千雨の頭にはこれまでのGAKUENでの出来事が浮かんでいた。
美雷とナツとの決闘。
美雷と晴菜との決闘。
校長の配下の忍者、戦車、恐竜との戦い。
魔法少女であり、友である風花との戦い。
思えば戦ってばかりだった。
それでもやってこれたのは、いつだって大切な人が隣にいたからだ。
……まあ、今まさに隣にいる子なんだけど。
「……千雨? どうしたんだぜ?」
「ううん、何でもない。これが最後の戦いなのかもって思うとちょっと感慨ってのが湧いてきただけ」
「……うん、私も。だからこれで戦いは終わりで、みんな元に戻してもらうんだぜ!!」
「日常に帰るために、ね」
二人で微笑み合う。
そうだ、魔法少女の『戦い』は『日常』に帰るためのものなのだ。
いつだって『敵』には何か事情があった。
美雷はその想いを否定するんじゃなくて、全力で受け止めていった。
何も持たない
……傍から見れば無謀とも言える行為だったかもしれない。
でも、そんな美雷だったからこそ、千雨はたくさんのことを美雷から学んだ。
「美雷、この戦い……必ず終わらせましょう!!」
「……!! うん……!!」
「はっはっは!! 戦闘前の互いの想いの確認……。魔法少女たるもの意思疎通は大切だからな!!」
全てを遮る音がGAKUENに響き渡る。
もう既に魔法少女は四人しか残っていないその空間で。
「さあ、卒業式の始まりだ!! キミ達の中で究極の魔法少女として卒業できるのは果たして一体誰か……ははは、あーはっはっは!!」
既に、発射されていた。
レインボー妖狐像の七つの尾から、七つの白い光が。
魔法少女を消していった光が。
千雨は漠然と思った。
――こいつだけは絶対に許さない、と。
●
「ボクが何とかする!!」
「風花!?」
千雨たちの前方に淡雪風花が飛び込む。
同時に緑の本から破かれたページが宙を舞った。
空中で固定化されたそれらは、即席のバリアーとなり白いホーミング弾を防いでいく。
「はっはっは!! 淡雪風花クン!! 私の与えたイカした仮面はどうした!? キミの適性は魔法少女より、四天王なのだよ風花クン!!」
「それがどうしたって言うんだよ……!! ボクは今、ここにいたいからここにいる!! 本当の意味で晴菜のために戦うって決めたんだ!!」
「ふ、風花!! 止めなさい!!」
晴菜から懇願するような声。
続いて千雨と美雷からも同じ意図の発言が続いた。
緑のドーム状バリアは、白い光に晒されてヒビが入り始めていた。
もう、長くはもたない。
そして緑の魔法力が尽きた時にどうなるか、魔法少女であるならばわかっていた。
「この攻撃を防ぎきるのはボクじゃないとダメなんだ……!! 四方八方からの攻撃を自己強化で防ぐのは効率が悪すぎる!! キミ達は魔法力を温存してあの男を倒すんだよ!!」
緑のドームの中で、少女が誰に対してでもなく、言う。
「……物語を……いや、自分を否定することしかできなかったボクが、やっと何かを見つけられた気がするんだ。……みんなのおかげで」
白い光はそんな事情もお構いなし。
暴力的なノックを緑の光になおも続けていた。
「はっはっは!! 出力アップだ!! さあさあ魔法少女!! 秘められた力だとか、思い出エピソードの披露!! キミ達の校長は何でも受け止める覚悟だぞ!! あは、あは、あは、あーっはっはっは!!」
バリアに無数の亀裂が入った。
晴菜が叫ぶ。
風花に向かって。
「風花!! クソ!! こんな光、私の超最強フォームで撃ち返せば……!!」
「晴菜……」
緑の魔法少女が、そっと微笑んだ。
「ありがとう。……ボクはそんな晴菜が大好きだよ」
「……!!」
「うおおおぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉーーーー!!」
