『はっはっは!! ワタシだ諸君!! 12時ちょうど……穏やかな昼下がり……各自魔法少女の活動に励んでいるだろう!!』
『今日はそんな君たちにサプライズニュースを伝えよう!! ずばり、今日をGAKUEN最後の日とする!!』
『驚いているだろう? 文化祭や体育祭のイベントをやってない……四天王もまだ二人残ってる……校長ポイントだってまだまだ貯めたかった!!』
『そ・こ・で・だ!! 名案がある!! 爽やかな日常と、血沸き肉躍る戦いを両立する手段……』
『全部、一度にやってしまえばいいのだ!!』
『これから行われるのは題して……魔法少女の「生存祭」!! 早い話が魔法少女全員の生き残りをかけたゲームだ!!』
『魔法少女同士、存分に戦い、相手の魔法力をなくし、TAIGAKU処分へと追い込むのだ!! 相手を
『そして一時間ごとに……校長ポイントが最下位の者もTAIGAKU処分とする!! なお、同点の者が複数いる場合、全員をTAIGAKUにするものとする!!』
『……つまり今、校長ポイントがゼロの者は13時の処理で大量にTAIGAKUすることになるな。死に物ぐるいで校長ポイントを貯めてくれ!! はっはっは!!』
『さて、これでは戦闘に特化した魔法少女が有利となってしまう……魔法少女は戦うだけの存在ではない……。そこで、だ!! このGAKUENの通貨……魔法少女円に意味を持たせてみよう!!』
『今からGAKUENの各施設の利用を大幅に制限する!! そしてそれらを魔法少女円で利用できるようにするのだ!!』
『大量の水源に恵まれたプール……隠れるには打ってつけの大図書室……上手く活用すれば諸君たちの助けになるだろう!!』
『これにより普段から文化的活動に取り組み、魔法少女円を貯めていた魔法少女の利になるわけだ!! ちなみに10分後までにいったんこれらの施設から出てもらう!! 間に合わなかった魔法少女は強制的にTAIGAKUとなるから注意するように!!』
『四天王の二人も既にGAKUENにいる!! 彼らの動きは私が気が向いたらアナウンスしよう!! 倒すことができたら1000ポイントは変わらずだ!!』
『さて……前置きはそろそろいいだろう!! 後は魔法少女達の創意工夫に期待する……!!』
『これより、魔法少女の「生存祭」を開始する!!』
●
「何よ……これ……」
「……そんな校長先生……!!」
雨宮千雨と鳴神美雷は、12時ちょうどのその放送を廊下で聞いていた。
いつもと変わらない一日、強いて言えば朝に部屋を訪ねてきた晴菜が「例の鍵を調べたいから」と言ったので、貸し出した(早い時間で美雷はすうすうと寝ていた)。
特筆すべきは本当にそれぐらい。
これからお昼を食べに食堂に行こうか、などと話していた最中に起こった
受け止めるにはあまりにも意味不明な事実に、先に反応を示したのは千雨だった。
「何これ……!! ふざけてるの!? 魔法少女同士で戦わないとTAIGAKUだなんて……!! デスゲームに生存祭なんて名前、趣味が悪すぎんのよ!!」
「……千雨!!」
諭すような美雷の声に、千雨が落ち着きを取り戻す。
「ごめん……デスゲームだなんて言葉が悪かったわね……」
こんな発言をしてしまうのも、突然の事態に浮足立っているからだと結論付ける。
「でも……どうすれば……」
「晴菜ちゃんと風花ちゃんを探すんだぜ!! とにかく、わからないけど、いっしょにいた方が……!!」
「そうね……!! 二人ともどこに行ったのかしら……!!」
二人して、どこへともなく走る。
途中、何人かの魔法少女にすれ違う。
鋭く斬り付けるような視線。
それはまるで、心を冷たいナイフで撫でつけるような。
