貞操観念逆転世界の赤龍帝   作:グレンデル先生

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レイナーレの場合

 レイナーレは拗らせた性癖を持っている。

 純愛は好きだがオカズとしては不足であり、NTRなぞ唾棄しているが一番興奮できて抜けるオカズである。

 所謂、沼に嵌って抜け出せない典型的な“素質”の持ち主だ。

 元々は純粋で、純愛ばかりを嗜む天使だったのかもしれない。しかしNTR好きの異常者に「君素質あるよ」などと宣われ、あーだこーだと葛藤している内に見事堕天させられた経歴の持ち主なのかもしれない。

 哀しき性癖の犠牲者である。

 そんな彼女は今、シチュエーションや分類上は異なるジャンルではあるものの、当人の気分的には類似した感情────W(わたしが)S(さきに)S(すきだったのに)をリアルで受けていた。

 

 私が先に目をつけていたのに。

 私が先に目で追っていたのに。

 私が先に……好きになったのに。

 

 一方的な感情。伝えてもいない好意。けれども自分が先に好きになったという自負だけは一丁前にある。

 そんな難儀な偏愛の矛先は一人の少年────兵藤一誠に向けられていた。

 実を言えば、レイナーレは一誠の事をずっと見ていた。それこそ、リアス・グレモリーが接触してめちゃくちゃ彼を意識するようになるその前から。

 しかれども若干ヘタレなので声をかける事もできず、一誠の周りにどんどん女子が群がっていくのを血涙を流しながら眺めるしかなかった。

 ああ、私のイッセーくんが……イッセーくんが……!? と、敗北者さながらの声を漏らし、悔しさを噛み締めながら自慰に浸る。情けない堕天使の爆誕秘話である。

 そしてつい最近、左遷という名の破門を受けたアーシアがやってきたのだが、なんと愛しの一誠に道案内されて心を奪われてしまう始末。

 さすがのヘタレている場合ではないと、レイナーレは立ち上がり、行動に移した。

 これ以上遅れを取る事なぞ許されない。何かしらで優位に立たなければ盗られてしまう。そんな想いを抱きながら一心不乱に動いた。

 

 簡潔に言うとレイナーレは暴走した。

 

「付き合ってください!」

 

◇◇◇◇

 

 やってしまったと、レイナーレは枕に顔を押し付けて悶えていた。

 いつもならヘタレているのに、謎の行動力が芽生えて奇行に走ってしまった。

 その光景は、処女(どうてい)が勢い余って好きな人に告白するような蛮行である。

 本来であれば引かれて然るべきだが、一誠は驚愕した後に一旦考えるような仕草をして、「初対面だし、まだお互いの事を知らないから、一回デートしよう」と返答した。

 思ってもみなかった返答にレイナーレは内心歓喜するも、根城に戻ってから「何をやっているんだ自分は……!」と教会の柱に頭をぶつけた。

 

「……でも、やってしまったものは仕方ない。こうなったら全身全霊をもってイッセーくんを満足させるデートプランを立てなければ!」

 

 よくよく考えてみれば熱望していたイッセーくんとのデートを現実にできたのだ。何を悶絶する必要があるのかと奮起する。

 レイナーレは性癖に関しては哀しきモンスターではあるが、図太い神経の持ち主なので即座に己を立ち直らせる事ができるのだ。

 こうして何気に勝ち組くさい堕天使はデートのプランを練ろうと思考を加速させる……のだが、処女を拗らせた女の計画なぞ、リア充からすれば鼻で嗤える程度の出来なのは言うまでもなく、そのせい余計にテンパってしまい、過密なスケジュールを組んでしまった。

 レイナーレは絶望した。絶望の余り股を弄り、そして果てた。

 もう後戻りはできない。腹を括るしかないと、賢女タイムに至った彼女は、過密に組んだスケジュールでデートに挑む決心をした。

 

 そうしてデート当日。

 待ち合わせ場所に二時間前に到着し、夢にまで見た男とのデートの為にタンスの肥やしなっていた勝負服を着用し、イッセーを待っていた。

 意中の彼を待つ間、レイナーレは手鏡で化粧の確認したり、しきりに髪の具合を気にしたり、衣装に皺はないか確かめたりと、兎に角ソワソワしていた。

 そんな彼女を不審に思う通行人。デートの待ち合わせかよと妬みを募らせる独身。見栄で待ち合わせっぽい事をしているのねと勝手に憐憫の念を抱く既婚者。

 様々な視線に晒されながらも、待ちに待った時刻になった時……彼は現れた。誰もが一度は妄想するセリフと共に。

 

「ごめん、待った?」

 

 ────と。

 その破壊力は凄まじく、デートの待ち合わせという光景を目の当たりにした野次馬たちは、揃って奥歯を噛み締めて血涙した。

 そして、そんなセリフを投げかけられた当の本人といえば────。

 

「ぜ、全然待ってないよぉ」

 

 だらしなく緩んだ表情で、答えていた。

 なーにが全然待ってないよだ、獲物を狙う肉食獣の如く待ち伏せてたクセに。かーっ! 見んね! 卑しか女ばい!

