ぼっち・ざ・ぼっち   作:振り米

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胸騒ぎの腰つき

ちなみに茅ヶ崎駅の発着メロディーはサザンの希望の轍
あれテンション上がる


九話 江ノ島が見えてきた、俺の家は遠い

 あれ、いつの間に海に? 

 

 俺は目を覚ますと、目前には青い海が広がっていた。

 

「後藤さん、いい加減起きてー」

 

 喜多さんは後藤の頬をぺちぺちと叩いて起こそうとしていた。喜多さんは後藤さんと肩を組むようにしてこの海際まで運んでいたようだった。

 

 ──待て、つまり俺も今目を覚ますこの瞬間まで虹夏先輩かリョウ先輩と密着しながら運ばれていたのではないだろうか……? 

 

「あ、大倉が起きた」

 

 横から聞こえてきたのはリョウ先輩の声。

 さっきは頭空っぽとか思ってすみませんでした。こんな俺に肩を貸してぐへへ密着しながらぐへへ運んで来れてたなんてぐへへ──

 

「で、なんで俺は磔にされてるんですか?」

 

「死んでたから」

 

 キリスト教徒に怒られるぞ貴様ら。

 

 俺の妄想は束の間の儚い夢であった。

 俺は十字の板に磔にされながら台車の上に乗せられて引っ張られていた。なんか妙に視線が気になると思ったらそういう事だったのか。

 ……いや、これを準備する時間が無駄すぎるだろ。

 

「はっ! あ……あれ、いっ、いつのまに?」

 

 俺に遅れて、今度は後藤が目を覚ました。喜多さんの肩で。べ、別に羨ましいとか思ってないんだからね! 

 

「あ……ありがとう喜多さん」

 

 後藤は喜多さんの肩に回していた腕を外すと、海に視線を向けていた。

 俺もやっとの思いで磔から逃れると、同じようにして海を眺める。

 

((いざ来てみると、海ってやっぱり綺麗でいいな))

 

 陰キャぼっち二人は同じ感想を胸にした。

 そもそも、俺は海が嫌いなわけではない。水族館は大好きでよく行くわけだから、海のお魚さんたちも好きだ。

 

 俺が嫌いなのは、海ではなく、ましてや江ノ島海岸などではなく──

 

「ねえ! お姉ちゃんたち!」

 

「う"わ"ぁぁ」

 

「暇ならうちの海の家で食べてきなYO〜」

 

 実物のリアルパリピの存在そのものである。

 俺は後藤を生贄にパリピの群れに気取られぬよう、ナメック星で隠れる時のクリリンと悟飯並みに気を下げることにした。

 え? 男に絡まれた女の子を助けるのがラブコメの定番だって? 

 知らん。俺みたいなのがそんなでしゃばり方しても効果はないし、余計なお世話とでも思われたらそれこそ翌日には藤沢の海の水死体に様変わりだ。

 

 パンっ! 

 

 俺は目の前のパリピの戦闘力に震えながら隠れていると、目の前の後藤がはじけてまざった。

 

「ひっ、ぼっちちゃんが爆発四散した!」

 

 後藤の爆発を陽動とし、俺たちは逃げるように走り出した。ちなみに、萎れた浮き輪みたいになっている後藤は虹夏先輩が回収していた。

 

「絵に描いたようなウェイ系だった」

 

「あれを相手にするのは分が悪すぎるぅ!」

 

 そういえば俺と後藤が酷すぎるから忘れていたが、リョウ先輩も虹夏先輩もインドア系だった。喜多さん以外にとってはアレは猛毒の一種のようなものだ。

 

 ・

 

 俺は先程の戦闘でなんとか隠れ切ったためダメージは無いものの、後藤は深刻なダメージを喰らっていた。

 

「はい、これ後藤さんの」

 

「あ、どうも。……あ……これは?」

 

「たこせん! たこを1トンの力でプレスするんだって」

 

 俺たちの手元には1トンでプレスされたたこが行き渡っていた。

 うん、うまい。

 

「あ、おいしい」

 

 後藤もたこせんを食べて少しは元気が出てきたようだ。HPを回復するのは美味しい食べ物なのだと龍が如くで習った通りだった。

 

「私、おいしいものセンサーも抜群……!」

 

 リョウ先輩は相変わらずのポジティブ人間だった。

 最近になって少しずつこの人のドヤ顔を見抜けるようになってきたのは密かな自慢だ。

 

「さ、さすがです」

 

「これ、おっきくてかわいいし映えますね!」

 

 喜多さんはそう言うと、どこからともなく自撮り棒を取り出した。

 自撮り棒を持っている女子はおしなべて敵だったので、つい身構えてしまう。急に棒状の物を取り出されると、警棒かと思うだろ普通。いや、思わないか。周りを見ても誰も思っていなさそうだ。

 

 と言うか、たこせんはかわいいのか……? 

