ぼっち・ざ・ぼっち   作:振り米

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三十三話 クリスマスイブは、全世界的に、ラブコメの日だ。

 

 12月24日。

 クリスマスイブの日。

 

 世間一般と変わらずに俺の気持ちも浮かれていた。

 

 残念ながら、恋人がいてあーだこーだとか恋人がサンタクロースでも無くてサイレンナーイトうぉーおーおーホーリーナーイトな訳でもない。

 けれども今までクリスマスとその前日に特別な意味合いを持てなかった俺にとっては、今日ここで結束バンドのメンバーでライブを行うこと、その後打ち上げも兼ねてSTARRYでパーティーを行うことを考えると、それは紛れもなく特別な一日であった。

 

 SICK HACKのライブも目前であり、新宿FOLTにて俺たちはリハーサルを行なっていた。

 

「か、完熟マンゴーが進化してる!?」

 

「あ、えへへ」

 

 ……おこなっていた。

 

「まだそんな事してんのかよ……」

 

 ひとりは未だに人前に立つ事が苦手であり、小学生の頃に夏休みの自由工作で作った様な段ボールの装甲を身に纏っていた。それにしても完成度高えな。

 

『ギターさんお願いします』

 

「あっ、全体的な返し大きくしてもらって良いですか、聴こえなくて」

 

「だから脱ぎなさい」

 

 ガチガチに固めたダンボール装甲では外の音が聞こえづらい様子だった。ギタリストとして失格じゃねえか。

 俺はジェットライターに火を灯してひとりに近づく。

 

「さーん、にー、いーち……」

 

「ちょ、ちょっと! 流石に燃やしちゃだめぇ!」

 

 ダンボール装甲の弱点の一つである火を徐に近づけると、虹夏先輩からの猛烈な制止にあう。

 

「え、あ、燃やす? 炎上? ああああああ」

 

「なんか違う意味で混乱してるし……」

 

『ボーカルください』

 

「──……げほごほ」

 

 そんな様子を尻目に、喜多ちゃんの番なのだが。

 ──だめだ。どう見ても緊張で口の中がカラカラだ。

 

「……こんなリハーサルで大丈夫か」

 

 まあでも──結束バンドなら何とかなるだろう。

 逆境に強いバンドですから(震え声)

 

 ・

 

 本番を控えて楽屋で待機をしている。

 元来そういう性格であるひとりと、気にしいな喜多ちゃんはかなり緊張している様子だった。いつものようにくだらないやり取りをしながらもその雰囲気は変わらない。

 

 俺も程よい緊張を感じていた。

 自分より緊張している人を見ると、なぜだか自身は緊張しなくなる謎の現象のお陰もあり彼女たちに比べると比較的に平常心なのは間違いないが。

 

「みんなクリスマスのせいで卑屈度上がってるね……」

 

 楽屋の端っこでスマホをぽちぽちいじっていると、いつの間にか横にいた虹夏先輩が話しかけてきた。

 なに? オタクに優しいギャル的な? 

 惚れちまうからやめてくれ。

 

「そんなもんですかね」

 

「さっきなんてリョウがさ、わざわざクリスマスイブにロック聴きにくるやつなんて恋人のいない暇な奴しかいないーなんて言ってたよ」

 

「……そんなもんですかね」

 

 酒ねえの客層ってことを考えるとその線はありそうだ。しかし、案外カップルで来ていたりもしそうだ。

 

「カップルとかも、意外と来てるんじゃないんですか」

 

「なんでこんな日まで幸せな人のために演奏をしなきゃいけない……」

 

 深く考えずに発言したことを後悔する。

 リョウ先輩が俺の言葉に反応してクリスマスイブに似合わない呪詛のような台詞を吐く。

 

「この歌詞を共有したいのに……」

 

 便乗してひとりもダークサイドに。

 

「まあ良いじゃないですか、俺らもクリスマスイブにライブやるって、なんか、陽キャっぽくないですか? 男だ女だウダウダやってるカップルなんてクソ喰らえですよ。こちとらロックンロールなんですから」

 

