接点なきゃどこでエンカウントせなええねん……。
誤字報告をしてくれた皆様方、ありがとうございます(ある意味面白い誤字は残しましたけど)
姫島朱乃は恋をしている。
どうあっても、どう足掻いても止める事はできない胸のトキメキを感じている。
恋愛シミュレーションで例えるなら、好感度ゲージがマックスのまま変動しない……それ程までに、彼女は夢中になっていた。
現在、十八になる年まで引き摺っている過去のトラウマ。それによって拗れてしまった父親との親子関係。
そんな朱乃が出会ったのは、どこか包容力を感じさせる一つ下の男の子。
「イッセーくん……」
無意識に声に出る彼の名前。
ギュッと抱きしめる
ただ一誠を想うだけで心が満たされる。求めていた父性で活力が充填される。
息を吸い込めば、妄想の中であっても一誠の匂いが、フェロモンが感じられるような気がして脳がピリピリとし、興奮と共に身体が疼いてしまう。
たったこれだけの行為で堕落する。本物がいないにも関わらず、自身を快楽の坩堝へ堕としてしまうなんて、なんという魔性の男だろうか。
肥大化した母性の塊に、人形が沈んでしまう程の力で抱きしめる。
「はぁ、イッセーくん……お父様……いいえ────パパ、パパ♡」
姫島朱乃は恋をしている。そして同時に、意中の人に対してバブみも感じていた。
◇◇◇◇
その日は、少し憂鬱とした日であった。
週一に朱乃宛てに届く一通の手紙。それは父親からの手紙であり、『元気にしているか?』『まだ会ってくれる決心はつかないか?』といった内容のもの。
こちらの近況について聞きたがる内容に嬉しく思うも、溜め息も出てしまう。
この嘆息は父親に対してのものではなく、自分の不甲斐なさによるものだ。
あの人はいつだって自分を気にかけてくれる。心配しない日なんてない程に愛されている自覚はある。
けれども────。
「今更会って、なんて声をかけたらいいの……」
怖い。父親と会うのが怖いのだ。
感情的に出ていって、自分勝手が影響して襲われて、相談もなく悪魔に転生した。
どこまでも自己中心的な行動しか取っていない。全国のファザコンから親不孝の誹りを受けても仕方ないと朱乃自身が思ってしまっている。
会いたいとは思っている。しかし、どんな顔して会えばいいのか分からない。なんて言葉を投げかけられるのか恐れている。
怖くて、足が、竦んでしまう。
「昔と、何も変わりませんね……」
独り、自嘲する────そこへ、誰かが訪れたのを知らせる警報が小さく鳴る。
朱乃は神社の巫女をしている。
元々の家系自体が神社関係だったのもあって、彼女は時折こうして息抜きに巫女をやっているのだ。
そして、神社には誰かが足を踏み入れた際に知らせてくれる結界が張られている。朱乃が気づけたのも、これが理由である。
「結界の反応からして悪意はないですわね……ただのお客様かしら?」
軽く身嗜みを整えて外へ出る。
先程までの憂いた表情を営業スマイルに切り替え、訪れた参拝者を出迎える。
本来であれば出迎えなぞ必要ないのだが、珍しい時間に来たのと、気持ちの切り替えがしたいのもあって接待しようと考えた……まさか、この出会いが彼女に劇的な変化をもたらすとは誰もが思わなかったが。
「こんにちわ」
「え!? あ、こ、こんにちは! ……て、姫島先輩?」
珍奇な参拝者は、駒王学園の制服に身を包んだ男子生徒────兵藤一誠その人である。
朱乃は面食らう。男子が来訪した事にも驚いたが、何より相手が自分の名前を知っていたことに一番驚愕したと言えるだろう。
即座に表情を繕い、会話を再開させる。
「えぇと、どこかでお会いしました?」
「ああいえ、自分が一方的に知っているだけでして……そのお淑やかで、綺麗で、まさに大和撫子のようだって憧れてまして……」
「ま、まあ、まあまあ」
つらつらと挙げられる褒め言葉に繕った表情が一気に破顔する。
初対面とはいえ、異性に褒められるのは悪い気がしないだろう。この貞操観念が逆転した世界においては、少なくともそうである。
「その、お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「あ、はい! 俺、兵藤一誠って言います! 駒王学園の二年生です! イッセーって呼んでください!」
「分かりました。イッセーくん……私の事も、朱乃と呼んでくださいね?」
「はい、朱乃先輩!」
流れるように自己紹介し、そのまま名前で呼び合う仲に。
これ、リアスが切望していた青春そのものではなくて? と内心、男の子と交友関係ができた事にニコニコになる。
「ところでイッセーくんはどうして神社へ? この時期、この時間帯に来るのは少し珍しくて」
