっ」

 

「え、あ、どうかした?」

 

 ついつい興奮気味になっていたことに気が付き、自省するももう遅い。喜多さんはこちらを見て保護者のような温かい目で微笑んでいた。

 

「大倉くんも子供っぽいところあるんだね」

 

「い、いーだろ別に」

 

 あれ、なんかこれ青春じゃね。

 というかもう実質デートなのでは……? さっきのカップルを見習って喜多さんだからきっちゃんとでも呼べばいいか? いや郁代ちゃんだからいくちゃんだな。

 

 ……ま、2人きりじゃないんだけどね。

 

「はー……クーラー最高ー」

 

 後ろから遅れてインドア三人衆が訪れた。

 そして、一瞬だけ藤沢方面の景観を望むと。

 

「喜多ちゃん満足したみたいだし降りよっか!」

 

「で……ですねー!」

 

「涼しいのは最高だった」

 

 そのまま折り返してエレベーターに向かった。

 

「インドア人たちめ!」

 

「き、喜多さん」

 

「ん? どうしたの」

 

「も、もう少し、み……見てかない?」

 

 俺は引き返す3人の姿をきっと情けない目で見つめていたのだろう。

 素直に見たいと言えないあたりさすが俺である。喜多さんに縋るような視線を向けた。

 

「……! うん! もう少し見てから追いかけよ!」

 

 インドア三人衆に対して呆れていた分、俺の誘いに対しては嬉しそうにしていた。

 喜多ちゃんかわいいよ。きた可愛い。

 もう虹夏先輩からは乗り換えました。時代は郁代ちゃんです。

 

 ・

 

 喜多さんと俺が2人で仲良く(ここ大事)展望台から降りると、後藤が鳶に襲われていた。

 

「え、何この状況」

 

 俺は状況を飲み込めずにいると、

 

「ぼっちちゃんが獲物にされてるー!」

 

 虹夏先輩が簡潔に教えてくれた。

 後藤、鳥にまで舐められてるんだな。

 

「ほら、しっしっ」

 

 そろそろ助けてやらないと後藤が死にそうだったので、俺たちは鳶をなんとか追い払う。

 すると、ヤムチャのように倒れ込む後藤がそこにはいた。

 いや、結局死んでるじゃねーか。

 

「後藤さん! 大丈夫……?」

 

 喜多さんが後藤に駆け寄る。

 でーじょーぶ、ドラゴンボールがあるから。

 

 倒れ込んだ後藤を俺と喜多さんで持ち上げて、2人がかりで肩にかついだ。

 もやしっ子のせいもあってか意外と軽い。そう言えば先ほどから死体の搬送は俺か喜多さんで行っていたが、喜多さんはかなり体力があるのではなかろうか。他メンバーと違い疲れた様子もなく、もう1イベントくらいは欲しいと息巻いているほどだ。

 

「あんまり遅くなってもアレだし……そろそろ帰ろっか」

 

 虹夏先輩はこちらを振り返りそう言う。

 ラストのイベントが鳶に襲われる後藤というのはいかがなものだろうか。

 

「……ぼっちちゃんも満身創痍だし」

 

 確かに、他の面々は余力が少しあるものの、後藤に関しては明らかに体力の底を突きかけていた。ギター以外の事となると目に見えるようにして低スペックになるなこいつ。

 

「じゃあ最後に──お参りだけして帰りませんか?」

 

 ・

 

 江島神社には三つの宮がある。「辺津宮」「中津宮」「奥津宮」の 三社だ。シーキャンドルから出て、下の道を歩く途中にあるのが中津宮であり、これこそが芸能を司る神様だ。

 神社というのは不思議なもので、特段何かを信仰しているわけでない俺にとっても、その重厚な和風建築と自然の中に建つ雰囲気が畏多くも感じる。

 ここ中津宮は芸能向上のご利益もあるという事であり、それ故か社の色味やデザインも他のものと比べて華美な出来だ。

 

 かくいう俺も、昔家族に連れてこられた記憶があるためかこのような知識が頭に入っていた。

 

「みんなで江島来られるなら、音楽と芸能の神様がいるここに絶対行きたいと前から思ってて」

 

