魔法少女GAKUEN   作:MOPX

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ニンジュツを打ち破れ!! 友情の新必殺技!!(後編)

 

 

「晴菜ーーーーーーーー!!」

 

ちょうど戦闘を行っている地点の真横まで来て、美雷が千雨と風花を降ろしたところだった。

三人の目にプールに浮かんでいる桃ヶ崎晴菜の光景が目に飛び込んだのは。

 

いの一番に絶叫を上げた風花の横で、千雨がおののいた。

 

「そんな……!! 自称GAKUEN最強の桃ヶ崎さんがやられるなんて……!! あ、いや前も負けてたから二連敗……? 美雷との決闘も含めれば三連敗ね。私、よく考えたら桃ヶ崎さんが勝ったところ見たことなかったわ」

 

「晴菜を侮辱するなーーーー!!」ボコボコボコボコ!!

 

「ああーー!? 顔面ベコベコになるまで殴らないでーー!?」ベコベコベコベコ!!

 

 

 

二人がそんなやり取りをしてる中、黄の少女がきっ、と忍者を見据える。

鳴神美雷は押さえるところは押さえる魔法少女なのだった。

 

「四天王!! よくも晴菜ちゃんを……!!」

 

「キキキ……!! 遅かったな魔法少女!! 見よ、あの姿を!! 宙を優雅に舞う天使は堕ち、水面に浮かぶ蓮の華……!!」

 

「う……うう……」と水面の晴菜からすすり泣くような声が漏れる。

ちなみに人質だった黄の魔法少女は晴菜に一礼するとさっさとプールサイドの反対側に逃げた。

 

桃の魔法少女、浮かんでいるが、浮かばれない。

 

忍者はもう人質には興味がない。

目的は達成されたのだ。

 

「キキキ……!! 魔法少女などしょせん口先だけの存在!! ありもしない幻想を語る姿は道化そのもの!! 実戦を考慮した現実的ニンジュツには遠く及ばない!! さあ、そこの魔法少女のように貴様らにも敗北を……!!」

 

忍者の言葉は美雷だけでなく後ろにいる千雨と風花にも向けられたものだ。

横でうつむく風花とは別の理由で、千雨は立ち尽くしていた。

 

(魔法少女は……口先だけ……)

 

 

 

そうなのか。

 

やっぱり。

 

語っている理想は空虚さの証拠で。

 

現実にはかないっこ、ない。

 

だったら私達のやっていることは全部――。

 

 

 

「……負けてない」

 

「キ?」

 

 

 

「晴菜ちゃんは負けてないんだぜ!!」

 

 

 

千雨の思考は途切れた。

鳴神美雷の声によって。

 

 

「キキキ……!! いったい何を言い出す!! ()にそこで浮かんでいる桃の魔法少女のことはどう説明する!? 魔法少女の節穴は、都合の悪い現実を映さないのでござるか!?」

 

「晴菜ちゃんは負けたんじゃない……身を呈して、人質の子を助けてくれたんだぜ!! それに!! 私達はひとりじゃない!! チームで戦えばまだ負けたことにならないんだぜ!!」

 

美雷が、吠える。

だだっ広いGAKUENのプール、全部に響くくらい。

 

「私達四人は、まだ負けちゃいない!!」

 

 

(私達……四人……)

 

千雨は息をのんだ。

当然、四人の中には自分も頭数に入っている。

 

それが誇らしくて、こそばゆくて。

 

「そこまで言われたら……張り切るしかないじゃあないの!!」

 

振り返ってふっと微笑む美雷に、微笑みで返しておいた。

それが面白くないのは、忍者だ。

 

「キキキ……!! まだ現実を認めないのか……!! 貴様ら三人では我が水上の布陣を攻略するのは不可能!! 己の距離特性も(はかり)にかけれぬか!?」

 

わかっている。

そんなことは。

 

だから千雨は考えた。

自分にとって現実的な策を。

 

「レイニーバトン!! ジャンプ台!!」

 

