魔法少女GAKUEN   作:MOPX

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いざ最終決戦へ!! 荒ぶる七色の妖!!

 

隠し通路の中はトンネルのようになっていた。

数メートル置きにランプが照らす中、先行するのは黄の少女と桃の少女。

青の少女と緑の少女も置いていかれまいと足を動かす。

 

千雨は先を行く美雷の背中を見詰めながら、場違いな笑みを浮かべるのだった。

 

「雨宮さん、どうしたの? 恐怖で頭がおかしくなった?」

 

「……もう少し言葉を選んでほしいわね淡雪さん。こんな風になるなんて思ってなかったってだけよ」

 

魔法少女が嫌でたまらなくて、GAKUENに来て、美雷に出会って。

今はこうして四人で一つの目的のため走っている。

 

「……最初は美雷に引っ張ってもらってばっかりだったけど、今では自分に胸を張れるようになったかな、なーんて思ったりするの。GAKUENはクソだけど、ここに来て良かったって思うの」

 

「……。ここに来て、ね」

 

「何よ、その含みのある言い方!! 私だってこういうクサイこと言ったりするんです~」

 

「……はあ、雨宮さんがこんなにぶっ飛んだ性格だったなんて……」

 

「どう考えてもこっちの台詞よね!? もっと眠そうにしてたでしょ、あなた!!」

 

風花が最近はあまり眠くならないんだ、と断言する。

それが何を意味するのか、千雨にはわからない。

 

だが、関係のないことだ。

 

「淡雪さん、……風花って呼んでいい? 呼ぶわね。風花、あなたの一途なところ嫌いじゃない。気持ち、わからなくもなかったから」

 

「……何を言ってるんだよ」

 

人を好きになるというのは、たぶん素敵なことなんだろう。

その一点で、千雨は風花に共感を感じていた。

 

バツが悪そうにそっぽを向く風花に、千雨は優しく微笑むのだった。

 

 

 

「ふん、あなたたち、最終決戦前なのに随分と余裕ね」

 

前を行く桃ヶ崎晴菜が振り返る。

せっかくだから、と千雨が晴菜と呼んでいいか聞くと少し照れくさそうに承諾するのだった。

気を取り直して、晴菜が気勢良くしゃべる。

 

「ま、最強の魔法少女であるこの私がいるのだからどーんと構えてなさい!!」

 

「晴菜、いつも通り自己評価高めで安心できるわ」

 

「い、いつも通り!? 私が最強なのは正当な評価でしょ!? というかあなたそんなこと考えてたの!?」

 

「うん、だから言っておこうと思うの。ありがとうって。……そういう人がいると場が明るくなるし、こっちも元気が出るって。最後かもしれないから……」

 

「……最後なんて不吉な言葉つかわないで。私達はあの校長を倒してこのGAKUENの平和を守る!! 何度負けたって、何度でも立ち上がる!! そうでしょ?」

 

「……うん、そうよね。でも、美雷と晴菜はいかにも魔法少女って感じだったから、その中に私が混ざるなんて……」

 

「あら、私は意外でも何でもないわよ」

 

え? と千雨が声を出す。

子供がいたずらに成功した後みたいな笑みで、晴菜は付け足すのだった。

 

「校長ポイント導入の日、マイクがどうとか説明があった時、一人ですごい考えてたでしょ? ……ううん、恥ずかしくないかないわ。それだけ物事にちゃんと向き合ってたことよ。すぐに答えを出せなくても、この子は伸びるってそう思った」

 

千雨も知らなかった。

自分をそんな風に評価している人が近くにいたなんて。

 

ふと、考える。

美雷と晴菜の決闘で千雨と一緒に相部屋できる権利をかけたのも、そういうことだったんだろうか。

 

そんなことも今は昔、関係ない。

 

「校長との最終決戦……頼りにしてるわ、晴菜!!」

 

「任せておいてよ!! 前に戦った時は一人だったけど、今度はみんながいるもの!! 最強の私にふさわしい、最強の仲間が!!」

 

 

 

こういう流れになったから、次にやることは決まっている。

千雨が足を速めてみれば、ちょうど美雷も緩やかに減速していた。

 

二人で並んで走る。

 

「美雷」

 

「千雨……? 改まってなんなんだぜ?」

 

こんな時でも興味津々といった顔。

千雨はその表情に呆れるやら、ほっとするやらだ。

 

ゆっくりとはしていられない。

トンネルの突き当りが見えてきたからだ。

 

だから、急いで話す。

 

これまでの、ありったけの感謝を込めて。

 

「美雷、ありがとう。あなたがいたから、私こんなGAKUENでも頑張れた」

 

「……それは千雨が頑張ったからなんだぜ!! 自分で悩んで自分で考えて……」

 

「それでも言わせて、ありがとうって。……あー、何か恥ずかしくなってきた。あなたも何か言いたいことないの?」

 

美雷がわずかに顔を伏せる。

心配事があるのだとわかった。

 

