ぼっち・ざ・ぼっち   作:振り米

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ビンボー社会人で貯金全然できないんだけど最近アイコスで月の出費1万5000円くらいだって気がついて原因がわかった。
改善できるとは言っていない。


二十七話 こんな自分ケリたくなるくらい

 

 俺が所属しているのは、まだまだ無名のガールズバンド(1名除く)である。

 そのため、ファンもメンバーの友達や知り合いが多いのも事実なのだが最近は固定ファンも増えてきている。

 何を隠そう、奇行・変人・コミュ障の三拍子揃った最年少三冠王こと後藤ひとりにも固定ファンがついているのだ。

 

 少し話を変えよう。

 

 ──バンドマンってモテるよね? 

 特に、イケメンで上手いバンドマンなんて格好の的だ。確かに、ボーカルやギターが一番目立つし、ベースやドラムだって間違いなくモテるのだ。

 だとすると──悪いのでは俺ではなく楽器なのではないだろうか。

 

 何を隠そう、クール・イケメン・コミュ障の三拍子揃ったユーティリティプレイヤーこと大倉譲には固定ファンが1人もいない。

 もう一度言おう。固定ファンが1人もいない。

 べ、別にだからと言って、ショックを受けているだとかモテたいだとかそーゆー意味ではない。

 

 だから、後藤ひとりが数少ないとはいえファンのおねーさんに差し入れをもらっていることに対して嫉妬や羨望を感じているはずがない。

 

「じ、譲くん。そんなに歯を食いしばってどうしたのかしら……」

 

「……これはな、歯を、歯を鍛えてるんだ」

 

「頭大丈夫?」

 

 差し入れに対して、相変わらず目を合わせることはできないもののにへらと笑って挨拶をするひとりに視線を向けていると、前より少し距離感が近くなったように感じる喜多ちゃんが、近くなった弊害が堂々とディスりをかましてきやがった。

 

「ひとりちゃん、最近ライブでもあまり緊張しなくなってきたのかな」

 

「あー、確かに。極度のコミュ障さえ無ければトッププロ並みに上手いけど──ライブ中も尻上がりに調子上げてくるようになったかも」

 

「私も頑張らないと」

 

「でも喜多ちゃんも、文化祭からまた上手くなったんじゃない?」

 

「そうかな、だとすると嬉しい!」

 

「うん、みんな上手くなってて──」

 

 ──俺は成長していない。

 

 薄々勘づいていた。

 俺自身、自分自身の腕前には自信がある。結束バンドに加入してから、キーボーディストとしての実力はつけたのだが根本的な実力の部分は成長できていない気がする。

 

 少しだけ、焦りを感じていた。

 

 周りのみんなは着実に成長している中で、自慢ではないがひとりに負けないくらい練習に打ち込んでいるつもりなのに、1人だけ成長しない自分に焦りを感じていた。

 ……感じているのだが。

 

 正直、自分の実力にある程度納得してしまっていた。それに、今の結束バンドでやる以上は十分なスキルは持っているつもりだし、今のようにみんなを支えられる存在であればそれはそれでいいと思っていた。

 

「どうしたの? 譲くん」

 

 突然言葉を切り、黙り込んだ俺の顔を喜多ちゃんが覗き込む。

 うわかわいい目の保養だ。

 

「ああ、いや。なんでも」

 

「……他人の悩みにはいつも首突っ込むのに、自分はあんまり話してくれないわよね」

 

 すると、頬を膨らませた喜多ちゃんはそんなことを口にした。

 ただ、俺の場合は話すほどの内容でないだけの話だ。

 

「ああ、喜多ちゃんに構ってもらうためにわざと悩んだふりしてるだけだから気にしないで……逆だ気にして」

 

「……なにそれ」

 

 目の前の彼女は、ちょっと引いていた。

 

 などと、喜多ちゃんと談笑していると。

 

「あなたギターヒーローさんですよねッ!」

 

 ライブ前にちょっかいをかけてきた病み系のおねーさんがひとりに詰め寄り大きな声を出していた。

 

 またか、と思い俺はアイドルの握手会の剥がしのようにしゅばばと近づき間に入ろうとする。それと同時に「ギターヒーロー」という単語が少し気になりもした。

 その間に、病み系さんは話を続ける。

 

「まさかあんた達知らないの!? このギターヒーローさんはねぇ!! 超凄腕高校生ギタリストで──」

 