唐突な単語に一同が驚く。

無理もない。

千雨自身、たった今、思いついたのだ。

 

現れたのは、プールサイドにくっ付くように一本の棒。

さながら、あまりにもか細い飛び込み台――。

 

「美雷!! あの棒の先端にジャンプして、反動で思いっきり飛び跳ねるのよ!! あなたならできるはず!!」

 

「……千雨!!」

 

そう、美雷が忍者に届かないのはその手段がないからだ。

だったらその手段を作ればいいだけだったのだ。

 

「なるほどなるほど!! だが飛んだあとはどうする!? 鳴神美雷は水の中にダイブするだけ!! 普通に考えてそうでござろう!?」

 

「もう間に合ってるよ」

 

その声の主は風花だった。

手には彼女の武器、緑に輝く本が既に握られていた。

 

舞い散ったページが水面に降り積もる。

 

即席の緑の大地。

 

それが忍者の周りに出来上がっていた。

 

「魔法力と魔法力は反発する。つまり、足に魔法力を込めれば足場にもできるということだよ」

 

「……風花ちゃん!! ありがとうなんだぜ!!」

 

「別に。……。でも、ボクからもありがとう。チームで戦うって言ってくれて。……晴菜がまだ負けてないって言ってくれて」

 

わずかに頬を染める風花に、美雷がとびきりの笑顔を見せる。

それが面白くないのは、やはり忍者だ。

 

 

「これで勝負になる……などと思ったか? 敵の動きを考えない自分達本意の策……それこそが魔法少女の弱点!! 拙者が逃げればお終いという根本的なところが抜けている!! 隙だらけの策……!!」

 

「そんなこと……グスっ……ひっく……させない!!」

 

「!!」

 

忍者の左足に桃の少女がしがみつく。

そう、プールから這い出て、緑の足場へとよじ登った桃ヶ崎晴菜が忍者の動きを止めているのである!!

 

「キキキ!? 桃ヶ崎晴菜……貴様……!! さっきまで泣いていたくせに!!」

 

「な、泣いてないしーー!! ちょっと眼球を潤して目のお掃除していただけだしーー!!」

 

 

気を取り直して、晴菜がプールサイドへと叫ぶ。

 

「鳴神美雷ーー!! 友情パワーってやつで何とかするんでしょ!? 今回はあんたにとどめを譲ってあげる!! だから絶対にこの変態忍者を倒しなさい!!」

 

「……晴菜ちゃん!!」

 

「これが私からの……はなむけよ!!」

 

スク水を着た晴菜の背中から再度、桃色の羽が舞う。

張り直された橙色の罠を浮かび上がっていく。

 

 

「ありがとう……本当にありがとう……。みんなの思いがあれば……私はいくらでも戦えるんだぜ!!」

 

美雷が跳ねた。

青い棒の先端へと。

 

しなやかに曲がった棒が、黄の光(鳴神美雷)を更なる高みへと跳ね上げる。

 

綺麗な弧が、力強い音で終わる。

 

水面に積もった緑の雪。

そこに見事に着地した。

 

少女と忍者の距離はわずか数メートル。

 

桃色の羽根が舞い散る中、美雷は黄の瞳でしっかりと忍者を捉えていた。

 

千雨はその雄姿を見てグッとガッツポーズを決める。

 

(やっと……やっとここまできた!! 罠は桃ヶ崎さんの羽根のおかげで見えてる!! 美雷の拳が決まれば、忍者なんかに絶対負けない!!)

 

 

「……などと思ってるのではござらんな?」

 

(……え?)