こんな状況だから心配なことだらけかもしれないが、一体どんなことだろうと待ってみれば――。

 

「校長先生の言ってた、究極の魔法少女って……」

 

そこまで言って美雷が口をつぐむ。

 

究極の魔法少女。

 

考えてもみれば、『究極』という言葉は美雷の口癖だ。

偶然にもあの校長が良く使うフレーズと同じだった。

 

だが、そんなことはやっぱり関係ないのだ。

 

「あの男が言っていたことなら、誰だっていいじゃない。だって究極の魔法少女ならみんなで目指せる、でしょ?」

 

「……うん。そうだぜ!! 千雨はやっぱり優しいんだぜ!!」

 

「な、何よ急に……私はそんなんじゃないってば」

 

言いながら二人で微笑む。

 

トンネルの突き当りに梯子が見えた。

あそこを上れば、最後の戦いが待っているのだろう。

 

「美雷、絶対にみんなで……」

 

「うん!! 校長先生を止めて、もとの日常に戻るんだぜ!!」

 

少し騒がしくて、めちゃくちゃで。

それでも私達の居場所。

 

今、始めよう。

戦いを終わらせるための戦いを――。

 

 

 

 

「ここは……?」

 

梯子を上った先はGAKUENの入り口。

千雨にそれがわかったのは見たことがある景色だったからだ。

 

そう、GAKUENに初めて来た日、七尾のレインボー妖狐というトンチキで巨大な像にもたれ掛かって見た風景に――。

 

「あれ……? ない、ないわ!! あの尻尾がやたらカラフルに塗ってあった像が!! 私達、もともと像があった位置の真下から出てきたんだわ!!」

 

あったはずの像がない。

では、どこにあるのか。

 

いの一番に警鐘を鳴らすのは風花だった。

 

「あのジジイは自ら魔法少女と戦うって宣言してた!! だったら導き出される結論は……!!」

 

 

『その通りだ!! 淡雪風花クン!!』

 

 

どこからともなく――いや、はっきりと校庭の上空から声が聞こえる。

 

桃、赤、橙、黄、緑、青、紫。

 

七つの彩の尾を持つ、巨大な妖狐像がそこにいた。

周囲にいた魔法少女たちは何事かと怯え切った表情でそれを見ている。

 

 

「みんなーーーー早く逃げるんだぜーーーー!!」

 

「鳴神美雷!! 最強と究極の私達二人で先行して助けに行くわよ!! あの子たち、恐怖で動けないんだわ!!」

 

「無理もないよ。生存祭とか言い出してから青い雨が降ったり緑の雪が降ったりしたんだし。……彼女たちの緊張はピークだろうね」

 

「……。キレかけたけど自分のやったことを棚上げしなかったから許してあげる」

 

 

「みんなが究極の魔法少女だから、誰だっていなくなっちゃダメなんだぜ……。ナツさんだって、そうやって私達に想いを託した……。だから私は……」

 

「ちょっと、美雷!?」

 

「行ってくるんだぜぇぇぇぇーーーー!!」

 

 

美雷がここぞとばかりに脚力を爆発させる。

校庭まで一直線に黄色の稲妻が走る。

 

だが、それは間に合うことはない。

 

 

妖狐像が、地上の魔法少女達に最後の別れを告げる。

 

「はっはっは!! 恐怖に怯み、戦うことを選びすらできない魔法少女に価値はあるだろうか!? いや、断じてない!! ただの賑やかしには消えてもらおう!!」

 

発光。

 

後に七つの尾から彩鮮やかなビームが発射される。

まるで踊るように、無数の細い線が宙を舞う。

 

幻想的でこの世のものとは思えない光景が、そのまま魔法少女達に降り注ぐ。

 

 

「やめるんだぜええええぇぇぇぇーーーー!!」

 

 

美雷の声が少女達に届くことはなかった。

 

 

 

 

「はっはっは!! 星になれなかった『モノ』たちは消えゆくのみ……。せめて生き残っている魔法少女達に訴えかけ、その感情を燃やす薪となるのだ!!」

 

「……!! 魔法少女は『モノ』なんかじゃないんだぜ!! どうして……こんな酷いことが……」

 

しゃべりながら、美雷のトーンは下がっていく。

 

呆然と校庭を眺める。

そこにはもう、魔法少女たちはいなかった。

 

あるのは何もない、(うつろ)な空間。

 

 

「鳴神クン!! キミとて安全圏にはいない!! さあ、激情のおもむくままにその想いをぶつけてくるがいい!! さあ、さあ!! さあさあさあ!!」

 

「……」

 

 

鳴神美雷は静かに涙を流していた。

七つの尾が再びエネルギーを充電し、七色に輝いた。

 

まさにビームを撃ち出されんという瞬間――。

 

妖狐像に、黄色の光が命中した。

 

「何……?」「え……?」

 

