青と黄の少女が廊下を走る。
「四天王がどこかへ出るらしいけど……一体どこよ!?」
青の少女が息を切らしながら言う。
「わからないんだぜ……!! でもとにかく探し回るしかないんだぜ!!」
黄の少女が勢いを強める。
残り15分。
その時刻になれば強制的にGAKUENから誰かが
青の少女が膝を折る。
どうやら走りすぎて呼吸が苦しくなったらしい。
心配して駆け寄る黄の少女を制止する。
「数秒!! 数秒だけ休ませて……!!」
「千雨……!! 無理しなくても……!! あ、でも四天王を見つけないと千雨が……!!」
むせ返りながら、雨宮千雨は頭を働かせる。
数分前にトロッコのナツ達とは別れる時、大きなトラブルは起こらなかった。
ナツが決闘の約束を守り、いきり立つ黄の魔法少女軍団をなだめたからだ。
舎弟に肩を組まれながら去っていくナツが去り際に言う。
――アタシたちもできるだけのことはする、と。
校長を倒す。
そういう意味だと千雨は解釈した。
……気が合うとは思えないし、次にまた会う機会があるかはもうわからない。
それでも、仲間と言える存在にはなれたのかもしれない。
「……晴菜ちゃんと風花ちゃんも無事だといいんだぜ」
「……そうね」
やっと息が整ってきた。
あの二人が行っていた場所に目星がないわけでもない。
二人は見ていた、自分達といっしょで図書室の地下にあった真っ白な空間を。
そして、何の因果か今日の朝に晴菜に鍵を渡していたのだ。
鍵をよく調べたい、そう言ってはいたがもう一度あの場所を調べようとしたなら、近くにいたはずだ。
手がかりがなさすぎるがゆえの、なかば願望に近い推測。
さらに言えば既に別の場所に移動したかもしれない。
だから千雨もそのことは美雷に話さず四天王探しを優先した。
まずは、自分が生き残るために。
「……いざとなれば、千雨が私の魔法力を奪ってTAIGAKUさせればいいんだぜ」
「はは!! こんな時に冗談言わなくていいのよ美雷!! そんなことできるわけないでしょ!!」
「冗談じゃ……およ?」
美雷が足元に何かを見つける。
円形に平たい、赤い何かが転がってきたのだ。
これは――。
「……貝? なんか渦巻きみたいな形をしてるけど……」
「こ……これは!!」
目を輝かせる美雷に、思わず千雨は言ってしまう。
極限状態だからこそ、おふざけが必要なのだ。
「知っているの!? 美雷!?」
「これは……アンモナイトなんだぜーーーー!!」
美雷の言葉に反応するように、先から触手なような中身(?)が出てきた。
千雨が「うげえ」と声をあげる。
アンモナイト。
千雨も名前くらいは知っている。
水の中にいて、貝っぽくて……なんか絶滅したんだっけか。
読書家の風花がいれば、もっと詳細な説明を――。
ちょっと待て。
「何で絶滅した貝みたいなのがここにいるのよ。真っ赤だし」
「わからないけど……私達を応援してくれてるとか? 妖精さんみたいなんだぜ!!」
「貝が妖精って……あはは!!」
千雨は思わず笑い声をあげ、美雷がぽりぽりと頬をかいた。
確かに魔法少女に妖精の存在はつきものだ。
……貝が妖精には到底なれないが。
絶命した生き物が唐突に現れた理由はわからない。
それでもこうやって自分達に笑顔を運んでくれた。
四天王探しには関係ないが、意味はあったのだろう。
千雨が十分休まり、もうひとっ走りしようかという時だった。
「あ、もう一匹転がってきたんだぜ!! ついてるぜ!!」
「あら、縁起がいいじゃない」
「もう一匹!! 今度はイキがいいんだぜ!!」
