ぼっち・ざ・ぼっち   作:振り米

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みんな誤字報告ありがとう。これマジで突然書き始めたやつだから在庫ないしすぐ上がるんで今後もクソ誤字多いです。ごめんなさい許して。
今後もよろしくお願いします。


四話 流れを変えるのはいつだってヒーロー

 俺は階段裏のジメジメして暗いところに陣取ると存在を消すことにした。地球人は気のコントロールが出来るのだ。

 俺が来た後も、酔っ払いのお姉さんや後藤さんのファンを自称する不思議な人物(2名)を他にぽつりぽつりとお客さんが入り始める。

 しかし、台風のためか人は疎らにしか入っておらず、どうも寂しく感じた。

 

 演奏する側からすれば、人の数が多ければ多いほど、そして演じる場がよりフォーマルであればあるほど、またコンクール等の格式が高ければ高いほど緊張する。もちろん一般的な人の話で例外もあるのだが。

 しかし、逆にあまり人がいない場所での演奏も緊張するのだ。

 それは、お客さん一人一人の表情が見えてしまうからだ。つまらなかったらつまらないと、そう顔で物語られてしまうのだ。

 それに、お客さんのリアクションも人が少ないほど薄く小さくなる。それこそ満員のコンサートホールなどは演奏後に拍手が迎えてくれるものだが、それもほとんどない。

 故に、人があまり入っていない箱も、慣れていなければ程よく人がいる箱より緊張するのだ。

 

「1番目の結束バンドって知ってる?」

 

「知らない、興味なーい」

 

「見とくのたるいね」

 

 そう。

 このような少数の声が演者にダイレクトで伝わってしまうのだ。

 ……やめてくれ、ほんとまったくこっちまで緊張してくるじゃないか。

 

 楽器の音や、機材を調整する音が箱に響き始める。

 音楽からしばらく離れていたが、やはり生で触れる音はいいものだ。なんというかこう、心臓が揺れるような感覚だ。

 

「あれれー? やっぱりそうじゃん」

 

「はい?」

 

 俺は後方でわかってる感を出しながら存在感を消しているつもりであったのだが、突然酒臭い女性に話しかけられた。

 

「いや、多分違います」

 

「えぇー? いや何も言ってないよー」

 

 この人は先ほど、俺が来た後に後藤目当てにと足を運んでいた人だ。

 

「あんまりいじめてやんな。嫌がってるだろ」

 

「ひぃぃい!」

 

 すると今度は怖いおねーさんが来た。

 なんか先ほどの会話を聞いていると実はいい人そうな気がしてきたがやっぱり怖い。

 

「あはははは! ひぃぃいだって。怖がらせてるのどっちなんですかーもうー」

 

「いつまでそれをやるつもりなんだ」

 

「あ、いや、すみません!」

 

 存在感を消していたのに突然美人なおねーさん(1人は酒臭い、1人は怖い)に絡まれて、俺は借りてきた子猫のように縮こまっていた。

 

「大倉──だよな。お前さ、やっぱり」

 

 こわーいおねーさんが口を開き、俺に何かを聞こうとしたちょうど良いタイミングであった。

 

「はじめまして、結束バンドです」

 

 ギターボーカルの喜多さんが挨拶をし回し始めた。

 

「伊地知さんのおねーさん、始まりますよ」

 

 助かったー、ほんとに恐喝されている気分だった。まったくこわいこわい。漏らすところだった。

 あれ、股下寒いんだけど、大丈夫か、漏れてないか? 

 ああそうだ、台風のせいでズボンが少し濡れているだけでした。

 

「本日はお足元の悪い中お越しいただき誠にありがとうございます〜」

 

「あっはは、喜多ちゃんロックバンドなのに礼儀正しすぎ〜!」

 

 何という棒読み加減。

 始めたてほやほやでMCに慣れていないのは分かるが、初手のバンドでこの滑りスタートは見てるこっちも恥ずかしい。

 

 台風で足元悪いだけにすべっちゃった、なんちゃって。

 

「はは……」

 

 結束バンドの滑り具合に会場も生暖かい苦笑いを浮かべる。何だか俺の心の中のボケも滑ったみたいになって恥ずかしい。

 

 それにしても、みんな固いな。

 まあ先ほどの観客の声や、経験の少ないライブであることを考えれば固くなって当然なのだが。

 だが、確実に言えるのは、程よい緊張はパフォーマンスを実力以上に引き上げるが、度を過ぎた緊張はパフォーマンスを恐ろしいほどに下げる。

 

「あっ、うぅ……じゃあ早速一曲目いきます。聴いてください、私たちのオリジナル曲で──『ギターと孤独と蒼い惑星』」

 

 そうして演奏が始まった。

 正直言って、散々だった。大黒柱のドラムが安定していないし、ベースは周りを見ていない、ボーカルは案の定走りすぎで細かいミスも目立つ、ギターも縮こまってしまっている。

 

