魔法少女GAKUEN   作:MOPX

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揺り籠の中で

 

晴天の下で電車は走る。

 

いつまでも、どこまでも。

 

グングンとスピードを上げて。

 

 

無機質で不確かな揺れは、私の意識を覚醒させた。

私はじっと、窓の外を見ていた。

 

見えているのは、海と空――。

 

いや、何もない。

 

海は水の集合で、空が青いのは……色で光の屈折率が違うからだったか。

でも、そういう話をしているんじゃない。

 

この広い宇宙にぽっかりと浮かぶ星で起こっている単なる現象。

人間がいなくなった後も続くであろう営み。

 

そして、最後には星すらも消えていく。

 

だとしたら、いったい何の意味があるんだろう。

 

 

怖かった。

 

 

何もない暗闇が。

無限とも思える広がりを見せる宇宙が。

光すら全く届かない空間が。

 

 

だから、何かあるって信じたかった。

()に目を覚ました時もそうだった。

周りにはキラキラしたものが満ちているって、光に満ちているって思いたかった。

 

自分のカラっぽさを、ごまかすために。

 

私は手にしていた紙をしっかりと握りしめた。

頑張って何度も読み込んだ。

わからない言葉が多かったから、書き込んでしっかりと覚えた。

 

『魔法少女』にはきっと意味があるんだって。

 

目に見えた人たち、みんなに意味はあるんだって。

 

 

でも、気づいてしまった。

 

 

世界がどんなにキラキラしていたって自分はからっぽのままなんだって。

 

 

だからそんな自分は、このまま『みんな』のために消えてしまおう。

 

 

『みんな』は自分以外の存在だ。

 

 

……こんな自分でも、最後には何かを見つけることができた。

きっとそれだけで、身に余るくらいの幸せだったんだ。

 

もう自分の名前すら、思い出せない。

 

からっぽの存在が、からっぽの世界を眺めているだけだ。

 

 

 

淀みなく進行する電車は(……い)私をどこに連れて行くのか(……らい)

聞こえてくるのはレールと車輪により起こる(みらい!!)

 

……。

 

さっきからやけに有機的な音が混じっている気がする。

まあ、気のせいだろう。

 

電車にいるのは私だけだ。

 

 

――みらい!!

 

 

また聞こえた。

みらいって何だろう?

未来のことだろうか。

 

電車が向かっているのはきっと未来じゃない。

電車が向かっているのは――。

 

 

――なるかみみらい!!

 

 

電車の騒音に負けず、声はやはり聞こえてきた。

その言葉の意味は、やっぱりわからない。

 

でも、声は聞いたことがあった。

 

力強くも、優しい声。

きっと自分の弱さに向き合っているから。

 

その人は、私を応援してくれた。

その人のおかげで、私は頑張れた。

 

そうだ、その人の名前は――。

 

私は駆け出していた。

 

電車の最後尾へと。

車両から車両へ、飛び出すように。

 

最後の車両の一番後ろ。

そこから後ろを見渡せば、海の上に敷かれたレールの上を爆走するトロッコが電車を猛追しているではないか!!

 

黄色いトロッコの中には青い髪と青い瞳を持つ少女がいた。

あれは――。

 

 

「……千雨!!」

 

「もう!! やっと気づいた!! どこへ行ってるのよあなたはーーーー!!」

 

千雨を乗せたトロッコも、電車に負けじと加速を付けていく。

それでも、電車は止まらない。

 

どこへ向かっていくかもわからない電車が。

 

「美雷!! こっちに飛び移って!!」

 

「でも……私は……」

 

「どうしたの!?」と叫びをあげる千雨の声に応えなければいけない。

あの時に言えなかった、さよならを。

 

「私には……もう何もない……何もないの。だから……私はもう、あなたには何もあげれない」

 

「美雷……?」

 

そう。

 

最初から私には何もなかった。

 

だから反射光のように、みんなの光で照らしていた。

 

わからない。

 

戦いが終わって、自由になったら。

 

 

私はどうすればいいのか、わからない。

 

 

「千雨はGAKUENの中でどんどん変わっていって……でも、私は何も変われなくて……こんな私に……千雨と一緒にいる資格はない!! だから……」

 

「だからなんだってのよ!? 友達に資格なんているわけないでしょ!!」

 

「私は……空っぽの人間なの!! 何もなかったの!!」

 

「空っぽなんかじゃない!!」

 

トロッコの上に乗る少女は涙を流していた。

水滴が、海の上へと落ちていき飲み込まれていく。

 

「そんな風に自分を否定しないでよ!! GAKUENは確かに造られたモノだった!! でもそこにいる私達の感情にウソはなかった!! あの時、過ごした時間を空っぽだったなんて言わせない!! 少なくとも私はあなたの言葉に動かされたのよ!!」

 

「でも……でも!! 私達が会ったのも、校長先生が……」

 

「あの男のことは関係ない!! あの男が別の人から受け取った言葉をどう解釈したのかなんて知らない!! でも、言葉が何かを伝えることができるんなら……善意だって伝えることができるのよ!! あなたが私に勇気をくれたんだから、私はそれを返してあげたい!! だから……自分のことをもっと信じてよ!!」

 

「……千雨」

 

「……あなたが自分のことを何もないって言うなら私が言ってあげる!! あなたは肉まんとインド映画とシャケが好きな女の子で……!!」

 