「へえ、もういっそ私達の幸運の女神ってことにしちゃう? なーんて……」
「更に一匹!! もういっちょ一匹!! おまけに一匹!! ん……あれれ?」
「ちょ、ちょっと……」
今や美雷の足は、貝が取り囲むように押し寄せていた。
そして気づく。
外から中、下駄箱から廊下へ。
「おかしい……いくらなんでも!! 多すぎる!! 絶滅したはずの貝がこんなにいっぱい!! 農作物に群がるイナゴじゃないんだから!!」
「だぜ!!」
軋むような異音。
音の方向に目をやれば、教室から魔法少女たちが慌てふためいて飛び出していく。
生存祭のアナウンスを受けて教室に隠れていたのだろう。
そして、その後には雪崩がうつように、アンモナイトの大群がドアから溢れ出していた。
まるで時代錯誤。
しかし危機的状況。
千雨とて全く意味のわからない状況だが、何をすべきかはわかっている。
それは――。
「逃げるわよおおおおぉぉぉぉ!! 美雷ぃぃぃぃ!!」
「だぜぇぇぇぇ!!」
とにかく外だ。
開け放たれた外だ。
貝の間を縫うように下駄箱を抜け、校庭へと出る。
しかしそこに広がるのは更なる驚き。
――いわば未知との邂逅。
千雨の視線は、校庭の中心。
かつての決闘で出来たクレーターの中央に向いていた。
赤い何かが、そびえ立っていた。
首を振る仕草で、生物なのだとわかった。
しかし、でかすぎる。
校舎に肉薄するくらいの大きさの生物なのだ!!
まるで我こそが時代の頂点。
チャンピオンと主張しているかのような。
実際、あれだけ大きければ他の生き物から狙い撃ちにされるはずだ。
しかし、赤き巨大生物は尻尾を振り回して全く寄せ付けない。
校庭にいた魔法少女たちはその対処を諦め、逃げ出しているのがわかった。
「あれは……私でも知ってる……!! でもそんなことって!!」
鋭い牙、大きな顎、地面を踏みしめる大きな爪。
あれは――。
「ティラノサウルスなんだぜーーーー!!」
『ハッハッハ!! 時刻は12時50分をまわった!! ひりついた雰囲気、張りめぐらされる策謀、疑心暗鬼……生存祭も最初の山場を迎えたと言っていいだろう!! 私からもささやかなイベンドを開こうと思う……そう、四天王とのレイドバトルだ!!』
GAKUEN全体に鳴り響くその声に千雨が拳を握りしめる。
困惑や恐怖より、怒りが勝ってしまった。
『さて、魔法少女は世界を救う者……言うなれば英雄だ!! そして英雄となるには当然、倒されるモノも必要となる……。ファンタジーでいえば、洞窟にさらわれた姫の前に立ちふさがるドラゴン……。しかしそれが倒されるべき存在であれば、名前や姿など何でもいい。だからこそ、四天王には時代を代表する生き物の姿を能力とした!! そう、校庭にいる四天王の名は――』
「赤恐竜のグレンだ!! ガハハ!!」
恐竜の顔の上に、ガタイの良さそうな男の上半身が見えた。
腹筋あたりから下は、恐竜と同化している。
……どうやら下半身が変身能力の応用でまるごとティラノサウルスになってるらしい。
変な意味ではなく。
「四天王ってこんなやつばっかなの……!? まあいいわ!! 出てきてくれたのなら好都合よ!!」
倒せば1000ポイント。
……あと他の魔法少女達を助けることにもなる。
例え、いつか敵にまわる存在だとしても。
「千雨!! 私が恐竜さんと戦って弱めるから、トドメをお願いしたいんだぜ!!」
「え!? トドメをって……あ!!」
そうだ。
ただ戦って勝てばいいわけではない。
橙忍者の時は美雷に1000ポイント、紫戦車の時は桃ヶ崎晴菜に1000ポイントが入った。
どちらも四人で戦ったのにも関わらず、だ。