 

 

美雷が忍者へと突撃する。

右手を引き、必殺の正拳突きを今、繰り出した。

 

 

()()のしぶきが飛び散る。

 

 

結果は――。

 

「くっ……」

 

「そんな……美雷……!!」

 

押されていたのは鳴神美雷だった。

必殺だったはずの雷撃のごとく突きは、橙の拳に合わせられたのだ。

 

「キキキ……いつ拙者が接近戦をできないと言った? 忍者は体術も得意!! これが現実……いくら都合の良い策を考えても無意味なのだ……!!」

 

「美雷……!!」

 

三人の視線が、黄の魔法少女へと集まる。

 

 

 

「大丈夫なんだぜ……魔法少女はまだまだこんなもんじゃ……」

 

「……」

 

忍者がふうっと息を吐いた。

まるで全てに疲れ切ったように。

 

 

「……鳴神美雷、もういいんじゃないか? 見えただろ、現実。夢とか理想とか、目に見えないものは結局、ないのと一緒なんだ。……どんなに崇高な理想を口にしてても、人の心は決してのぞけない……。だったらそれは、最初から『何もない(・・・・)』かもしれないんだよ」

 

「……?」

 

不思議そうにする美雷に向かって、晴菜が声をあげた。

忍者の足に引きづられながら。

 

「まだよ……鳴神美雷!! 忍者なんて古臭いって……魔法少女は未来に向かうって、そう宣言しなさい!! そうすればまだ戦えるはずでしょ!?」

 

「……キキキ。まだ言葉に頼るつもりか魔法少女!! 忍者を否定する材料がお前らのどこにある? 何を言ったところで全ては空虚な妄言!! 魔法少女は忍者には勝てない!!」

 

先ほどのやり取りなどなかったような忍者の口調に美雷がきゅっと唇を結ぶ。

そして、言う。

 

 

「忍者は――」

 

 

 

 

 

「忍者は、強いんだぜ」

 

 

 

 

 

「なぬ……?」

 

この場にいる全員の、意味を図りかねての沈黙。

この土壇場で、鳴神美雷の出した結論――。

 

 

 

そう、忍者は強い。

 

 

 

「血迷ったか鳴神美雷!! 魔法少女の言霊には力がある!! 敵である拙者の力を認めるなど論外!!」

 

「そんなことないんだぜ……!! 忍者は強い……!! でも!! 私達だって勝ってるところがあるんだぜ!!」

 

 

忍者より魔法少女が上回っているところ。

それは――。

 

「私達はひとりじゃない!! 今もこうして四人で戦っている!! そのことが私に、たくさんの力をくれる!!」

 

(美雷……!!)

 

 

 

「まだそんな世迷い事を!! たった5分の特訓だったでござろう!?」

 

「魔法少女の5分は、かけがえないのない5分なんだぜ!! 晴菜ちゃんは、負けず嫌いだけどとっても優しい子だった!! 風花ちゃんは千雨と、仲良く話してたんだぜ!! 私はそんな日常をまだまだ続けたい!! 友情をずっと育みたい!!」

 

 

「まったく……鳴神美雷、あんたってやつは……」

 

晴菜がふっと笑みを見せる。

 

「本当に、そんな和やかな会話じゃなかったよ。……イヤでもなかったけどね」

 

風花が微笑んだ。

 

 

「友情などとはこれまた陳腐!! そんなもので勝負になると思うのでござるのか!? やはり魔法少女は口先だけの――」

 

「違う!! 私達の友情は確かにある!! そんな目に見えないものを力にできるのが、魔法少女なんだぜ!! あなたにも見てほしい!! これが私達の――」

 

 

プールが嵐のように波を上げる。

大気が黄色を帯び、美雷の元へと収束していく。

 

 

「友情パワーーーーなんだぜーーーー!!」

 

 

千雨はその光景を綺麗だと思った。

まるで水辺に咲いた、大輪の花。

 

そして、叫んだ。

 

「いっけええええぇぇ!! 美雷ーーーー!!」

 

 

「うおおおおぉぉ!!」

 

「キキ……この口調ももういいかな……」

 

疲れ切った忍者が、叫んだ。

 

 

 

忍者(現実)をなめるなーーーー!!」

 

 

 

魔法少女が構えで右手を引く。

忍者も合わせて突きの予備動作に移る。

 

