ぼっち・ざ・ぼっち   作:振り米

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喜べ、糖分強めだ


十五話 文化祭にラブコメはつきものだ

 その後も初日の文化祭を俺たちは楽しく回っていた。

 意外にも、みんなと回る文化祭は悪くない、柄にもなくそんなことを思う。

 ただ、虹夏先輩とは相変わらず気まずいままだった。

 

 そして、俺と後藤は1-2にみんなで一緒に戻ることになった。

 俺は戻り次第、大して話したこともないクラスメイトに「稼ぎ頭なんだからすぐに接客に出るように!」と言いつけられ「え、あ、はいすみません」とだけ答えて職場に復帰した。

 

 ……というか何故、俺は腕を折っているにも関わらず接客をさせられているのだろうか。

 ぶつくさ文句を言いながらコーヒーを震える片手で運んでいた。

 俺はちらりと横を見る。

 虹夏先輩、リョウ先輩、喜多さんは何が楽しいのか目を輝かせながらそこに座っていた。

 

 さらに俺は入り口側を見ると、後藤が看板を持ち立ったまま気絶していた。

 

 ──すると、突然世紀末的な風貌をした二人組が現れた。

 後藤は気絶しておりなおかつ変な顔をしているのだが、メイド服を着たその姿はスタイル抜群で俺には直視できないほどの美少女だった。確かに、ナンパされてもおかしくないだろう。

 

 俺は先ほど助けてもらった恩返しをしなければ、そう思ったのだが。

 

(いやあいつらこえー)

 

 無理でした。

 ヤバくなったら先生呼ぼっと。

 

 しかし俺の心配は杞憂に終わった。

 彼女は世紀末的な風貌の二人組にガンを飛ばされるも、真っ向から向かい合い──勝った。

 彼らは後藤に土下座をし大人しく教室内に入ってきた。

 

 いや入るんかい。

 

「ぼっちちゃーん、注文お願いしまーす」

 

 虹夏先輩がそう声を出す。

 

「私は大倉を単品で注文する」

 

 リョウ先輩に俺を単品で注文されてしまった。お、お持ち帰りされちゃう! 

 

「ご……ご注文は?」

 

 後藤は一瞬で彼女らの前にたどり着くと、ぎこちない態度で注文を取りに行った。

 それにしても、慣れている人が相手とは言え後藤は昔なら絶対にこんなことできなかっただろうに。確実に成長している。なんとも感慨深いものがある。

 

「んーっとねえー……てか、それにしてもぼっちちゃん、メイド服似合すぎじゃない?」

 

「後藤さんはこういう甘い系の服似合いますね!」

 

「わかるぅ〜。ジャージ以外も着ればいいのにー」

 

「いや、それは……」

 

 虹夏先輩と喜多さんのパワーに押される後藤。わかっている、この流れ次はどうせ俺のターンなのだろう。

 

「大倉くんもとっても似合ってますよねー! さっきからずっと逆ナンされてますよ!」

 

 ……え? もしかして俺が先ほどから他校の生徒に声をかけられていたのって……逆ナン……? 

 

「ぎゃ……逆ナンって、あの、だいたい駅前に一つはあってネパール人がやってるインドカレー屋さんでおかわり自由なやつ?」

 

「それは表ナン!」

 

「喜多さん、表ってなに?」

 

「〜〜っ! 乗ってあげただけでしょ!」 

 

 やはり郁代はかわいいなぁ。

 それにしても、俺が先ほどまで声をかけられていたのは逆ナンだったとは。

 

 ならロイン交換しとけばよかった!! 

 どうせ続かないけどね!! 

