ぼっち・ざ・ぼっち   作:振り米

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文化祭で青春したったなぁぁぁぁぁあ!
男友達とバカやるのも楽しかったけど!!!!


十六話 可愛い子にはメイド服を着せろ

 喜多さんとの文化祭デート(俺はそう信じている……2、30分回っただけだが)を終え、再び自分のクラスへと戻る。

 俺は途中で仕事を抜け出してきており、サボってばかりだったので流石にちゃんと働かなければクラスでどんな陰口を言われてしまうのか想像もつかない。なので、今度こそしっかりと執事を全うすることにした。

 

 意外と責任感があるんだな俺。

 これならブラック企業も社畜根性で働けそうだ。

 

「も、戻りましたー」

 

 俺は脱走してばっかりと言うこともあり、さらーっとこっそーり教室に戻った。

 

 すると、なぜかメイド服に着替えた虹夏先輩とリョウ先輩がいた。

 

「えへへー」

 

 ……虹夏先輩はノリノリであった。

 

「「やばーい! かわいいー!」」

 

 主犯格らしき俺のクラスメイトの女子達は、2人の圧倒的なビジュアルに興奮を隠せていないようだ。

 改めて見ると、結束バンドのメンバーは皆ビジュアルが非常に強いことを思い知らされる。

 

「いやっ、待ってください!」

 

 すると、俺と同時に教室へと足を踏み入れた喜多さんは突然声を張り上げてリョウさんのもとへ駆け出した。

 

「先輩はお姉さまスタイルで! いやっ、あえて男装スタイルってのも……」

 

 しゅばばばと職人のような早業でリョウ先輩を着飾っていく。

 

「我ながら素晴らしいコーデね! あはっ、あはははははは」

 

 喜多さんは気持ちが悪いくらいに興奮しながら、男装スタイルのリョウさんの写真を撮りまくっていた。

 

「私との熱量の違い、ヤバくない?」

 

 虹夏先輩はそんな喜多さんの様子を見て、ぽかんとしながらそう呟いた。

 たしかに、虹夏先輩も非常に似合っているのだが、喜多さんの目にはもはやリョウ先輩しか映っていない様子である。

 

「いやぁー、でもこの2人ビジュアル強過ぎでしょ!」

 

 クラスメイトの声に、虹夏先輩は某手品師のネタかと思うくらいに耳を大きくして聞き耳を立てる。

 

「あの、ちょっとだけ手伝ってもらってもいいですか!?」

 

「いいよぉ〜! 接客業のバイトしてるし自信あるんだー。任せてっ!」

 

 この掌の返しようである。

 ビジュアルを褒め称える声に敏感に反応した虹夏先輩は、突然満面の笑みを浮かべて振り返った。

 

 俺は突然始まったキラキラしたJKのノリについて行くことができず大人しくコーヒーカップを下げることにした。

 後藤は……みんなに忘れられたかのように端っこでポツンとしていた。いやまあいつも通りではあるのだが。

 

 俺はやはり戻らなければよかったと、軽くため息をついて気配を消す。

 消したつもりだったのだが、運悪く目が合ってしまった。

 

「……虹夏先輩」

 

「……あ」

 

 俺はさりげなくフェードアウトして目が合ったこと自体を無かった事にしようかとも思ったのだが、気になることもあったので声をかけることにした。

 しかし、虹夏先輩は俺が話しかけるとばつが悪そうな表情を見せた。ここ最近はそんな感じが続いていた。

 俺はゆっくりと彼女に近づく。

 

「俺の腕のこと、まだ気にしてるんですか?」

 

「…………しないわけにはいかないじゃん?」

 

 あはは、と彼女は笑うが、どう見ても本心からではない乾いた笑みだった。

 

「……ごめんね、わたしのせいで」

 

 いつもの明るさは鳴りを潜め、眉毛をハの字に垂らしながら聞こえるか聞こえないかわからない程度の声量で呟く。

 

「虹夏先輩」

 

「な、なに?」

 

「こういう時は、申し訳なさそうにごめんとか言わないでください」

 

「え?」

 

 虹夏先輩は驚いたように顔を上げる。

 

