魔法少女GAKUEN   作:MOPX

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開闢!! 物語をもう一度――

 

緑の雪は、なおも降り続けていた。

生存祭の喧噪も、もはや過去のこと。

 

逃げ場なしの全面攻撃。

 

最初は戸惑い、騒いでいた魔法少女達も徐々に静まっていく。

 

諦めるようにその静けさと冷たさに身を任せていく。

 

GAKUENの校舎が緑に覆われる。

 

 

世界は淡い終わりを迎えようとしていた。

 

 

 

 

「み、みらい……しっかり……して」

 

「ち……さめ……」

 

図書室の中、千雨と美雷も雪に埋もれて力尽きようとしていた。

二人はこの攻撃の実行者である淡雪風花に向かって進もうとした。

 

しかし、無駄だった。

 

風花がいるのは本棚の山の5合目付近、片や千雨と美雷は入り口付近からのスタート。

素人の人間が、ノー装備で雪山に挑もうとしたようなもの。

 

千雨と美雷が少し進んだところで、雪は肩の高さまで達した。

二人はもはや、身動きを取ることすらままならない。

 

 

『終わりだよ。随分とあっけなかったね、究極の魔法少女さん』

 

 

勝ち誇るようなニュアンスが、雪の冷たさから伝わる。

 

 

言われた側は、口を開くことすらできない。

 

 

『魔法少女であるボクは、魔法少女の弱点も知っている。もうボクは余計なことを言わず、逆転の布石も与えない』

 

 

『他の全てのものは、既に雪に覆われて機能しない。そう定義した』

 

 

『後は静かに、ひっそりと全ての動きは止まる。ボクと晴菜だけの世界が残る』

 

 

 

 

『さようなら、全ての魔法少女』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……。

 

一縷(いちる)の隙も与えない無敵の能力。

そうとしか思えなかった。

 

だから千雨の思考もまた、止まろうとしていた。

 

でも、不思議なことに体の熱が残っているのだ。

とっくに熱が完全になくなっていてもおかしくないはずなのに。

 

 

そして気づいた。

 

 

何かが、自分の手に当たっていることに。

 

それは、別の人の手だとわかった。

 

それは、自分を温めてくれているのだとわかった。

 

それは、大切な人だとわかった。

 

その人とは、ずっと一緒にいた。

 

その人には、元気をもらった。

 

その人には、大切なことをたくさん教えてもらった。

 

その人は、友達だった。

 

 

それは、鳴神美雷なのだとわかった。

 

 

「み……らい……?」

 

「魔法少女カラテ……人間湯たんぽなんだぜ……」

 

最後の力を振り絞って、鳴神美雷は千雨のそばまで歩を進めた。

そして体を限界まで密着させる。

 

少しでも、千雨の体に温もりを与えるために。

 

雪に埋まった世界。

何もなくなんて、なかった。

 

大切な人が、そこにいた。

 

 

「美雷……!! どうして……!!」

 

「頑張って……掘ったんだぜ……雪を……」

 

「そうじゃあないでしょう!!」

 

どうして、私のために。

言いたかった言葉は千雨の口からは出なかった。

 

もう、弱音を吐かないとそう決めたから。

 

 

どんなに苦境だろうが、目の前の人のために行動をする。

鳴神美雷はそういう魔法少女なのだ。

 

だったら、自分はどうする?

 

「決まっている……この状況を打開する!!」

 

淡雪風花の能力は、いわば全ての『固定化』であり、『静止』。

人の心の動きすら、冷たく閉ざす氷の世界。

 

だったら、こうだ。

 

「レイニー・バトン!!」

 

もう一度、物語を始めよう――。

 

 

『無駄だね。視界だってもう雪に埋まっているだろう?』

 

「あら? 黙っているじゃなかったの淡雪さん? このままだとマズい、そう思ったんでしょ?」

 

『……何と言おうが、キミ達に逆転の手段はない。魔法力を大量に消費しなきゃ動けない。めぼしい飛び道具はキミたちにはない。……完全に詰みだよ』

 

「今までは、ね」

 

『は? やめてよここで新技なんて。絶対しょうもないやつでしょ? ……いい加減認めなよ。雨宮さんの能力でも、鳴神さんの能力でもボクには……』

 

 

緑の雪が、はっと気づく。

言葉選びをミスった(・・・・)

 

どうして、『でも』と並列した表現を使ってしまった?