 クリスマスであろうがなかろうが、俺に恋人がいないのは紛れもない事実だ。

 だとすると、特別な日にみんなとライブできるならそれは良いことだ。

 と、思ったのだが。

 

「あはは、クリスマスまでには彼氏欲しかったなー……」

 

 と喜多ちゃん。

 この人素で陽キャだからクリスマスに彼氏いない方がダメージ食らってやがる。

 

「陰キャ陽キャ、君らは分類しないとどうにも落ち着かない……」

 

 とリョウ先輩。

 トランシーバーで歌わせるぞ。

 

「え、あ、陽、きゃ?」

 

 とひとり。

 君は素直でかわいいなぁ。

 

「え、譲は彼女欲しいとか思ったりしてないの?」

 

 と虹夏先輩。

 どーゆーニュアンス? 俺はもしかして馬鹿にされてる? 

 

 このように三者三様の姿を見せてくれた。

 ……ほんと愉快な仲間たちだ。

 

 しかしその後も、重苦しい雰囲気が漂っていた。

 特に、ひとりと喜多ちゃんは目に見えていつも以上に緊張している様子だった。

 

 俺よりさらに端にいた大槻ヨヨコさんも懐きの悪い犬みたいに鋭い眼光でガルルルルとこちらを威嚇している。周りの緊張と、そんな視線を受けて俺も少しだけ緊張を感じてしまう。

 すると。

 

「そんな心配しなくて大丈夫っすよ〜」

 

 露骨なまでに緊張していた結束バンドに見かねたのか、SIDEROSのメンバーの人が声をかけてきた。

 

「自分らがどんなライブしようが、最後にはメチャクチャになるんで」

 

 そのセリフに、壇上で暴れ狂う酒臭いおねーさんの姿が見えた。

 それを言って仕舞えばお終いな気もしたが、きっと今日も今日とてそうなるのだろうと確信にも似た何かを感じた。

 

「そう言えばちゃんと挨拶してなかったですよね」

 

 声をかけてきたのは──黒マスクの年上金髪ギャル。

 =俺の天敵だ。

 

「自分、長谷川あくびです」

 

「私は本城風子です!」

 

「内田幽々です」

 

 だめだこれは。

 全員こうかばつぐんのタイプだ。

 ちなみに俺は弱点ばかりでダメージが半分になるタイプは地球上に存在しない。

 

「結束バンドの曲、自分は好きっす! 同世代のバンドと出会う機会少ないんで仲良くしましょう!」

 

「こちらこそ〜」

 

 黒マスク金髪ギャルと挨拶を交わす虹夏先輩。さすがうちの常識人枠だ。というか見た目こわいけど良い人そう。良い人そうだとしても無理なものは無理であるのだが。

 

「……ちなみになんでキーボードの人ダンボール被ったんすか?」

 

「あははは、なんと言いますか、その、発作みたいなものです……」

 

 アウェイの空気に当てられた俺はひとりの亡骸である段ボールを身に纏い精神の安定を図ることにした。だって、こわいんだもん。

 

「結束バンド」

 

 すると、どことなく落ち着き始めた控室の雰囲気をよそに語気の鋭い声が響いた。

 

「ゲストだからってシデロスと同じ土俵に立ったと思わないほうがいい、言っておくけど私のトゥイッターのフォロワー数は1万人だから」

 

 突然のマウント。フリーザかあなたは。

 流石はミス負けず嫌いの大槻さんだ。

 

「まあ、幕張イベントホールと同じくらいってとこ」

 

「私も、イソスタなら最近人気投稿入ったみたいで1万5千人いるんですけど……」

 

「喜多ちゃん武道館じゃん!」

 

 マウントを取ったつもりが、自らの土俵で大きく上回られる。見てるこっちが恥ずかしい。

 

「〜〜っ、バンドマンなら演奏技術で勝負しなきゃだめでしょーが!」

 

「自分から言い始めたのに!」

 

 な、なんという面倒くさい性格だ。

 どうしてこうも結束バンドを取り巻く人々は癖のあるやつしかいないのか。

 

 しかしまあ、これほど負けず嫌いだからこそインディーズバンドの中でもこうして人気を誇ることができているのだろう。ひとりに然り、振り切れてるやつは大抵強いのだ。ゲームでもバランス型より一芸特化の方が大抵使いやすい。

 

「こんな感じで大槻先輩がコミュニケーション下手なので人間関係上手くいかないだけです」

 

 と、黒マスク金髪ギャル。

 

 え、今この人大槻先輩って言った? 