 単純に可愛い物やブサカワくらいならまだ可愛いとしての意味は理解できるが、このレベルになってくると「かわいい」という単語の意味は理解の範疇を超えてしまっている。

 もう陽キャのかわいいにはついていけない。

 

「よし、写真撮ろー!」

 

「はーい撮りますよー!」

 

 虹夏先輩の写真を撮ろうと言う発注を、喜多さんは流れるようにして受注し、その手に持つ自撮り棒を真夏の青空に天高く掲げた。

 

 パシャリ、と写真を一枚撮る。

 

「ってあれ、大倉くんがいません」

 

 俺は、喜多さんがシャッターを押す前に無意識のうちにフェードアウトしていた。

 喜多さんが気がつかないものも仕方あるまい。俺も脊髄反射で動いていたためか、認識するより前に画面外に出ていたのだから。

 

「ちょっとー、なんで大倉くん逃げるのー!」

 

 虹夏先輩は「ちょっと男子ー、真面目にやりなさいよー」という合唱コンクールみたいなノリでそう言った。

 

「い、いやぁ、か……かわいい女の子四人の写真に不純物映しても……ねえ?」

 

「ねえじゃないのー。もう、せっかく結束バンドメンバーで来たんだから5人の写真も取らないとダメでしょ?」

 

 俺は泣いた。

 虹夏先輩、もう俺を既にメンバーとして認めてくれていたのか。船長、俺はこの船に一生ついて行きます! 

 

 首根っこを引っ掴まれて無理やり寄せられると、再びパシャリとシャッター音が響いた。

 俺は慌ててスマホのカメラに目線を向けると、周りの女子たちとの距離の近さに目に見えるほど動揺していた。

 近いし、あとなんかいい匂いする! でも後藤は他3人に比べると女子って感じの香りはしない。臭くはないけど……あ、押入れの香り? 

 

「どれどれー」

 

 喜多さんは自撮り棒を下ろして、今しがた撮った写真を確認すると──

 

「っっく、ふふっ」

 

 何故だか笑いを堪え出した。

 

「え、喜多ちゃんどうしたの!?」

 

 今度は虹夏先輩がスマホを覗き込むと──

 

「──ぶっ!!」

 

 おおよそいつもの美少女とはかけ離れたようなリアクションをした。

 

「気になる、見せて」

 

 エントリーNo.3、リョウ先輩。

 

「……」

 

 おや、リョウ先輩は覗き込んだがリアクションは特にないようだ。リョウさんの写真写りが珍しく悪かったのだろうか──いや。

 よく見るとリョウさんはなんとか笑いを堪えるために、超高速で小刻みに震えていた。

 

「え、どんな写真?」

 

 そう思いスマホを覗き込むと、安定してキラキラした美少女4人(珍しく後藤もキラキラした美少女になっていた)が各々笑顔を浮かべていた。

 

 そして──

 

 

【挿絵表示】

 

 

 その写真の枠内に1人、おおよそ一緒に写真を撮ったとは思えないような、SKET ○ANCEのボッ○ンがテンパっているときにする変顔のような顔をした男が映り込んでいた。

 

「ああああああああだから映るの嫌だったのにいいいいいいいいいい」

 

「あはははははっ! ひーっ、ご、ごめんって大倉くんっ、ぷっ」

 

 虹夏先輩はついに堪えきれなくなったのか堰を切ったように大笑いした。

 自分から写真撮ろうと言っていたくせに酷すぎる! 

 

「あとで写真ちょうだい。これって、逆に才能あると思う、ぷっ」

 

 リョウ先輩も背中を向けながら、めちゃくちゃ肩を震わせていた。

 拡散、ダメ、絶対。

 俺はその写真の存在をこの世から抹消することを今この瞬間誓った。

 

 拝啓、神様。

 どうかいっそのこと、私を殺してください。

 

 ……ちなみに後藤は、俺の変顔写真に目もくれず、青春っぽい経験に感涙しこの夏のクライマックスを迎えていた。

 

 ・

 

「よ〜し、ここから頂上まで登りますよ〜!」

 

「え、階段……」

 

 片瀬海岸から橋を渡り、俺たちは江ノ島へと到着した。江島神社の大きな鳥居も前に、喜多さん以外の面々はテンションを下げていた。

 

「自力で上がってみる景色ほど素敵なものはないと思いませんか……!?」

 

「いや、そんなのはいい……」

 

 相変わらず喜多ちゃんパワーはフルスロットルであった。

 

「頑張りましょう!」

 

「嫌だ!」

 

 リョウ先輩は本気で嫌そうな表情をしていた。リョウさんもまた、俺や後藤とは違うタイプのインドアぼっちなのだ。急な階段を真夏に登ることなど到底できはしない。

 

「後藤さんも!」

 

「あっ、うっ……」

 

 後藤は当然ながら登る気はないらしい。

 

「伊地知先輩は行けますよね?」

 

「私もそんなに乗り気では……」

 