緑のドームが、際限なく広がっていく。
いつぞやの雪と同じくGAKUENを覆いつくす。
しかし今度は物語を終わらせるためではない。
魔法少女を守り、物語を続けるために――。
「うううう!! うおおおぉぉぉぉ!! うおおおおおおおぉぉぉーーーー!!」
少女が喉が引きちぎれんばかりに叫ぶ。
やがて限界を迎えんといった瞬間に――。
緑のバリアーは、バラバラに砕けていった。
●
「はっはっは!! まずは淡雪風花クンが脱落か!! 彼女は内向的な面があり、また思い込みが激しく周りが見えなくなる性質があった!! その魔法力の強さは『最強』とも言えたが……究極の魔法少女は人格も兼ね備えてなければいけない!!」
「許さない……」
「ん? 今、発言したのは誰かね? 友である魔法少女が消えた瞬間、怒りを露わにする魔法少女は!!」
「わからないなら教えてあげる!! 今まで風花とずっと一緒にいた!! ちょっととぼけたところもあったけど、世話を焼くことも多かったけど!! でも……ずっと隣にいて、いて当たり前の存在だった!!」
誰のものともわからぬ声が、GAKUENにこだまする。
それはきっと魔法少女の魂そのものだった。
「わかっていた!! あの子が私のことを好きだって!! でも、想いを受け止めるのが怖くて……それで目をそらしていたのよ!! いなくなってからこんなに後悔するなんて、本当に馬鹿よ、私は!! だから、もう迷わない!! あんたをぶっ倒す!! TAIGAKUが、何をどうやってんのか知らないけど、風花も元に戻させる!!」
「んんー? 最近、耳が遠くなってきてね……。小さな子供の声が、みんな同じに聞こえるのだよ……。さあ、魔法少女らしく気勢良く名乗りを上げたまえ!!」
「わからないなら教えてあげる……」
桃の光が空中を旋回。
そのまま極大の光を取り込み、自身の肌へと収束させる。
瞳に少しの雫を垂らして。
「私はこのGAKUEN最強の魔法少女!! 桃ヶ崎晴菜よ!!」
千雨と美雷の叫びはむなしく、既に晴菜は妖狐象の10メートルの地点まで迫っていた。
感情に身を任せてか、強大な敵に一人で立ち向かわんとしているのだ。
「はっはっは!! 『真の最強』の次は『ただの最強』か!! 結果が見えてしまっているな!!」
「黙りなさい!! 私が最強ったら最強なのよ!! 風花がくれたチャンス……絶対に無駄にはしない!! あんたのそのトンチキな像の力も、さっきでかなり消耗したはず!! もうビームは撃てない!!」
「ならば直接飛ばそう」
七つの尾が像から分離して空中を飛び回る。
魔法少女を翻弄するように、その周囲を縦横無尽に。
晴菜が周囲に気を払うも、動きはかろうじて追える程度だ。
男が余裕たっぷりに、言う。
「その尻尾は疑似魔法力……まあ私の力の根源だと思ってくれればいい。とにかくその塊なのだよ!! 今までGAKUEN中に私の声を響かせていたのもこの力だ。これの意味するところがわかるかな。桃ヶ崎クン?」
「全然わからないし、興味もないわ!!」
晴菜の答えに校長は笑いをこらえきれなくなるという様子だ。
その間も七つの尻尾は晴菜の周囲を飛び回っている。
「その尻尾ひとつひとつが、並みの魔法少女100人分の力を持っている!! キミには勝てないということだよ!!」
「100人……? なーんだ、驚かせないでよ」
晴菜の体を纏っている桃の光が、一層の輝きを放った。
「魔法少女の力は無限大!! 数字なんかにした時点であんたの負けよ!!」
紫の尾が桃の魔法少女へ迫る。
少女は全身にしっかりと纏った変身フォームで迎え撃つ。
ぶつかり合う拳と尻尾。
結果は――。