 喜多さんは、事前に調べていたのであろう。この神社に祀られている神様の事やご利益なども説明してくれた。

 

「じゃあバンドの今後の活躍をお願いしないと」

 

 俺たちはお財布から小銭を取り出すと、賽銭箱に向かって投げ入れた。

 

 からから、と。

 小銭が踊る、小気味のいい音が響いた。

 江ノ島に入ってすぐのお店が並ぶ道並とは異なり、ここは神聖さと静寂が支配しているため、その音だけがここには響いていた。

 

 二礼、二拍、一礼。

 

 無信仰で普段は神様を信じているわけではないが、こういう時ばかりは神頼みをさせてくれ。

 

 ──ピアノを弾かせてほしい、と。

 

 そうしてもう一つ、これは願いでもなんでもないただの願望であるのだが、俺は神様にこう問いかけた。

 

 ──彼女たちと引き合わせてくれたことは感謝しています。でも、今度は、今度こそは、離れていきませんか? 

 

 当然、返事はない。

 そればっかりは、どうすることもできないのだろう。

 

 俺はゆっくりと顔をあげると、もう既に他の4人はお願い事を終えていたようだった。

 

「大倉くん長かったねー。何お願いしてたの?」

 

「えー、大した事はお願いしてないよ。……まあ強いて言うならピアノの事かな」

 

 喜多さんは満足げな表情でこちらを見つめる。

 続けて虹夏先輩も口を開いた。

 

「ぼっちちゃんも、さっきすごく真剣にお願いしてたね!」

 

「長かった」

 

「俺のことはいいですから、みんなはどんなお願いしたんですか?」

 

 ピアノのことも照れくさいし、それ以上に後半部分についてはさらに照れくさい。俺は全てを口にはせずに、次の人へと話題を投げかけた。

 

「私はー、真面目にお願いとお礼しちゃった! 神様……ライブ成功させてくれてありがとう、これからもよろしくお願いします、って」

 

「そ、そうですか」

 

 虹夏先輩はほんとに良い子だなぁ。

 俺の私利私欲の願い事がちょっと恥ずかしくなってきたじゃないか。

 

「明日から練習頑張るぞー! まだ次のライブ決まってないけど────!」

 

 その元気な声を江ノ島中に響かせて、下る道を歩き出す。

 俺は前を歩く3人の背を見つつ、疲れてそうであった後藤が少し心配で彼女に歩調を合わせた。

 

「どうせアホみたいなお願いしてたんだろ?」

 

「あ……あうう、な、なんで分かったの?」

 

 他三人は前にいるから気がついていないが、彼女の表情を見れば火を見るより明らかであった。

 どうせ虹夏先輩の真っ直ぐで綺麗な願い事の光に焼かれたのだろう。

 

「俺も同じような感じだからさ、自己満足みたいなんもんだよ」

 

「そ、そっか、仲間だね……」

 

 でもおそらく彼女ほど不毛な願いはしていないだろう、多分。

 

「あと俺も一応神様に感謝しといたよ。みんなと会えて良かったって」

 

「うっ、大倉くんが珍しく眩しい」

 

「珍しくとは失礼な」

 

 俺は生粋のツンデレであり、たまにこうやってデレ成分を発散させるのだ。べ、別にアンタのためじゃ無いんだからね! 

 

「まあでも、俺にとってみたら後藤が神様だな」

 

「……え?」

 

「お前と友達になったから、こうしてここに来れたんだ。ご利益抜群のぼっち専用神様、後藤大明神とはあなたのことです」

 

「ぼ……ぼっち専用なんだ」

 

 神様にお礼を言ったが、今言ったように俺にとって礼を言う相手は間違えなく彼女であった。

 

「だから……まあ……ありがと」

 

「……え? なに? も、もう一回いい?」

 

「もう言わね」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 まったく、こんなのが俺の神様かよ。

 奇行をするし、奇声を上げるし、俺以上にコミュ力ないし、ギター以外誉められたんもんでは無い。

 ……まあでも、こんな奴だからこそ、俺らの背中を押してくれるのかもしれない。

 

 まったくもう少しだけ、俺の神様で居てくれやがれ。

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