(めっちゃ台風来てんじゃん)
高校生活始めての友達との約束の日。
そう、本日は待ちに待った後藤さんのライブの日だ。
そう、待ちに待っていたのだ。
いたのだが。
(こんな台風でもやるのかなぁ……)
そもそもこのライブが開かれるかどうかわからない。
というかぶっちゃけ開いたとしてもこんな大雨で暴風が吹き荒れる中行きたくない。
俺はロインで後藤さんにメッセージを送る。
(今日台風だけどライブあんの、っと)
メッセージを送り、ベッドにごろりと横たわる。せっかくセットした後頭部が潰れる。
ないと言ってくれれば良いけど。そうならばわざわざ断らずに済む。申し訳ないけど、流石に今日の台風だと──
ぶぶぶ、と。スマホのバイブに気がつく。
ぼっちは通知音は基本的に切っているため、着信音が鳴り響くことはない。
なぜ通知音を消すかって? どうせそんな連絡来ないし、音が出て周りから見られたら恥ずかしいじゃないか。
俺はスマホの画面をもう一度覗き込み、ロインの新規メッセージを開く。
そこには、
はい。頑張ります。
と。
そして、開いた瞬間立て続けざまに、
台風なので無理に来なくても大丈夫です。
と。
……。
はあ。
数秒前の自分を殴ってやりたい。
ぼっちにとって人前に立つことがどれほど緊張するものか。その事は他の誰でもない、俺自身がよくわかっているのではないか。
大勢の前で演奏するのは、慣れないとめっちゃ緊張するし、例え慣れていても緊張する。
そんな中でこうして友達である俺にわざわざ気を遣ってくれているのだ。行かないなんて不誠実な真似できるわけがないだろう。
俺はガバリと布団から起き上がると、無地のTシャツの上にジャケットを羽織る。
俺の部屋にはジャケットだけは無駄にあるからな。
濡れるのは嫌だけど、折角できた友達のライブに行かないのはもっと嫌だ。初めから気がついているべきだったのにな。
俺は財布とスマホだけを手に取り、家を出ることにした。
・
「友達もやっぱり来られないみたいです」
「う……うちの親も、そ、祖母が妹を見ててくれるはずだったんですけど、こ……来られなくなっちゃって」
めちゃくちゃ入りづらかったドアを開けて俺はライブハウスに入る。
盗み聞きをしているわけじゃないが、やはり来れなくなってしまった人が殆どなのだろう。
というか、後藤のバンドメンバーであろう他3人。なんか綺麗な人ばっかで陽キャっぽくて怖え。
結束バンド、とか言ってたっけ。名前と後藤がギターをやっていると聞いていたのだからもっとこう、痛々しい奴らとか陰陽で分けるなら陰気味の人が多いのかと思っていたんだけど……。
階段を降りてきた俺の足音に、彼女ら4人が気がつきこちらに視線をやる。
「うーっす」
俺はバレたことに焦りを感じつつ、それを気取られないように右手を上げて後藤に挨拶をする。
「……」
いやなんか言ってくれ!!!
この状況だと多分他3人が「え、誰の友達?」ってなってるだろうがドあほうが!
「ご、後藤さん。俺こーゆー場所初めてなんだけど、どこで待ってれば良い?」
なぜか全くリアクションをしてくれなかった後藤さんに対して、俺は痺れを切らしてもう一度声をかけることにした。
「えええええええ!?」
すると、黄色? 金髪? のポニテ? サイドテール? 美少女が驚きの声を上げた。
「う、嘘でしょ」
その横で赤髪の女子も声を上げる。あれ、この子どこかで見覚えがあるような……。
「ぼっち、いくら積んだの?」
さらに、首元が見えるほどの髪の長さの青髪の少女も口を開く。
「いやいや、むしろ金払ってきてるんですよ俺」
何故これほど愕然とされねばならぬのだ。
──否。
俺は下北の空気に当てられていたようだ。ぼっちとしての思考回路を巡らせろ。
逆のパターンだ。
俺がロックバンドを組んだとして、お客さんに後藤さんみたいな女友達が来たらどうなる。
そう、俺のコミュ力を知っているバンドメンバーは皆一様に驚くであろう。なぜこいつに女友達が、と。
「ぼっちちゃん! もしかして!」
「あ、はい。クラスメイトの友達です」
あいつまた調子にのった顔してやがらぁ。おおよそバンドメンバーに期待されていなかった中で友達を──しかも異性を呼んだときたのだ。私にもちゃんとクラスに異性の友達までいるんだと言わんばかりのドヤ顔をしている。
「ぼっちちゃん、イケメンの友達いるんですねー」
今度は黒髪ロングの姫カット? 的な大人の綺麗な女性だ。
「ひゃ、いや、イイイイケメンなんてそんな池? 池なんて俺は鯉じゃないんですから」
「鯉? ふふふ、かわいい子ですねーぼっちちゃん」
あああああやめてくれ年上の綺麗なお姉さんなんて1番ハードル高いんだよ俺の心が壊れちゃううううう。
「ぼっち、彼氏?」
「!?!?」
青髪の子がそう言うと、後藤さんの顔は子供の落書きのような絵面に変わり、
「か、か、か、か……彼氏なんてそんな、お、烏滸がましいです。トモダチ、ほ、ほんとにただの友達でひゅ」
そうなんだけどそんなに否定されると傷つくなぁ!
