ぼっち・ざ・ぼっち   作:振り米

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ややシリアス気味?シリアルかも
ラブコメ全然かけてなくない??文化祭内で何とかラブコメを書く。あと文化祭後に一話完結で間話的にラブコメちっくなやつ書く。たぶん。


十二話 だから僕は音楽を辞めた②

 俺は割と昔から友達がいなかった。でも、だからと言って生まれながらにしてのコミュ障ぼっちだと言う訳ではなかった。

 

 小学生の頃は、学校にいる時間以外はピアノのレッスンだった。休み時間や体育の授業も母親が学校に直訴して参加させてもらえなかった。

 中学でも当然同じ状況が続いた。

 中学は音楽の特待生で入学したこともあり、それこそ四六時中音楽に触れ続ける日々だった。

 

 ピアノは好きだ。

 だから、別に苦に感じる事はなかった。

 

 だが、両親が離婚したあの日、ピアノに触ることも叶わなくなってしまったあの日から。

 

 俺は他人との関わり方が分からなくなっていた。

 ピアノをやっていない俺に存在価値はないのだという現実を突きつけられたみたいだった。

 

 幸せな顔をした人を見ることが憎くて、頭の中の劣等感は化け物みたいになって顔を覗かせていた。

 

 楽しくて大好きだったはずの音楽も、今は俺を苦しめる鎖になってしまっていた。

 

 だから俺は、音楽を辞めた。

 

 ・

 

 新宿駅から歩き、お酒臭いおねーさんのホームである新宿FOLTに到着した。

 

 ライブハウスの雰囲気はSTARRYとはまた異なる場所だった。こちらの方が、よくイメージするような「ライブハウス」と言う感じだ。

 中に入ると、タバコとアルコールの匂いが香った。

 おねーさんを先頭に、結束バンドのメンバーはいつも通りのゆるい雰囲気を纏って中に進んでいく。

 どうしてとそんな気分になれなかった俺は、端っこで1人でぬぼーっとしていた。

 

「お、お……大倉くん」

 

 俺はスマホを片手にコーラを飲んでいた。

 みんなの話が終わったのか、気がつくと俺の視界の端にピンクのアホ毛が入ってきた。

 

「お……おねーさん達準備に行ったからそろそろ始まると思うよ」

 

「そうか、ありがとう」

 

「う、うん」

 

 ……。

 え? それだけ? 

 

 わざわざそれを言うためだけにこちらに来たのか? 

 後藤の方に目をやると、チラチラとこちらの様子を窺っていた。彼女は何かに怯える子犬のように震えていた。

 ……いや、俺が彼女をビビらせてしまっているのだ。

 

 それでも、本当に今この瞬間は、彼女の横にいる沈黙はいつもの嫌いな沈黙ではなかった。

 

 不思議な気分だ。

 

 少しだけ、心が落ち着いたような気がする。

 昨日からずっと、ふつふつと胸の奥の方で何かが俺を刺激していたのだが、彼女が横に立ってオロオロしているだけで、いつの間にか穏やかになっていたのだ。

 

 もしかして、後藤は俺のことを心配して来てくれたのだろうか。

 

 ──そう考えたのも束の間、ライブハウスの照明は落ちた。

 

 真っ暗闇の中の観客のざわめきが、波のように広がっていく。

 真夜中の海のようだった。

 辺りは一面と見渡すことのできない闇の中に、観客の息遣いが、興奮が、押し寄せるように呼応する。

 

 舞台の幕がゆっくりと上がっていく。下の隙間から少しずつ光が漏れ出す様は、雲から差す月の光にも似ていた。

 彼女達の足元が見えると──光の色は顔を変えた。

 

 瞬間、音楽が始まった。

 

 尋常ではない雰囲気だった。

 常識をぶち壊すような、それでいて規則的に響く音、音、音。

 

 舞台の上に立つおねーさんは、決していつもの酒臭くてお金にだらしないダメ女では無い。

 サイケデリック・ロックをクールに奏でる、SICK HACKのカリスマ的ベーシストの存在だった。

 

 その音はドラッグを決め込んだかのようにぐわぐわんと脳みそを揺らす。

 

 どこか猟奇的で、非現実的な音楽の濁流だ。

 

