魔法少女GAKUEN   作:MOPX

11 / 41
水着で特訓!? ワクワク水泳対決!!

 

校庭――。

 

たむろする黄の魔法少女軍団。

その中心にいる少女はどこか気だるげに空を眺めていた。

 

周囲が何を聞いても二つ返事。

上の空で頭を満たすのはひとつの事実だった。

 

――鳴神美雷が負けた。

 

軍団のリーダー、トロッコのナツはツバを地面へと吐き捨てた。

理由は、わからない。

ただ、ムシャクシャしていた。

 

昨日、四天王とかいうワケわからんのが現れて、自分を倒したいけすかないチンチクリンのシャバガキが負けて「ざまあ!!」などと声を上げてもいいはずだった。

 

だが、彼女はそうしなかった。

 

否、なぜかできなかったのだ。

 

スピーカーが、鳴神美雷の敗北を告げた瞬間、胸に生まれたのはひんやりとした何かだ。

 

それ以上、彼女は考えることを止めて、今日もこうして行き交う魔法少女にメンチを切りまくっている。

 

「……アタシは何にムカついているんだい。まったく」

 

 

 

「大変っすーーーー!! ナツの姉御ーーーー!! 鳴神のやつが……鳴神のやつが……!!」

 

「……!! 舎弟、どうしたんだい!? ……はっ!! さてはあのチンクシャ、負けてしょげ返ってるのかい!? こいつぁケッサクだねえ!! ちょっくら冷やかしてやるかい!!」

 

「い、いえ……逆というか何というか……とにかくアレを見てくださいっす!!」

 

「だからなんだって……あれは……あれはーーーー!?」

 

 

遠目に見えるは黄、青、桃、緑のカラフルな髪色を持つ四人の少女。

これ自体は別によくある光景だ。

魔法少女たちが集まるGAKUENなのだから。

 

しかし、ヤバいのはその恰好だった。

 

上から下までぴっちりと。

無駄のない曲線が体のラインをなぞる。

黄、青、桃、緑。

少女たちの髪色に合わせたすべすべの表面が、太陽の光を反射していた。

 

そう、あれは――。

 

 

「スク(みず)じゃねーかーーーー!? 何でだよっ!!」

 

「知らんけどむっちゃ楽しそうっすね鳴神美雷。泳ぐの好きそうっす」

 

「ワケわかんねーだろアホか!! クソっクソっ!! アタシがアイツに喝を入れる流れじゃないのかい!?」

 

「ウ、ウチに怒らないでくださいっす……」

 

ナツの絶叫もなんのその。

四人の少女はスク水のまま校庭を闊歩する。

 

行先は、GAKUENのプール。

常人には踏み込むことすら躊躇するそこは、奥行きなんと1キロメートル。

 

そのスケール、ギネス級。

 

ここはまさに魔法少女の水瓶――。

 

 

 

 

 

「キキキ……どこかに手ごろな魔法少女がいないかと思ったが……いるではないでござるか」

 

 

 

 

「と、いうわけでプールで特訓だぜーーーー!!」

 

「『と、いうわけで』ってねえ……。何でこんな恰好しなきゃいけないのよ!!」

 

千雨が吠える。

そのスク水は濃い目の青であり、スク水として伝統的な紺に近い。

 

「しかもわざわざ部屋で着替えて校庭をこの姿で歩かないといけないなんて……どうなってんのよこのGAKUENは!! トンチキな像とか施設を作る前に更衣室つくれや!!」

 

「ち、千雨……落ち着くんだぜ。しおりに書いてあったけど、他のところで予算を使いすぎて更衣室は作れなかったみたいなんだぜ……」

 

肩をゆっさゆっさ揺らされながら美雷が弁解する。

その度に黄のスク水が太陽の光をきらりと反射する。

 

 

 

「ふん……どうでもいいわよ、そんなこと。……ま、この私の特訓につき合うことができるんだから光栄に思いなさい」

 

