ぼっち・ざ・ぼっち   作:振り米

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やあみなさん久しぶり
ゴルフ始めなければならなくて時間無かったと言い訳させて

時系列的には文化祭直後の話になります


二十話 今時ラブレターなんて使う人いないから逆にきゅん

 

 私はラブレターを受け取った。

 

 嘘でも幻でも妄想でも無ければ、紛れもなく現実に起きた非常事態であった。当然ラブレターを受け取った瞬間は全ての思考が停止してこの世界の真理の扉を危うく開きかけたのだが、ギリギリのところでなんとか現実に自らをとどめることに成功した。

 なぜなら、私にラブレターを渡したのは男の子ではなく紛れもなく同級生の女の子だったから。

 そして、その次にさりげなく添えられた一言、それはポテトフライについてくるケチャップのようで、いつ登録したかも覚えていない積もりに積もったメーリングリストの謎のpdfファイルのようでもあった。

 

「ご、ご、ごなんとかさん! これ大倉くんに渡してくれませんか!?」

 

 それはクレイジーでロックなキャラとしていつの間にか知れ渡っていた私とは違い、順当に好感度を稼いだ裏切りぼっちである大倉譲に向けられたラブレターだった。

 

 その時は私は、今までに感じたことの無いような不思議な感情に駆られた。

 どうしてわざわざ私に、どうして譲くんに。

 少なくとも現状は女の影がない譲くんだが、顔は贔屓目に見ても整っているしピアノも驚くほどに上手だしツンデレではあるのだが優しいしそう思っていたら突然素直になりもするしで、偶にある奇行を除けば、猫みたいな彼にとって警戒されないような人間になりさえすれば非の打ち所がないほどに魅力的な人ではある。

 

 ……だが、彼の魅力に気がつくにはそれ相応の関係と時間が必要だし、結束バンドのメンバー+α以外の人にとってはそう簡単に気がつけるような部分ではないと思う。

 

 だからこそ私は、そんな譲くんの魅力に気がつけている数少ない人間であることに優越感のような感情を持っていたし、それに文化祭だけの彼の姿を見ただけで簡単にラブレターを渡すような人に対して気持ちの良い感情は持てなかった。

 私に似合わず小魚の骨のようにつっかかる気持ちを持ちつつも、預けられてしまったからには渡さなければいけないという謎の責任感が混在しており、なんとか常識的な判断としてそのラブレターを彼に渡すことにした。

 

 渡すことにしたのだが。

 

(ど、どうやって渡せばいいのー!?)

 

 人生十年と少しを生きてきた私にとって、男子に手紙を──ましてやラブレターなんかを渡した経験は無く、見事にタイミングを失っていた。

 

 譲くんが通学してくる少し前に同級生の女の子から受け取ったラブレターは、私の机の中で少しばかりの時間陽の目を浴びることなく眠っていた。

 

 ──彼が朝席についた時、まだ私はどう声をかけるべきかシミュレート出来ておらず渡すことができなかった。

 

 ──授業間の小休止、彼は寝たふりをしていて渡すことができなかった。

 

 ──お昼休み、神隠しにあったのではないかと思うほどの速さでチャイムと共に何処かへと消える彼に渡すことが出来なかった。

 

 そして、迎えた放課後。

 今日はSTARRYでのバイトがある日だった。つまり、本日彼に向けられた他人のラブレターを渡す最後のチャンスがいつの間にか来てしまった。

 

 大倉くんは終礼が終わるといち早く席から立ち上がる。

 まずい、このままだと本当に帰ってしまう。

 

 そう思っていたら、運の良いことに彼は私に声をかけてきたのだった。

 

「今日のごと……ひ、ひとりさ、なんかずっとソワソワしてたけど何かあったの?」

 

 文化祭二日目のライブ以降、私の事を名前で呼んでくれるようになった。その事実に喜びを感じて噛み締めているのも束の間、話しかけられたのだから何かボールを返さなければと使命感に駆られた。

 

「あ、あのそのあのあのあのとりあえず校舎裏行きませんか!?」

 

「と、とりあえずでいく場所なのか校舎裏は……」

 

 驚いた彼は素っ頓狂な声を上げる。

 いつも言葉に出してからやってしまったと後悔する。コミュ障ぼっちにとっては、突然の会話で完璧な返答をすることの難易度は非常に高いのだ。

 

「──また、新手のカツアゲでもするのか?」

 

 だが、彼は私の脈略のない会話も笑って流してくれる。受け止めて、ゆっくりと会話を続けてくれる。

 それに、初めて会ったライブのチケットを売るために「1500円」を突然求めてしまったあの日の事もあざとい事にちゃんと覚えていてくれるのだ。

 

