ぼっち・ざ・ぼっち   作:振り米

7 / 36
七話 ドキドキ!お宅訪問

 ──ぼっちの朝は遅い。

 

 夏休みも幾日か過ぎたある日。

 俺はいつまでも家にいる自分とおさらばする為に、外出することを決意した。決意したは良いものの「暑い」だとか「明日でいいや」だの理由をつけてしまったせいで気がつけば決意の日から数日が経ってしまっていた。

 

 だが、ついに俺は家からの一歩を踏み出した。

 

 俺の数少ない趣味である水族館ぶらぶら。

 水族館に行きクラゲを眺めたりエイを眺めたりペンギンを眺めたりする時間は、家の外にいる中では唯一のオアシスであった。

 昼前くらいに起きた俺は、ブランチという名の朝飯と昼飯が合体しただけのご飯を食べて颯爽と家を飛び出した。

 

 今日の目当ては八景島シーパラダイスにある水族館だ。

 都内の水族館に飽きてきた今、京急線沿線に住む俺は神奈川県の制覇を目論んでいた。川崎にあるやつはいつでも行けるし、江ノ水は意外と遠い、中間地点として存在するシーパラに行くことにしたのだ。

 

 俺は一人ぼっちで水族館を周り、夏休みのせいかいつもより多い幸せそうな子供連れの家族を見て怨嗟を吐きつつ、バランスを取るようにして海の生き物たちに浄化していただいた。

 

 ・

 

「あぁ、暑い……」

 

 水族館を満喫し終えた午後4時。

 俺はコンクリート・ジャングルを生きる現代日本人なのだと言うことを嫌と言うほど実感させられた。

 

 ああ、人間やめたい。

 

 今ならポルノグ○フィティの例の歌詞の意味もよくわかる。

 

 海の底で物言わぬ貝になりたい。

 

 いや、だがあれは郷愁や切なさを感じる愛の歌詞であり、彼女無し=年齢の俺にとっては到底理解できないものでした。

 許してね……俺の奥底に眠る恋心よ……。

 

「ジミヘン、帰るよ」

 

 ジミヘン? なんで現代日本にかの伝説のギタリスト、ジミー・ヘンドリックスがいるのだ? 

 バック・トゥ・ザ・フューチャーでもしたのだろうか。

 

 俺はもしイタコに降霊でもさせられたジミー・ヘンドリックスがいるのであれば是非サインを貰おうと思い振り向くと──

 

「ご、後藤」

 

 後藤ひとりがそこにはいた。

 いや、後藤ひとりであって俺の知る後藤ひとりでは無かった。

 

「おにーさん誰? 不審者?」

 

 そう、後藤ひとりの幼少期に出会ってしまった。

 やはり俺は、バック・トゥ・ザ・フューチャーしてしまったのだ。

 ドク! どこにいるんだドク! 俺の親友! 

 

 あ、そういえば親友なんて高次元なもの俺にはいませんでした。つまり過去への片道切符なのだ。ぼっちはフューチャーにバックしちゃいけませんね。

 

「まあ確かにこの時代に俺の存在はないはずだから不審な者には当てはまるかもしれないな」

 

「やっぱり不審者だ」

 

 それにしても若かりし日の後藤は「あ」とか「え」とかコミュ障特有の話し方をしなかったのだな。

 俺も幼き頃はみんなと仲良くやって──ませんでした。ずっとピアノのレッスンさせられてました。こうして悲しきコミュ障モンスターは生産されていくのですね。

 

「ふたりー、危ないんだから先に行っちゃダメでしょー……ってあら?」

 

 俺が幼き後藤に不審者扱いされていると、おそらく後藤さんママが現れた。やっぱり過去に戻っているからか若い。

 

「ごめんなさいね、うちの娘と犬が」

 

「あ、いえ」

 

 いや謝られることは何も無い。俺がどう見ても不審者なのだから。

 

『ニュースの時間です。5歳の少女が、自称元ピアニストの大倉譲容疑者に声をかけられる事案が発生しました』

 

 こうなる。

 グッバイ、マイライフ。

 

 というか、このお母さん今「ふたり」と言ったのか。俺の知る後藤の名前は「ふたり」ではなく、名は体を表す程に「ひとり」だった筈ではないか。

 