再び交錯する黄の拳と橙の拳。

今度は、鳴神美雷は退くことなく踏みとどまった。

 

しかし、それだけだった。

 

 

橙の忍者は勝利を確信する。

結局、全ては茶番だったということだ。

長々としたやり取りが生みだしたのは、少しの踏ん張りだけ。

 

「そう、これが現実――」

 

そして、目にした。

 

鳴神美雷の左手を。

右手を突き出す際に、後ろに戻したに過ぎないその手が、

 

 

黄金に光っていた。

 

 

魔法少女カラテ……(今のが……私の一撃……)

 

そして――。

 

ネオライトニング・ダブル正拳突き(これがみんなの二撃目)!!」

 

美雷が素早く突き出した左拳。

それが橙の忍者の胸を撃った。

 

「あっばああああぁぁああああぁぁ!?」

 

響き渡る忍者の悲鳴。

千雨が、晴菜が、風花が喜びの表情を見せようとした。

後は勝利を祝して、功労者である美雷を全員で祝福しよう。

 

なんて、考えてた時だった。

 

橙忍者の服が弾け飛んでるのは。

 

(あ、これ美雷の一撃が強すぎて服が破れていってるのね。……ん……ってことは)

 

 

 

そう、忍者の橙装束は魔法力でできたもの。

それが鳴神美雷の魔法力と干渉して消し飛んでいっている。

 

忍者が下に、何か着ていれば問題ないはずだった。

何か着ていれば。

 

 

橙の忍者の顔が、ややくたびれた成人男性のそれが露わになる。

中肉中背、とはいえやや鍛えた感のある上半身が、お肌を晒していた。

 

下半身は――。

 

「み、美雷!! 見ちゃだめーーーー!!」

 

「……だぜ?」

 

見るなと言われると見たくなるのが人情である。

鳴神美雷の視線が下がる。

 

忍者の股間。

 

事の次第によっては、少女のトラウマ必死だったであろうそこは――。

 

 

 

橙色のふんどしによって守られていたのだ。

受け継がれる和の心が、少女の精神を守ったのである。

 

 

「はあ……この俺が負けるなんてね。……鳴神美雷、君は本当に強い子だな」

 

「そ、それはどうも……なんだぜ……」

 

「美雷ーーーー!! 律儀に忍者の体を見て話さなくていいから!! 目をそらしなさい!!」

 

美雷の顔がみるみる赤くなる。

ふんどし一丁の忍者は、恥という概念がないのかそのまま話し続けた。

 

「校長ポイントのアナウンスも後で入るだろう。……校長も昔はああじゃなかったんだ。いつの間にか私達の理想はどこかに行ってしまったんだ……」

 

「ソ……ソウナンダゼー? デ、デモナンデナンダゼー」

 

「美雷がカチコチになってるー!? ほら、こっち見てこっち!! そんな変態と話してたら変態がうつっちゃうわ!!」

 

どこからともなく、忍者が鍵を取り出した。

……本当にどこからともなく。

 

「ふっ、興味があるなら探してみるといい……GAKUENの図書室、とてつもない量の本が眠っているその部屋のどこかでこの鍵が使える……」

 

「……ごくっ」

 

「美雷ーーーー!! そんなどこから出したかわからない鍵を受け取っちゃだめーー!! 美雷が受け取るくらいなら私が!!」ざっぷーん!!「そういえば私、泳げねーーーー!!」

 

「ふわあ……晴菜が無事でよか……ガクっ……すやすや……」

 

 

赤面する黄の少女。

プールでもがく青の少女。

既に寝た緑の少女。

 

そして、忍者の足元にいた桃の少女はというと――。

 

 

「ふんどし、顔にずっと当たってるんだけど」

 

プールに吹く爽やかな風が、忍者のふんどしを揺らす。

力を出し切り、一歩も動けない少女の顔にぴらぴらと当たっているのだった。

 

 

水面は優しく揺れ、キラキラと輝いていた。

まるで四人の友情を『祝福』するように――。

 

 

 

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