トロッコのナツから語られた真実。
GAKUENをTAIGAKUになった魔法少女は、文字通りこの世界から
原理不明、戦々恐々、摩訶不思議。
どうしてかはわからないが、とにかくそうなる。
千雨自身、意外ではあったがその事実をすんなりと受け入れることができた。
恐怖も、混乱も、怒りもなぜか湧いてこなかった。
胸にあったのは、ある種の納得。
「もしもここが、世界を救うような魔法少女ひとりを育成する機関なら……それ以外の魔法少女は必要ない」
「千雨……!! そんなことないんだぜ!! 魔法少女はひとりひとり別の輝きを……!!」
「……あのクソ校長の考えを予想してみただけよ」
「あ……早とちりしてゴメンなんだぜ……」
「でも人をうんこ扱いするのはよくないんだぜ」と付け足す美雷に軽く返事をして、トロッコのナツおよび黄色の魔法少女軍団へと向き直る。
剣や槍、弓……。
ニタニタと笑みを浮かべる少女たちは、黄色の様々な武器を持っていた。
各自が自分の武器に自信を持っている、そんな様子だ。
――それに比べて私の武器は。
頭に浮かんだその思考を振り払って、トロッコのナツを直視する。
いまだ美雷は状況に困惑している。
ここは自分がビシッと言うべきだ。
「それで? TAIGAKUがヤバいことってのはわかったけどだから何? 脅したって美雷を渡したりなんかしないわ!! 無理矢理さらうような真似をしてみなさい、私の武器であたりをめちゃくちゃにしてやる!! あんた達の中の数人でも巻き添えにしてやるわ!!」
「ち、千雨……魔法少女同士で戦うのは良くないんだぜ!!」
「そんなのわかってる!! あのウンチ校長の言うことをきいてるみたいで癪だし!! でも相手からケンカを売ってきたら買うしかないじゃあない!! 舐められてんのよ、私達!!」
「アハハ!! いいじゃないのさその意気込み!! 雨宮ぁ、これから消えてもらうには惜しい人材じゃあないのさ……!!」
「これから私が消える……!? あなた何をする気なの!?」
「決闘さ」
ドクンと胸が脈打つ。
誰と誰が。
その答えに行き当たったから。
「これからアタシと雨宮でタイマン決闘を行う!! 賭けるのはずばり鳴神美雷と一緒にいる権利!! これならお互いに戦うのは一人だけだし無駄に魔法力を消費することもねえ!! さあ、いまさら怖気づいちゃないだろうね!?」
「……千雨!!」
「……」
心配そうにする美雷の視線をよそに、雨宮千雨は首を縦に振った。
●
廊下に二人の少女が向かい合う。
黄色の魔法少女、トロッコのナツ。
青色の魔法少女、雨宮千雨。
その周囲は即席のリングだと言わんばかりに、黄色の魔法少女たちが囲んでいた。
心配そうに千雨を見つめる、鳴神美雷も含めて。
雨宮千雨は舐めるようにくるっと周りを見渡す。
心は不思議なほどに落ち着いていた。
「何だか初めてGAKUENに来た日を思い出すわね……あの日に戦っていたのは美雷だけど」
思えばそうだ。
自分が初めてGAKUENに来て、美雷とナツが決闘をした日。
あの時から自分たちの運命は回り始めた。
「思い出話に浸っている暇があるのかい? アンタまともにケンカしたことないだろう!! 決闘中にチビらないでおくれよ!! アハハ!!」
「……あなたこそ卑怯な手を使ってこないわよね? フライングで攻撃してくるとかふざけたことやったら、一生笑いものにしてやるわ」
「……アンタ、舐めてんのかい? 鳴神とたまたま一緒にいるだけのシャバガキがよぉ……」
「は? 私と美雷が出会ったのは運命なんだけど? 三下がイキって今頃出てきて迷惑なんだけど?」
「は? やるのかい!?」
「やってやるわよ!!」
既にバチバチの二人を余所に美雷の心配はピークに達するのだった。
横ではナツの舎弟がごそごそとコインを取り出していた。
「ふ、二人とも仲良くするんだぜー!? 舎弟さん、何とか言ってほしいんだぜ!!」
「これから決闘なのに何を言ってるっすか? 鳴神だって了承したんじゃないっすか?」
「それは……千雨が戦うって言うんならそれを尊重したいんだぜ……でも、私のために誰かと争うのはやめてほしいんだぜー!!」
「この状況でまだヌルいことを言ってるっすか。いい加減、覚悟を決めた方がいいっすよ?」
「……覚悟、なんだぜ?」
「そっす。今は12時15分っすね……13時になればイヤでも誰かがTAIGAKUになるっす。……ウチの軍団はナツさんが取り仕切ってるからみんなかろうじて平静でいられてる。でも、状況が飲み込めてきたらGAKUENが大混乱するのは目に見えてるっす。その時に、鳴神はどうするっすか?」
