TS転生したら主人公の幼馴染ポジだった上に、おっさんの女だった件〜負けヒロインどころの話じゃないんだが〜 作:あへんちんき
昨日薬を打ってもらったおかげか、かなり精神的に安定してきた気がする。おかげで今もこうやって響と一緒に登校できてる。ちなみに駿は生徒会長と登校しているらしい。
はぁ。結局、我慢できなかったな。また、薬を使う間隔が縮まってしまった。
まあ、いいか。あのまま薬打たずに学校にそのままいたら、美紅魅に勘付かれそうだったし。響の前で、辛そうにしてる姿は見せたくなかったし。これで良かったんだ。きっと。
「実は俺、手作りチョコ作ってきたんだけど……」
「手作りチョコ? なんで?」
「え? だって今日、バレンタイン……」
俺の隣にいた響が、急に手作りチョコの話をし出したもんだから、一体なんのことやらと思っていたが、どうやら今日はバレンタインデーだったらしい。
うん。完全に薬のことしか頭になくて、忘れてたね。
「え? もしかして用意してないのか? チョコ」
「あーうん。ごめん、忘れてた。いつもは響と駿の分は絶対用意してたんだけどね…。うっかりしてた」
「なぁ、本当に大丈夫か? 昨日も早退したらしいし……」
「あー、そうだね。最近ちょっと体調悪かったから。でも大丈夫。もう回復したから。でも、バレンタインのチョコ用意できなかったのは、その、ごめん」
「いや、全然。体調悪かったんだし。それに、南志実にはいつも世話になってるから」
しくじったな。
俺はいつもバレンタインデーのチョコ作りは欠かさなかった。
駿と響の分は必ず作ってたし、兄の分も作ってた。
それは、本来の原作ヒロイン、長田南志実がそうしていたからだ。
「で、今は体調元に戻ってるんだっけ?」
「うん。心配かけてごめんね」
「本当、体調管理に気をつけろよ。駿も多分心配してると思うぞ」
「それは、気をつけるようにする。うん。大丈夫。これからは、こういうこと、ないようにするから」
けど、薬にとらわれすぎたせいで、完全にバレンタインのことを忘れてた。
そのせいで、響に余計な心配をかけさせてしまった。この調子だと、駿も俺のことを心配しだすだろう。
兄だってそうだ。あのシスコンなら、きっと妹からチョコを貰えなかったことに、相当ショックを受けるに違いない。なんなら、チョコを作らなかった理由を探り出しかねない。
本当にやばい。兄を巻き込むわけにはいかないし、ましてや俺が薬漬けにされているなんてことは知られてはならないのだ。
「駿、喜んでくれるかな………」
「響の手作りチョコ、結構美味しいから、駿も喜ぶと思うよ。自信持って。響って可愛いし、あの駿だって男なんだから、ちょっとアプローチすればコロっと落ちるよ」
「そ、そうかな………。そうだといいな………」
家に帰ったら、兄の対処に追われることになるな。幸い、今は薬が必要なわけじゃないから、今日一日兄の説得に費やせば……。
ピロンっ。
突然、俺のスマホから通知音が鳴る。
『今日、19:00』
おっさんからだ。これは、呼び出しの合図。
なんでよりによって今日………。
いや、そうか。
今俺は、2日に1回の周期で薬を貰っている。
俺は昨日、薬を貰ったもんだから、てっきり今日は呼び出しがないと思っていたが、昨日は本来薬を貰う日ではなく、俺が我慢できずに先走って貰っただけなのだ。
だから、本来なら今日が、呼び出しを受けて薬を打ってもらいに行く日なんだった。
行きたくない。けど、いかなきゃいけないな。兄の説得、どうするか。
まあ、いい。とりあえず、学校に行こう。兄の説得は、後で考えればいい。
〜☆〜
放課後、俺はちょうど駿と廊下で出会った。そのため、少しだけ立ち話をする。
「南志実、本当に体調、大丈夫なのか?」
「うん。大丈夫。でもごめん。チョコ、渡せなくて」
「いや、それはいいんだけどな。まあ、夜更かしはほどほどにな?」
「あはは。そうだね。肌にも悪いし、今後は控えるよ」
案の定、駿の奴にも心配されてしまった。
そりゃそうだ。今まで欠かさずにチョコを渡してくれてた相手が、急にくれなくなったものだから、何かあったんじゃないかと、そう思ってしまうものだろう。