 ──瞬間、俺の脳内回路のシナプスだかなんだかが駆け回ったのか電気信号があーだこーだして脳がビビッとした。

 

 以前、後藤から聞いたことがある。

 ひとまわり離れた妹がいると。

 そして、この名前だ。

 安直かもしれないが「ひとり」さんの妹であれば「ふたり」になるのでは無いか。3人目だと「さんにん」、いや「みにん」か? 語呂が悪いな。

 

 まあ何にせよ、おそらくこの子は後藤の妹で、この方は後藤の母親に違いない。

 というかめっちゃ似てるし、あの独特なピンクの髪の色まで一致している。

 

「あ、あの、ご、後藤ひとりさんの親御さんでございますでありますでしょうか」

 

 また年上女性苦手障害が出てしまった。

 上下関係があるような世界に入ったことの無いぼっちなので、敬語も苦手で文法メチャクチャです。

 

「あらー? ひとりのお友達? ……でも変ね、うちの娘に男友達が出来るわけないと思うのだけれど」

 

「あ、いえ、と、友達です」

 

「本当にお友達なのね〜」

 

 しかしこの年になって友人の親に会うというのは何とも気まずい。そういえば、後藤は金沢八景駅が最寄りだとか言っていたような。

 

「よければ家に寄って行く? ひとりもいるわよ」

 

「い、いえいえいえ全力でお断りいたします」

 

 むりむりむりむりかたつむり。

 俺には女友達の自宅に行く度胸なんて無い。というかこのお母さん、後藤と違ってコミュ力高いなおい。妹さんを見るに、遺伝子はどこかでバックレたのだな。

 

「あら、気を使わなくていいわよ? いつも友達を家に連れてこないから不安だったのよね。最近はバンドのお友達とかも居るみたいだけど……」

 

 うぐ、そう言われると断りづらくなるだろう。本気で断ったらこのお母さん傷つきそうじゃあないか。

 

「おにーさん、なんかおねーちゃんに似てるね」

 

「その歳で人を見る目があるな」

 

 正解だ。よくぼっちと見抜いた。

 

「おにーさんお家きてよー」

 

 幼女の無垢な瞳でそんなこと言われたら断りづらいだろうが。

 お母さんと妹さんの純粋でキラキラした眼差し、俺にとっては真夏の太陽よりも眩しかった。

 そうして断る術を無くした俺は、

 

「え、あ、はい。それじゃあ少しだけ」

 

 ついて行くことにした。

 ぼっちはそもそも誘われないが、仮に誘われでもしたら断ることもできないのだ。

 だって断って陰口言われて居場所無くなったらどうするの? 誰か責任取ってくれる? 

 

 ・

 

「おねーちゃんただいまー。いつまでもこもってないで早く降りてきてよー」

 

「あ、無理に呼ばなくていいよ……お邪魔します」

 

 俺は断ることもできず、人生で初めて友達の家に上がった。しかも女友達のだ。

 

「リビングこっちだから、ゆっくりしていってね〜」

 

「あ、ども」

 

 そうしてリビングに通された俺は、肩身狭くソファに腰掛けた。お家に上げてもらったは良いものの、何をすれば良いかわからずソワソワしてしまう。

 

「おにーさんおにーさん」

 

「ん?」

 

 そうしてソファにこじんまり座っていると、後藤の妹さんに声をかけられた。

 

「私はね、後藤ふたり。こっちの犬はジミヘン」

 

「クゥ~ン」

 

「ご丁寧にどうもふたりちゃん。俺は大倉譲、おねーちゃんのお友達です」

 

「ほんとにおねーちゃんの友達なんだ」

 

「ほんとほんと」

 

 ふたりちゃんもワンちゃんも可愛いことこの上なかった。

 

「というかふたりちゃんしっかりしてるね、お姉ちゃんと大違いだ」

 

「ありがとう。でもよく言われる」

 

 可哀想なことに、既に妹以下の存在であるとは。勝っているのは年齢とギターの腕だけか……? 