 俺は舞台上で音をかき鳴らすきくりさんと目が合う。

 その瞬間、排水溝に水が渦を巻き吸い込まれるかのように、その目に俺は吸い込まれていくよう感じた。

 

「私たちはさ、音で伝えるしかないんだよ。特に口下手な君たちはそう」

 

 先ほど、きくりさんが発した言葉。

 一体彼女は、俺に、俺たちに何を伝えようとしているのだろうか。

 

 ドラム、ベース、ギター。

 全ての完成度が高く、技術力もさることながら、この不気味な音を奏でる演奏力も頭ひとつ抜けていた。

 

 俺はThe Beatles の『Tomorrow Never Knows』を思い出した。

 多分それはきっと、俺の数少ないサイケ・ロックの記憶が引っ張り出されたのだろう。

 

 喧嘩しそうな三つの音はぐるぐると混ざり合って一つの音楽を生み出す。

 気怠げにハイな気分だ。

 

 言葉にする事は容易ではなかった。

 きっと、それこそがサイケデリック・ロックなのだろう。

 

 俺はただその退廃的で力強いサイケ・ロックに翻弄されて、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

 

 ・

 

「お、ぼっちちゃーん……とついでに大倉くん」

 

「俺はついでなんですね」

 

「まあまあ……私のライブどうだったぁ〜?」

 

 どうもこうも聞く前から分かっているくせに。

 俺の顔を見てニヤニヤしていやがる。

 

「……悔しいけど、きくりさんめっちゃカッコよかったです」

 

 彼女はふふん、と満足げに笑った。

 

「おお、初めて名前で呼んでくれたぁ〜」

 

「間違えましたすみません酒ねえ」

 

「酒ねえって何? ──ぼっちちゃんは、どう?」

 

「あ、いや、よかったです」

 

 しかし、後藤の表情はいまだに晴れていないままであった。

 酒臭いおねーさん、もといきくりさんの圧倒的なカリスマ性に気圧されてしまっている。

 

「ねえ〜、なんか元気なくない? ライブ本当はそんなに良くなかった?」

 

「本当に最高でした、でも……あっ、あの……。お、お姉さんすごくキラキラしていて、私なんかとても……」

 

 文化祭ライブへの恐怖からか、彼女は元々少ない自信をなくしていた。そんな時に、自分とかけ離れるほどのきくりさんのカリスマ性を見せられたのだから。

 

「私って実は、高校まで教室の隅でじっとしているネクラちゃんだったんだよ」

 

「「えっ?」」

 

 俺と後藤はその意外な発言に目を丸くした。

 どう見ても今の彼女はネクラちゃんには見えないからだ。

 

「あっ、やっぱりわかる? 陰キャ同士は引かれ合うってほんとなんだな〜」

 

 いやいやいや、分からなかったって。

 しかも貴方の場合、引かれ合っているのではなくてパワフルにグイグイ来るからだろう。というかそのコミュ力、四六時中酒を飲んでいるとは言え、やはり元ネクラちゃんには見えない。

 

「そう言えばさ、ぼっちちゃんも譲くんもなんか雰囲気似てるし〜、やっぱり陰キャ同士は引かれ合うんだね!」

 

 いつの間にか「譲」呼びになってるし。やっぱりコミュ強じゃないですか。

 ……でもまあ確かに、俺も少し前、後藤と仲良くなった時に同じようなことを感じた気がする。

 

「でもある時、自分の将来想像したら普通の人生すぎてつまんね〜って絶望しちゃって。真逆の行き方してやろうって思ってロック始めたの」

 

「……ロックな理由ですね」

 

「えへへ〜、でしょー」

 

 それにしても方向転換が過ぎる。

 普通の人生やめてロックに移るにしても、数ある選択肢の中でサイケデリック・ロックを選ぶだなんて。

 

「楽器屋でベース買うのも、ライブハウス行くのも、最初めっちゃ怖かったし。酒飲み始めたのも初ライブの緊張を誤魔化すためだしね」

 

 彼女が四六時中酒を飲んでいるのはそう言う理由だったのか。

 いや、しかしもう緊張するとかそのレベルではない気もするのだが……きっかけがこの話なだけで今は単なるアル中だろう。

 カッコいいのカッコ悪いのか、ほんとによく分からない人だ。

 