この場で対峙していたもの達が、揃って声を上げる。

戦いを遮ったその光は、美雷が放ったものではない。

 

一体誰が。

 

はっと気づいた美雷が目をやれば、校庭の隅には魔法少女の一団がいた。

黄色の魔法少女の軍団が――。

 

 

「ウチらのことを忘れてもらっちゃ困るっす!! GAKUENにいる魔法少女は……鳴神達だけじゃないっすよ!!」

 

叫びをあげた少女を中心に、霧のように黄の光が広がっていく。

その後、空中には無数の黄の光が浮かんでいた。

 

「ウチの能力は広範囲での密度操作!! そして!! 一部の密度を上げて飛ばせば……!!」

 

剣、槍、矢。

形は違えど黄色の武器が妖狐像へと飛んでいく。

鋭い無数の一閃はどれもが高い火力を持っていた。

 

だが、全ては無意味だ。

 

妖狐像の表面で波紋のように形を変え、無為に帰していく。

 

 

「……なんだね、キミ達は。今は私と鳴神クンの情緒をくすぐるクライマックスの真っ最中なのだよ……? 特に軍団を率いているキミ……トロッコのナツの舎弟。名前すら覚えてないが止めなさい」

 

「テメエに覚えてもらう名前なんてないっすよ!! ウチはナツさんの舎弟であることに誇りを持ってるっす!! だから、ナツさんの舎弟でいいっす!!」

 

「そうかそうか!! キミの中ではそういう筋書きなのだね!! 結構……実に結構……!! やさぐれて周囲に不機嫌さを撒き散らすことでしか自己主張できない不良と、傷を舐め合うがごとくシンパシーを感じた舎弟のドラマ……!!」

 

妖狐像の目が、怪しく光る。

 

 

「心底、どうでもいい」

 

 

「……!! ナツさんの舎弟さん!! 逃げるんだぜーーーー!!」

 

 

美雷が必死に走った時には、もう光は発射されていた。

 

あっさりと、無慈悲に。

 

七つの尾から放たれ、収縮し、極大のビームとなったそれは。

 

黄色の魔法少女軍団を貫いていった。

 

 

「――!!」

 

 

声にならない叫びがあたりに響く。

 

 

誰もいなくなった校庭。

美雷ががっくりと膝をつく。

 

そこにいたはずの人達も、確かにあった輝きも、言葉で表すことのできない感情も。

 

全ては一瞬で無に帰した。

 

 

「美雷!!」

 

千雨達三人も到着する。

全ては終わった後だ。

 

千雨は、うなだれる美雷に声をかけることができない。

美雷が魔法少女達に、どんな想いを持っていたのか知っているから。

 

 

「はっはっは!! これでGAKUENの残りの魔法少女は鳴神クン、雨宮クン、桃ヶ崎クン、淡雪クンの四人だけだ!! だいぶ状況が整理されたようだな!!」

 

 

「私は……」

 

「ん?」

 

声を上げたのは、他でもない美雷だった。

千雨も聞いたことのない、抑揚のない声。

 

怒っているのだと、わかった。

 

 

「私は、みんながかけがえのない光を持ってると思ってる……。違う性格で、違う人生を歩んで、違うことが好きで……」

 

「……何が言いたいのかね? 鳴神クン」

 

「それってきっと、誰も誰かの代わりにはなれないってこと……なんだぜ。今すぐに答えを出せなくても、みんなが違う、みんながキラキラした魔法少女になれたはずだった」

 

「はっはっは!! それは違う……!! 物語の主人公は一人だけだよ鳴神クン!! 主人公は一人だけで十分なんだ……!! そう――」

 

「十分なんかじゃないんだぜ!! みんなが違う物語を持っている……!! つまり――」

 

 

「究極の魔法少女は、ひとりだけだ!!」

「みんなが究極の魔法少女なんだぜ!!」

 

 

美雷が一歩を踏み出す。

たとえ独りでも、戦い続けるといわんばかりに。

 

 

「ふん、さすが口だけは達者よね。……ま、私も同じ想いだけど」

 

「……晴菜ちゃん!!」

 

桃ヶ崎晴菜が、自信満々な笑みを浮かべる。

 

 

「晴菜が行くならボクだって。……好きなようにやらせてもらうよ、あいつを倒すために」

 

「風花ちゃん!!」

 

淡雪風花が淀みない動きで緑の本を取り出す。

 

 

「……この流れ、私も何か言わないといけないヤツかしら?」

 

「千雨!!」

 

「そんなに嬉しそうにしないでよ。……みんなが究極の魔法少女なんでしょ? だったら私だってそうよ。あいつを倒して、それを証明しましょう」

 

雨宮千雨が、美雷の横に並ぶ。

 

 

今、四つの光を持つ魔法少女が揃った――。

 

「行くぜ……みんな……!!」

 

鳴神美雷が雷のような号令を発する。

 

 

「これで……GAKUENの戦いを終わらせるんだぜ!!」

 

 

 

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