●
――――な。
―――るな。
「ん……」
「晴菜!! 良かった……目を覚ましたんだね!!」
「あれ……? 風花……? 私、尻尾に囲まれて思いっきり自爆をして……それから?」
「何があったかは知らないけど、とにかく無事だったんだよ!! ボクも最後の力を使い切ったつもりだったけど……晴菜がどうなったか知るまでは消えれね~って思ったからかな!!」
「そうなの。私も自分が最強なんだから消えるわけない!! って思ったからかしら?」
「……。想いが形になる世界。晴菜、このGAKUENに来る前のことって覚えてる?」
「……? 何よ急に。そんなの……たぶん普通の家庭に生まれて、GAKUENにやってきた。そんな感じでしょ?」
「じゃあ、外の世界がどうなっているかは?」
「モンスターがいっぱいいて……それぐらいのことしか知らないわね。ねえ、本当にどうしたのよ。らしくないわよ」
「……ボクはたくさん本を読んでるから知っている。世の中には人間一人じゃ抱え込めないくらい、いろんな考えや世の中の仕組みがあるって」
「……?」
「そして知っている。世界は創造主たる人間の考えたこと以上のことは起こらないって」
「いったい何を……?」
「晴菜、落ち着いて聞いて。きっとこの世界は――」
遠くでヒビが入った。
地面が、空が。
ガラスみたいに砕けていく。
「……!!」「……何、あれ」
少女が二人、遠くを眺める。
どんどん範囲は狭まって、GAKUENの敷地内も崩れ出す。
「ああ、もう!! 次から次へと!! 風花!! 逃げるわよ!! どこに行けばいいのかわからないけど!!」
「……たぶん、どこにも行く必要はないよ」
「え?」
「終わろうとしているんだ。物語が……」
誰かの書いた、筋書きが。
●
真っ白な部屋のディスプレイに白髪の老人が大写しにされる。
その様子を千雨と美雷はじっと見つめる。
ベッドの上のその男性は体のいたるところに管を付け、微動だにしない。
『さあ、どこから始めようか……』
『私がこのGAKUENを造った時のことからだろうか……』
『いや、まずは自己紹介からだろう……』
『私の名前は
「妖精……? こんな死にかけのおじいちゃんが……?」「……」
『そう、あれは西暦2023年のことだった……。私は当時、GAKUENの前身となる組織でオペレーターをしていた。組織は多数の魔法少女を集め、モンスターに対抗するため各地で戦いを繰り広げていた』
「ちょっと待って? 西暦2023年……? それって……」
千雨が、思わず叫ぶ。
「今年のことじゃない!? 1年以上GAKUENにいた魔法少女もいたはずでしょ? 計算が合わないわ!!」
「千雨……」
「どうしたのよ? 美雷?」
「今年は……2099年なんだぜ」
「美雷……? 何を……言ってるの?」
「……」
『はっはっは!! そうか、鳴神クンは目覚めつつあるか……!! 事情はもう少し聞いてもらえればわかる。そう、2023年だ。私が敬愛する司令の元で業務をこなしていたのは……。私は彼を尊敬していた。確かな知識に裏打ちされた戦略、不測の事態に対応する類稀なる状況判断能力、そして部下への思いやり……。最初、組織によるモンスター防衛は順調に進んだ。だが、少しずつ変化があったのだ……』
『防衛をしていた魔法少女達が、モンスター達に押され始めたのだ。戦況は悪化の一途をたどった。我が敬愛する司令殿も、倒れゆく魔法少女達の姿に心を痛め、心労の末、倒れてしまった。壮絶な笑い声をあげながらね。そして、倒れる直前に、言い残したのだ』
「言い残した……? 何を……? いったい何をよ!?」
『究極の魔法少女には究極の日常が必要……そう思わないかね?』
『……とね』
「それって……つまり……」
この台詞は校長――
別の人間が言っていたことを、いわば引用していた――。
『司令が倒られてから、私はこの言葉の意味をずっと考えた……。そして思い至ったのだ。どうして魔法少女達が、覚醒したころに比べ、弱くなっていったのかを!!』
ディスプレイの老人が目を見開いた。
深い黒を
『日常だ!! 日常の不足だ!! 魔法少女達の力は日常の生活を守りたいという想いから生じていたのだ!! だが、世界は目先の安全を求め、みながしょうがないことだと納得をし、魔法少女は更に戦うための存在とみなされた……!! 人々は罵り合い、モンスターがいつ出現するかもわからぬ不安に苛まれ、魔法少女は戦うことを義務付けられた……!! 魔法少女達の守るべき日常は、もはや世界のどこにもなかったのだ!!』
『さて、そこで私は考えた……考えたよ。日常がなくなり魔法少女が弱くなってしまった……じゃあどうすればいい? 決まっている!!』
『造ればいいのだ!! 魔法少女が絆を紡ぎ、切磋琢磨し、敵に勝利する快感を身に付ける!! ただの日常ではない!! 魔法少女の力が想いに依るのなら、その想いを効率よく育むことができる時間を!! 戦いのために最適化された、無駄のない圧縮された日常……!! それこそが……!!』