 まあ、こんなもんだろう。

 酷いとは言え、高校生バンドなんてこんなものだ。

 お客さんのリアクションも薄く、スマホをいじっている人もいる。

 女性が1人席を外すと、ボーカルの喜多さんはそれを目で追う。集中できていない証拠だ。

 

 本当に集中して音楽を弾いている時は、音と自分の世界しか見えなくなるものなのだから。

 

 まず顔が不安そうだ。

 

 もっと堂々と、押し付けるくらいの顔で自信満々にやってくれ。

 

 あーもう、俺は一体何様なのだ。

 でも、逃げ出してしまった俺だからこそ、ウズウズしてたまらない。人の前に立つ快感に、圧倒的な演奏で浴びる脚光に。

 

 高校生バンドだからこんなものだろう。

 俺は自分に言い聞かせるようにもう一度心の中でそう呟いた。

 後藤さんも別にこの演奏に関しては特別に下手なわけではない。俺の想像を超えて、周りのメンバーよりは緊張していないようにも見える。

 十分、頑張ってるよ。

 

 演奏が終わる。

 

「やっぱ全然パッとしないわ」

 

「早く来るんじゃなかったね」

 

 先ほどのように棘を感じてしまう言葉を二人組の女の子たちが残す。

 舞台上にも聞こえてしまうくらいの声量でそんなことを言うのはいささか配慮に欠けるが、それでもそれが事実なのだ。舞台に立つ者として、それを聴く者の正当な評価として受け取らなければならない。

 

 ──何より、本人たちがそれに気がついているだろう。

 

「あっ、えっと……」

 

 大丈夫。

 十分頑張ってるよ。

 初心者のライブにしては、という観点で見れば十分過ぎる出来だっただろう。

 ほら、失敗も経験のうちだと言うし。

 次の曲をそれとなく纏めてさえしまえば、きっと次回以降のための良い経験になったと諦めがつくだろう。

 そう、きっとそうだ。

 あとは無事に終わるように無難にこなして──

 

 じゃーん、と。

 脳を揺らすギターの音。

 

 一音でビビッときた。手が震える。

 俺は俯きがちになっていた顔を上げると、後藤さんが次曲へ繋ぐためのソロパフォーマンスを始めていた。

 

 他のメンバーは呆気に取られていた。

 観客も、また。

 

 体がゾクゾクする。

 

 きっと、他のメンバーはみんな緊張やしょうがないという言葉で納得させていたのだろう。

 俺も、まあこんなもんだろうと納得させていた。

 誰も、前に進まずにいた。

 

 そんな中で彼女──後藤さんの圧倒的なパフォーマンスから曲は始まった。

 

 先ほどまでの演奏は嘘みたいに見違えた。

 一瞬で、壁を飛び越えたのだ。

 その姿はさながら、ライブハウスのヒーロー。いや、ギターのヒーローであった。

 

「ちょっといいじゃん……」

 

「ね」

 

 直前までの演奏を、観客を自分たちを、全て塗り替えたのだ。それは、簡単なことではない。飲み込まれてしまった自分たちを塗り替えるなんて、俺にはできなかったことだ。

 

「めっちゃカッコよかったー」

 

「ねえ〜!」

 

 後藤さん目当てで来た女性2人組も、一曲目から打って変わって興奮冷めやらない様子であった。

 

 そして俺の横の怖いお姉さんも、

 

「ふふ〜んっ」

 

「見事なドヤ顔」

 

 パシャり。

 なぜか酒臭いお姉さんに写真を撮られていた。

 

 そして俺は、恥ずかしいことに。

 

「ざい"ごう"じゃね"え"がよ"」

 

 号泣していた。

 

 ・

 

 一年と半年くらい前。

 俺はピアノを辞めた。

 

 ……正確に言うと、辞めざるを得なかった。

 

 全く俺のことなんて微塵も考えていないのか、両親はいつも喧嘩をしていた。

 母はどうしても俺にピアノをやらせたくて子供の頃から鬼のように追い回してきた。

 父はそんな俺を見て見ぬふりをして仕事に没頭していた。

 

 だからまあ離婚となれば、干渉はしてこないけど最低限のことはしてくれる父について行くのは当然であった。

 

 でも別に、母の元を離れたからと言ってピアノを辞める必要はなかったし、特段辞める気もなかった。

 どうせ父親は続けようが続けまいが構わないだろうし、なんなら大体家にはいない。

 

 だから中学2年で、ピアノを一応ガチでやりながら受験勉強も頑張らないといけないというのに、親のめんどくさいイザコザのせいで俺は志望校のレベルを下げなければいけなくなった。

 ……はい、言い訳です。全く勉強していなかったのは親のせいにしているけどやっていなかった自分の責任です。

 まあ言い訳くらいにはさせてほしい。

 

 まあ、色々ありながらも本気で打ち込めるモノがありつつ、なんやかんや無事に生きていけるならなんでもいいと思っていたのだが。

 

 ──それでも俺はピアノを辞めざるを得なかった。

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