晴菜が桃色のゴーグルをかけながら言い放つ。

同じく桃色のスク水はぴっちりと晴菜の体に密着していた。

 

「……うーん、晴菜の肉付き……。ううん何でもない。ボクは純粋に手伝いにきただけ。ホントだよ」

 

風花が晴菜のふくらはぎを直視しながら言った。

緑のスク水は、体に沿った流線形を描いており一種の芸術と言えた。

 

 

 

千雨が再度、吠える。

 

「それにしても特訓でなんでプールなの!? 『泳ぎたかったんだぜ!!』とか言い出さないわよね!?」

 

「それは……ハダカのツキアイだぜ!!」

 

「ハダカの突き合い!?」

 

「そうだぜ!! 魔法少女に必要なのは……友情パワーなんだぜ!! そのために必要なのは交流を深めること!! つまりハダカのツキアイなんだぜ!! 私はもっともっと千雨とも晴菜とも風花とも仲良くなりたいんだぜ!!」

 

(……私とも、桃ヶ崎さんとも淡雪さんとも、か)

 

千雨の胸がちくりと痛む。

すぐに、それを勘違いだと自分に言い聞かせた。

 

そうだ。

 

この天真爛漫な少女には、無邪気なままでいてほしい。

自分がその邪魔者になってはいけないのだ。

 

だからこれでいい。

 

みんなを元気づけて、勇気をくれる魔法少女であってくれたら――。

 

 

 

「あと泳ぎたかったんだぜ!! しおりで見た時からずっと泳ぎたかったんだぜ!! 泳いですっきりして忍者に勝つんだぜ!!」

 

(……は?)

 

私の純情を返せと言わんばかりのジト目。

千雨のその思いは、既に準備運動を始めていた美雷には届いていないのだった。

 

 

 

 

 

どこまでも続く銀面が光を反射している。

青空の下、のびやかにすこやかに、幻想的な空間がどこまでも伸びていく。

 

風が吹き、水面が揺れ、また止まり、また揺れる。

 

ずっと繰り返される営みは、あまりにも懐が広く、見ている者に己のちっぽけさを突き付けてしまうくらいだ。

 

いつまでも見ていられそうな風景――。

 

 

「とりゃりゃりゃりゃりゃーーーーー!!」

 

 

……。

 

 

いつまでも見ていられそうな風景――。

 

 

「鳴神美雷ーーーー!! 一度は負けたけどGAKUEN最強の魔法少女はこの私!! 泳ぎでも最強なのよ私はーーーー!! 必殺の最強スクロール!!」

 

 

いつまでも――。

 

 

「だったらこっちは究極の平泳ぎだぜーーーー!!」

 

 

……。

 

 

「滑らかなフォームの平泳ぎ!? でっきり犬かきかと思ったらやるじゃない……!! 向こうまで競争よ!!」

 

「いいんだぜ!! 晴菜ちゃんとセッサタクマ、するんだぜ!!」

 

いつ

 

「ふん、友達ごっこなんて私はしない……!! 今日だってあんたを打ち負かして私が最強だと証明するためにつき合ってあげてんのよ!! あの変態忍者だって私が倒す!!」ざぶざぶざぶざぶ!!

 

「晴菜ちゃん!! 魔法少女はみんなで協力するものなんだぜ!! だからみんなで……」バシャバシャバシャバシャ!!

 

 

 

(いつまで見てればいいのかしら、これ……)

 

 

プールサイドで体育座りをしながら千雨は溜息を吐いた。

 

何となくそんな気はしていたが、美雷の言っていた特訓は全時間フリータイム。

 

要するに、無計画(ノープラン)だった。

 

 

究極VS最強の水泳対決を始めた二人をよそに、千雨は手持無沙汰になるのだった。

 

(まったく美雷ってば……桃ヶ崎さんと張り合うのもいいけど、特訓って言い出したのは自分なんだから少しは私のことも気にかけてほしいわ……)ブツブツ

 

「何をブツブツ言ってるの?」「あひゃあ!?」

 