千雨は美雷の後を追いながら、嫌でも実感した。
今までも、ここは荒れていた。
だとしても、ここにいる魔法少女たちは自由だった。
今は違う。
恐怖と疑念が少女たちの心に渦巻いている。
千雨は改めて思う。
晴菜と風花、この二人と合流できたとして、二人は――。
●
「晴菜ちゃんと風花ちゃん、どこに行ったんだぜ……!!」
「……」
千雨と美雷は校舎の各階をぐるりと回る形になった。
先を行っていた美雷が、やみくもに走り回っていたからだ。
千雨にはそれが好都合にも思えた。
そして、その理由は黙っていた方が利口だろう。
しかし、口に出す。
美雷には、もう隠し事をしたくない。
「美雷……本当に二人と会いに行っていいの?」
「どういう……ことなんだぜ?」
廊下で立ち止まって、相対する。
美雷の瞳はどこまでも黄色く澄んでいた。
千雨はその瞳が大好きだった。
だからこそ答えなければいけない。
自分もまた、青い髪をたなびかせて。
「二人が私達と戦う道を選ぶ。……可能性はゼロじゃない」
「……!! 千雨!! 今の発言は良くないんだぜ!!」
美雷の剣幕に、千雨は押されまいと言葉を押し出す。
それが美雷と自分のために必要なことだと信じて。
「可能性の話よ!! 桃ヶ崎さんは四天王の二人目を倒して1000ポイントがあるはず……でも淡雪さんは? ……彼女は0ポイントのはずよ。桃ヶ崎といっしょにいたいって、TAIGAKUを免れるために他の魔法少女と戦うかもしれない」
「やめるんだぜ千雨!! そんな話、魔法少女は……!!」
「やめない!! じゃないとあなたが危険な目にあうかもしれないから!! 」
千雨の視線は、美雷のそれと中空で絡み合う。
もう、引く気はない
「美雷!! あなたがつらいのはわかる!! でも現実を見て!! あの男は恐らく、本気でやる!! 魔法少女を戦わせて楽しんでいるのよ!! そんな人間に対抗するには、こっちも生半可な気持ちじゃダメなのよ!! 周りの魔法少女だって焚きつけられて、戦いだすはずよ!! その時にあなたが一方的にやられるなんて、私はイヤ!!」
「……千雨」
美雷の視線が下がる。
その表情は、俯いて確認できない。
千雨だってそんな美雷の顔、見たくなかった。
「ごめん……言いすぎた。でも、私はあなたが優しいって知ってるから……だから、代わりに言わないとって」
「……謝るのは、こっちなんだぜ。千雨にこんなことを言わせたの、私がしっかりしてないから……なんだぜ。でも……」
鳴神美雷が、叫ぶ。
小さな雷が落ちたみたいに。
「何で魔法少女同士で戦わないといけないんだぜ!!」
「……美雷」
千雨とて知っている。
美雷が心優しい少女であることを。
最初の決闘は、魔法少女の名誉ため。
二回目の決闘は、他でもない千雨のため。
他人を打ち負かすため、自分の益のために戦うなど美雷は進んではしないだろう。
そして、千雨は考える。
自分はどうか、と。
答えを出す。
自分の言葉で。
……なるべくおどけて。
「まあ私も校長ポイントゼロなんだけどね~、あはは……。まあ、あんなクソジジイに媚びを売りたくなかったし~」
「あ……!! それじゃあ午後一時の時に危ないって校長先生が言ってたんだぜ!!」
「そうね。私はTAIGAKU処分を食らうかもしれない。……でも安心してよ。私はあなたとも、他の魔法少女ともなるべく戦わない。そんなことをするくらいなら、大人しくTAIGAKUになった方がマシよ」
「千雨……」
自分なりの言葉で、自分なりの決意。
こうした結論にいたったのも、目の前の少女に影響を受けたから……だろうか。
自己犠牲が尊いなんて、思わない。
それを是としてしまうのは、他者にもそれを強いるようで。
