ぼっち・ざ・ぼっち   作:振り米

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一年あっという間ですね


三十五話 All i want for...

「はいっ! マッサージ器」

 

 12月24日。

 雪が舞うイヴの帰り道。

 

 ライブの打ち上げはお姉ちゃんの誕生日会も兼ねていたのだが、その時に私だけお姉ちゃんにプレゼントを渡していなかった。

 

「……ありがと」

 

「あと湿布とかアイマスクとか入浴剤とか、そろそろ健康に気を使わないとね!」

 

「ありがと……」

 

 お姉ちゃんには感謝してもしきれないほどだった。だから、今はこれだけでもいつかきっとすごいプレゼントを用意してあげるのだ。

 

「ところで」

 

 プレゼントを受け取ると、徐にお姉ちゃんは口を開いた。

 

「いいのか、それ」

 

「それ、って」

 

 それ、が何を指すのかは分かっていた。分かっていたのだが、あえて惚ける。

 私は彼へと用意したクリスマスプレゼントを渡せずにまだ持っている。

 

「惚けてもバレバレだからな……譲、だろ?」

 

「え、や、あ、違うから!?」

 

 しかしお姉ちゃんには見透かされていた。

 

「どうして渡さなかったんだ?」

 

「それはその、なかなかタイミングがなかったというか」

 

「やっぱり譲じゃん」

 

「あっ! お姉ちゃんずるい!」

 

 誘導尋問とも言えないような単純な問答に、自らハマってしまう。やはり家族に隠し事はできないようだ。

 

「好き、なんだろ」

 

「…………ん」

 

「そうか」

 

 雪が舞う。

 クリスマスムードで浮ついた街の音も、雪に吸い込まれて散っていく。

 頬が熱い。なんなら、耳まで熱い。

 

「そうだ、クリスマスプレゼントのお礼になんだけど、ちょっとスマホ貸して」

 

「え、あ、うん」

 

 図星を突かれた私は突然の申し出に疑問を抱かずスマホを手渡す。

 

「ええと、これか」

 

「お姉ちゃん、何してるの?」

 

「ほれ」

 

 聞き返す間にスマホを操作したお姉ちゃんは、すぐに私に返却した。

 果たして、一体何を──

 

「もしもし」

 

 スマホから男の人の声が聞こえる。

 画面を覗くと、通話が始まっていた。

 通話相手は譲だった。

 

「お、お姉ちゃんなんで急に──」

 

「いいから、話しなよ」

 

 楽しそうにニヤニヤしながら促される。私は突然切るのもおかしい事だと思いスマホを耳に当てた。

 

「あ、じ、譲?」

 

「そうですよ。というか、虹夏先輩から電話かけたんじゃないですか」

 

「ええとその……」

 

 私は話す言葉を準備していなかったため狼狽える。そんな様子を見かねた姉は、私のカバンから顔を覗かせる彼へのプレゼントを指差した。

 

「もう帰った?」

 

「いえ、まだ駅にも入ってないですよ」

 

「ぼっちちゃんは?」

 

「ああ、いつの間にか先に帰ってました」

 

「……そっかぁ」

 

「で、どうしたんですか? 何か忘れ物とか」

 

「……うん、そうかもしれない」

 

「かも、って。大丈夫ですか?」

 

「ううん、大丈夫じゃないから──駅の西口、クリスマツツリーのところにきて!」

 

「え、あ、はい。わかりました」

 

「それじゃ!」

 

 私は耳元からスマホを離すと通話終了のボタンを押した。お姉ちゃんに目を向ける。

 

「ほら、行ってこい」

 

「うん!」

 

 私はそう返事をして、駅の方へと駆け出した。

 

 ・

 

 息を吐く。

 薄く白いそれは大気に溶けるように消えていく。

 

 10年と幾年か生きてきて、恥ずかしながら恋愛とは程遠い人生を送っていた。ピアノだったり、家庭環境だったり、それらにばかり気がとられていた事もあり恋愛と言うものを自ら感じる事は今までになかった。

 まあ、言ってしまえばガキだったと言う話だ。

 

 もちろん今もただのクソガキに違いはない。

 違いはないのだが、改めて自覚した彼女への恋心だけは自分なりに間違いのないものだろうとは思っている。

 

 ひとりとは途中まで帰りの方面が同じだ。

 だから、一緒に帰りたいと思ったのだがいつの間にかいなくなっていた。

 

 ……残念ながら、俺が好きになったのはそう言うやつだ。

 

 しかしどうにも心が落ち着かずに今すぐ電車に乗る気分にはなれなかった。

 コンビニでホットコーヒーを買って、雪降る下北沢の街をただ意味もなく歩く。

 

 そんな時に、突然虹夏先輩からの電話がきた。

 要件はよく分からないが何かを忘れたみたいだ。クリスマスツリーの元で再度、待ち合わせとの事だ。

 

 たまたま近くにいた俺は、ペットボトルのホットコーヒーを口元で傾ける。

 周りはカップルだらけで、いくら待ち合わせをしているとは言え少し気恥ずかしかった。

 

「譲」

 

 声がした。

 聞き慣れた声だった。

 

「どうしたんですか、先輩」

 

 どきりとした。

 シチュエーションがラブコメみたいだったから。

 

 雪降るクリスマスイブの、クリスマスツリーの下。一つ上の美人の先輩は周りの男たちの視線を受けながら真っ直ぐにこちらへと向かってくる。

 間違いなくここの誰よりも綺麗で、素敵な人だとは謙遜なしに思う。

 ……いくら俺に好きな人がいようと、こんなシチュエーションは心が浮ついてしまう。

 

「お待たせ」

 

「今来たところですよ」

 

「今回は気の利いたこと言うんだね」

 

「嘘つけないだけですよ」

 

「……ふふっ、しってる!」

 

 なんだこの破壊力は。

 おいおい俺は早速複数人の女性に惚れるのか? 恋愛に目覚めた瞬間そんな獣みたいになっちまうのか? 