 

「この格好の大倉、いい」

 

 そう言いながらリョウ先輩はこちらにスマホカメラを向けた。

 

「あ、ちょっと。事務所通してください」

 

「結束バンドは事務所入ってない」

 

 完璧なカウンターを食らってしまった。

 それにしても、いざこうやって写真を撮られるってなると恥ずかしいというかやめてほしい。

 

「あ、あの、大倉くんも嫌がってそう? だし、いいんじゃないですか?」

 

 すると、いつも写真パシャパシャしてナイトプールとパシャパシャしている女、郁代ちゃんが珍しくリョウ先輩の行動を遮った。

 

「……どうして?」

 

「ほ、ほら、前に大倉くんの写真撮った時にトラウマになってそうだったので──」

 

「もう撮った」

 

 そう言ってリョウ先輩が差し出した写真に写る俺は──

 

「またあの顔してるじゃねえかああああああ」

 

 黒歴史を再生産されてしまった。

 

「リョウ先輩お願いしますその写真消してください」

 

「じゃあ1週間私の専属執事になったら消してあげる」

 

「──リョウお嬢様、あまり無茶を申し上げないでください。わたくしめも困ってしまいます」

 

「一瞬で執事になってるじゃないですか!」

 

「セバスチャンと呼んでください」

 

「なんですかセバスチャンって!」

 

「執事のような名前かな、と思いまして」

 

「……良い」

 

 その写真を消すためなら俺は犬にでもなろう。

 だがリョウ先輩のこの顔、一生消す気がないな。

 すると今度は、突然真横から壊れた機械のような音が漏れ出していた。

 

「あ……あ、あの! あ、お、大倉くん、か、かっここここ」

 

「ぼっちちゃんが壊れた!」

 

「大倉が壊した」

 

「いや自滅ですこいつの」

 

 そういえば前にもあったなこんな事。無理して誉めようとするからそうやって壊れたレコードみたいになるのだ。そうやって気を遣われる方がやはり傷つくではないか。

 

「大倉はぼっち、どう思う? さっきから見てないけど」

 

 ちぃっ! リョウ先輩普段は全くと言って良いほどに周りに気を遣えないくせに、腹立つことにこういう時に限って勘づきやがる。

 

「いやー、似合ってるんじゃないですか?」

 

 俺はぶっきらぼうにそう答える。

 すると今度は喜多さんが立ち上がり、俺の肩を持つ。

 

「そんな照れないで、ちゃんと後藤さん見て言ってあげましょうよー」

 

 ぐいぐいと向かい合わせるように動かす。

 

 後藤は後藤で、リョウ先輩にぐいぐいと動かされていた。

 

「ちょっ、待って、ややややややめ──」

 

 向かい合うような形になると、俺は後藤と目が合い──咄嗟にそらす。

 

「──」

 

 俺はまともに彼女を見ることができなかった。この歳にもなって、中学生みたいな恥ずかし過ぎるぎこちなさだ。恋愛経験も多くない中で、腐っても美少女だと思っていた彼女が、本当にこんなに可愛い格好をされたら意識しない方が難しい。

 

 俺のあまりにもガチすぎるリアクションに、場の空気は固まってしまった。

 

「……大倉、耳真っ赤」

 

「〜〜っ!」

 

 俺はその空気と雰囲気に耐えきれずにその場から立ち去るように逃げ出した。

 

 最後にポツリと「やりすぎた」と言うリョウ先輩の声だけが聞こえた。

 

 ・

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」

 

 やってしまった。

 

 いつもはネタ半分くらいの感じで後藤の容姿を褒めていたが、流石にこうもガチすぎるリアクションを取ってしまったら、それこそ本当に後藤と顔を合わせることができないではないか。

 

 変に思われてないかな。

 

 柄にもなくそんな事を考える。

 もしかして俺は、後藤のことが……好き、なのだろうか。

 

 いやいやいやいやないないないない。

 

 あいつはコミュ障で友達が少なくてたまに奇行と奇声を発するヤバいやつなのだ。

 

 ──しかし俺は自分のことを棚に上げて後藤にそんなことを言えるのか? むしろそれは相性がいいのではないか? 

 

 それに、後藤には変なところもたくさんあるがそれ以上にいいところだってたくさんある。

 本人は気がついていないが、俺を救ってくれたのは間違いなく彼女だし、いざという時には頼りになるヒーローみたいなやつだ。

 今日みたいに見た目に気を遣えば確実に本物の美少女になるし、内面も外見も本当は凄いんだって事は誰よりも分かっているつもりだ。

 

 文化祭マジックだ。

 俺は自分にそう言い聞かせた。

 

 高鳴るのをやめない心臓も、火照った顔も、真っ赤な耳も、ぜんぶぜんぶ。

 

