最強を自称する桃色の魔法少女。
二回目の決闘で鳴神美雷と戦い、恒星フォームを披露。
激戦の末、敗北するも最後はどこか嬉しそうだった。
いつも晴菜の背中ですやすやと眠っている緑色の魔法少女。
晴菜をかなり慕っているらしく、決闘の日も早起きをして彼女をバックアップしていた。
主食は晴菜の髪の毛、一人称はボク。
(ぶっちゃけそれくらいしか知らないけど……そんな二人が助けにきてくれるなんて……!!)
「ふん、変な勘違いをしないことね。戦っているのは視聴覚室だって言われてたから、四天王の実力を確認しにきただけよ。決して誰かが襲われてたから急いで駆けつけたわけではないわ」
(口で全部説明してくれてる!!)
「ボクと晴菜が来たからには安心しなよ。……全く、晴菜に勝ったキミたちがこんな体たらくなんて、そんなことは許さない。だから、助けてあげるよ、今日のところはね……」
(……。この人たち、ストレートに助けることができないのかしら……)
風花が千雨と美雷の前に立ち、更にその前方で晴菜が腕を組み仁王立ちしている。
橙の忍者は突然の来訪者にもたじろぐ様子ひとつ見せない。
「キキキ……戦乱の世では
「ちん……? ……!! あなたやっぱり変態ね!! こ、こここ、こんな一言で魔法少女が動揺するなんて思わないことね!! 」
「ふふ、勘違いで焦っている晴菜もカワイイなあ……」
(……大丈夫か、この人たち)
などと千雨がジト目で見てる横で、美雷は大声で晴菜を応援していた。
魔法力も少しずつ回復してるのか髪色も戻ってきたようで、千雨はほっとする。
ともあれ、今は晴菜に伝えることがある。
「桃ヶ崎さん!! そいつはいろいろと罠を張ってくるから慎重に行動しないと……!!」
「ふん、雨宮千雨、私のことを舐めてるの? ま、こんなやつ秒で倒してあげるからあなた達はそこで見てなさい!!」
橙の忍者が床をペタペタと触っていた。
「あ、あれ!! やばい!! やばいって!!」
「雨宮さん、ヤバいじゃわからないよ。晴菜のイケメンっぷりがヤバいって?」
「ふん、あなたがどんな攻撃をするかは知らないけどGAKUEN最強の私に通用するなんて――」
言いながら桃ヶ崎晴菜は踏み出した。
一歩を。
突然!! 桃色の魔法少女の足から橙の火炎が吹きあがる!!
あわれにも魔法少女は後ろに吹き飛ばされてしまった!!
「きゃああああぁぁああああぁぁ!?」
「晴菜ーーーー!?」
「ニンジュツ……
(わ、私達の時と同じ流れーーーー!!)
美雷がすぐ横に不時着した晴菜に安否を問いかけるも、最強を自称する桃の魔法少女はピクピクと体を
忍者は、その隙を見逃さない。
眼前に橙の無数の光を――。
準備する前に、緑の少女が叫んだ。
「晴菜が……!! いったん逃げよう……!! ボクが何とかする!!」
「何とかするって……!! どうやって!?」
「こうやって!!」
風花が素早く手を出すと、そこには緑の光でできた本が握られていた。
「グリーン・グリモワール!!」(ぺりぺりぺりぺり!!)
「ええ!? 魔法力でできた緑の本のページを次々と破りだした!? 淡雪さん、ヤケクソは良くないわ!!」
「黙って見ててーーーー!!」
空中を舞う数枚のページが、巨大な塊へと姿を変える。
それは忍者と魔法少女達の間にそびえる緑の巨岩となった。
「ボクのモードは降り積もる雪のイメージ!! ほぼ固定されるけど防御なら問題ない!! 今のうちに!!」
「でもどこに!? あいつ追ってくるかも!!」
「外だよ!!」
千雨は思った。
外。
なるほど、とりあえず広い場所へ出ようということか。
確かに、これまでの戦いから狭い場所は忍者の方が有利な気もする。
悪くない案だ。
晴菜を担いで風花が向かっているのが、窓でなければ。
「そこから出るのおおおお!? ここ2階よおおおお!?」
「魔法少女がつべこべ言うなよ!! 晴菜を安全な所へ連れていくのが最優先だろおおおお!?」
なおもピクピクと震えている桃ヶ崎晴菜を抱えながら、淡雪風花が絶叫する。
こいつも大分ヤバいやつだ、と千雨は思った。
「千雨、任せるんだぜ!!」
「え? え……?」
すっかり元気になってきた美雷が、千雨を抱え上げる。
(これって俗に言うお姫様抱っこじゃない!! でへへ……私にそういう趣味はないけど……でへへ……)
「やっぱ重たいから担ぐぜ……」
「は? 誰が重たいて?」
緑の光と桃の光が窓をカチ割り飛び出す。
続いて、超高速で黄の光と青の光が続いた。
『退却ーーーー!!』
キラキラと散乱する窓ガラスとともに、四つの光は空中から地面へと舞い降りていった。
「……」
橙装束の忍者は、しばらく窓を眺めていた。
つい今しがた、四人の魔法少女が逃走した軌跡。
そんなものには興味がない、と言わんばかりに腰を落とす。
そして、心底つまらなさそうに
「俺たちはいつまでこんなことをしてればいいんだ……。なあ……」