 このギャル年上じゃないの? まじ? 最近の子は成長早いのね。

 

「うちの先輩が迷惑かけてほんとすみません」

 

 しかもかなり常識人っぽいぞ。

 やめてくれ、このゴリゴリ陽キャみたいな見た目でバンドも有名で落ち着きがあって顔が良いとか劣等感しか感じないぞ。

 

「でも良い感じに皆リラックス出来たんじゃないですかぁ」

 

 つまりこの姫カットさんもこの見た目と落ち着き様で同い年……? 

 シデロス、思った以上に侮れないバンドだ。

 

「すごいね! 私達と年変わらないのにこんなに落ち着いてて」

 

「いやー自分たちも毎回緊張してますよ。でも自分たちより上がってる人見ると冷静になってくるんですよねー」

 

「それって私たちのこと?」

 

「いやー、毎回先輩が緊張で3日くらい寝てこないんですよ」

 

 一同は大槻さんに目をやる。

 先ほどから睨んでいるように感じていた視線は、緊張と寝不足で構成されただけのものだったようだ。

 変な人だなぁ(ブーメラン)

 

「騒いだら頭痛くなってきた……」

 

 寝不足のせいか、大槻さんはよろけると虹夏先輩に介護されてソファに横たわった。

 

「人気バンドの大槻さんでもそんなに緊張するんだね」

 

「──当たり前でしょ」

 

 虹夏先輩の問いかけに、大槻さんは少しだけ体を起こして、寝不足を思わせぬ凛とした表情で言葉を続けた。

 

「上を目指してバンド活動続けるなら、絶対一生緊張し続ける。その不安を少しでも無くすために寝る間を惜しんで練習してるの」

 

 悔しいけど、格好いいなと感じた。

 口で言うのは簡単かもしれない。

 

 しかし、緊張と向き合い続けるのも、承知の上で努力を続けるのも、それらは決して簡単なことではない。

 

 面倒くさい人かと思っていたが、どうやらそれだけではないらしい。

 そう言う人は、嫌いじゃない。

 

「さっきのリハ、今までに見た貴方たちの演奏より良くなってた。いつも通りやれば絶対うまく行く、努力は裏切らない」

 

 な、なんだよこの平成初期のツンデレは。めっちゃ良い人じゃん。

 シデロス、良い人たちじゃん。

 俺ら虹夏先輩以外は人格まで負けてるぞ。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「……ふん!」

 

 きゅん。

 

 あぶねえ、今この人のこってこてのツンデレにときめきかけちまったじゃねーか。

 

 ・

 

「「「メリークリスマース!」」」

 

 そうこうしているうちに、俺らのライブは無事に終わった。

 大槻さんの励ましもあり、ライブ終盤についてはノーコメントとしておくが、結束バンドのゲスト出演については悪くない出来だったと思う。……アウェイなのには変わりはないのだが。

 

 そんなライブの打ち上げも兼ねて、結束バンドとシデロス、そして伊地知さんのおねーさんの誕生日も兼ねたパーティーへと移行していた。

 

 していたのだが。

 

 右を見ると、サンタさんの帽子を被った虹夏先輩と喜多ちゃん(かわいい)

 左を見るとシデロスの陽キャ陣(大槻さんを除く)

 

 ……鬼気まずい。

 相変わらず男が1人もいないし、ほぼほぼ初対面の陽キャ女子と一緒とか耐えられるはずもない。

 

 俺は縮こまりながらハムスターのように野菜スティックをぽりぽり食べ続けることにした。

 したのだが。

 

「結束バンド、黒一点で男の子いていいっすね〜」

 

「力仕事とかやってくれるからほんとに助かってるよ!」

 

「修羅場とかないんですかぁ?」

 

「なな、ないから!」

 