 たしか──ついこの前、ひとりにSNSマウントバトルを仕掛けられた時に「私の戦闘力(チャンネル登録者数)は8万です」だと言われた気がする。

 そして彼女の腕前、音楽ライターの病み系さんが知っているという事実から彼女は動画投稿サイトで実は有名な人なのではないかと推測した。それに、1人で引く分にはプロレベルで上手く、同時に承認欲求モンスターでもあるのだから状況としては完璧な気もするし。

 

「──それでいて男女問わず学校の人気者でロインの友達数は1000人超え彼氏はバスケ部のエースの超リア充女子なのッ!」

 

「「人違いじゃないですか?」」

 

「即答!?」

 

 俺と喜多ちゃんは声を揃える。

 どうやら俺の推測は大外れで人違いのようだった。

 なぜなら先ほど挙げられた情報は全て後藤ひとりという人間と真逆の要素しかあげられていないのだから。

 

「そっ、そうですよ! その人とこのド陰キャ少女が同一人物に見えますか!?」

 

 さらに、虹夏先輩の援護射撃。

 ちなみにその射撃はひとりの背中を貫通して撃っている模様。

 フレンドリーファイアをしてしまった虹夏先輩がひとりに刺さった言葉の槍を抜こうとしていると、病み系さんは何か深く考えこむ様子を見せた。そして、目をキラキラと輝かせながら口を開く。

 

「やっぱりギターヒーローさんですよね!」

 

 深く考えているようで何も考えていなそうだった。

 

 ──だがきっと、ひとりを守るようにして立つ虹夏先輩の様子を見ると彼女は件の「ギターヒーロー」とやらで間違えないのだろう。

 

「カリスマは一般人とは一味違うしッ! レモンとパプリカが好きでフラミンゴ飼ってますよね?」

 

 米津玄師か。

 というかカリスマをなんだと思っていやがる。

 

 そして、このフリーライターはまさかの掘り出し物を見つけたと、餌を見つけた肉食獣のようにひとりを取って食おうとしている。

 だとすれば俺もひとりを守るために手助けをしなければなら、

 

「あっ、いやぁ、えへぇ……ちっ違いますぅ……」

 

「絶対この子──!!」

 

 こいつは虹夏先輩の頑張りも無駄にするかのようにあからさまな反応をしやがった。

 

「ところでギターヒーローって何?」

 

 俺はギターヒーローをよく知らないので、純粋な疑問を口にすることにした。

 

「本当に知らないの? これ、見て──SNSでその道の人間には大注目のギタリストなんだから!!」

 

 そうして病み系おねーさんはスマホの画面をこちらに向けた。

 

 そこには、見慣れたピンクのジャージの女の子が見慣れた部屋の中で見慣れたギターを弾き鳴らしていた。

 

「ひとりだな」

 

「まあひとりちゃんね」

 

「ぼっち」

 

「ちょっと! もっといい反応してよッ」

 

 いい反応をしろと言われても、なんかやってるなーって事は知っていたし、彼女の本当の実力を考えれば別におかしいことではない。それよりも。

 

「この虚言の方が気になるな」

 

「あ……あっ」

 

 ひとりは虚言がバレて死にかけていた。

 さらにその横で喜多ちゃんとリョウ先輩が追い討ちをかけているようだ。

 

 それにしても、虹夏先輩はリアクションを見せていない。

 彼女に目をやると、安堵の表情を浮かべた。

 

「ウチの編集長に掛け合って業界の人に紹介してもらえるように言っときます! いい人がいるって!」

 

 ──なん、だと。

 こんなふざけたフリーライター(笑)に業界人のツテがいるだって。

 

 確かに音楽や芸術に関してはどの業界にいようとコネとかツテとかは非常に大事になってくる。ピアノの世界も誰に師事するかだとかが大事になってくる世界だ。

 だかこそそんな上手い話は乗るしかないだろう。例え、その実大したことない業界人だとしても動かないよりはマシだろう。

 

「えー! デビューできるかもってこと!?」

 

「すごーい! なんだか結束バンドが遠い存在に思えてきました!」

 

 ひとりのファンである1号2号はきゃぴきゃぴと黄色い声をあげた。

 

 その横ではうへへと笑うひとりの頬をぷにぷにしながら「顔がたるんでるわよー」と指摘する喜多ちゃんの頬をぷにぷにしながら、「喜多ちゃんもねー」と口にする虹夏先輩という明らかに浮かれきった3人の姿があった。

 

 俺も当然嬉しいのだが──なぜか素直に喜び切ることができなかった。

 

 その様子に、フリーライターのおねーさんは待ったをかけた。

 

「結束バンド? なんの話?」

 