「初めて何かするってのは誰だって怖いよ、でもぼっちちゃんは路上でもSTARRYでもライブできたじゃん──しかも酒に頼らず。自分にもっと自信持ってぇ! 無理なら酒でドーピングもあり」

 

「え、いや、未成年なので。でも、文化祭ライブ、よかったら来て下さい」

 

 正論である。

 でもほんと後藤が20過ぎたらストロングなアルコール飲料をぐびぐび飲んでそうではある。

 

 ……というか、後藤、今。

 

「おっ」

 

 その場にいる他のメンバー達も、後藤のその発言に微笑ましくリアクションをする。

 

「いえーい! その意気だぁ!」

 

 きくりさんは後藤の発言を満足そうに聞くと、元気な返事をした。

 ほんとに、この人はこの人自身の音で後藤を突き動かしてみせたのだ。まったく……やっぱりかっこいいじゃねーかよ。

 

 などと考えていると。

 

 ごすっ、と。

 きくりさんは壁にグーパンをかました。

 当然殴られた壁には凹みが出来ており、

 

「壁の修繕費、10万加算しといたからね」

 

 何処からともなくライブハウスの店長が現れると、慣れた口調でそう言った。

 

「ぼっ、ぼっちちゃんとの連帯責任で」

 

「えっ」

 

 やっぱり酒臭いおねーさんだ。カッコ悪い……。

 

「あと譲くん」

 

 後藤の答えに満足したのか、今度はこちらに振り返りきくりさんは口を開いた。

 彼女は薄く目を開く。サイケ・ロックのようにぐるぐると引き込まれるような魅惑的な瞳であった。

 

「は、はい」

 

「君にはもう──伝わってるよね?」

 

「え?」

 

「言ったでしょ? 私たちはさ、音で伝えるしかないんだよ」

 

 ライブ前のきくりさんの発言。

 だが、俺はまだ答えを出せていなかった。

 彼女が何を伝えたいのか、俺は一体どうなりたいのか。

 

「君は何のために音楽をやっていたのか、これから何のために音楽をやるのか──まっ、弾けるようになったら聴かせてね! 君の音楽」

 

「あ、は……はい!」

 

 ……まだ分からないし、まだ答えは出ない。

 でもやっぱり、きくりさんはカッコよかった。

 

 まったく、ジェットコースターみたいに好感度が上下する人だ。こっちの気持ちにもなってほしい。

 

 ・

 

 俺たちはライブハウスを出ると、夕ご飯食べるべくファミレスに向かうことにした。

 未だにうじうじと考えてる俺は、結束バンドの面々に馴染める気分でもなく数歩後ろを歩いていた。前では先程のライブの感想を皆が話していた。

 

 きくりさんのバンドは、圧倒的だった。

 そして彼女は、伝えたい事は俺にもう伝わってると言った。

 でも俺はまだ分からなかった。彼女が今回のライブで俺に何を伝えたかったのか、そして俺はどうすればピアノを弾けるのかを。

 

 正直な話、結束バンドに入れてもらったものの、未だにメロディーひとつ奏でられない自分に焦りと失望を感じていた。だから、彼女達の背中は太陽の沈んだこの時間でも輝いて見えた。

 

「お、大倉くん」

 

「んー? どうした後藤」

 

 そうしていると、前の三人から抜け出した後藤が俺の方に寄ってきた。小動物みたいで可愛いなんて少しだけ思ってしまった。

 それにしても、この子は意外と周りのことを見ているのだな。4人揃っての初めてのライブの時もそうだった。普段はコミュ力も低くて勝手に突っ走るような奴なのだが、誰かが困っている時には導いてくれる──まるでヒーローのように。

 

「あ、あの、その」

 

「後藤さ、文化祭ライブ、やる気になったんだな」

 

「え、う……うん」

 

 やはり彼女の背中は俺には眩しく見えた。俺にきっかけをくれた彼女が、こうやって1人で荒んでいた俺に居場所をくれた彼女が。

 

「この前さ、俺、お前の相談に適当に返事して本当ごめんな」

 

「ううん、き……気にしないでいいよ。大倉くんが大変だったの分かるし」

 

 後藤……お前は女神になったんだな。

 俺は正直な話、あの日のことを気にしていた。後藤が悩み事を抱えていたというのに、俺は彼女の悩み事に気が付かず、もう一つの俺に関しての悩み事を重荷のように乗せてしまった。

