「やれやれ……ここまで盛り上がったら、私達も腹をくくるしかないわね……!! 美雷!! わかってるわよね!!」
「ナツさん……みんな……無事でよかった。……」
「美雷……? どうしたのよ?」
「やっぱり、
「美雷……あなたまだ……」
漆黒の鞭がしなるように生えてきた。
無残にも会話をかき消す暴力。
私達の反応がわずかに遅れるが――。
「はあああぁぁぁぁ!!」
桃色の閃光が、漆黒の触手を破壊する。
「晴菜……!!」「晴菜ちゃん……!!」
「何をぼーっとしてるのよ!! 行きなさい!!」
桃色の瞳の先には、黒い球体が付いた触手が黒い大地を滑るように移動していた。
このまま、逃げられたら今度こそこのコアはどこか姿を消すだろう。
そうなれば、世界は終わりを迎える。
「でも……晴菜ちゃんが!!」
「花をもたせてあげるって言ってるのよ!! 鳴神美雷!!」
「でも……!! 私も……千雨も……みんなボロボロで……これ以上は……」
私は弱音を吐く美雷に面と向かう。
美雷が何を考えているのか、完全にはわからない。
だって、違う人間だから。
それでも想いは届くと信じて、言う。
「美雷……魔法力を限界まで圧縮したあなたの拳なら……きっとあのコアを割れる。触手は私が全部引き受けるから、あなたはまっすぐコアへと向かって!!」
「そんなの千雨が危ない!! ……んだぜ!! それに、私があいつを倒せなかったらみんなが……!!」
「信じてる」
「……!!」
「あなたが私を信じてくれたんだから、今度は私があなたを信じる!! だから……あなたも自分を信じて!!」
「私が……自分を……」
空中では、晴菜が戦い続けている。
旋回しながら、叫ぶ。
「鳴神美雷!! あんた究極の魔法少女なんでしょ!? それが何なのか、私はまだ答えを聞かせてもらってない!!」
閃光が、敵を穿つ。
「行きなさい!! あんた達二人で、答えを出すのよ!!」
「……晴菜ちゃん!!」
黒い触手が、晴菜を叩き落した。
駆け寄ろうとする美雷を私は止めた。
晴菜だったら、絶対に立ち上がると思ったから。
「そうよ!! 私は最強で究極の魔法少女!! これくらいで倒れたりしない!!」
なおも四方八方から迫る触手の大群。
「これが!! 私からあんた達への祝福の光……!! 私が信じる私自身の、超最強必殺技……!!」
「桃ヶ崎ビィィィィーーーーム!!」
桃色の光が触手を薙ぎ払う。
それを見届けて、千雨は美雷の手を引いた。
晴菜の頑張りを無駄にはできない。
「千雨……お願いがあるんだぜ……」
「何? 今更……!!」
「今から私は……千雨にすごい危ないことをやってもらう……だから、約束してほしいんだぜ……。この戦いが終わったら、絶対にみんなのところに生きて帰るって」
「ええ、わかってる。魔法少女の戦いは日常に帰るため……。これもあなたが教えてくれたことでしょ?」
「……うん!!」
美雷が拳に力を込める。
髪と瞳が、その色を失っていく。
まるで、ただの少女のような風貌になる。
私が、もう一度青い光を纏い直す。
……青いドレスはどうも私にとって呪いだったらしい。
これ目掛けて、触手が突っ込んできてたもん。
だったら、それを利用する。
敵を引きつけて、美雷の道を創り出す。
触手が次々に襲い来る。
青いドレスが解れ、千切れ、破れていく。
それでも青い棒を、ただの棒を振るい続ける。
だって、もう答えは出ているから。
「私にとっての究極の魔法少女は――」
ぶん投げた棒が、コアの付いた触手を切り飛ばす。
「友達を信じること!!」
防衛機構なのか、大地の至るところから水道管が破裂したみたいに黒い霧が噴きだす。
少女が、走る。
手にわずかな黄色の光を携えた、ただの少女が。
少女に黒いモノが迫る。
何の抵抗する力も持たない、ただの少女に。
「うおおおおぉぉぉぉーーーー!!」
私が、突っ込む。
身を呈して、守る。
美雷のことを。
大切な、友達のことを。
「いっけえええええぇぇぇぇーーーー!! みらいぃぃぃぃーーーー!!」
目に映る。
必死に走る美雷の背中が。
まだ、敵は
聞こえるはずのない声が、聞こえる。
「やっとわかった……私にとっての究極の魔法少女は……」
「友達の想いに応えること!!」
少女が、黒いモノを飛び上がって避ける。
避けきれずに、地面を勢いよく転げる。
それでも、立ち上がって必死に走る。
想いを力にして。
呪いを祝福に変えて。
日常に帰るために。
少女が物語を成すために。
一歩。
また一歩。
その拳が届く距離まで。
「これが、最後の魔法少女カラテ……」
魔法をまとった少女の拳が。
「魔法少女パンチ!!」
黒い球体を殴りつけた。
本当に、ただの一瞬。
ほんの小さな、拳の接触。
だが、時間的にも空間的にも極限まで圧縮されたその一撃は――。
黒い球体を、叩き割った。
「やった……!!」
地面に転がりながら、私は叫ぶ。
本当は、喜びのたうちまわりたいが、そうもいかない。
体が限界で、倒れたまま動けないのだ。
大地が揺れる。
触手が消える。
「ぐ……ここってもともと海なのよね……!! でも、必ず私達はみんなのところへ帰る!! そうでしょ!! 美雷!!」
「……」
「……美雷?」
遠くに見える美雷の背中は動かない。
やがて、少女は振り返る。
笑みを浮かべたまま、手を振って。
待ってよ。
ちょっと待ってよ。
それじゃあ、まるで――。
「……美雷!!」
動かないはずの体を必死に動かして、私は美雷の方へと進む。
手を伸ばそうとしたところで、大地が裂けた。
体が闇へと落ちていく。
何かを叫ぼうとしたが、声が出ない。
美雷の姿が見えなくなる。
そのまま、私の意識は奈落へと落ちていった。