「わ、私達、バンド内で今の所そういうのは……」

 

 俺の存在をネタに虹夏先輩と喜多ちゃんが責められていた。やめてくれ、その術は俺に効く。

 

 俺はそんな空気に耐えきれず、彼女たちが楽しそうなおしゃべりをしている隙にもう一つのテーブルへと逃げ出す。

 隠密作戦は得意なのだ。

 

「よいしょ、っと」

 

 ええと、こっちのテーブルは。

 ひとり、リョウ先輩、大槻さん。

 

 うん、こっちはこっちでクソ気まずいや。

 だって誰も喋ってねえもん。

 

 先ほどのテーブルと打って変わって、机の上に広がる皿は干上がった砂漠のように飯の一つも残っちゃいなかった。気まず過ぎてずっと食べ物食べてたんだろう。

 

「なんで隣に座ったのよ!」

 

「え、あ、はい、すみません」

 

 逃げた先で、いきなり大槻さんに噛みつかれた。

 隣に座っただけでそんなに言わなくても良いじゃあないか。ガラスのハートはボロボロだぞ。

 

 俺は立ち上がり、ひとりの横へと移動しようと立ち上がった。すると、大槻さんにシャツの端を掴まれる。

 

「べ、別にダメっていう意味ではないから……」

 

 かわいい(座るだけで文句を言ったと思えば、別に良いだなんて面倒な性格だ)

 かわいい(こんなテンプレートのツンデレは平成初期に生息していた古のオタクにしか効かないぞ)

 

 俺は大人しくもう一度席に着く。

 

「……キーボード」

 

「はい?」

 

「流石ね。上手かったわ」

 

「え、あ、はい。あ、ぁりがとうございます」

 

 いきなりハイレベルなツンデレを見せられたせいで危うくキョドるとこだった。

 十分キョドってるって? 

 こんなの序の口さ。

 

「大槻さんも、凄かった、です」

 

「ふん! 当然よ」

 

 ちょっと褒めるとめっちゃ嬉しそうにツンデレな反応を見せた。ちょろくない? 大丈夫? 

 

「中学の頃から、負けず嫌いですよねほんと」

 

「悪かったわね」

 

「悪くないですよ、そう言うところは素直に凄いと思いますし」

 

「ふ、ふん! 当然よ!」

 

 褒め殺しには弱いようだった。

 面倒くさいようで、意外と扱いやすいのではないだろうか。

 

 こちらのテーブルは沈黙が支配していたようだったが、俺は大槻さんと昔馴染みだった事もあり、2人で多少の雑談ができた。

 面倒で意地張りで負けず嫌いなところを除けば、意外と面倒見が良くて良い人だと言うことは話をしてみてよくわかった。

 

 少しの思い出話と、バンドに関する話をしていると。

 

 ちょこん、と。

 

 隣にひとりが座った。

 

「ん?」

 

「あっ、あっ、あっ」

 

 隣に座り、奇声を発した。

 

「……急にどうした」

 

「あ、いや、あ、その」

 

 わざわざこっちに来たのだから、何かしらの意図があるだろうと声をかけるも、いつも以上に挙動不審になった。

 

「あ、その、お二人って、む、昔から仲良いんですか」

 

「……仲良いと言うか、喧嘩をふっかけられてた?」

 

「人聞きの悪いこと言わないでよね!」

 

「あ、そ、そうなんですね」

 

 沈黙。

 下を向くひとり。まあ、いつも下を向いているのだが。

 

 もしかして、ここに──俺の横にわざわざ1人が来たのって。

 

 ひとりなりに、大槻さんと仲良くなろうとしているのではないだろうか。

 

 俺は徐に立ち上がる。

 

「ちょこっと外の空気吸ってきます」

 

 うん、そうだろう。

 ひとりも友達欲しいんだ。

 俺は良いことをしたなぁ。

 

 ひとりと大槻さんが話をしやすいように、間にサンドされていた俺は離脱を試みた。そうすればひとりとリョウ先輩に大槻さんが挟まれる形になる──つまり多少会話がしやすいフォーメーションになるわけだ。