 しかし、俺にも妹や弟がいたら似たような事態に陥っていたかもしれない。そればっかりは俺を産んで以降不仲であった両親に感謝だ。何度親の不仲に感謝しないといけないのかは永遠の謎という事にしておこう。

 

「お母さん、なんでリビングに下りなきゃ行けない────の」

 

 俺はリビングのソファでふたりちゃんと戯れていると、家でも変わらぬ見慣れた奇抜なピンクのジャージ姿の後藤が現れた。

 

「────」

 

「うす」

 

 現れたと思ったら、フリーズした。

 

「……」

 

「……」

 

 いや、なんか言えよ。

 

「……!」

 

 フリーズしたと思ったら二階へ引き返した。

 まあこうなるだろうとは思っていたけど。

 

「お友達きてるのにそんな反応しちゃダメでしょ〜」

 

 いや、お母さん仕方ないよ。今回悪いのは俺とお母さんなんだよ。

 俺も休日部屋着でゴロゴロしてる時に異性の友達を呼ばれたら同じリアクションする自信がある。……でも後藤は部屋着も普段着も変わらないし、見た目もそんなに変わっていないような。

 

 だとするといつもノーメイクであの美少女なのか……? とんだ宝の持ち腐れだな。

 

「でもひとりにも男友達がいて良かった〜。このままだと結婚できずにお家に引きこもりっぱなしになっちゃうのかな〜なんて思っていたの」

 

「い、いやー、後藤はちゃんとしてれば美少女ですし大丈夫なんじゃないですかねー」

 

 俺とは違って、と付け加えておこう。

 奇行もコミュ障もあるが、腐っても美少女なのだ。むしろ一定層には刺さりそうだしそこそこニーズはあるだろう。

 

「良かったわねー美少女だってよ」

 

「あうあうあうあ」

 

 いやなんでこのタイミングで降りてきてるんだよ恥ずかしいじゃねえかこの野郎。

 

「あ、お、大倉くんも、か、かっここここ」

 

「無理して言わんでいい。余計に傷つくだろうが」

 

 かっここここってなんだ、壊れたレコードが。無理して褒めないでくれ。それが1番気を遣われてるみたいで傷つく。

 でもやっぱり陰口でブサイクとかキモいとか言われたのをついうっかり耳にする方がきついな。

 

 それにしても今日は突然の訪問だったせいか、後藤の奇声もキレがいい。そして、その異常を一切気にしないこのファミリーたちもなかなかにロックだ。

 

 その後も後藤はほとんど顔を出していなかったのだが、時々現れては逃げ帰るように消えるのを繰り返していた。野良猫かお前は。

 

「うふふ、男の子の友達って、息子ができたみたいで楽しいわね」

 

「おにーさんおねーちゃんに似てるからおにーちゃんになってよ」

 

 そして俺はなぜかふたりちゃんに懐かれていた。

 

「良かったら大倉くん、夕ご飯食べて行かない?」

 

「え、いや、遠慮しときます」

 

「そうよね、お家にご飯あるわよね〜」

 

「え、いや、家には無いです」

 

「……あら? そしたらやっぱり遠慮しなくて良いのよ」

 

 くっ、友達のママって何故こうぐいぐいくるのだ。年上女性は苦手って何度言えばこの世界に通じるのだ……! 

 

「……じ、じゃあ、いただいていきます」

 

 やはり押し負けてしまった。

 コミュ障ぼっちは断れない生き物なのだ。

 

 ・

 

 ご飯の準備を始めた後藤ママを横目に、俺はせっかくなのだからと後藤の部屋に行くことにした。

 ……女子の部屋。

 やましい気持ちはない。本当にない。ゼロ。嘘じゃない俺は嘘がつかない。けっっっして女子の部屋に興味があるとかそういうのじゃない。

 

 俺は自分にそう言い聞かせながらも、胸の高鳴りを抑えきれない。

 

「後藤、入るぞ」

 

 そうして俺は扉を開くと。

 全くJKの部屋とは思えない和室が広がっていた。別に汚れているとか汚いって訳ではないのだが、俺の胸の高鳴りを返してほしい。

 

「あっ、あ、ああ」

 

 押入れからこもった声が聞こえる。

 ドラえもんか君は。

 