耳元でそよ風が吹くように音が届いた。

ややハスキーなその声が千雨の鼓膜を良い感じに刺激する。

 

「淡雪さん!! 耳元でいきなりしゃべるのは……!!」

 

「ふふ、あ~ま~み~や~さ~ん。プ~ル~に~せっか~く~き~た~の~に~お~よ~が~な~い~の~?」

 

「あ”あ”あ”あ”!! 味をしめて良い声でささやかないでぇぇぇぇ!!」

 

魔法少女ASMRに悶える千雨の様子に、風花がクスクスと笑い声をあげる。

千雨は気を取り直して緑のスク水の少女に視線をやるのだった。

 

(もう……淡雪さんっていつも眠そうにしてて桃ヶ崎さんのことが好きってことくらいしか知らなかったけど……意外といたずらっ子というか、ひょうひょうとしてるわねこの子……)

 

「あ、晴菜が鳴神さんにちょっと負けてる……!! 晴菜ーーーー!! 頑張れーーーー!!」

 

「はあ……。そう思った矢先にこれ……。淡雪さん、あなた桃ヶ崎さんのこと以外は考えてないの? 趣味とかは……?」

 

「む……別にいいだろボクが晴菜のこと大好きでも。あと趣味ならある、本を読んだり」

 

「え? そうなの? いつも寝ているって言ってなかった? 読む時間あるの……?」

 

「ページをこうパラパラーってめくったら頭に入る。寝ている間は晴菜の温もりを感じながら本の内容を想起するのさ……晴菜の温もりを感じながら!!」

 

「あ……そう……」

 

若干、引き気味のリアクションを取る千雨に、風花がむっとする。

さすがに、と言わんばかりに言い返すのだった。

 

「そういうキミはどうなの? 鳴神さんにくっ付いてたみたいだけど……自分でこれからどうするか考えたりしたの?」

 

「……!! それは……」

 

もっともな指摘に千雨がたじろぐ。

 

美雷とともに進んでいく。

 

その想いは確かにあるし、今だって変わっていない。

しかし具体的に何をどうしたら良いのか、ということは頭にないのだった。

 

(そういう意味じゃ、美雷の特訓がノープランだったのを文句言えないのよね、私……)

 

「……その様子じゃあんまり考えてなかったみたいだね。言っておくけど、ボクは自分のスタンスを変えるつもりはないよ。あの決闘で確かに晴菜は鳴神さんに負けた……。でも!! 最強であるべきは晴菜だし、ボクはそれを応援する!! 誰かが並び立つ必要なんて……ない!!」

 

「ふうん。でもその言い方だと自分も一緒に並べないことになるわよ? いいの?」

 

「うん、それでいい」

 

「……!!」

 

千雨の青い瞳が驚きのあまり、まんまるになる。

 

自分より晴菜。

風花のその姿勢を非難する気は毛頭ない。

 

しかし、理解できるかとは別問題だ。

 

少なくとも千雨に、そこまではっきりとした意見は言うことができないのだ。

 

(はあ……性格の違いというか何というか。)

 

 

逃げるように視線をプールに向ければ、競争をしていた美雷と晴菜がプール端――千雨たちから向かって左手側に到着しようとしている。

GAKUENのプールは奥側に1キロメートルの大きさを持つが、横幅は100メートルと常識的な大きさである。

 

(美雷が少しリードしてるわね。さすがって感じ。美雷が桃ヶ崎さんに負けてるところ、あんまり想像できないし……)

 

「晴菜は負けないよ」

 

「え?」

 

「だって、ほら」

 

風花が指をさした方に目をやれば晴菜の背中から桃色の羽が生えていた。

クロールから飛行に切り替えた晴菜は、美雷を空中から狙い撃っていた。

 

 

 

 

「晴菜ちゃん!? 何するんだぜ!?」

 

「決まってるわ!! エンジェルフォームであんたを吹っ飛ばしてあげる!! それでこの水泳対決は私の勝ち……私が最強の魔法少女よ!!」

 

