魔法少女GAKUEN   作:MOPX

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覚醒の桃ヶ崎!! 新フォーム誕生!!(後編)

 

「え……?」

 

その声は果たして誰のものであったのか。

タイヤが空転するように、キャタピラが意味もなく音だけを巻き散らす。

 

原因は、戦車の前方を見れば明らかだ。

 

 

桃ヶ崎晴菜が、戦車を両腕で止めている。

 

 

「うおおおおぉぉおおおおぉぉ!!」

 

 

無限軌道の駆動音をかき消すように少女の咆哮が鳴り響く。

戦車が負けじと少女を押し出さんとする。

少女の足が、踏ん張りの効かない革靴が後ろへとわずかに滑っていく。

 

力と力のぶつかり合い。

生物と生物の戦いにおける、もっとも原初にして絶対のルール――。

 

雨宮千雨は夢でも見ているのかと思った。

途中、どこかから自分は気絶したのだろうか。

 

だって、桃ヶ崎晴菜は変身に失敗して――。

 

 

 

戦車を止めている両腕に桃色の光が見えた。

 

(あ、あれは……!! もしかして!!)

 

 

「うおおおおぉぉおおおおぉぉおおおおぉぉおおおおぉぉーーーー!!」

 

増していく力と力。

ついに衝撃に耐えられなくなったか、晴菜のセーラー服が弾け飛ぶ。

 

しかし、乙女の柔肌はこの空間に晒されることはない。

 

なぜなら――。

 

「桃ヶ崎さんの肌が、全身うっすらと桃色に染まっている!? あれは……!! あれは……!!」

 

 

言葉が出ない千雨に代わり、美雷が心底嬉しそうに引き継ぐのだった。

 

 

「ピチピチスーツなんだぜ!! 晴菜ちゃんの変身フォームが、ピチピチスーツに進化したんだぜーーーー!!」

 

 

そう、桃ヶ崎晴菜は恒星の荒ぶる力を制御することに成功したのだ。

魔法力の大きさは、その空間的密度と時間的密度に依存する。

 

だからこそ、晴菜は己が力を限界まで圧縮し、身体へと纏わせたのだ。

 

合理的にして理想。

 

 

最強の桃色ピチピチスーツが、ここに誕生したのである。

 

 

 

「これが私の新しい最強フォーム……」

 

 

 

 

「真・アルティメット・クェーサーフォームよ!!」

 

 

 

 

 

「晴菜……!!」

 

華やいだ風花の声に、晴菜は微かな笑みで応える。

 

「私はもう逃げない……!! 最強であることからも、風花を守ることからも、そして……魔法少女であることからも!!」

 

晴菜が踏み出した強引な一歩で、戦車が後ろへ押し出される。

戦車の中から、またも声がする。

先ほどまでとは打って変わって、余裕のない声が。

 

「……くっ!! 桃ヶ崎晴菜!! なに急に熱を吹いてんのよ!! さっきまで泣いてたくせに!!」

 

「……ええ、泣いてたわ」

 

否定は、しなかった。

する必要がないと思ったから。

 

「自分の弱さに私は泣いていたわ!! でもそれは前に進むために必要なことだった!! それに気づかせてくれたのよ、みんなが!! 雨が降れば、いずれは晴れる……今の私はカラッカラッの快晴よ!!」

 

「抜かせーーーー!! どんな『祝福』だって『呪い』に変わるものなの!! そうじゃなきゃ、そうじゃなきゃ……!!」

 

バイオラの声に応じるように、戦車がわずかに押し返す。

 

「……!! へえ、やるじゃない!!」

 

「桃ヶ崎晴菜!! 今日が何の日か知ってるの!?」

 

「知らないわよ!! そんなもん!!」

 

「今日は私の誕生日だ!!」

 

「へええ!! めでたいじゃないの!! 」

 

「めでたいことなんかあるか!!」

 

戦車が、出力を増していく。

 

「子供の頃……年を取るのは嬉しいことだった……それだけ成長してるんだって。……でも!! 大きくなるにつれ誕生日は憂鬱になるのよ!! 『あーまたひとつ歳を取っちゃったなあ……』って!! 好きな漫画やアニメのキャラクターより年上になる気分が、あなたにわかるの!?」

 

「は、はあ!?」

 

桃ヶ崎晴菜が戸惑うのも無理はない。

これが四天王のひとり、錬金術師のバイオラの力の源泉であり『呪い』と『祝福』の正体。

 

自分の年齢に対する、羞恥心である。

 

 

「あんた達ピチピチの魔法少女に負けるわけにはいかない!! っていうか、あんた達だっていずれは歳をとる!! 30歳、40歳、50歳となった時に今の自分のままでいられるか考えろーーーー!!」

 

「何それ、バカらしい」

 

再び、晴菜が戦車を押し込んでいく。

 

「人間は歳をとる? そんなの当たり前よ!! 大切なのは歳を取った時に恥じないような自分でいることでしょ!? 私は最強の魔法少女で最強の12歳!! 10年たてば最強の22歳になるし、50年たてば最強の62歳になってやるわ!!」

 