誰にも気取られない一言が、からっぽの部屋で響く。
スピーカーは野太い男の声を流し続けていた。
●
地面と接触する直前。
緑の少女はふわりと撫でるように。
黄の少女は反発するように真下に蹴り。
魔法少女の基本とも言える高所からの着地をそれぞれの方法で決める。
なお、黄の少女が地面を蹴った瞬間、背中の少女は「きゃん!!」といたいけな叫び声をあげたが、ささいな話だろう。
四人の少女の周囲に軽い人だかりができる。
それぞれが驚きと困惑の表情を浮かべている。
スピーカーから垂れ流される放送から、ある程度の状況を把握してのことだ。
「オラ!! ボクらは見せもんじゃないぞ!! 散れ散れ!! ……晴菜ぁ、大丈夫ぅ?」
最後の一言だけ声のトーンが二段階も三段階も違う風花に軽く引きながら、千雨も美雷の背中から降りた。
「千雨!! 大丈夫なんだぜ……?」
「ええ……着地はもっとスムーズにしてほしかったけど、無事……。無事だけど……」
千雨は俯くほかなかった。
あのよくわからない忍者が追ってくる気配はない。
千雨たち四人は、みんな無事だ。
しかし、この結果をあえて言うなら――。
『視聴覚室での戦いの結果を伝えよう!! 鳴神美雷君、雨宮千雨君、桃ヶ崎晴菜君、淡雪風花君。以上の四人は四天王がひとり橙忍者のオレンの前に撤退を余儀なくされた!! 先の決闘で激戦を見せた二人をもってしても、だ!!』
どこか酔いしれるようなスピーカーからの声に、千雨は軽いめまいを覚える。
ただでさえ事実を受け止めたくないのに、全校生徒に公言されたのだ。
魔法少女は、忍者に敗北した。
そして、すごすごと逃げ出した。
『無論!! 魔法少女に敗北は付きもの!! 四人の奮起に期待しよう!! また、他の魔法少女達も各自、強敵との戦いを夢想し、モチベーションを高めてほしい!! 次の
ぷつりと音が切れる。
スピーカーからの音はそれっきり聞こえなくなった。
周囲にいた魔法少女達も小声で何かを話しながら去っていく。
残されたのは、四人の少女だけだ。
「あの校長……!! 晴菜をはずかしめるようなことを……!!」
緑の少女が憤慨する。
「私は……負けてない!! 少し……気を失いかけて……それで……」
桃の少女が悔しそうに唇を結んだ。
「私……また……はあ……」
青の少女がため息を吐く。
「でも良かったんだぜ」
三人の視線が黄の少女――鳴神美雷へと向いた。
少し怒ったように、純粋に驚いて、いぶかし気に。
三者三様の表情を見せつつ。
一方で黄の少女はいつもと変わらぬ、にこやかな笑みを見せたのだった。
桃の少女が、吠えた。
「何が良かったってのよ!? 魔法少女が忍者に負けたのよ!? 魔法少女は最強じゃなくちゃいけないのに!! 忍者なんかに……!!」
ついにこらえ切れなくなった晴菜の背中を、風花がさする。
勢いあまって、「負けた」と口にしたのが余計につらかったらしい。
(桃ヶ崎さん、そこまで魔法少女のことを……。それにしても)
怒るほどではないにせよ、発言の意図がつかめないのは千雨とて同じこと。
「美雷、どういうこと……? 私達、逃げることしかできなかったのよ……?」
三人が思っていた反応と違ったのか、少し困っていた美雷であったが意を決したように言った。
まるで、みんなを元気づけるように。
「でも、みんな無事なんだぜ!! 無事だったら、まだまだこれからなんだぜ!! 究極の魔法少女は……一回負けたぐらいじゃ諦めないんだぜ!!」
「でも、私だって何もできなかった!! 美雷が体を張って戦ってたのに、私は……」
「そんなことないんだぜ!! 千雨が守ってくれたから、晴菜ちゃんと風花ちゃんが間に合って逃げ切ることができたんだぜ!!」
千雨が青色の瞳を丸くして驚く。
先ほどの驚きとはちょっとニュアンスが違ったようだ。
(この子……どこまでお人よしなのよ……まったく……)
底が抜けるというか、天を衝くというか。
でも、そんな美雷の発言にどこか心地よさを覚える千雨であった。
火照った頬の温もりは、気のせいだと思うことにした。
「ボクらをさしおいてイチャイチャされてもねえ……」
「イ、イチャついてなんて~!!」という千雨の絶叫は無視して風花が続けた。
「で、どうするの? ちょっと油断してたとはいえ、あの忍者は晴菜が敵わなかった相手だよ? 強がったところで、もう一度戦えば今度は……」
「それについては考えてるぜ!!」
再び三人の視線が美雷へと集まる。
なぜだろう。
自信あり気なのが、逆に不安を煽るのは。
「そう、まだまだこれから強くなればいい……。魔法少女といえば特訓!! 特訓して忍者より強くなればいいんだぜーーーー!!」
(……!!)
特訓。
そう、特訓すればいいのだ。
魔法少女といえば特訓――。
(……そうかあ?)
千雨の疑問など知る由もなく、美雷は相変わらず笑顔を浮かべているのだった。