でも、目の前のお人よしの前でくらい良い恰好をしてみたい。
――そんな光景は、一瞬で覆る。
「アオハルしてんじゃないのさ!! シャバガキども!!」
「……!!」「この声は……!!」
周囲を見渡した時には、もう遅かった。
――人が湧く。
――廊下の奥から。
――手前から。
――教室から。
――窓から。
――黄色の魔法少女の軍団が。
千雨と美雷が気づいた時には、黄色の魔法力を持つ魔法少女たちに完全に包囲されていた。
奥側にある一人分の人ごみの隙間から、一人の女性がふてぶてしく進む。
「あなたは……トロッコのナツさんなんだぜ!!」
「フフフ……覚えていたよぉだねえ!! そうさ!! あんたがGAKUENに来たその日……決闘したナツさ!!」
「舎弟の
――こんなところで。
千雨はセーラー服に汗がにじむのを感じた。
いつもだったら適当にあしらう相手。
徒党を組んでるのは一人一人は強くない証拠だ。
でも、今は状況が違う。
生存祭、生き残りをかけたサバイバルレースにおいては「数」そのものが武器になる。
トロッコのナツの率いる軍勢は50人程度の数を誇る、さながら一個師団。
ことによれば、今一番やっかいな相手に出くわしたかもしれないのだ。
そう判断したからこそ、千雨は叫んだ。
「あなた、まだ美雷に因縁を付けようっていうの!? 決闘に負けた腹いせに!!」
「そういんじゃないさ。今日、私達があんたらに会いに来た理由はひとつ」
「鳴神美雷、ウチの軍団に入る気はないかい?」
「え……!?」「な、何ですって……?」
意図を図りかねる二人の様子がおかしかったのか。
トロッコのナツは愉快そうににしゃべるのだ。
「簡単な話さ。アタシはこれからあの校長をシメにいく。これ以上、アタシたちのGAKUENで好き勝手させるワケにはいかねえ……!! だが!! 奴の周りには四天王がいるはずさ!! それも二人も残ってる!! 強い魔法少女が必要なのさ……四天王を倒したことがあるような、強い魔法少女が!!」
ナツの瞳がじっと美雷をとらえる。
美雷は困ったように千雨の方を見るが、当の千雨はというと――。
「なにそれ……!! 勝手なコト言いすぎじゃない!? 何で私らがアンタの言うことを聞かないといけないのよ!?」
「フフフ!! 鳴神の金魚のフンかと思ってたけど、言うようになったじゃないかい!! そこに関してはちゃんとどうするか考えてるよ!!」
脇の舎弟が「ウチが考えたっす!!」と胸を張る。
千雨は思わず舌打ちが出そうになった。
この人も、四天王の忍者に人質にされてたところを助けてあげたのに!!
……桃ヶ崎さんが。
「美雷!! 聞く必要ないわ!! 強硬突破してやりましょう!! だいたい何よ!! 不良っぽいくせにTAIGAKUを恐れてるなんて――」
「……アンタ、もしかしてTAIGAKUが何か知らないのかい? アハハ!! こいつはケッサクだねえ!! TAIGAKUの恐ろしさも知らずに今までGAKUENにいたのかい!!」
いよいよ沸騰を始める千雨を、美雷がなだめる。
これはいけない、と千雨は深呼吸をした。
これでは美雷の足を引っ張ってしまう。
「TAIGAKUは
千雨の何気にない一言。
しかし、それを聞いた美雷は、はっとして言った。
思い出したのだ。
「しおりには、悪いことをした魔法少女はGAKUENから
「いなくなる……? いなくなるって……まさか!?」
「そう……アタシはこのGAKUENに長くいるから知っているのさ、GAKUENをTAIGAKUになったらどうなるか!! 文字通り『
不良少女が、叫ぶ。
怒りだけを声に乗せて。
「TAIGAKUになった人間は……この世界から消えちまうのさ!!」