「ち、違います。ただちょっとここだと話しづらいというか……」

 

「そっか、よく分からないけど別に良いよ。ごと……ひ、ひとりは今日バイトだろうし早いとこ行こうか」

 

 相変わらず私の名前を呼び慣れていない彼の照れながら声に出す姿にかわいさを感じる。

 なんにせよ、これでやっと肩の荷が下りる。

 

 ・

 

「で、話しづらい用事ってなに?」

 

 放課後の校舎裏には当然基本時に人はいない。たまに、後藤ひとりの関わってはいけない部活動ランキング堂々の一位である野球部の丸坊主頭達が聞き取れない不思議な掛け声を発して脱獄囚さながら爆走する事以外には、本当に人が通らない。

 しかし、人がいないとは言えそれが話しづらい内容をうまく話せる要因になるわけではない。校舎裏に来たのはあくまでも話しづらい要素を減らすためであって、話しやすい要素を増やすためのものではなかったのだから。

 

「あ、あのー、これを……」

 

 一日中たっぷりと考えた結果がこれだ。

 

 どうせうまく話を切り出す事はできないのだから、示現流のように初太刀で一刀両断してぶった斬ってやる事にした。前置きも枕詞も映画の上映前に流れる惹かれない予告達もかなぐり捨てて、ワンシーンからクライマックスで名前も知らない誰かのラブレターを彼に渡そう。荒々しいパワープレイかもしれないが、結局は力=正義なのだ。これが正解だと自分に言い聞かせるようにして、太刀を──もといラブレターを振り下ろす。

 

 彼はまず最初に驚くと、次に怪訝な顔で手紙を開いた。

 

 開けた手紙の中身を2秒ほど眺めると、困惑した表情でこちらに視線を向ける。

 そんな視線を向けられたところでどうする事もできないので、私はあたふたしながら次を読むようにと促した。

 

 彼は変わらず怪訝な表情で文章を読み進めるが、付き合いがあってやっと分かる程度に頬を緩めたりもしていた。

 

 ちくり、と胸を刺すような痛みを感じる。しかし私の胸元を見てもなんら異常はない。

 

 彼は手紙を読み進める。

 そして、最後まで読み終えた彼はゆっくりと口を開いた。

 

「い、いやー、まさかそんな風に思ってただなんて」

 

「そ、そうみたい、ですね……」

 

 彼は照れながら恥ずかしそうに自らの後ろ髪をわしゃわしゃとかく。

 

「そうみたいって……他人事のように言うなぁ」

 

 彼は笑いながらそう言う。

 何を言ってるのだろうか。私はあくまで仲介人なだけで完璧に他人事ではないか。

 

「最初は正直、怪文書かなんかと思ったけど、まあ、その……ありがと」

 

「そ、そうなんですね」

 

 譲くんは文化祭マジックでラブレターを受け取った事に対して「ありがと」とまで述べていた。顔もかなりニヤニヤとしており、どこからどう見ても嬉しそうに浮かれている。だとしたら、もしかしてこのまま付き合っちゃうのかな、なんかそれは嫌だな。

 

「と言うか、ひ、ひとりは本当に俺で良いのか?」

 

 そんなことを考えていると譲くんは私にそんな声をかけてきた。だが私には、その発言の内容が全く理解できていなかった。

 

「はい? な、何のことでしょうか……」

 

「え、いや、このラブレターのこと……つまりその、つ……付き合うってことだろ、俺たち」

 

「な、なんで私が急に出てくるんですか……」

 

「…………………………………………え? だってラブレターを俺に渡したんじゃないの?」

 

「そ、それ、クラスの人から譲くんに渡してって頼まれました……」

 

 すると、先ほどまでの浮かれて嬉しそうだった表情は何処へやら、彼は突然今までに見たことのないくらいの真顔に変わる。

 

「な、なるほど……そういうことだったのか……」

 

 そういうことだったのか、とは一体全体どういうことなのだろうか。頭を抱え込む彼の声からは落胆が強く伝わってきた。一体何に落胆しているのかは皆目見当つかない。

 

「これ、誰からの手紙とか書いてないんだけど」

 

「あ、えと、そ……それは」

 

 まずい、そう言えば私にこの手紙の配達を頼んだ人物の名前を私は知らない。

 一方的に渡してくれと告げられただけなので罪はないと思うのだが、その手紙の中に何も書かれていなかった以上は私が相手を把握していなければこの話は迷宮入りになる。

 