まあ、まさか薬漬けにされてるとは思わないだろうが。
「それにしても、結構貰ってるんだね。ほんm………義理チョコ、かな? わからないけど」
「ん? ああ。そうだな。生徒会長と、美紅魅、あと、響から。後、隣のクラスの知らない子からも何個かもらって、7個。まあ、多分全部義理なんだろうけどな」
「凄いもらってるね」
「まあな」
そう言う駿は、どこか嬉しそうに見える。
そりゃ男の子だし、女の子からチョコ貰ったら嬉しいもんだよね。
後、多分全部本命だと思うよ、そのチョコ。言わないけどさ。
少なくとも、生徒会長、美紅魅、響の分は全部本命だろう。
まあ、そんなことこの鈍感系主人公に言っても通じないんだろうけどさ。
「あ、悪い。そろそろ会長との約束があるから」
「そっか。ごめんね、足止めちゃって」
「いや、全然大丈夫。それじゃ」
駿は急ぎ足で生徒会長の元へ走っていく。
多分、怪異のことで話があるんだろう。
さて、それじゃ、帰りますか。
「なじみん、俺にもないの?」
「ない。さよなら」
ストンと、肩に手を置きながら、俺に対してそう話しかけてくる男が1人。
金髪でチャラチャラした不良、桜庭李野斗だ。
「ふーん。じゃあ一緒にチョコ買って食べようよ。せっかくのバレンタインなんだし?」
「私は帰ってやることがあるから、無理。食べたいなら1人で食べれば?」
「冷たいなぁ」
そりゃ冷たくもなる。ただでさえ嫌いなのに、今日は家に帰って兄を説得して、19:00にはおっさんの呼び出しに応じなきゃいけない。だから、こいつと話している暇なんてないのだ。
「ちょっとだけでも嫌?」
「どうしてもって言うなら、また別の日に行ってあげるから。今日はもう勘弁して。はやく帰らないと」
「え!? マジ!? オッケー! 約束ね? 忘れたとか言わせないからな。よっしゃやった!!」
「うるさ。それじゃあね」
埋め合わせはまた別の日にってやつだ。別に約束していたわけじゃないが。
それにしても、こいつと一緒にチョコ買って食べなきゃならんのか。
まあ、いつとは言ってないし、その時のことは未来の俺が考えるだろう。
うん。気にしないでいい。
〜☆〜
「気に入ってくれたかな? 薬の入ったチョコレートケーキは」
今、俺はおっさんに、首輪をつけられ、四つん這いにさせられている。
俺の眼前には、まるで犬に餌やりをしているかのように、チョコレートケーキ(薬入り)の乗った皿が置かれている。
幸いなことに、兄はどうやら、仕事が忙しいようで、どちらにせよ俺が説得に行けるタイミングがなかった。そのため、おっさんの呼び出しに応じることができたわけだが。
それにしても、趣味悪すぎるだろ。まじでこいつ……。
あークソ。薬なんてなければ、こんな奴すぐに……。
「フォークとか、何か食べるものはないんですか?」
「んー? 何を言っているんだ? 口で食べればいいじゃないか」
「はい?」
「口を近づけて、そのままかぶりつけばいいじゃないかと言っているんだ。君は私の“ペット”のようなものだし、それくらいできるだろう?」
ぺっと…………だと………。
「ん? 何か不安かね。ああ。もしかしてまだ教えてあげないといけないかな? 君は、私の
「は……? 何を……」
「躾が足りんか? まあいい。さっさと食え」
そう言いながらおっさんは、一応俺にフォークを渡してくれた。
でも、だからと言って、俺の中に貯められたこの屈辱感が、晴らされたわけではない。
ふざけやがって……。薬さえなければ、こんな奴には……。
「反抗的な目だな……。別に私は、お前である必要はないんだ。お前と仲良くしている、本島響、だったかな? 彼女でもいいんだよ。可愛いしね。いや、むしろ彼女の方が可愛いかもしれない。そうだ、お前は代わりだよ。彼女のね。本当は彼女の方が好みだけど、仕方なくお前で我慢してやってるんだ。私は寛大だろう? 君にはもっと私に感謝をしてほしいな」
本当に…こいつは…………。
屈辱を味わいながら、同時に俺は皿の上に乗ったチョコレートケーキを味わう。
あっ、こりぇ………くすりぃぃぃぃ………。
おいひぃ………おいひぃよぉぉぉぉ……………。
だめ、だ、くすり………つよすぎ……………。
いひきが………もっれ………かれ………。