つまり校長ポイントは、最後に攻撃を放ったものにしか入らない。
「そんな気をつかわなくていい!! あの恐竜、かなりの魔法力を持ってる……!! 手加減なんかしたらいくら美雷でも……!!」
「行ってくるんだぜーーーー!!」
「ああああ!! 案の定、聞いてない!!」
久しぶりに見せた神速移動の軌跡をたどるように、千雨はクレータの中心へと足を走らせた。
確かに後10分以内にあの恐竜を自分が倒さななければ、
あまりに突拍子もなくて意識をしなかったことだけど。
消えるってどんな感じなんだろう。
でも、今はそんなことを考えてる場合じゃない。
さっきまで目の前にいたその子が、自分のために強敵へと突っ込んでいったのだから。
「美雷……!! いつも突っ走っていくんだから……!!」
それが自分への優しさだとわかっていても。
納得しきれない部分もある。
――もっと他者を突き放すべきだと、千雨の冷たい部分はささやいていた。
●
「四天王の恐竜さん!! これ以上の暴れるのは良くないんだぜ!!」
「ガハハ!! 君が鳴神さんか……!! さあ俺の恐竜と力比べで勝負だ!! ティラノサウルスは世界で一番強いぞ!!」
「……なんだか悪い人じゃなさそうなんだぜ? でもでも、さっき魔法少女を襲ってたんだぜ!!」
「ガハハ!! 彼女達から攻撃してきたからな!! まあ俺も校長から実は……おっと今のはナシ!! 俺は自分の意志で暴れてるから気にしなくていいぜ!!」
「じゃあ気にしないんだぜ!!」
美雷が拳に光を溜め、恐竜へと飛びかかる。
狙うは胴体部分、もっとも大きな
美雷の頭にあったこと。
それは千雨や他の魔法少女を助けたい一心。
だからだろう。
初手が遅れたのは。
「あれ……?」
美雷が失速する。
稲妻のようだった動きは、モタモタと減速していく。
「なんで……なんだぜ……?」
「ガハハ!! 悪いな鳴神さん……」
へたりこむ黄の少女に、赤い尻尾が迫った。
「これが俺とティラノサウルス、そして……アンモナイトの力だ」
●
「美雷!!」
千雨が追いついた時は、既に美雷は弾き飛ばされていた。
クッションのひとつでも作り出せればよかったが、できないから美雷に向かって飛び込んだ。
衝撃の後、校庭の緩やかな斜面を二人で揉みくちゃに滑り落ちる。
勢いが収まった後、千雨は美雷の姿を見て驚愕の表情を浮かべた。
「貝が……美雷の体に無数に纏わりついている!?」
「う……うう……」
赤い貝が美雷の手、足、ふくらはぎ……体のいたるところに引っ付いていたのだ!!
もっと早く気付くべきだった。
このアンモナイトは四天王がひとり、赤恐竜のグレンの能力。
一人一人はか弱くても、これだけ体に引っ付けば、その対処のため無意識に魔法力は分散してしまう。
アンモナイトは幸運の女神などではなかった。
体の一点に魔法力を集めることで力を爆発させる鳴神美雷にとっての天敵――。
千雨が貝に見えるそれを、わしづがみで引き剥がさんとする。
しかし中から出ている触手のような部分が美雷に引っ付いて離れない。
「クソ……離れなさいよ!! 貝ども!!」
千雨の服に汗がにじんだ。
橙忍者も紫戦車も強敵ではあった。
だが、今までの四天王とは全然実力が違う。
「これを一人でやっているなんて……!! 一体、どれだけの魔法力を持ってるの……!!」
「ガハハ!! 魔法少女!! お前たちは一体何のために戦う? 俺は……」
赤き
「俺の好きなティラノサウルスとアンモナイトのために……この世界を中生代に塗り替える!! さあ、生き残りをかけた競争だ、魔法少女!!」