「……あー、なんと言いますか。お神籤を引いて、自分がどんな立ち位置にいるのか確認しようかな……なんて」
「? まあ、理由はどうあれお神籤を引きに来たのですね? それではこちらにどうぞ」
さりげなく一誠の手を優しく取り、案内する朱乃。
触れ合う肌から微かに感じる熱を堪能しつつ、巫女としての業務を執行する姿は、仕事と欲望を同時にこなすデキる女のよう。
そうして一通りの作業を消化していき、最後に当初の目的であるお神籤を引くまでにいく。
「────お、大吉じゃん! じゃあ運勢とか、その他諸々は悪くないって事だよな」
「はい。大吉は神様に歓迎されていると言っても過言ではないんですのよ? つまり、イッセーくんは果報者という事なんですわ」
「そ、そんな大袈裟な。そうだ、内容も確認しなきゃ。どれどれ────」
願望:絶対に成就するでしょう
待人:来る それも大量に
失物:おそらく出て来ません
旅行:さわりなし しかし油断大敵
商売:損なし 逆に金が降って湧いてきます
学問:安心して勉学せよ
相場:待て 日を選べ
争事:周りが勝手にやってくれる
恋愛:愛情まみれ
転居:このままいけば豪邸
出産:子沢山
病気:さわりなし 寧ろ周りが完治させる
縁談:数えるのも馬鹿らしい 大奥が待っている
一誠は硬直、凍結、ありとあらゆる表現で固まってしまった。
あまりにもな内容。所々嬉しくなる文章もあれば、背筋に薄寒いものを感じる内容さえある。
「どうでしたか?」
「あ、あー……結構、ありきたりなのが書いてましたね。うん」
見なかった事にしようと、お神籤をポケットに突っ込む。
「────」
一誠はありきたりであると誤魔化したが、渋い顔を浮かべた後に溜め息をついている。
どう考えても良い内容ではなかったのだろう。
そこで朱乃は────。
「イッセーくん、少しお話しませんか?」
×
────あたたかい、人に温もり。
この感触は、いつの頃に感じたものだったか────そうだ。幼い頃に父親にせがんで膝枕をしてもらった時の温もりに似ている。
とても心地よくて、とても安心する感触。
これだけで不安も、苦悩も、緊張も、絡まった糸が解けるように何もかもが四散する。
ずっと、こうしていたい衝動に駆られてしまう。
それ程までに甘美であると、朱乃は心底一誠の膝枕に陥落していた。
何故、一誠の膝枕なのか。そこまで至った経緯はこうである。
気まぐれで提案した茶飲み話は思い他盛り上がった。
他愛にない世間話から始まり、学園でのこと、幼少期の頃の話など、途切れるのない緩急ある会話が行われた。
そんな流れに乗った……というより、勢い余って父親との事情を会話に乗せてしまう。
そこからはトントン拍子に話が進み、一誠が照れくさそうにしながら朱乃に膝枕をするに至ったのだ。
多分だが、全国の女子の夢。
父性に飢えた、拗らせせてしまった獣たちの願望。
それを、姫島朱乃という少女は事情をうっかり話しただけで叶えてしまった。
血涙ものだろう。憤慨ものだろう。垂涎ものだろう。しかして彼女は、そんな世の中の女子たちを差し置いて幸せそうな────否、だらしない顔をしていた。
元の世界の基準で言うのなら、年頃の少女がしてはいけない表情を浮かべているのだ。
(幸せかも……)
独り悩んでいたのが嘘みたいな光景。
それ程までに朱乃は喜悦を享受し、時折股近くに鼻を寄せて匂いを堪能する暴挙まで堪能していた。
ふと、彼女は顔を見上げる。
そこには、照れ臭そうにしながらも満更でもない笑みを浮かべる一誠の姿があった。
瞬間、朱乃に電撃が迸る。
雷光の名を冠する堕天使の血をもってしても、感じた事のない
全身が熱くなる。女の部分が反応してしまい、息遣いが徐々に荒くなっていく。
こんな衝動は初めてだ。脳天から足元まで揺さぶられるような情動に戸惑いが隠せない。
だって、あんな顔されておかしくならない方がおかしい。
歳下の男の子が見せる可愛らしい顔。それに加えて確かに感じる“父性”。
そう、彼からは父性を感じる。幼少期の行き違いで不足していた父による包容力。
求めて止まなかったものに触れ、朱乃はついに自覚してしまった。
長い、長い間に蓄積し、拗らせに拗らせたが故に、歪んだ形で構築されてしまった────性癖。
(嗚呼、イッセーくんは私の父になってくれるかもしれない男性なのですわ)
一誠からすれば、おそらく父親の温もりを恋しがっていると考え、役得と思いながらやった行いかもしれない。
しかし結果として、ここに一誠に異性としての想いを向け、父性を求めるモンスターが誕生したのだった。
姫島朱乃
雷光の巫女。拗らせまくった父性を求めるモンスター。原作通りドSではあるが、意中の相手にはドMに反転する救えない変態。しかして、一番役得な立ち位置にいる。