桃色の張り手で戦車は勢いよく後退。

少女はそのまま飛び上がると最大の脅威であるはずだった砲身にしがみついた(・・・・・・)

 

「てりゃああああぁぁ!!」

 

空中で体をひねるように回転。

それに合わせて戦車が浮き上がる。

 

言うなれば対戦車用の一本背負い。

綺麗に戦車をひっくり返して、轟音と共に紫の砂埃が舞い散る。

 

真上に向いた履帯もピクリとも動かない。

 

 

その様子を見て、晴菜は息を吐く。

振り返れば、自分を出迎えるように三人が並んでいた。

 

「晴菜ちゃん、すごかったんだぜ!! その『スーパーネオクェーサーフォーム』もかっこいいんだぜ!!」

 

「いや、名前違うくない? 『ネオエクストリームハイパークェーサーフォーム』とかじゃなかったっけ?」

 

「それも違う!! 『晴菜はやっぱり最強でかわいいこの世に生まれてきてくれてありがとう……フォーム』だよ!!」

 

 

 

「あなた達ねえ……」

 

晴菜がまんざらではないといった風で苦笑する。

こうして笑い合えるのも、三人の声が力になり戦いに勝利したからだ。

 

さながら、このやり取りは桃ヶ崎晴菜にとって『祝福』で――。

 

 

 

「……!!」

 

 

そう思ったからこそ、誰よりも早く晴菜は気づいた。

何事かと気にする三人から目を外し振り返る。

 

世界がひっくり返る。

 

さっき倒したはずの戦車の砲身に紫のエネルギーが高まっていた。

 

 

「フフフ……言ったでしょ『祝福』は『呪い』に変わる……『和気あいあいとした勝利の余韻』は『油断』へと!!」

 

戦車は動けなかったのではない。

動かずに砲撃モードへと切り替えていたのだ。

千雨と風花を狙い撃った時と同様に。

 

 

「クセになっちゃいそうね……!! 油断したガキどもの虚をつくってのは……!! これが私の32歳のバースデー!! 32年の怨念のこもった一発を食らいなさい!!」

 

「ふん、ものすごい魔法力の高ぶりじゃない。実力がそれなりにある魔法少女が束になっても敵わないでしょうね。……ま」

 

 

晴菜のピチピチスーツがきらめく。

卸したてのそれは、晴菜にとっての新しい門出だ。

 

「私の敵じゃあないんだけどね!!」

 

 

 

 

 

「全ての『祝福』を『呪い』へ……全力『呪い』砲弾!!」

 

「真・アルティメット・ファイナル・エクストリーム・最強・パンチ!!」

 

 

晴菜の放った拳から、巨大なビームが放たれる。

さながらそれは、究極の自己延長。

 

一瞬で砲弾を溶かし、そのまま戦車を飲み込む。

 

「そ、そんな……これは、そう!! あなたにとっての新技は『祝福』!! だからいつしか『呪い』に……!!」

 

「何を勘違いしているの? これはあなたへの『祝福』よ!!」

 

「え……?」

 

『祝福』が『呪い』に変わるというのなら。

自分にとっての『祝福』はいつ訪れるというのか。

 

だったら、祝えばいい。

全力で、敵であっても、その一挙一足を――。

 

 

 

「あんたは厄介な敵だったけど、おかげで私は強くなれた!! だから私くらいはお祝いしてあげるって言ってるのよ!! お誕生日おめでとう、四天王のバイオラァァァァーーーー!!」

 

「ば、バカなああああぁぁ」

 

戦車が浮き上がり吹っ飛んでいく。

そのまま桃色の光に飲まれて消えていく。

 

崩れていく戦車の中。

千雨の目に四天王のバイオラの表情が見えた。

 

こころなしか笑っているような表情。

 

「ふ……ふふ……強い子たち……扉はこの近くにある……どうするかは……あなた……たちが……」

 

戦車は完全に消滅し、四天王のバイオラは吹っ飛んでそのまま見えなくなった。

 

 

こうして図書室での戦いは、千雨たちの勝利で終わったのだった。

 

 

 

 

「晴菜!! 晴菜が無事でボクは本当に……」

 

「風花……!! 心配かけちゃったわね。でもあなたのおかげよ。あなたが信じてくれたからここまで強くなれた……」

 

 

抱き合う晴菜と風花から少し離れて、千雨と美雷。

 

 

「何か二人の世界って感じ。私達も頑張ったんだけどなあ……応援」

 

「でも良かったんだぜ!! みんな無事で、晴菜ちゃんも強くなれて!!」

 

「一番危なかったのはあなたでしょ……もう無理しないでよ。……私だって頑張るから」

 

美雷の魔法力も回復しつつあり、千雨はほっとする。

 

こうして晴菜の成長を素直に認めれるのは美雷の生来の特性なのだろう。

そんな美雷の語録を千雨は噛みしめるのだった。

 

(『呪い』は『祝福』に変えれる、かあ……。私はGAKUENに来たばっかの時は自分なんかが何をしてもって思ってたけど……)

 

この抱えていた『想い』もいつか『祝福』に変わってくれるのかな。

祈りに似た感情を覚えつつ、千雨は美雷とともに晴菜と風花のもとに行くのだった。

 

 

 

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