「わー凄い! ほんとにぼっちちゃんのお友達なんだ!」
そう言ってこちらに歩み寄ってくるのはアホ毛が映える金髪の女の子だった。
「私、下北沢高校二年の伊地知虹夏! よろしく!」
「あ、大倉譲です。後藤さんと同じクラスで秀華高校一年だす」
ま、眩しい! 眩しすぎる!
俺の目には刺激が強すぎる!
あまりの眩しすぎさに語尾噛んだ。なんだよ「だす」って。昔のアニメのおバカキャラかよ。
というかなんだこの異様な女子率、しかも年上の美人が多い。ただでさえライブハウスなどアウェーなのにさらにアウェー感を強くする。
「じゃあやっぱり私と同じ高校なんだ! クラス違うんだけど喜多です! よろしく」
「あ、はい、よろしく」
うわー、なんか見覚えあると思ったけどやっぱ同じ学校じゃないか。というか、こっちは見覚えあるのにあっちは見覚えないのが俺のぼっちが浮き彫りになってるみたいできついじゃないか。
友達多い陽キャと陰キャぼっちの差ってやつか!
「この子はベースの山田リョウ! 私と同じ下北沢高校の二年なんだー!」
「……ぼっちと同じ匂いがする」
ぼっちと同じ匂いがする???
どーゆー意味だそれ。ぼっちと呼ばれる人種は体から何か変な匂いでも放つのか?
おい! 後藤さん! 助けてくれ。
そう思い彼女の方に目線をやると──
「し、死んでる」
何故か死んでいた。
「うわあ──大変だ! ライブ前なのにぼっちちゃん死んじゃった!?」
あ、後藤さんぼっちって呼ばれてるんだ。え? いじめられてないかこれ大丈夫か?
「大丈夫、ほっとけば生き返る」
確かによくある後藤さんの症状ではあるのだが、蘇生すること前提で死体を見るな。なんだこの無駄な結束感。これが結束バンドってことか。
皆の集中が後藤さんに向いている間に、俺はそろりそろりと侵入する。
「おい」
「ひぃっ!」
すると、今度は金髪ロングの怖そうなおねーさんに声をかけられる。どことなく先ほどの伊地知さんに似ている気がする。あのアホ毛部分とか。
でもやっぱり年上のちょっと怖そうな綺麗なおねーさんとかハードル高いしキツすぎる。
「あ、あの、今日これしか持ってないんで」
俺は震えた手で財布から7000円ほど取り出す。
「いやなんでお金出したんだよ。そうじゃなくてさ、どこかで見覚えがあるなーって」
くそ、こうやって因縁をつけて脅そうと言うのか。まったく怖い怖い。
「あ、いえ、気のせいだと思います。俺基本目立たないんで」
「うーん、いや、なんだっけなぁ。どっかで見た気がするんだよな」
「ほんとほんと気のせいですから! ごめんなさい! いくら払えば許してくれますか!」
「いやビビりすぎだろ、流石に傷つくぞ」
「ひぃぃ」
そのズバッとした物言いが余計怖いということに気がついてくれ。俺は気が弱いんだ。
こうして俺はなんとかライブハウス内に無事潜入するも、やはり来なければよかったのではないかという悔恨がすでに渦巻き始めていたのであった。