『究極の日常なのだ!!』
「何を……何を言ってるのよ!! そんなの結局、魔法少女を無理やり戦わせてたのと同じじゃない!! 私達は戦いのために日常を送ってるわけじゃない!!」
「千雨……」
『話を続けよう。私は魔法力が空間に存在する未知粒子……当時の話だかね、それに作用することに目を付けた。魔法少女達はそれを無意識的に操ることで力を行使している……。ならば、その動きをシミュレートすることができれば? 魔法少女の変身が自己を中心に広がることはキミたちも知っておろう? ならばその範囲をずっと、ずぅっと広げていけばどうなる? 例えば、そう……学校の敷地ほど、ね』
『そう!! 日常を送るための、学校ができる!! 私は組織に尽力し、この考えを実行する権限を握った!! なあに、もともとが優秀でね。腰抜けのキャリアどもを押し退けて抜擢されたのだ。そして、私は進めた……戦いを終わらせるべく、究極の魔法少女を作り出す計画を』
『GAKUENは略さずに言えばGenius Adapter Knowledge Ultimate Emotional Network……つまりは魔法少女究極日常学習システムだ。これこそが魔法少女を育てるシステムであり私の疑似魔法力により生まれた空間!! キミ達の魔法力をそこに取り込み、いわば夢の中で楽しい学校生活を送ってもらったというわけだ!!』
「楽しい……? 冗談はよしてよ!! 私達はあんたのせいで恐怖におびえてたのよ!! そうでしょ、美雷!?」
「……」
「美雷……? どうしたのよ……? ねえ、あの男を否定してよ……!!」
『雨宮クン、キミの鬱屈とした感情は戦いの中で晴れていった。それは魔法少女に必要だったことは戦いだったということの証明にならんかね?』
『そんな呆けた顔をしても無駄だ。話を続けよう』
『GAKUENでの魔法少女の育成……表向きは防衛のための戦力確保は滞りなく進んだ。だが、私の目的はそんなことではなかった!! 一人だ!! 必要なのはたった一人、モンスターとの戦いを終わらせる究極の魔法少女だ!! 他の全ての魔法少女はその礎に過ぎない……!!』
『長年のシミュレートの末、機が熟したと見た私は、いよいよ究極の魔法少女を生み出す時だと感じた!! そのために四天王……淡雪クンだけは例外だがね、彼らに頼んで魔法少女に倒される敵を演じてもらったわけだ。魔法力は個人差がありつつ誰しもが持っているが、大人になると実用に足る強さではなくなる……。彼らは組織の中の人間では魔法力が比較的高く、このGAKUEN内においては魔法力を
『さあ、一人だ。必要なのは究極の魔法少女、たった一人だ。GAKUENの夢の世界で主人公を演じ、成長し、世界を救うのは……!!』
「まさか……それって……!?」「……」
「美雷……? あなたなの……? だからさっきから静かだったの!? みんなで究極の魔法少女になりたかったのに、自分があの男に選ばれた存在だったから……!! それで負い目を……」
「それは……」
『ふふ……ははは……はっはっはっはっは!!』
ディスプレイが、無数に増えて千雨と美雷を取り囲む。
笑い声が部屋中にこだまする中、全ての男が一点を向いた。
雨宮千雨の方を。
『究極の魔法少女はキミだよ。雨宮千雨クン』
「え……?」
「うそよ」
『本当だとも。キミにはどこからの記憶がある? 電車に乗ってGAKUENに登校するところから……そうだろう? 私がそう設定した』
「うそよ、うそよ!!」
『ははは、照れずともよい。さあ、究極の魔法少女にふさわしい学校生活……何が必要だと思う? そう……学校生活と言えば――』
『授業だ』
『授業のためには、先生が必要だ』
『だが、待ってほしい。魔法少女は大人の言うことを聞くものだろうか……? 子供たちだけのハラハラした日常……それこそが魔法少女の肝ではないのかね? だから私は考えた』
『魔法少女の先生となるのは、魔法少女だ』
「うそよ、うそようそようそよ!! 美雷!! お願いだから否定して!! そうじゃないって!! 魔法少女は……そんな造られたモノじゃないって!!」
「……」
『そう、究極の魔法少女である雨宮千雨の先生として、私は一人の魔法少女を配置した』
『鳴神美雷だ』
『純真無垢な彼女は、魔法少女のなんたるかを教えるのに都合がよかった』
『何も持たぬ、
「うそばっかり抜かしてんじゃねぇぇぇぇーーーー!! 私のことはどうでもいい!! 美雷を……美雷をそんな風に言うんじゃねーーーー!!」
「千雨……」
美雷が千雨を握る手が、少し弱くなった。
力なく、うなだれるように。
「もう……いいんだぜ。千雨は優しいから……。私のために怒ってくれなくても……いいんだぜ」
「何で……何でこんな時に笑っているのよ!! あなたは!!」
『ふうむ、最後の最後に仲たがい……。だが、それもまた魔法少女!! さあ、今から千雨クンが戦う敵……モンスターはこれだ!!』
一際大きなディスプレイが、世界地図を映し出す。