 

魔法少女だからこそ、わかる。

 

この次に繋がる返しは――。

 

 

「だったら二人の力を合わせてやるわ!! 行くわよ美雷!!」

 

 

「魔法少女カラテ……」

 

 

手を握っている美雷の鼓動は、弱い。

雪に覆われて、本来の力は出せないのだ。

 

だから千雨はその手を握った。

さっき温もりを届けてもらったから。

 

きっと届くはずだと信じて。

 

 

美雷が足に力を込めた。

 

 

「ライジング・八双飛び!!」

 

千雨の手を引いたままの大ジャンプ。

雪を突き抜けて、上へ。

 

辺りは、緑の雪で覆われた平面となっていた。

さながら緑で覆われた無の世界――。

 

「でも、私達がいる!!」

 

取り出すは三本のバトン。

一本目を横に、二本目をしなる弦に、三本目を鋭い矢に――。

 

 

即席の青いボウガンが、完成した。

 

 

「後はこれであなたを射抜く!! だいたいの位置はわかってる!! 私の造った矢を、美雷が拳で打ち出して発射する!!」

 

『ふーん、誰の拳だって?』

 

「……え?」

 

 

千雨が傍らをみやれば、美雷は息も絶え絶えだった。

その髪色は、黄が薄くなっていた。

 

 

「……美雷!!」

 

「はあ……はあ……大丈夫なんだぜ……あとは……私が押し出せば……」

 

『ボクの能力を甘く見すぎだよ。もともと雪の中にいて全く動けないって話だったでしょ? 雪から脱出する時点で鳴神さんはほとんど魔法力を使い切った。その場しのぎの思いつきに、何度も状況を打開されたらこっちがたまらないよ』

 

 

「ち……さめ……ごめんなんだぜ……」

 

「いいの、美雷。あなたは十分に頑張っている。……だから、ここから先は私が始める。あなたに引っ張ってもらってばっかりだったから。……そうよ、私達、みんなが違う想いを、違う輝きを持っている。だって――」

 

 

青い光が、瞬いた。

 

 

「私達、みんなが魔法少女(主人公)なんだから!!」

 

 

『……!!』

 

――何を言ってるの? 自分の人生、自分が主人公でしょ?

 

『違う……!! 雨宮の言ってることは晴菜とは違う!! みんなが主人公だなんて、周囲を意識した日和見の発言にすぎない!! 自分に絶対の自信を持っている人間は、そんなことを口にしない!!』

 

「違うのはあなたよ!! 自分に自信を持っているからこそ、他者を認めることができる!! あなたが全てを飲み込んで、かき消して、終わらせようとしているのは怖いからでしょ!!」

 

『怖い……!? ボクは何も怖がってなんていない!! いったい何をだってんだよ!!』

 

「決まってるでしょ!!」

 

 

そう、この物語のキーを握るのは――。

 

 

「魔法少女よ!! あなたが恐れているのは魔法少女の可能性よ!! 変わりたくないから、自分でそれを信じたくないから、最初から全部、それらがないことにしてしまいたいのよ!! 聞こえないの!? 声が!!」

 

『声……いったい何を……!!』

 

 

――っす。

 

 

――諦めんじゃないっす!!

 

 

――鳴神と雨宮は、まだ諦めてないっす!!