「……笑顔でありがとうって、言って欲しいもんなんですよ」

 

 俺は当然骨折のことなど気にしていないし、むしろ女の子を守って出来たのなら名誉の傷だとさえ思っている。

 だから、こんなすれ違いなど不要だ。

 

「──う、うん」

 

「あと俺は、口下手なんでちゃんと本番で示しますよ──音楽で」

 

 俺がそう言うと、ホッとしたような、少しだけ照れた表情を見せた。

 俺はくるりと周りを見る。後藤はぼっちだし、リョウ先輩も意外と乗り気だし、喜多さんまで着替え始めているしで辺りはわちゃわちゃとしていた。

 虹夏先輩はそんな周りの様子を気にせずに、深呼吸をひとつした。

 

「そ、その、大倉くん」

 

「はい」

 

「──あの時、私を庇ってくれてありがとう」

 

 振り絞った声で彼女はそう言った。

 きっと、彼女なりに思うところはあるのだろうし、多少はなんらかの決意を持ってそう口にしたのだろう。

 だからこそ俺は、極めて軽く、飄々と受け止めることにした。

 

「まったく本当ですよ。おかげで骨折れたんですから」

 

「えええええ! ここは上手く和解する場面じゃないの!?」

 

 思った通りのリアクションだ。

 

 やはり、虹夏先輩はこうでなきゃ。

 

「あー腕痛いなーつらいなー」

 

「もー! 大倉くんのいじわる」

 

 虹夏先輩はいつもの笑顔でそう言う。

 あの日以来俺たちの間にあった気まずさは、自然とどこかに行っていた。

 

 ──あとは、明日。彼女の期待を裏切らない演奏をして見せるだけだ。

 

「あー、それとさ」

 

「な、なんですか、先輩」

 

「い、今更なんだけどこれ。どう、かな?」

 

 いつもの元気さと明るさを見せつつも、少しだけトーンダウンさせて、恥ずかしそうに彼女はそう口にした。

 

「どう、とは?」

 

「この服」

 

 この服、とはつまりメイド服の感想を俺に求めてきたのであろう。俺は虹夏先輩の全身をさらりと見る。

 フリルのついた膝下までのスカートを恥ずかしそうに押さえている。胸元には大きく真っ赤なリボンをしており、白のカチューシャも相まって完璧なメイドコスプレ度合いであった。

 

 普段からめちゃくちゃ綺麗な人だなとは知っていたが、いざこうして見慣れぬ服を着ているところをると、本当に顔面強者なのだとはっきりさせられる。

 

 そして、最後に目が合う。

 彼女の目は感想を求めていた。

 

「……」

 

「……似合ってると思います」

 

 さすが虹夏先輩だ。この明るい性格とビジュアル面まで考えた総合力で言えば、今この場にいるすべての人間より上のランクにいるのではないか。そう思うほどに彼女のメイド服姿は似合っていた。

 俺は恥ずかしさもあり、ややぶっきらぼうに答えた。

 

「ちゃんと見た?」

 

「今めちゃくちゃ視界に入ってるじゃないですか」

 

「……」

 

 似合っている、と俺は口にした。

 当然その言葉は褒めたつもりであったのだが、なぜか虹夏先輩は不服そうであった。

 

「……ぼっちちゃんの時と、リアクションが違う」

 

「あ、ああ……あれ俺も死ぬほど恥ずかしかったんで思い出させないでください」

 

「うーん……そうじゃなくて……」

 

 俺だって、先ほどの後藤の姿になぜあれほど動揺したのか理解できていないのだ。なんなら未だにまともに見れていないのだから。……まあおそらく普段のギャップにそのような感情を俺は抱いているのだろう。

 虹夏先輩に関してはいつもおしゃれでビジュアルも強いので、流石の俺もあそこまでの反応はしないで済んだ。

 

「──私が着てるのを見ても、ぼっちちゃんの時みたいに動揺しないんだ」

 

「え? ええ、まあ」

 

 俺が気の抜けた返事をすると、虹夏先輩は目に見えてむすっとした。

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙、虹夏先輩は膨れっ面でこちらを見る。

 