 その言葉に、しんと静まる。

 

「あたしが言ってるのはギターヒーローさんだけ。結束バンドは──高校生にしたらレベルはまあ高いと思うけどぉ、でもよく居る下北のバンドって感じだし」

 

 そしてその言葉は、きっとこの場にいる誰よりも、俺に深く刺さった。

 

「……っていうか、ガチじゃないですよね」

 

「えっ……」

 

 虹夏先輩は、驚きと困惑が混じった表情を浮かべる。

 

「だって本気でプロを目指しているバンドに見えないんだもん。いやーゴミ記事取材のつもりが大当たりです! 今度ギターヒーローさんの単独記事書かせてください!」

 

「──おい」

 

 俺は彼女の言葉に対して、自分のことを棚に上げて反射的に口を開いていた。

 

「あんたさ、こっちの何を知っててそう言ってるわけ?」

 

 その言葉は、結束バンドを貶された苛立ちと自分自身の図星を突かれてしまったことに対する八つ当たりから出たものだった。

 

「あー、イケメンピアニストくん! 君もめちゃくちゃ技術はあるよねぇ。で、何を知っててそう言ってるかって? 結束バンドのことは何も知らないけど聞いてたらわかるというか、それに君は上手いだけで──この中で一番本気じゃないよね?」

 

「──っ」

 

 俺は言い返すことができなかった。

 

「だいたい、みんなの目標を叶えるのが目標? だっけ。プロデビューしたい人の発言とは思えないし、可愛い子に囲まれて楽しんでたいだけにしか見えないというかー。あ、技術はあるから本気なら別で取材はさせて欲しいけどね」

 

「おい」

 

 伊地知さんがどこから取り出したのか、ガスマスクをつけながら凄む。

 PAさんと共に普段は頼りない大人2人がフリーライターを追い出しにかかってくれた。

 

 俺は勢いよく前に出ただけで、惨めな姿を晒しただけだった。

 

「電話」

 

「はーい」

 

 伊地知さんの掛け声でPAさんは携帯を取り出す。

 

「あー! 帰る、帰るぅ! ごめんなさい! あばよ⭐︎」

 

 そうして彼女は階段を駆け上り、

 

「ギターヒーローさん! それでは〜⭐︎ ……こんな所でうだうだやってると、あなたの才能腐っちゃいますよ?」

 

 捨て台詞のようにそう告げると、嵐のように去っていった。

 

「……大丈夫か?」

 

 誰もが口を開けないでいる中、俺も当然黙って突っ立っていた。

 そんな様子の俺を心配するように伊地知さんは普段と打って変わって優しく肩に手を置いた。

 

「……あ、はい、大丈夫ッス」

 

「まったく、高校生相手に大人気ない奴だな。お前らもあまり真に受けるなよ。今日はもう全員上がっていいから」

 

「あっ、ありがと」

 

 虹夏先輩も浮かない表情をしつつ、伊地知さんの優しさに柔らかい表情を浮かべた。

 俺たちは言われるがまま、STARRYを後にした。

 

 ・

 

 俺とひとりは、井の頭線に揺られていた。渋谷までは同じ方向ということもあり、いつものように何か話すでもなく無言で横並びに座る。

 

「……みんな、大丈夫かな」

 

 俺は彼女に聞こえるか分からない程度の音量でそう呟く。

 彼女は俯いたまま目線だけこちらの胸元に向ける。

 

「あ……あの、すみません。私のせいで」

 

 彼女もまた消え入るような声量だった。

 

「ひとりは何もしてないじゃん?」

 

「で、でもギターヒーローのせいで、みんなが悪く言われて……譲くんも……」

 

 電車が揺れる。そのはずみで肩が軽く触れる。

 つられるように俺の心も揺れて、冷静を装って口を開いた。

 

「俺は別に……むしろ、格好悪いところ見せちゃったな」

 

「そんな、じ、譲くんはみんなのために2回も前に出てくれて……かっこ悪くなんて、ない、です」

 

 俺は、今の結束バンドに安心を求めていた。

 だからきっと、どれだけやっても上達していなかったし、本気でないと見破られてしまったのだ。

 本気でやってるつもりだった。

 でも、心の奥を馴れ合いや妥協が蝕んでいるのは間違いなく真実だった。

 

「わ、私は。みんなと、結束バンドで、ガチでやりたい」

 

 だから彼女の強くまっすぐな言葉は、悩みながらもきっと前に進める結束バンドのみんなの強さが──

 

 俺は、ゆっくりと口を開いた。

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