 

 

『これは……ナツの舎弟!?』

 

「そうよ!! 私達はGAKUEN全員の……それは言いすぎね。今まで会った人達の想いを継いでるのよ!! 黄色の魔法少女軍団……消えていった四天王達……」

 

『他は!? そんなに交友関係広くないだろキミは!?』

 

「うるさいわね!! それでもひとつひとつの出会いが私達を強くしてくれる!! ひとりひとりが私達の知らない物語を持っている!!」

 

『物語……!! キミがそれを語るな!! 物語は情報の集合だ!! そこに人間は……いないんだよ!!』

 

「??? あなたの方が何を言ってるのよ!! とにかく私は、今から全員分の想いをこの矢に込める!! まだ見ぬ物語とともに!!」

 

 

緑の雪は淡雪風花の想いの塊。

だからこそ、雪を通じて風花の『声』が聞こえたのだ。

 

ならば逆に、それぞれの魔法少女たちが雪を通じて想いを響かせればどうなるか。

 

悩むこともある、状況を悲観して諦めることもある。

けれど、そこから這い上がろうとする意志を持てば。

そこから一歩を踏み出す勇気を持てば。

 

その想いはきっと伝わる。

 

 

自分の可能性を、信じることができれば――。

 

 

「私は……自分自身を……魔法少女を信じる!!」

 

千雨が青色のボウガンに手をかける。

かじかんで、照準が上手く合わない。

 

それでも、やらなくていけないと手に力を入れれば。

覆いかぶさるように、小さな手が重なった。

 

「……千雨!! 私も……一緒に!!」

 

「美雷!! ええ、やりましょう!! あのわからず屋に魔法少女ってもんを見せつける!!」

 

他でもない、魔法少女に。

魔法少女の可能性を。

 

黄の魔法少女が必殺技の名前を聞く。

青の魔法少女が少し誇らしげに答える。

 

少女同士の他愛のないやり取りの後――。

 

弓は、引かれた。

 

 

雷雨(らいう)のグングニール!!」

 

 

青い矢が、緑の雪山と化した図書室の5合目付近へと放たれた。

緑の魔法少女、四天王の彼女が冷静にその場から離れる。

 

「この距離で当たるわけがない!! キミ達が力を使い果たした後にゆっくりと雪を降らせ続けて」青い光が爆発した「うわああああぁぁぁぁーーーー!!」

 

 

淡雪風花付近の本棚に着弾した矢は、周囲一帯を含む大爆発を起こした。

その様子を千雨と美雷は神妙に見守る。

 

これこそが淡雪風花の弱点。

無差別超範囲攻撃だからこそ、自身の周囲を守るのには向いていない。

 

青い爆発とともに、千雨と美雷は床に降り立った。

周囲を見渡せば、緑の雪はもう消えていた。

 

 

 

 

「風花ちゃん……どうしてなんだぜ」

 

「……美雷」

 

まだ魔法力も回復しきらない程の時、勝利したはずなのに魔法少女達の表情は沈痛だ。

 

それもそのはず。

彼女たちは大事な友人を失ったと思っているのだから。

 

「しょうがないわよ。淡雪さんの『好き』って気持ちは否定すべきじゃなくても、あの子は他の魔法少女みんなを否定しようとした……。あれが淡雪さんの選んだ道だったのよ……。だったら私達は、良かった部分の想いを継いで桃ヶ崎さんを助けなくちゃ」

 

「そう……なんだぜ。でも風花ちゃんともっとお話しできれば、きっと――」

 

 

――きっと、何? 自分と同じ考えに染めれただろうって?

 

 

「……!!」「この声は!? 美雷!! 気を付けて!!」

 

 

――想いを継ぐ? ボクのいないところで勝手なコトを言わないでよ。ボクはそんなこと、望んじゃいない。

 

 

「千雨……!! あそこ……!!」「あれは……!!」

 

本棚の間から、悠然と緑の影が歩み寄る。

 

「本当にやられちまうかと思ったよ……やってくれたね、鳴神さん、雨宮さん」

 

緑の仮面が怪しく光る。

 

淡雪風花――、いや四天王の一人、緑魔法少女のフウカがそこにいた。

緑の本を携えて。

 

「ボクもキミ達ももうほとんど魔法力は残っちゃいない……でもそんなこと関係ないだろう? 今からボクは、この本でキミ達を直接殴る!! それでこの物語は終わり……ゲームセットだよ!!」

 

瞳に炎を(とも)らせて。

 

 

 

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