 女の敵は女と言わんばかりに、レイナーレへ怨嗟の眼差しが向けられる。

 しかしレイナーレの注意をイッセーへと集中している為、周囲の雑音なぞ気にも留めない。

 

「今日の夕麻ちゃん、一段と可愛いね」

「か、かわっ……!?」

 

 周囲の嫉妬の視線が赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)もびっくりな 『Boost(ブースト)!』により圧力が跳ね上がった。

 

「それじゃ行こっか」

「ふぁい」

 

 こうして処女堕天使初のデートは開始された。

 先ず彼らが立ち寄ったのはショッピングモールにあるメンズのブティック。そこで自分好みの服装に仕立て上げて、イッセーに貢ぐのが目的であった。

 金ならある。貯金ばかり貯えている喪女のようなセリフだが、イッセーは苦笑しながらも高級感溢れる衣服を受け入れた。

 

 次に寄ったのがアクセサリーショップ。イッセーが余り装飾品を身につけないのはサーチ済みで、だったら貢いでしまおうというのがレイナーレの魂胆であった。

 しかし一般市民感覚を持っているイッセーにとって、高額な装飾品というは受け入れ難く、こればかりはストップをかけようとしたが、露骨に落ち込んだ様子を見せられてペアルックで妥協した。

 レイナーレは人生初にして、伝説のペアルックというものに感激し、もうこれって結婚では? と妄想した。

 そしてペアルックの購入を見届けた店員(女)は、物凄い形相で退店するレイナーレを睨んでいた。

 

 そろそろいい時間になったので、次は食事をする事に。

 イッセーはファミレスを提案したが、レイナーレが前もってレストランへ予約していたので、そちらに行かざるを得なかった。

 純朴なイッセーの好感度を稼ぎたいのと、育ち盛り故に美味しいものは一杯食べるだろうと思ったのと、単に彼に貢ぎたい思惑が合併した結果がこれである。

 因みにイッセーは少し遠慮して、比較的安価なもの注文した。

 

 そこから連れ回り、貢ぎ、楽しみ、貢ぎ、少し癒され、貢ぎ、極限までデートを堪能しながら貢いだ。

 ホスト狂いでもそうそうお目にかかれない金額を貢いだ彼女であるが、イッセーは極力目を逸らした。少しでも遠慮すると「そうよね、私なんて……」とヘラってしまうので、レイナーレの望む通りにしたのだ。

 そしてデート終盤。夕日によって茜色に染まった公園で、彼らは楽しい時間を締め括っていた。

 

「夕麻ちゃん、今日は楽しかったよ。ありがとうな!」

「こちらこそ、感謝してもしきれないくらい楽しかったです! ……えーと、またデートしてもいいですか?」

「勿論! これからも夕麻ちゃんの事をもっと知って、それから返事を出そうかなって思ってる。だから、暇な時は声をかけて」

 

 そう言ってイッセーは自身の電話番号とアドレスが書かれた紙を渡した。

 男から直接連絡先を渡される。これは哀しき妄執に囚われた女子の間では“男女の関係”と同義であった。

 無論、そのモンスターの中に属しているレイナーレは衝撃で下半身がスタンバイOKな状態になった。要するに強制排卵日である。

 心が震え、ついでにアソコが震え、脳汁がドバドバ溢れ出で、生まれたての子鹿のように膝がガクガクと震える。

 照れくさそうに連絡先を渡す彼の表情はなんと美しき情景か。犬喫茶で子犬と戯れていた時とはまた違う味わい深さ、格別さを含んでいる。

 

「うん……! 絶対に、またデートしようね」

 

 “絶対”の部分を強調し、未来にてイッセーとデートする自分に想いを馳せる。そしてあわよくば、ホテルに連れ込んで……。

 

 ────気づいた時には、根城の廃教会に帰還していた。

 

 いつの間にか帰ってきていた。記憶はない。歓喜と感慨深さで帰路の記憶なぞ忘却の彼方へとやっていた。

 

「レイナーレ様……?」

 

 アーシアは彼女の様子に訝しんだ。

 締まりのない顔。ただの外出にしては洒落込んだ格好。まさか此奴、男と……しかも親愛なる彼と相引きしていたな? と的中した推測をする。女の勘とはかくも恐ろしい。

 

「あら、アーシア。今帰ったわよ」

「ええ、存じております」

 

 レイナーレは優雅なまでに、余裕のこもった表情で帰宅を告げた。

 それに対してアーシアは引き攣った顔で迎え入れた。堕天使の余裕な様子……またの名をマウントを取りくるような様子にピキったからだ。

 思春期のアーシアはイッセーの匂い、気配に敏感であった。故に彼とデートしていた事実が確信的になると、蜜壺が沸騰してイライラしてしまった。

 嗚呼やはり、親愛なる彼を理解(わか)らせる必要性があると。

 

「少しお出かけしてね。もの凄く充実した時間だったわ」

 

 ほほほ、と微笑む姿は圧倒的に余裕(マウント)を感じさせた。

 アーシアのイライラとは対極的である。

 やはり純愛。純愛が勝つる。何が君素質があるだ、NTRなぞ邪道を超えた邪教信仰的な何かに違いない。やはり私には純愛なのだ。

 正直、純愛を力説していく程、NTR方面の素質が強調されない気がしなくもないが、レイナーレはおそらく気付かないだろう。

 

 そして、彼女は気付かない。性癖の問題ではなく、此度のデートの動向を監視する目が複数あった事を。

 その中に、歳下の男子にバブみを感じ、内心パパと呼んで劣情を募らせる度し難いマゾと、

 絶えず獣の(せいよく)を滾らせ、獣の叫び(きょうせい)を響かせ、獣の(アソコ)を研ぎ澄ませている、学園の先輩を己の番と信じて疑わないビーストオンな常時発情期猫娘がいて、

 ドロドロした眼差しでデートの一部始終をストーキングしていた事を、堕天使は気付かない。

 

 余談だが、何も知らないリアス・グレモリーは、人知れず自宅で自家発電に精を出していた。

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