「………………大倉くんのばか」

 

「え、えっと、すみません?」

 

 なぜ俺が突然バカ呼ばわりされなければならないのか理由は分からなかったが、とりあえず謝ることにした。

 

「もう知らなーい」

 

 そう言ってそっぽを向く。

 俺は何か発言を間違えたのだろうか。

 

 本当に謎なのだが、おそらく俺の発言のどれかが原因で機嫌を損ねてしまったはずなので、取り繕うように改善に向かうための言葉を探した。

 

 虹夏先輩は「似合う」という言葉だと満足しなかったのだろうか。それとも、後藤にしたレベルのガチのリアクションをしていないから、虹夏先輩は後藤以下だと思われたことに対して立腹しているのだろうか。

 おそらくそこら辺が妥当なラインなのだろう。

 

 なので俺は「似合う」以外の言葉でなおかつ後藤以上だと表現できるセリフを見繕った。

 

「……後藤は、普段があんなんだから驚いただけです」

 

「ふーん……」

 

「総合的に見たら、虹夏先輩が一番、か、か、かわ……いいですよ」

 

「……ふーんっ!」

 

 うっわ恥ず。

 先輩に向けて可愛いとか口にするのも、言いづらさと恥ずかしさを感じてしまうし、ぎこちない感じになってしまった。

 

 しかし、虹夏先輩はそのセリフを聞くと、一転して嬉しそうに振り向いて──

 

「大倉くんのばーか」

 

「え、えー……せっかく褒めたのに……。馬鹿とは失礼っすよ」

 

「……女たらし!」

 

「……何でそうなるんですか」

 

 いつどこで俺は女性をたらし込んだと言うのか。

 人生で一度もたらし込んだことがないことで有名なこの俺だぞ。たらし込めるような人間だったら今頃彼女の1人や2人作って青春を謳歌しているはずだ。

 

「ふふっ」

 

 しかし、俺のセリフチョイスは間違えていなかったのか、虹夏先輩は目に見えて機嫌が良くなった。

 

 まったく、本当に女心というやつは理解できない。

 ……男と女はいつまでもきっと理解し合えないのだろう。

 

 ・

 

 文化祭1日目を終えた。

 待ちに待った? かもしれないこのイベントも半分が過ぎていった。あっという間にも感じたし、色々あった今日1日は長くも感じる。

 だが、本番は明日だ。

 泣いても笑っても、あと十何時間もすればその時は来る。

 

 俺たちは、最後の練習にとリハーサルを開始していた。

 

「そうだ、明日のライブMCどうする?」

 

 文化祭ライブを目前に、虹夏先輩は喜多さんにそう投げかける。

 

「メンバー紹介と曲の紹介……それに何か一言って感じですかね」

 

 そうか、バンドにはメンバー紹介とかあるのか。苦手だな、そう言うのは。

 喜多さんと虹夏先輩に任せっきりでいいや。名前呼ばれてピアノのテクニック披露してドヤ顔する感じのやつがいい。

 

「いやー、今でも十分なんだけどさ、売れてるバンドみたいにMCでもおもしろく盛り上がらないかなぁって」

 

 確かに、虹夏先輩の言うことにも一理あった。

 文化祭ライブのMCは、内輪ネタでもなんでも言えば盛り上がりそうだ……舞台に立つ者が人気者であれば。

 例えば俺や後藤が突然ライブMCをしたところで、「え、誰こいつ?」みたいな寒い空気になるのは火を見るより明らかなのだが、話をするのは喜多さんだ。男女問わず人気者で、いつもより話しても盛り上がるだろう。

 

「おもしろいバンドのMCなんかない……ファンが空気読んで愛想笑いしてるだけ」

 

「辛辣すぎる!」

 

 リョウ先輩は冷たい目でそう言い放つ。

 たしかに内輪ノリで寒いなーって感じるようなライブMCもあるが(大倉個人の感想です)、俺は次曲に繋がるようなライブMCなんかは大好きだ。ミスチルの桜井さんみたいに空気や雰囲気に酔えつつ小笑いを取れるようなMCから、流れに乗りつつも会場の雰囲気をガラリと変えて曲に移る瞬間は鳥肌モノだ。

