魔法少女の生存祭がアナウンスされて早くも20分。
GAKUENの喧噪はいたるところで高まりを見せている。
そしてそれは、校舎一階の廊下も例外ではない。
魔法少女の決闘の最中、明らかになった驚愕の事実。
黄色の魔法少女軍団から歓声が上がる。
いまだ生成中の黄の壁に阻まれて、千雨から美雷の反応は確認できない。
トロッコのナツは鳴神美雷のことがスキ――。
「いやいやいや!! そんなことは……」
「なんでそんなことが言い切れるんだい!? この胸の鼓動にはウソはつけないんだよ!! アタシは悟ったね……この感情はス……ス……」
同じやり取りは置いといて、千雨は混乱する頭で思考をする。
「うおおお!! レイニィィィィ!!」
千雨が前に突き出した手のひらの、更に先に青い光が集まる。
特性は離れたところでも生成できる、それだけ。
だったらありったけの力を込める。
「バトォォォォン!!」
放たれる。
青い閃光が。
要は細長い棒を作り出す能力。
時間的に圧縮して空間的に引き伸ばせば、ビームにもなる。
鋭く発射されたそれは――。
黄の壁にあっけなく弾かれた。
「……!! 効いてない……!!」
「アハハ!! これがア……ア……『アイ』の力ってやつさあ!! あーーーー言ってて恥ずかし!!」
千雨は再び思考する。
「鳴神!! 見てなよ!! これがアタシからアンタへ、熱い想いの具現化!!」
千雨はその様子を、じっと見ていた。
半ば諦めたように。
「デッドリー・トロッコ・セカンド!!」
黄の壁が持ち上がった。
その下面に車輪を生やしたのだ。
そして、走り出す。
立ち尽くす青の魔法少女に向かって。
「うおおおおぉぉぉぉ!?」
少女がトロッコに激突する。
トロッコの前面にへばりつくように、千雨はGAKUEN校舎の長い廊下をスライドしていく。
激突まで、推定30秒――。
「まずいぃぃぃぃ!! このままじゃああああぁぁぁぁ!!」
このままでは、反対側の壁と挟まれる形で押しつぶされる。
そうなれば当然、自らの魔法力は消えてしまい、生存祭のルールでTAIGAKU処分が下される。
要するにまずい。
何とか、しないと。
「でもぉぉぉぉ!! どうやってぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
ナツから語られた美雷への想い。
それがどんなに唐突で一方的なものだったとしても。
誰かに否定されるべきものでは、ない。
だとするならば、それは千雨の抱えている想いと等価ということ。
魔法少女が想いを力にするのなら、相手の想いを否定したくない時はどうすればいいのだろう?
千雨は、咄嗟に叫んでいた。
「ごめぇぇぇぇん!! 美雷ぃぃぃぃ!! でも私がいなくてもあなたなら元気でぇぇぇぇ!!」
最後の言葉は美雷へのものだった。
まるで走馬灯のようにGAKUENに来た日のことが思い出される。
思えば、電車に揺られたあの日。
自分は世界への恨み節を吐いていた。
それが一人の少女の今後を気にかけるようになった。
たったそれだけのことでも、千雨にとって美雷との出会いは無駄じゃないと思えた。
だから、これで終わりでも未練なんて案外なかったかもしれない。
でも――。
「千雨ーーーーー!! 頑張れーーーーー!!」
千雨の耳に聞き覚えのある声が届く。
元気で明るくて。
でも今は、必死に声を張り上げるその声が。
「私がGAKUENで頑張れたのは千雨の応援があったからなんだぜ!! でもそれだけじゃないんだぜ!! 何かうまく言えないけど……とにかく私は千雨といっしょにいたら……何だかあったかい気持ちになれるんだぜーーーー!!」
ギュンギュンギュンギュン!!(トロッコが爆走する音)
……そんな音と振動にも負けず
千雨の気持ちを、もう一度奮い立たせる。
そうだ、自分は一番大切なことを忘れていた。
他でもない美雷の気持ち。
その美雷が自分と一緒にいたいと言ってくれたのだ。
「だったらこんなところで負けてらんないのよぉぉぉぉ!!」
激突まで、推定20秒――。
この瞬間から千雨の脳はフル回転。
快楽物質的なアレが駆け巡る。
逆転への布石は、能力の主であるトロッコのナツを倒すことだ。
しかし恐らくはトロッコの向こう側にいるはずで、そこを攻撃する手段は――。
いや、違う。
今までの経験全てが千雨の頭によみがえりつつあった。
美雷とナツとの決闘、桃ヶ崎晴菜との決闘、四天王達との戦い、地下で見た真っ白な空間……。
全てがちょっとずつ、千雨の血肉となり生きている。
「……わかった!!」
何も成長してなくなんて、なかった。
自分自身でそう思い込んでいただけだ。
だから、今こそ輝く。
「レイニー・バトン!!」
トロッコの前面に手の平を押し当てて打ち込む。
ただし、その表面を攻撃するためではない。
トロッコの中を攻撃するためだ。
「ぐわああああぁぁぁぁ!!」
「やっぱり……!!」
手応えとともに叫び声。
黄の魔法少女軍団も一様に驚いていただろう。
取っ掛かりはナツが本当にこれだけの短い間で強くなったのか? ということ。
魔法少女の魔法力は個人差はあれど急に高まることは稀だ。
だったらこの能力も
不自然なほどに巨大なトロッコ。
そして、美雷との決闘ではナツはトロッコを
つまり――。
「トロッコのナツ!! あんたはトロッコと一体化して突進していたのよ!! 言わばそれはあなたにとっての変身フォーム!! 直接魔法力と接触することでその密度を高めていた!!」