 そう、虹夏先輩も同じくインドアファイターなのだ。見た目の良さと性格の良さと優しさで完全に喜多さんタイプなのではないかと最初は疑っていたが、どうやらそうでないらしい。

 

「大倉くん!」

 

「は、はい」

 

「行けますよね!」

 

 そう言う彼女の目はいつも以上に光り輝いていた。

 夏、海、そして陽の光に当てられた彼女はいつになく陽のオーラを発していた。陽キャという生物はひざしがとてもつよい時のソーラービームみたいなもんなんだな。

 

 と、言いつつと。

 

「ま、まあ俺は全然いいけど」

 

 俺は割と乗り気であった。

 

「え、意外」

 

「あんま舐めてもらっちゃー困りますよ。こう見えても男の子なんでね」

 

 リョウ先輩は俺を一体なんだと思っているのだ。

 俺はインドアぼっちであると同時に、一人で出かけること自体は好きなのだ。クロスバイクひとつで往復100km圏内なら旅立てる。

 

「でもさっきパリピに襲われてた時、ぼっちのこと盾にしてたよね」

 

「君のような勘のいいガキは嫌いだよ」

 

 ちっ、戦闘力を消していたのにバレたか。

 リョウ先輩もスカウター無しでの気の察知が出来るのか。

 

「……エッ、アッ、大倉くんあの時私のこと盾にしてたの」

 

「ちっ、余計なことに気がつきやがって……」

 

「え、ひ……ひどい、お、同じコミュ障友達じゃないの?」

 

「ごめんな……命の危機を前にしたら友情なんて儚いものなのだよ……」

 

「ぼっちちゃん爆散してたけどねー」

 

 虹夏先輩、それは言わない約束だ。

 

 そうこう言いつつ、エスカーまではどちらにせよこの階段は登らないと行けないので、後藤、虹夏先輩、リョウ先輩は文句を言いながらも階段を登り始めた。

 真っ先に駆け上る喜多さんの背中を見ながら、俺は歩みを進める。後ろにはへばりかけの虹夏先輩とリョウ先輩。最後尾には、もう既に膝に手をついた後藤がいた。

 

 ──そして後藤は、万華鏡写輪眼・神威を食らったかのように空間ごと削り取られかけていた。

 

 ……まあさっき生贄にしてしまったし今度ばっかりは助けてやるか。

 

 俺は登りかけていた階段を一度降り、後藤をおんぶして階段を登った。そこにドキドキなどは一切なく、おばあちゃんを背負っているかのようだった。

 あ、元気なおばあちゃんが普通に階段登り終えてる。

 

 後藤を背負い登り終わると、虹夏先輩とリョウ先輩はダウンしていた。

 

「え、ええ、エスカー」

 

 すると、俺の背後にいる後藤が何かを口にする。

 

「え、え、えすえす、エスカレーターで行けるみたいですよ!」

 

「「おおー」」

 

 少し待ってほしい。

 虹夏先輩とリョウ先輩はまだわかる。

 だが後藤、テメーはだめだ。

 

「後藤お前ほとんど階段登ってないだろ!」

 

「え、いや最初の方数段登ってた……」

 

「2/3は俺が運んでやったじゃねーか!」

 

 この腐れぼっちはほとんど登っていないのに他のメンバーよりも死にかけているって一体どんな体力をしているんだ。

 ライブでのギターとかだいぶ体力使うから、ある程度の耐久力はあると思っていたのだが。

 

 インドアメンバー見てみると、虹夏先輩、リョウ先輩、後藤の順に疲れており、ドラムをやっている虹夏先輩が1番体力があるようだった。どんぐりの背比べと言われればそれまでだが。

 

「と……というか大倉くん体力あるね」

 

「まあな……ピアノを長時間弾くのは結構体力いるんだよ。俺は発揮する機会なかったけど、有名なコンクールとかだと1時間弱ぶっ通しで弾くのとかもあるんだ」

 

「……へー」

 

 俺の背にいる後藤は関心した様子で相槌を打っていた。

 ……というか。

 

「後藤、お前はいつまで俺の背中に乗ってるんだ?」

 

「アッ、はい、もう少しだけ……」

 

「いや暑いし疲れるしやなんだけど」

 

「な……なんか大倉くんいい香りする……」

 

「恥ずかしいしきもいからやめろ」

 

 後藤ならいいが、1人背負って真夏に階段を登っているのだからかなり汗をかいた。そんな状態の匂いについて触れられるのは本当に恥ずかしい。後藤なら別に何言われようが気にしないが。

 

「そこ! イチャつかない!」

 

「イチャついてねー!!」

 

 喜多さんの目は節穴なのだろうか。

 なにが悲しくて真夏の炎天下にジャージ女を背負って階段を登らなければならないのか。

 これがイチャつきに取られるのであれば、シャイなハートにルージュの色がただ浮かんじまうよ。

 

「というか、階段で登りましょうよ──!」

 

 喜多さんの魂からの陽の叫びは、藤沢の海に溶けるようにして消えていった。

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