 いや、虹夏先輩が可愛いのが悪い(責任転嫁)

 

「で、忘れ物って一体なにを──」

 

「これ!」

 

 ぼすん、と。

 胸元に紙袋を突きつけられる。

 

「え、え?」

 

「この間のお返し。まあ、今日は私がサンタさんって事で」

 

 脳がフリーズする。

 

「……」

 

「いや、何か言ってよね」

 

「これって」

 

「だから、この間ちょっと早めのプレゼントもらったから、そのお返し」

 

 虹夏先輩はそっぽを向きながら照れ隠しのように矢継ぎ早にそう言った。

 

「や、でも、あれはそもそも俺のお詫び的な部分もあったのでお礼なんてそんな」

 

「いーから、あげる」

 

「……あ、ありがとうございます」

 

 胸元に押しつけられた紙袋を受け取る。

 中には二つ、ラッピングされたものが入っていた。

 

「その、開けても良いですか?」

 

「うん」

 

 俺はその二つのラッピングを丁寧に解くと、中にはグレージュ色の手袋とマフラーが入っていた。

 

 嬉しかった。

 

 ただただ単純に嬉しかった。

 

 そう言えば、きっと、誰かから本物のクリスマスプレゼントをもらったのは、これが初めてだったろう。

 

 でも、だからこそ。

 

 俺はどうしようもなく複雑な感情を拭いきれなかった。

 

 胸の奥がきゅっと痛くて、でもそれはどうしようもなくて。

 いくらバカな俺でも、たとえ勘違いだとしても、邪推だとしても。

 

 自身やっとその気持ちに気がついたからこそ分かることがある。今までは勘違いだと考えていたそれは、自分自身の経験でやっとまともな視線で見られるようになったから。

 自惚れかもしれないが、きっと。

 

 ──きっと虹夏先輩は俺のことが好きだ。

 

 先輩の目を見ると、今までの行動の節々を振り返ると、そう思えてしまう。

 だから、どうしようもないくらいにやるせ無い気持ちになった。

 

「……ありがとうございます、ほんと、めっちゃ嬉しいです」

 

「あはは、なんか照れるね」

 

「本当に、クリスマスプレゼントでこんなに嬉しかったのも、俺のことを考えて選んでもらったのも、初めてだったので。嬉しすぎてなんて言えば良いか」

 

「言い過ぎだから! 照れる!」

 

 虹夏先輩の声音はどこか上擦っていた。

 もしこれが、昨日だったら。

 もしこれが、前に2人で出かけてた日なら。

 俺は虹夏先輩のことを好きになっていたのかもしれない。

 

 だって、こんなに素敵な人のことを俺は他に知らないから。

 

 だからこそ、俺は正解が分からなかった。

 そもそも彼女が本当に俺のことを好きなのかは、言葉にされないと確定しない。

 でも、言葉にされると俺は断らなければならない。

 だとすれば、俺は彼女にそれを言わせてはいけない。──思わせぶりな態度を取ってはいけないのだ。

 

「あ、あのね、譲。実は──」

 

 彼女は意を決したように、息を吸い込むと口を開いた。

 だから俺は、意図的に遮ることにした。

 今その先を言われたら、どうすれば良いのか分からないから。

 

「虹夏先輩」

 

「うぇっ!?」

 

「本当にこれ、嬉しいです。ありがとうございました」

 

「ああ、いやそれ程でも……」

 

「今日、お姉さんとお家でも祝ったりするんですか?」

 

「え、まあ一応ね!」

 

「なら、早く帰った方がいいですよ! お姉さん待たせてるんですよね? 心配してますよきっと」

 

「まあ、そう……だね」

 

 遮って正論ぶって言葉を無理やり押し付けると、虹夏先輩は少しだけ寂しそうな顔をする。

 

「俺も寒くなってきたので、折角いただいたマフラーと手袋つけて帰ります」

 

 彼女に言わせてしまったらきっと、今のこの居心地のいい結束バンドの、邪魔をすることになってしまう。

 どうすれば良いのだろうか。

 

 最早、俺の小さい脳みそじゃ分からない。

 

「それじゃあ、また」

 

 そうして俺は、慌てるようにして駅へと向かう。

 

「待って」

 

 虹夏先輩は服の袖を掴む。

 俺は足を止める。

 

「譲は、さ」

 

 俺は振り向かないまま彼女の言葉を待ってしまった。

 

「ぼっちちゃんの事、どう思ってるの?」

 

 それは、告白の次に今聞きたくない言葉だった。




ちなみにまだ虹夏ちゃん負けたわけじゃねーから安心しろよな!
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