 それにだ、万が一、いや億が一にでも彼女と付き合ったらどうなるだろう。その先が全く想像できない。

 そもそも、俺が付き合えるだなんて烏滸がましい考えだ。後藤の良さに気がつく奴がいれば、もっとモテモテになるような人間……だと思う。たぶん。きっとそうなんじゃないか。いやそうでもないかも知れない……。

 

 俺は今朝後藤を発見したのと同じ場所で、体育座りになって「ゔぁぁぁぁ」とゾンビのような唸り声を上げていた。

 すると。

 

「大倉くんも、後藤さんと同じ生態系なのね……」

 

 俺の横には、いつの間にか喜多さんがいた。

 

「き、喜多さん」

 

 同じ生態系と言うのは、逃げた先がジメジメして暗くてナメクジがいそうな場所だったからだろう。

 

「何してるの? こんなところで」

 

「いや、暇してる」

 

「そうなんだ」

 

 ぶっきらぼうに呟いた俺に対して、深くは聞いてこない。陽キャはぐいぐいデリカシーなく話しかけてくるものだと偏見を持っていたが、どうやら先程の俺の態度には言及してこないようだった。

 

「──だったら、ちょっと一緒に回らない?」

 

「え、いや、いいですごめんなさい」

 

「暇じゃないの!?」

 

 今更だが、人気者の彼女と2人きりで回る事は絶対に周りの目が気になるのでなるべく避けたかった。

 ──しかし、先ほどみんなで回った文化祭が楽しかったのも事実だ。

 

「悪い、じょーだん」

 

 俺は気持ちを切り替えるためにも喜多さんの誘いに乗ることにした。

 

「もー、大倉くん意外と冗談言うのね」

 

「ひねくれ者だからな」

 

「……ただのツンデレじゃない」

 

 ただのツンデレ認定されてしまった。

 確かに、結束バンドメンバーは皆素直でツンデレ枠というものはいなかったかも知れない。つまり俺が結束バンドのツンデレ担当……? 

 

「その前にちょっとお話ししましょう!」

 

「会話は苦手だけどそれでいいなら良いよ」

 

「まったく……大倉くんはさ、緊張とかするの?」

 

「いつもしてるさ、うちのクラスの出し物の最中とか緊張しっぱなしだし」

 

「ふふふ、確かに。でもそっちじゃなくて、音楽やってる時のこと。ライブ中とか──大倉くんだとコンサートの時とか」

 

 俺はまだ結束バンドでのライブは未経験であった。なんなら、明日が初めてのライブだ。

 しかし、その事自体にはあまり緊張を感じていなかった。

 

「もちろん緊張するさ」

 

「えーそうなんだ。意外」

 

「意外か?」

 

「うん。後藤さんとか普段はあんな感じで、ライブ中も緊張してるーって感じがするのに、いざという時は急に感じなくなって、頼もしくなるからさ」

 

「……それは、確かに」

 

「大倉くんも後藤さんに似てるとこあるからどうなのかな、って」

 

 俺は過去の自分を思い返す。

 ピアノを演奏する舞台でも緊張は確かにしていた。しかし回数を重ねるごとに自然と弾けるようになっていった。もちろん、舞台の重要性やピリついた周りの雰囲気によっても変わるとこではあるのだが、あまりしなくなっていたのかも知れない。

 

「……私さ、普通なのよね」

 

「ええぇ、そうか? 超陽キャじゃん、陽キャの鑑じゃん」

 

「ありがとう、でいいのかな? あんまり褒められてる気もしないけど……」

 

 彼女はそう言うと、あははと遠慮がちに笑った。

 

「後藤さんとか大倉くんみたいに普段から普通じゃないと言うか、只者じゃない! って感じは私にないしさ。……それに演奏力も凄いし。私は緊張しっぱなしだし、平凡だなーって思っちゃうのよ」

 

「……」

 

「だからさ、ギターボーカルやっててもみんなみたいに華が無いし。みんなと合わせるのは得意なんだけど、人を惹きつける演奏はできないから」

 

 彼女もまた、悩みを抱えていた。

 だからこそ俺は、大丈夫だと気がついた。

 

「──喜多さん、音楽を舐めすぎ」

 

「え?」

 

 ここは慰める場面なのだろうか、それとも叱咤激励する場面なのだろうか。

 コミュ力のない俺には分からなかった。

 

 俺が慰めたところでその悩みは根本的に解決するものではないし、叱咤激励の上から目線のお説教なんて問題外だ。

 女の子の相談には共感してやれ? 