「ごめんな、急に押しかけたみたいになって」

 

「あっ、いえ、全然……」

 

 俺は押し入れの前であぐらをかいて座る。

 すると、後藤は恐る恐る出てくる。

 

「それにしても、後藤の家族は愉快な方々だな」

 

「ごめんなさい、私の家族がほんと……」

 

「いやむしろ俺の方がごめんなさいだよいきなりで。というかギターとか置いてないんだな、この部屋」

 

「あ、ギターはそっちの方です」

 

 そう言って押し入れを指差した。

 そうか、狭くて暗いところでしか彼女は生きていけないのか……。

 

「なんかさ、良いな。こーゆー家族って」

 

「……そう、ですかね?」

 

「うん、優しいお母さんとか元気な妹とかマジ羨ましい」

 

 改めてどうしてこんな娘が生まれたのか不思議になってくる。

 

「な、夏休みとか予定空けてるから、その、いつでも来ていいから……」

 

「あ、ごめんなさい。いつでもはいいです遠慮しときます」

 

「あっ、あああああ」

 

 俺は彼女の友達への重い思いを丁重に断ると顔を青ざめて震え出した。アホ毛も揺れている。

 最近はこの奇行にも慣れてきて、むしろ新しい形態を見れないものかと色々チャレンジし始める事にした。

 

「……まあ、たまにな。いつでもはご両親に迷惑かけるし、事前に連絡くらいはするよ」

 

「え、あ、は、はい!」

 

 俺の見事なまでのツンデレに、彼女は嬉しそうな顔を見せながら(当社比)元気そうに返事をした(当社比)。

 

 後藤もなかなかいじり甲斐があるし、リアクションが楽しい。

 なんか、ちょっと鈍臭くてビビリな猫を飼っている気分だ。

 

「……ご飯まで暇だし、何かする?」

 

「あ、ツイスターゲームなら」

 

「いやいやいやいやそれは流石にアウトだろ」

 

 やりたいけどね! 役得だけどね! でも流石にそれはアウトだし、めっちゃ気を使って触れないようにして腰とかイカしてしまいそうじゃないか。

 

「うーん、ゲームとかは思いつかないけど……。そういえば後藤はどんなアーティスト好きなの?」

 

「私は青春コンプレックスを刺激しない歌ならなんでも……」

 

「わかる」

 

 めっちゃわかる。

 あとパリピとか陽キャとかが湘南で聴いてそうな曲全般もきつい。湘○乃風とか。

 

「それ系統で行くとミセスの青と○とかな」

 

「あ、わかります」

 

 やはりぼっち同士。地雷原は一致しているようだった。

 

「大倉くんはどういうの好きですか……?」

 

「俺? そーだな、バンドで言うとthe pill○wsとか?」

 

 ひねくれ陰キャぼっちあるある〜

 マイナーなアーティストを挙げて俺知ってる感を出そうとするー(出そうとするー)

 

「あ、私も好きです」

 

「おおー、なんか嬉しい」

 

 やはり……ひねくれ陰キャぼっち。好みについては手に取るようにわかる。

 そして、いつかきっとカラオケに誘われても良いようにと流行りの曲もカバーしておくのだ。

 

「あと俺らみたいな根暗だと、バンプとかラッドとかフジファも合うよな」

 

「あっ、めっちゃわかります」

 

 驚くほど無駄に音楽の趣味が一致する。

 

「アルバムで言うとミスチルの深海とか」

 

「病み気の曲で落ち着きますよね……」

 

 さすが後藤だ、ここまでついてこれるとは。

 

「き、き○こ帝国とかsyru○16gとかも」

 

「おおお……!」

 

 なんだこの陰キャバンド談義は。

 まだまだメジャーどころではあるが、こーゆー話をしてる時って段々コアなバンドとか曲とかに話が入って行くよね。

 あんまり気取って、知ったかぶりしてると友達が散って行くのだが、後藤に関しては無駄に考えとか趣味が合うらしい。

 側から見ると少しだけ痛々しい談義は白熱した。

 

 こうして、初のドキドキ! お宅訪問は無事に終わった。

 ちなみに後藤家のご飯はお父さんも作っているらしく、とっても美味しかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。