「そんなの間違ってるんだぜ!! 水泳は水泳で勝負するべきなんだぜ!!」

 

「なに綺麗ごと言ってるのよ!! そんなのであの忍者に勝てると思ってるの!? あの忍者はどんな卑怯な手を使ってくるかわからない……!! 最強である私が責任をもって戦うから、あんたは後ろで応援でもしてなさい!!」

 

晴菜の背中からは幾重にも桃色の羽が生えていた。

 

GAKUENで晴菜だけが習得しているエンジェルフォーム。

その出力はセカンドフォームの約30倍に相当する。

 

――恒星フォームに劣りはするが。

 

「恒星フォームなんて使う必要ない!! あんたなんか最初から私の敵じゃないのよ!!」

 

「……その通りだぜ!!」

 

不意の肯定。

晴菜が怒ったようにその意を問いただす。

 

「なに言ってるのよ!? やっぱり忍者に負けて自信をなくしてたの!? 情けないったりゃありゃしない!! そんなあんたに負けた私は、何だって言うのよーーーー!!」

 

「そ、そうでもないんだぜ!! 晴菜ちゃん、落ち着いて聞いてほしいんだぜーーーー!!」

 

 

「キキキ……魔法少女達の仲たがい……まるで蜜のように甘い……!!」

 

 

晴菜が攻撃を止める。

美雷が辺りを見渡す。

 

その様子に気付いた千雨と風花が、プールサイドから駆け寄った。

 

四人がプールの横に並ぶ。

 

そして、50メートルほど先、水の上に立つ橙装束の存在を確認したのだ!!

 

 

「ニンジュツ……(だいだい)水 馬(あめんぼ)の術……!!」

 

橙の光を溜めた足が、水面と反発するように波紋を広げていた。

正にアメンボように。

 

だがそれだけではなかった。

 

橙色の忍者の手には、黄色い少女が抱えられていた。

 

あれは――。

 

 

「うわあああん!! ナツの姉御ーーーー!! 助けてほしいっすーーーー!! いや、やっぱ誰でもいいーーーー!! 助けてーーーー!!」

 

 

千雨は首をひねらざるをえなかった。

 

「誰? あれ?」

 

横にいた風花が事もなげに伝える。

 

「あれはトロッコのナツの舎弟だね。あの分だと黄の魔法少女軍団に何かあったっぽいけど……」

 

 

 

「キキキ!! 間もなくレイドバトルが始まる前に動かせてもらった!! GAKUENで注意すべき魔法少女は鳴神美雷と桃ヶ崎晴菜の二人のみ!! 貴様らが徒党を組んだと知り、我が勝利を確実にするために人質を用意させてもらったのだ!!」

 

黄の魔法少女軍団は半壊してしばらく来れない、と補足して忍者は高笑いをあげる。

 

忍者は汚い。

 

……。

 

汚いなさすが忍者きたない。

 

 

「ほら見たこと!! あの変態忍者、魔法少女を人質に取ったじゃない!! 絵面的にも危ない感じだわ!! 鳴神美雷、あんたこれでも手段を選んでいられるというの!?」

 

「手段は……自分達で探すものだぜ!!」

 

鳴神美雷はジャンプして一回転。

プールの先頭、飛び込み台へと着地を決めた。

 

「私達魔法少女はハダカのツキアイを通して新しい力を身に付けたんだぜ!! その名は……友情パワー!!」

 

(……!! 友情パワー!!)

 

 

千雨がはっとする。

そうだ。

 

私達四人はこの特訓を通して――。

 

 

……。

 

 

「美雷、ちょっといい?」

 

「千雨、なんなんだぜ?」

 

「私達まだ、5分くらいしか特訓してない」

 

「……。私達の新しい力、その名は友情パワー!!」

 

「それはもうわかったから!!」

 

 

人質を取った忍者。

対して、あんまりパワーアップしてない千雨たち四人。

 

魔法少女、いま試練の時――。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。