 

 沈黙。

 繁華街から聞こえて来る人の声がやたらとうるさく聞こえた。

 

「大倉くんは、も……もし私がギター弾かなくなったら友達じゃなくなる?」

 

「え?」

 

「……」

 

 じっと彼女の瞳はこちらを捉えた。

 普段は全く目を合わせないくせに、こういう時だけできるのかよ。

 青い瞳は、綺麗なブルーサファイヤのようだった。街のネオンの光を受けて、宝石箱のようにキラキラと輝いていた。

 

「……俺はさ、まともな友達なんていなくて、正直人付き合いとか苦手だし。でも、後藤とは本当に友達だと思ってる」

 

 後藤はその言葉に照れ臭そうに笑う。

 いつもみたいな挙動不審は、この時ばかりは出ていなかった。

 

「それはさ、後藤がギターを弾いてるところを見る前の話だし、結束バンドのメンバーと仲良くなる前の話だし、そんな事は関係なく──友達、だよ」

 

 我ながら恥ずかしくてクサいことを言ったものだと思う。

 でも、これだけは伝えないといけないと思った。俺にとっての初めての大切な友達だから。

 だからこそ、正直に俺の気持ちを伝えたかった。

 

「わ、私も──同じだよ」

 

 だからこそ、彼女の言いたい事は俺の心の中にすっと馴染んでいった。

 

「大倉くんがピアノを弾けるかなんて知らなかったし、結束バンドでキーボードができなくても、ピアノが弾けなくても友達……です」

 

 ──俺は、今までのことを思い返していた。

 

 ──俺は寂しかったのだ。

 

 ──俺は友達が欲しかったのだ。

 

 ──俺は俺を受け入れてくれる誰かを、喉から手が出るほどに切望していたのだ。

 

 裏切られてばかりのこの人生に、ピアノを弾いている俺しか見られていなかったという事実に、人との付き合いをすることに怖がっていた。

 もし、ピアノを弾かない本当の俺が否定されたら。

 そう思うと、怖くて仕方がなかったのだ。

 

 みんなの前でピアノを弾けなかったのも、久しぶりに弾いたピアノで彼女達に求められなかったら。否定されたら。

 

 そんなネガティブな考えで体が動かなくなっていたのだ。

 

「……っ!」

 

 俺は、言葉を発することができなかった。

 今口を動かしたら、耐えられそうになかったから。

 

 ──でも、だとしたら何で俺は、何のために音楽をやるんだ? 

 きくりさんには、もう伝わってると言われた。

 

 でも、わからない。どうして、一体──

 

「大倉くん、遅いよー!」

 

 虹夏先輩が振り返ってそう告げる。

 

「江ノ島の時はあんなに早かったくせに」

 

 リョウ先輩は呆れたようにそう言う。

 

「何悩んでるのか知りませんが、文化祭の打ち合わせあるんですから!」

 

 喜多さんはいつものように明るく笑う。

 

 そうか。

 きくりさんが伝えたかったこと。

 そういう事だったのか。

 

 彼女達──結束バンドの音楽を思い出す。

 どこを切り抜いても楽しく音を鳴らす面々が浮かんだ。

 みんなは笑顔で歩く。

 

 俺は大切なことを忘れていた。

 

 ──楽しいから弾くんだ。

 

 なんのために、なんてどうでもいい。

 こうやって、大好きな人たちと、楽しく音を鳴らしたかったのだ。そして、その人達に恩返しをしたい。

 彼女達を、周りの人を楽しませるようなそんな音楽を。

 

「は、はい!」

 

 ネオンに照らされてもなお暗い夜。

 雲が裂けると、隙間から月の光が街を明るく照らした。

 俺は心が晴れるのを感じた。

 

「あの!」

 

「ん?」

 

 結束バンドの4人がこちらを振り返る。

 

「お、俺、キーボードやります。文化祭も、出ます。出させてください!」

 

 頭を下げて数秒、虹夏先輩の笑い声が聞こえた。

 

「もー、何言ってんの今更。大倉くんもとっくにメンバーじゃないの?」

 

 こうして俺は、もう一度音楽を続けることを決意した。




みなさんほんとに感想、お気に入り、誤字脱字報告ありがとうございます。
嬉しすぎて死ぬほど筆が乗ります、
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