 

 糞食らえ。

 

 俺は俺なりの言葉を口にすることしか出来ないのだから。

 

 口下手だから音楽で伝えるしかないとか俺は言っていたって? 

 ごめん今手元に楽器がないのでその事は一回忘れてください……。

 

「初めて数ヶ月でそこらの学生バンドよりクオリティの高いギターボーカルできてるし、緊張するとか言いつつMCも上手くなってきてるし、周りを見ながら曲合わせることもできてるし、すげーんだよ喜多さん。というか、成長早すぎ」

 

「……ぁ」

 

「タケノコみたいに成長してんのに、劣等感を覚えるなんて図々しい」

 

「……ふふっ、タケノコって」

 

「でもさ、だからこそ喜多さんは絶対にもっと上手くなると思う」

 

「……ほんと?」

 

「普通より全然早い速度で前に進んでるのにさ、後ろを見ないでさらに前を見てるんだもん。そーゆー人は絶対に上手くいくと思う」

 

 喜多さんは驚いたように横並びの俺へ顔を向ける。数秒こちらを見ると、正面を見つめ直して、照れたように笑った。

 

「あと緊張は慣れだ。こればっかりは断言できる」

 

 そもそも、悩んでいる人間は強いのだ。

 後藤も悩みながら、少しずつ確実に成長している。話を聞いたわけではないが、きっと虹夏先輩もリョウ先輩もそうなのだろう。

 

 悩まない人間は、限界を決めて成長を止めているのだ。それこそ非凡な才を持っていない限りは。

 だから人は努力をするし、踏ん張れるし、前に進める。

 

 俺はその事を後藤の背中に教えてもらった。

 

「あーあ、大倉くんに励まされちゃった」

 

「自分から相談しといて……しかも別に励ましとかじゃないって」

 

「それじゃあ何?」

 

「歯に衣着せぬ物言いで本音ぶちまけただけ」

 

「……だとしたら」

 

「ん?」

 

「だとしたら、優しいね」

 

「──」

 

 喜多さんは太陽みたいな笑顔を見せた。安直な表現だが、それが1番しっくりきた。

 

 俺は照れを隠すようにして立ち上がると、折れていない右の手を差し出す。

 

「左様でございます。わたくしめは執事ですから」

 

「っふふふ、あははは」

 

 彼女はお腹を抱えて笑うと、差し出した手を掴んだ。

 

 ……あ、あ、いや。それ掴むために出したんじゃなくてなんか執事っぽいポーズしただけなのに。

 俺はテンパりと照れを隠すために、彼女が立ち上がるとすぐにその手を引っ込め、頭の後ろをぽりぽりとかく。

 

「そのキャラ、似合わない」

 

「無理してやったんだよ……」

 

「──じゃあさ、一緒に回ってる時は私の執事になってよ」

 

「え、いや、な……なんで?」

 

「練習。慣れるものなんでしょ?」

 

 ……まったく。

 陽キャには敵わない。

 だけどこちとらタダで負けて帰るほどお人好しではない。

 

「かしこまりました、郁代お嬢様」

 

「あー! 名前で呼ばないでー!」

 

 俺は跪くと彼女の手を掴んだ。

 

「……え、え、え?」

 

 そうして手の甲に口づけをするフリをして──

 

 こつん、と手の甲に頭突きをした。

 

「仕返し」

 

 俺はニヤリと笑い、喜多さんを見上げると。

 

「あ、あはははは、そ、そうだよね。するわけないよね!」

 

 想像以上に顔を真っ赤にして動揺する喜多さんを見ることができた。

 俺だって死ぬほど恥ずかしいことをやっている自覚はあるが、この表情が見られたのなら十分すぎる成果だろう。

 

 こうして俺たちは少しだけ2人で文化祭を回った。

 

 ……今朝、俺が喜多さんを連れ出した事と、2人きりで文化祭を回っていた事が広まることにより、2人の仲を疑われるようになる未来を知らずに。




結局筆が止まらずまた投稿しちまったよ
誰か止めてくれ
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