「どうせ名前知らないんだろ、そいつの」

 

「ぁあ……あぅ」

 

「まったく、あぅ、じゃないよほんと」

 

 彼はそう言うと、大きなため息をついた。

 

「あー、くそ、今日のことは忘れてくれ。これはこっちで断っとくから」

 

「あ、断るの?」

 

「まあ、断るよ……どちらにせよ多分よく知らない人だし」

 

「う、嬉しくはないの?」

 

「うーん、まあ誰かに好意を持たれてることは悪い気しないけど、俺コミュ障だし勘違いされたまま付き合っても失望されるだけだと思うよ」

 

 ぶっきらぼうにそう言う彼の表情は、少しだけ残念そうにも見えた。手紙を読み終えた直後は嬉しそうであったものの、今は複雑そうな顔をしている。一体どうしてなのだろうか。

 ……どちらにせよ、彼がこのラブレターに対して断りの連絡を入れると言う事実には、なぜだか少しだけホッとした。

 

「マジでホントに最初の俺のリアクションは忘れてくれ」

 

「あ、あの……どのリアクションのことでしょうか……」

 

「だから、この手紙がひとりからのだって勘ちが──いや、何でもない。気がついてないならホントに気にしないでいい」

 

「え"、ぎ……逆にそこで止められると気になるというか……」

 

「あーもー! 気にするな!」

 

「うぅ……は、はいぃ……」

 

 譲くんは何かに照れながら、後ろ髪をわしゃわしゃとかく。

 

「……そう言えば、ひ、ひとりは誰か渡したい相手とかいないのか」

 

 とりあえず手紙も渡せて何事もなく無事に終わったと思うのも束の間、太陽ホエールズの平松政次の剃刀シュート並みのエグい角度の質問が私に襲いかかった。

 

「え、あ、わ、私なんかが渡しても……と言うか渡せるほどの関係の人がいないと言うか……」

 

 当然、ラブレターなんて古典的な青春の代物を誰かに渡すだなんて、覚悟もなければ相手もいなかった。

 

「ふふふ、だよな」

 

 私のその言葉に対して、彼はニヤリと笑みを浮かべる。

 ……そ、そんなに私に相手がいないのが嬉しいのか。

 

「そーだよな、居るわけないよな。大体、俺たちの青春コンプレックスぼっち同盟があるんだからそんな簡単に恋人作れるわけないよな、わははは」

 

 そんな同盟始めて聞きました……。

 

「それに喜多ちゃんとか虹夏先輩とかリョウ先輩に恋人がいないのに、俺らが先に恋人作れるわけがないよな!」

 

「た、たしかに」

 

 さも当然のように彼の発言を事実として受け入れてしまう自らの残念さには気づきつつも、だからと言って否定できるわけでもない。

 

 ──だが、彼氏は当然欲しい! 

 なぜなら恋人がいる=陽キャなのだから。

 それにギターヒーローであるネット上にいる私にはイケメン彼氏がいる設定なのだ。今更ついた嘘は数知れないとは言え、せめて虚言の一つや二つ減らしたいものなのだ。

 

 ふと、彼を見る。

 

 ……そう言えば、私からのラブレターだと勘違いしていた時は満更でもなかった気が。

 

 そんな事ないか。

 

 なにより最近の譲くんは虹夏ちゃんとも仲が良くなってきている節があるし、喜多さんに関しては文化祭の時に2人で回っていたと風の噂で聞いたのだ。私に近いコミュ障である彼は、されど私よりは全然まともに他人とコミュニケーションを取ることができるのだ。

 ……私なんかより、2人の方がきっとお似合いだ。

 譲くんと彼女たちが並んでいる姿は、見事なまでの美男美女カップルであり私なんかがそのような妄想をするなど烏滸がましい。

 それに、結束バンドの仲間としてやっているのだから、恋愛関係のことを邪推しすぎるのも良くない。恋愛というものは男女混合の学生バンドの解散理由の上位を占めるのだ。

 きっと私なんかが恋愛のことを持ち出すこと自体が間違えているのだろう。

 

 でも少しだけ。

 譲くんともし付き合ったりしたら、それはきっと楽しいことなのだろうと思った。

 私の性格を知った上で今もこうして友達を続けてくれているし、それに、2人でいてもお互いを気にしなくていい人は家族以外で──ましてや異性となると今までにいたことがないのだから。

 

 彼は相変わらず照れ臭そうに困った顔で自らの後頭部をわしゃわしゃしていた。

 ……私もラブレター、貰ってみたいなぁ。




ごめんお待たせ!ちゃーんと続けるから安心してね!!
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