 オセロだったら大槻さんも結束バンドに裏返る見事な作戦だ。

 

 ・

 

 今日はクリスマスイブ。

 結束バンドの打ち上げと、お姉ちゃんの誕生日を兼ねた日だ。

 

 そして、もう一つ大事な日でもある。

 

 先日、譲と出かけた時に一足早いクリスマスプレゼントを貰ったのだ。

 水族館に行った後に、イヤホンとハンドクリームを貰った。イヤホンは、それはもう練習にも私用にもいくらでも使っている。

 ……ハンドクリームは少し勿体無くて、あまり使えていないのだが。

 

 話を戻そう。

 もう一つの大事な日というのは、彼に──クリスマスプレゼントのお返しをする日であるという事だ。

 

 できれば、2人きりのタイミングで渡したかった。

 

 他のメンバーに見られるのも恥ずかしい。お姉ちゃんやシデロスの人に見られでもしたらもっと恥ずかしい。

 しかし、ライブと打ち上げでは中々2人になる時間を取ることはできなかった。帰りの時間もお姉ちゃんと一緒に帰るのだから、きっと時間を取れない。

 

 焦りと──今日のライブよりも強く感じる緊張が体を強張らせる。なんとか周りにはバレないように、いつもの笑顔で取り繕っている。

 

 最初は彼の隣に座れた。

 シデロスのメンバーと、喜多ちゃんと一緒のテーブルで。嬉しかったけれども、コミュ障な譲は全く話さずに野菜スティックをずっと齧っていた。

 ハムスターみたいで可愛いな、なんて事を思っていると、いつの間にか向こうのテーブルへと移動していた。

 

 ……そして、何やら大槻さんと仲良さげにずーっと話をしていた。

 目を離すと、いつも女の子といる。

 そして、今度はぼっちちゃんまでもが彼の横に座り出した。

 

 このパーティーに参加しながら、何故こんなにも彼を気にしなければならないのか。

 

 すると、彼は外の空気を吸いに行くと立ち上がり表へと向かった。そう言えば、初めての打ち上げの時も彼はそう言って外に向かっていたっけか。

 彼のいなくなったテーブルは、リョウとぼっちちゃん、大槻さんが何も話さずに固まっていた。まったく、あの2人ときたら。

 

 そしてついに、ぼっちちゃんも「お手洗いに……」と逃げ出した。

 

 あのテーブルは2人になった。

 すると、そんな様子に気がついたのかこちらのテーブルからあっちに移ったりと、わちゃわちゃとし始めたのだった。

 

 チャンスだ、と私は思った。

 

 譲は今、外にいるはずだ。

 であればきっと、今しかない。

 

 カバンから紙袋を取り出す。

 プレゼントだ。

 

 男の子にプレゼントをあげるのは初めてのことだったから、何をあげれば良いのか皆目検討つかない。

 つかないのだが、自分なりに考えて用意してきたつもりだった。

 

 彼の綺麗な指先。

 ピアノをやっていたからか、すらっとしていて大きい彼の手はよく目に入る。

 冬場はきっと寒いだろうからと、手袋を用意した。あとは、同じブランドのマフラーも。

 

 私は意を決して立ち上がると、店の戸を開けて階段の下から上を見上げた。そこには、やはり彼──大倉譲がいた。

 

 私は緊張しながら、平然を装い声をかけようとして。

 止めた。

 

 夜だけど、外のイルミネーションとたまたま良い角度で差し込む月明かりもあって明るかった。

 明るかったからこそ、よく見えてしまった。

 

 階段の上にいるのは、こちらに背中を向けた譲と、その奥にぼっちちゃん。

 

 彼の背中にはぼっちちゃんの腕が通っていて、抱き合うような体勢だった。

 ……ような、ではなく、間違いなく抱き合っていた。

 

 そして、2人の唇が、重なって見えた。

 

 月光なんて差して無ければよかったのに。

 クリスマスなんて無ければ良かったのに。

 

 月明かりが無ければ、イルミネーションが無ければ、暗がりに隠れてその姿を見ることがなかったのだから。

 

 灯が照らす2人は、だって、間違いなくキスをしていたのだから。




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