要は四天王のひとりが戦車を作り出したのと同じ理屈だ。
魔法少女と接していれば、それは変身の延長と言える。
あのやかましいナツが一切しゃべっていなかったのは、自分の場所を悟らせないため。
「よく気づいたじゃないか……!! だがアンタに何ができる!? 次からはトロッコの中で回避する!! アンタのショボい攻撃でアタシを止められるがわけねええええぇぇぇぇ!!」
「あんたこそわかってないんじゃないの……私は……!!」
青い光が、瞬いた。
「鳴神美雷の友達よーーーー!!」
トロッコの上面には光が集まっていた。
そして落ちていく。
降りしきる雨のように、閃光が。
「ああああぁぁぁぁ!? アンタ……そんな技が!?」
「魔法少女は……思いつきで何とかするものなのよ!!」
トロッコの上面には当然、遮るものはない。
だってそれはトロッコなのだから。
だから、ゴリ押す。
ナツがトロッコを解除するまで。
激突まで、推定5秒――。
「アタシは鳴神のことがスキだ!! 鳴神とたまたま一緒にいただけのアンタに負けたら、じゃあ人生ってなんなんだい!?」
残り4秒。
「知らないわよ!! でも、きっかけは偶然でも私はずっと美雷と一緒にいた!! それで、美雷のことを知ったからこそ好きになった!!」
残り3秒。
「ケッ!! だったら結局ウンメイってやつなのかい!! 生まれだとか才能だとか……ウンメイなんてクソくらえだよ!!」
残り2秒。
「軌道固定の能力を使っててよくもそんなことが言えるわね!! あなたには慕ってくれる人たちがいるでしょう!? 一人一人が違う人間なんだから文句たれないでよ!!」
残り1秒。
「ウダウダウダウダ!! とにかく私は鳴神のことがスキなんだよぉぉぉぉーーーー!!」
残り――。
「だったら私は……」
青い光が、トロッコの底を突き抜けた。
「美雷のことが、大好きだああああぁぁぁぁーーーー!!」
無数の青い棒が、黄のレールに突き刺さる。
トロッコが跳ね上がり、壁へと激突する。
刹那、廊下が光に包まれる。
青色と黄色の入り混じったそれは、魔法力による光の爆発――。
「千雨めぇぇぇぇーーーーーーーー!!」
少女が駆けよる。
爆発に身を晒すこともためらわず。
霧が晴れる。
一人の少女が立ち、一人の少女が倒れている。
美雷にはすぐにわかった。
だから、負けた方の少女にはちょっと悪いなと思いつつ微笑んだ。
「はあ~~~~泥臭いのは好きじゃないんだけど……」
悠然と立っていた少女が、青いバトンを倒れていた少女に向けた。
激突の寸前、最後の一瞬で。
雨宮千雨はトロッコをわずかに
橙忍者との戦いで、美雷が棒を足場にしたことをヒントに。
結果、トロッコの下をかいくぐった千雨はほとんどダメージを受けなかったのだ。
諦めずに、攻撃を続けたからこそだ。
「我慢比べは私の勝ちよ。トロッコのナツ」
決闘に勝利したのは、雨宮千雨だった。
●
「千雨ーーーー!!」
「わわっ!! 抱き付かないでよ!!」
決闘はもう終わった。
だから身体的接触も問題ない。
反動による一回転を決める千雨と美雷を見て、トロッコのナツは己の真の敗北を悟る。
そして、力なく言った。
「……雨宮千雨、アタシのコトを好きにしな。アンタにはその権利がある」
「……!!」
決闘の騒ぎで忘れかけていたが、まだ生存祭という名の凶行はまだ続いているのだ。
千雨の校長ポイントはゼロ。
もしもここで、ナツの魔法力を奪えば100になる。
美雷が「千雨!!」と思わず叫ぶ。
遠くではナツの舎弟が必死にナツの名前を呼んでいるのがわかった。
「そうね……ここであなたから魔法力を奪えば私はとりあえず、午後1時のTAIGAKUからは逃れられるかもしれない」
「……」
青い棒を、消す。
「……でも、やらないわよ、そんなこと。私は決めたもの、あの男の言いなりになんかならない。……どこかの誰かさんが『みんなで究極の魔法少女になる』って言ってるんだから、他の魔法少女を進んでTAIGAKUにしたりなんかしない」
「……は。……それがアンタの答えか。……アタシの完全な負けだね、雨宮千雨」
「千雨~~~~!!」と嬉しさを爆発させていた美雷をぶおんぶおん振り回しながら千雨は考える。
ナツがどういう経緯で、今回の技を習得したのか。
『トロッコは人と物を運ぶもの』
いつか美雷が言っていたその言葉がヒントだったのではないか。
だとしたら、やっぱりナツの魔法力を消すべきではないと考えたのだ。
ナツから美雷の感情は『スキ』であって『好き』ではなないのかもしれない。
でも、その気持ちを否定してはいけないと思ったのだ。
……同じ鳴神美雷に感化されたものとして。
「……あ!! でも、千雨の校長ポイントはまだゼロなんだぜ!! これじゃあ午後1時に……!!」
「あら、心配しないで大丈夫よ」
千雨が青い髪をたなびかせる。
これまでになく、堂々として。
運命を破壊する。
それは自分の意志を抑え込んでくるものに、抗うということだ。
どうしようもない大きな力に、立ち向かうということだ。
「私は残り30分で四天王を見つけ出して倒す。そうすれば1000ポイント入るから問題はないわ。そして――」
延命するのではない。
時間を得るのだ。
全ての元凶を倒すための。
「私は校長を……あの男を倒す。GAKUENのみんなをオモチャにしたことを、後悔させてやるわ!!」