三大海洋の中で最も大きなものの大部分が黒く染まった
別視点のカメラが、真っ黒な大地を映し出す。
『この全てが一匹のモンスターだ。分裂、合体をする奴らは本体を倒せば、その分体も消滅していく……。そして!! 我々は世界中のモンスターの親玉とも言うべき、その存在を発見したのだ!! あの黒い陸地に埋まるコアを!! 周期的に動くそれは、この
『だが!! 生存本能の塊とも言えるあの憎きモンスターどもが、大人しくやられるのを待っていようか!? 必要なのは面制圧……雨宮クン、キミの力というわけだな。キミの
『雨宮千雨クン!! キミの
「ふざけ……ないでよ!! 何で私がそんなことをしないといけないの!? そういう義務がイヤだから魔法少女が嫌いだったのに!! 美雷、あなたもこの男に言いたいこと、たくさんあるでしょ!? 言ってよ、お願いだから!!」
「……校長先生。TAIGAKUになったみんなは無事なんだぜ……?」
『そんなことを気にするか。彼女らは
「……!! そ、そんな……!!」
「あんたは本物のクズよ。校長……!!」
『はっはっは!! 何とでも言うがいい!! 私は人類を……魔法少女達のことを想って心を鬼にしたのだ!!』
『さあ!! 雨宮クン!! この老人をどうする!? この世界の私の生命維持装置を破壊してみるかね!? ショックで外の世界の私の肉体にも影響が及ぶかもなあ!! だがそれもまた良し!!』
『世界を救う魔法少女の人生の経歴に!! その記憶に!! この
『さあ、どうする魔法少女!! さあ、さあ!! さあさあさあ!!』
「黙りなさい」
『何……? よしわかった!! その意図を』「黙れと言っているのよ」
『はっはっは!! 究極の魔法少女は不機嫌と』「何を言ってもあなたの言葉なんて響かない。偉そうに、仰々しく、長々と。正にダメな感じの校長先生のお話って感じ」
『はっは』「その笑い方もやめて。不愉快よ。あんたは人の上に立つ器なんかじゃない。自分に歯向かえない存在を利用して、好き勝手やっていただけよ。それで何かをした気分になって自分に酔う……最悪よ」
『私』「私が大切なことを教えてもらったのは、ここにいる美雷からよ!! あなたなんかじゃない!! それを"自分が育てました"なんて顔されてもマジ迷惑なんだけど!?」
『……』
『少しは私にしゃべらせろ、クソガキ……!!』
「ち、千雨……もう、もういいんだぜ……私のために……」
「それ、昔の私の口癖ね。……これは私がやらないといけないことなの。こいつに選ばれた私が、こいつを否定する!!」
『私がやったことを間違いだと言うのかね!! 全世界のために、魔法少女の可能性を信じた私の行いを!!』
「笑わせないで!! あなたは魔法少女を信じてなんかいない!! だからこそ全てを自分の意のままに操ろうとしたのよ!! あんたが信じていたのは自分だけ……いや、今までずっと本当の姿を隠して、道化を演じていたあなたは自分自身すら信じれてないのよ!!」
「GAKUENの連中、みんな変なやつだったけど自分なりに考えて、自分の正しいと思うことをやっていた!! あんただけよ!! このGAKUENであんただけは何も信じることができていなかったのよ!!」
「ここがあんたの造った世界? はっ!! そんなもんでしょうね!! あの時見た図書室地下の真っ白な空間……作りかけだったんだろうけど、あの何もない空間はあんたそのものよ!!」
「ゲロ吐いて正解だったわ!! あんたの造った世界には、今でも私のゲロが漂っているのよ!! ざまあみなさいっての!!」
『う……あ……』
「わかったら……」
「黙ってろクソジジイーーーー!!」
『うああああぁぁぁぁアアアアァァァァーーーー!!』
GAKUENに設置されていた
その全てが反響し合い、ハウリングを起こす。
同時に、中空に浮かんでいたディスプレイが消えていく。
ベッドの上の老人は微動だにしない。
空間が、割れていく。
目に見える物が形を崩し、後には白い空間になっていく。
終わりを迎えようとしてるのだ。
GAKUEN――それを造った人間の妄執が。
「美雷!! 手を離さないで!!」
自分達がどうなるのかわからないけど。
きっとお互いを見失わなければ――
手が離れた。
「美雷……?」
「……千雨は世界を救う究極の魔法少女なんだから、私なんかが一緒にいたら……ダメなんだぜ」
「何を言っているの……? あなた……みんなで究極の魔法少女にって……」
「私には……」
千雨は美雷が涙を流すものだと思った。
私達は、人形なんかじゃない。
張り付いたような笑みを浮かべ続ける存在じゃない。
痛みを感じて、泣くことができる。
でも、美雷は笑っていた。
「私が究極の魔法少女なんて……最初から無理だった……んだぜ……」
何でこんな時に笑っているのよ、あなたは。
私は絶対に認めない。
私は――。
これが私が見たGAKUENの最後の記憶。
魔法少女のGAKUENは、これで終わったのだ。
そして始まる。
ほんのちょっとの、魔法少女の物語が。