 

「人気が出ればそのうちクソMCでも大爆笑になる。安心して」

 

「むっ、それ慰めてんの? けなしてんの?」

 

「か、解散の危機……!」

 

 虹夏先輩とリョウ先輩はトムとジェリーよろしく、仲良くバチバチ視線を交わしていた。

 

「はいっ! ケンカはなしです。最後の練習頑張りましょう!」

 

「ごめんごめん、頑張ろう」

 

 リョウ先輩が絡まなければ1番の常識人である喜多さんがそう言うと、同じく常識人の虹夏先輩もそう口にした。

 まるで、リョウ先輩と後藤が常識人じゃないかのような口振りだって? 

 事実なんだから仕方がない。

 

「じゃーいくよ!」

 

 虹夏先輩の合図とドラムスティックのカウントから、俺たちは再び練習へと戻った。

 

 ……やはり、と言うか。

 俺が言うまでもなく確実に皆が上達を見せていた。

 

 喜多さんのギターも、初めて数ヶ月が経つとはいえ今では練習さえすればミスなく通しでこなす事は容易になっていた。

 さすが結束バンドのたけのこ担当。成長率はピカイチだ。

 成長率はピカイチだ。

 

「ら、ライブ、少しでも盛り上がるといいですね」

 

「うん! 絶対楽しんでもらえるって」

 

 後藤にしては前向きな発言だな、と思った。またそれと同時に最近の彼女は少しだけだが出会った時に比べると前向きになっているような気がした。

 

「盛り上がるよ……きっと」

 

 そのせいもあってか、俺もつられて前向きになっていた。

 彼女となら、このメンバーとなら高く飛べる気がした。

 

「なんか2人とも前向きになったねー」

 

 虹夏先輩が子供の成長を見守るように、うんうんと頷く。

 

「これで俺らも一躍学校の人気者だな、後藤」

 

「え、えと、えへへへへ」

 

「ほら空想から早く帰ってこい。冗談だから」

 

 俺が適当な発言をすると、相変わらずの奇行を彼女は見せた。

 ……まったく、変わらない奴だ。

 でも、そんなところも含めて後藤なのだ。後ろ向きに前向き、と言うべきか。とにかく、凄いやつだ。

 

「でも確かに、みんな後藤さんにびっくりしちゃうかもね」

 

「えっいや、それは……」

 

「絶対するわよ、だって後藤さんは凄く──」

 

 喜多さんはその続きは口にしなかった。

 が、その表情が物語っていた。

 

「ううん! なんでもない。がんばろ!」

 

 ね! と前のめりになりながら後藤へと声をかけた。

 

「え、あ、はい」

 

 後藤は頭の上にはてなマークを浮かべている。

 

 ……お前は鈍感系主人公かっつーの。

 

 それにしても、この2人は本当に尊いな。

 百合の花が咲き誇りそうな雰囲気……俺はこの場にいられるだけで最高だな。ああ、いっそ空気になりたい。大気中の百合成分と共に漂って感じてたい。

 

「大倉、キモい顔してる」

 

「え、キモいって……」

 

 リョウ先輩のキレッキレな悪口にシンプルに傷ついた。

 いやまあ確かにキモい妄想してたのは事実だから否定しようがない。

 

 ……というかすぐ空想の世界にトリップした後藤に奇行とか言っていたが、つまり他人から見た今の俺も奇行を行なっているように見えたのか……? 

 やめて死んじゃう。恥ずか死ね。

 

 だが、今日の俺は後ろ向きに前向きデーなのだ。ちょっとやそっとじゃネガらないぞ。

 

「何言ってんですかリョウ先輩、俺に執事服を着せたら右に出るものはいませんよ?」

 

「今着てないし……というかナルシスト」

 

 あなたにだけは言われたくない! と口にしてしまいそうになるも、なんとか耐え切った。

 

 この人を敵に回したくは無いからな。

 身包み剥がされて追い出されちゃうかもしれない。

 ……いざという時のために今度からは財布に多めにお金を入れておこう。

 賄賂で許してもらうために。

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