「私は……みんなで究極の魔法少女になれたらって……」
「……。この状況でもそれを言えるのは、呆れを通り越して、感心するっす」
●
千雨の目にも、二人が話しているのは目に入っていた。
強い武器を持っているわけではない。
カッコよくてかわいい変身フォームがあるわけもない。
頭は……悪くはないけど良くもない、運動もまあ普通だ。
それでも戦いたいと思った。
美雷の運命は自分の戦いの結果にかかっているのだ。
今まで散々、助けられてばっかりだった。
だから今度は――。
今度こそ、美雷のために戦う。
「条件を確認しようじゃないのさ、私が勝てば鳴神美雷は黄色の魔法少女軍団に入る……」
「私が勝てば……今日一日、私達には手を出さない」
戦う前の口上。
それは魔法少女にとっての自己認識の確認。
自分が戦うことができる存在ということの再定義。
だからこそ、それは絶対の効力を持つ。
侵すことのできない
――大丈夫、一瞬で勝負は決まる。
「それじゃあ、コインが床に落ちた瞬間からスタートっす!! いくっすよ……!!」
ナツの舎弟がコインを親指で弾いた。
景気の良い音とともに、校長の顔が刻印されたそれがクルクルと空中で回転する。
この場にいる全員の視線を集めた小さな硬貨は――。
表向き、校長の笑顔で床へ――。
「レイニー・バトン!!」
青いバトンが一直線に廊下を疾駆する。
さながらミサイル。
これこそが雨宮千雨の策。
全ての駆け引きを無視しての先手必勝。
威力が十分でなくとも、不意打ちの一撃であれば相手が怯む可能性はある。
あとはそこを畳みかける――。
「なーんて、アンタの考えることなんかお見通しなんだよ!!」
「!!」
弾丸と化した青い棒は、黄の壁に弾かれていた。
ナツの正面一帯、隙間なく廊下を覆うくらいの壁へと。
黄の光でナツの姿は見えなくなる。
千雨の視界に心配そうにする美雷の姿が映る。
そして気づいた。
周囲を取り囲んでいたはずの黄色の魔法少女軍団が、いつの間にかそそくさと逃げ出していたことを。
ナツが発生させた壁から千雨の方向にかけて、存在するのは千雨だけ――。
「あなた……まさか!!」
「そう、そのまさかだよ!! アタシたちだってアンタが見てねえところで強くなってんのさ!! アタシの技は軌道が固定されているのが弱点!! だったら逃げ場のない狭い通路でぶっ放せばいいのさ!!」
千雨が唇をかむ。
廊下で戦いを挑んだこと自体が相手の策。
それに気づけなかった自分への憤り。
そして汗がにじんだ。
思わず、美雷の方を見そうになる。
一対一の決闘だと、わかっているはずなのに。
足元に黄のレールが伸びてくる。
慌ててジャンプで躱すも、ずっと後方まで続いていってるのがわかった。
壁の奥からナツの声が聞こえる。
「アハハ!! こうして新しい技を習得できたのも鳴神美雷のおかげさ!! 感謝しなくちゃね!!」
「美雷の……? どういうこと!?」
「あの子が誰でも主人公に、究極の魔法少女になれるって言ってくれたからさ!! アイツに負けた後、正直アタシはすっきりした!! その後だ、鳴神美雷が四天王のひとりに負けたってアナウンスされた時、すげえムシャクシャした……!! そん後で私も忍者にボコられて舎弟を奪われて、悔しい思いをして……でも、四天王を倒して舎弟を助けてくれたのはやっぱり鳴神だった!! そうだよ!! アタシの目の前にいたのはいつだってあの子だった!! 夜、寝るときだって鳴神のフニャフニャした笑顔が目に浮かんじまう……!!」
「あなた……な、何を言ってるの?」
密度を高めていた光の壁が、小休止といわんばかりにストップ。
千雨の預かりしらぬところだが、黄の壁の奥では美雷がきょろきょろと困惑し、ナツの舎弟は複雑そうな顔をしていた。
そして、黄色の魔法少女軍団がナツの後ろで「ナツの姉御ー!!」「ファイトー!!」「気張れやー!!」などと声援を飛ばしていた。
一体、何の戦いなんだこれは。
「ええい!! やっぱり黙っているのはショウに合わねえ!! アタシ、トロッコのナツは鳴神美雷のことが……ス……ス……」
「ス……?」
スで始まる単語?
何だろう。
「スキだって言ってんだよぉぉぉぉーーーー!!」
「え……?」
「ええええぇぇぇぇーーーー!?」「だぜーーーーーーーー!?」
廊下にナツの、全力の雄たけびが響き渡る。
その後にワンテンポ遅れて、千雨と美雷の叫びが重なるのだった。