「ぐ……!?」
「はっはっは!! どうしたのかね桃ヶ崎クン!! たかだが尻尾一本に押され、空中で態勢を崩しているぞ!!」
それでも桃色の全力閃光で紫の尾を撃ち落とす。
間髪入れず飛び込んでくるのは橙の尾だ。
橙忍者の姿が頭によぎる。
自身が敗北し、プールで浮かんでいたことも――。
「きゃああああぁぁぁぁ!?」
その隙が命取りになった。
橙の尾がぶつかった衝撃で、桃の魔法少女は地に落ちた。
なおも橙の尾が、覆いかぶさる。
続いて赤の尾、緑の尾、黄の尾、青の尾。
最後に桃の尾が墓標のように尾の頂点に突き刺さる。
「晴菜!!」「晴菜ちゃん!!」
千雨と美雷が追いついた時には既に手遅れだった。
桃の魔法少女、桃ヶ崎晴菜はまたしてもあっけなく敗北し――。
「まだ……負けてない……!!」
六つの尾の中で、全く身動きの取れない状態に「私は、まだ負けていない!!」
「桃ヶ崎クン、キミが負けず嫌いなのは、よく知っているよ。そう、『よく』ね……。だが、自己中心的なその想いだけでは魔法少女は完成しない!! キミもまた、究極の魔法少女ではないのだ!!」
「知ったことか!! 私は最強の魔法少女!! たとえ倒れても、何度でも立ち上がる!! それでいいんだって、教えてくれた連中がいる!!」
六つの尾の隙間から桃色の光が溢れ出す。
何をしようとしているのか、千雨にも美雷にもわかった。
止めようとした声よりも早く、晴菜の意志が伝わってくる。
「ふん……この最強の私が道を切り開いてあげるんだから精々感謝するのね……」
「ま、あんたらが校長を倒して日常を取り戻すのを……どこかで祈ってるわ」
「くらえ!! 超最強究極必殺技!!」
「フルバースト・アルティメット・ディバイン・エクストリーム・超最強・エクスプロージョン!!」
GAKUENの校庭で桃色の恒星が大爆発を巻き起こす。
その予兆を察知していた青の少女は黄の少女に覆いかぶさるように身を伏せる。
桃色の爆風が、二人の頭上を流れていく。
まるで春の心地よい陽気。
力強くも優しいそれは、少女たちを包み込むようだった。
風が収まった後に二人が顔を上げれば、妖狐像の尻尾は完全に消滅していた。
晴菜の姿もまた、見当たらない。
「そんな……晴菜ちゃんまで……」
「爆発の範囲を絞って尻尾だけを消滅させたのね……私達のために……」
自己を中心とした能力。
それは桃ヶ崎晴菜の在り方を示していた。
だが、そこにあったのは攻撃的な性質だけではなかったはずなのだ。
「はっはっは!! さあ、残る魔法少女はあと二人!! 雨宮千雨クンと鳴神美雷クン!! さあ、どっちだ!! 究極の魔法少女は果たしてどっちだ!? くくく……はっはっはっは!!」
「……!! 校長先生、本当にそのためだけに、みんなを……!! お願いだからもう止めて……」
言おうとした美雷の前に、千雨が一歩を踏み出す。
今、青の魔法少女が黄の少女の先に――。
「美雷、私はあなたが優しい子だって知ってる。相手の意見も尊重するって知ってる。……でも世の中、それだけじゃダメなのよ!! どんなに歩み寄っても、絶対に分かり合えない人間は存在するのよ!!」
だから自分が前に出る。
美雷にそのままの鳴神美雷でいてほしいから。
誰かを否定するためじゃなくて、守るため。
それだけは見失わないように。
「千雨……。うん、わかった……んだぜ」
「くくく……最後の最後で『すれ違い』かな? 『すれ違い』はいいぞお……そのくらいの危うさがあってこそ物語は成り立つ……!! だが、こんな土壇場で大丈夫かね!? ふふふ、ははは……!!」
尾のない妖狐像が少女達を目掛けて突っ込む。
青の瞳と黄の瞳。
視線が合い、頷く。
あの時できなかったことを今――。