「シャケは……!!」

 

「え?」

 

「シャケは……実はそんな好きじゃない……んだぜ!!」

 

「え、ええええぇぇぇぇ……」

 

こんな時に本当に申し訳ないと思う。

……でも、これが本当の気持ち。

 

シャケは、そんな好きじゃない……。

 

電車が轟音と共に加速する。

トロッコが負けじと水しぶきをあげながら爆走する。

 

「あ、あんなにおいしそうに食べてたじゃないのよーーーー!!」

 

「あれは……千雨が用意してくれてそれが嬉しくて……。魚は基本、苦手なんだぜーーーー!!」

 

「言ってくれなくちゃわかんないでしょーーーー!? じゃあ肉まんとインド映画は!?」

 

「それはホント!! 肉まんはアツアツで好き!! インド映画は……何というか情熱が詰まってるから好きだぜーーーー!!」

 

「何なのよあなたはーーーー!? じゃあ……じゃあ……」

 

千雨が鼻水を垂らしている。

それもまた風に流されていく。

 

「私のことは……」

 

「え?」

 

「私、雨宮千雨のことは好きかって聞いてるのよーーーーー!!」

 

「そ、それは……その……!!」

 

体が、熱い。

どうしよう。

 

わからない。

 

どうすればいいかなんて。

 

「私はあの時の決闘で言った通りよ!! あなたのことが……好き!! だから今度はあなたの答えを聞かせてよ!! 言ってくれなくちゃ……わか……グス……わかんないから……」

 

 

わからない。

わからない、わからない。

 

この広い世界で。

ちっぽけなあなたと私。

 

なぜこんなに心惹かれるのか。

 

なぜこんなに胸が焦がれるのか。

 

さしずめ心の引力。

 

広い宇宙の中で、それでも引かれ合うもの。

 

長々と考えたけど……これってつまり……。

 

「私は……千雨のことが好き……」

 

涙がこぼれてた。

大粒の涙が。

ずっと、ぽろぽろと流れていた。

 

私は、人を好きになっていいんだ。

 

「でも!! 千雨のことをもっともっと知りたいから!! きっといろんなことをすれば……わかっていくから!! 千雨だけじゃない!! 晴菜ちゃんも!! 風花ちゃんも!! ナツさんのこともナツさんの舎弟さんのことも!! 忍川さんも砲子さんも恐山さんも!! まだ仲良くなれてない魔法少女の子達のことも!! もっともっと知りたいから!!」

 

そうだ、やっとわかった。

特別なことなんていらなかったんだ。

 

私が本当にしたいことは――。

 

「私は……みんなと一緒の日常をすごしたい!!」

 

 

「じゃあ……じゃあ……」

 

千雨が涙をぬぐう。

トロッコの上から叫ぶ。

 

「そんな電車に乗ってないでこっちにこーーーーい!!」

 

 

私は足に力を込めた。

そのまま飛び上がって電車の天井を突き破る。

 

潮風が全身を駆け巡った。

車両の最後尾に、バランスを整えながら立つ。

 

千雨が両手を広げた。

 

私はそこに向かって飛んだ。

 

体が無重力みたいに全てから解放される。

 

それでも私と千雨の距離は近づいて行き――。

 

最後には、ダイブした。

 

「おわあぁ!?」と叫び声をあげる千雨を心配の言葉をかける。

ちょっと間の抜けた声を出す千雨に、私は言葉をかけるのだ

 

「ありがとう」って。

 

そうしたら千雨も返してくれたのだ。

 

「こちらこそ、ありがとう」って。

 

まだまだ感謝しきれない、

だから、時間が必要なのだ。

 

そのための道は、こっちじゃない。

 

千雨と向かい合って、頷く。

やることは決まっている。

 

魔法力と魔法力が干渉するならこうだ。

手と手を合わせて、祈るように叫ぶ。

 

『レイニー・バトン!!』

 

レールの上に二本の棒を。

分岐路のように。

 

電車が素通りした後、トロッコは別方向に跳ね上がった。

 

私達は、飛んでいた。

 

衝撃とともに、水面を着地。

水しぶきをまき散らしながら、レールがない海の上を走っていく。

 

私と千雨がトロッコから身を乗り出す。

 

電車が軋むような音とともに、崩壊を始めていた。

扉が、車輪が、吊り手が、座席が。

 

前方から後方へ、流れるようにバラバラになっていく。

 

全てが海の中へと沈んでいき、見えなくなる。

 

 

私と、千雨は前を見据えた。

 

桃色の光が見えた。

それは灯台のようだった。

 

そこへ向かって進んだ。

 

道なき道を。

 

トロッコがまっすぐ。

 

 

――。

 

 

――――。

 

 

――――――――。

 

 

光が見えた。

 

いくつもの光が。

 

桃、赤、橙、黄、緑、青、紫。

 

宇宙を瞬く星のように。

 

 

黄に輝く空と、青に瞬く海の間で。

確かに見えていた。

 

晴菜ちゃんが泣きながら、水面(みなも)へ駆け寄っているのがわかった。

(なぜか小刻みにステップを刻んでいた)

 

風花ちゃんも「当然だよ」と言いたげな得意な顔で、涙を流していた。

 

ナツさんも、ナツの舎弟さんも。

忍川さんも、砲子さんも、恐山さんも。

 

みんな、泣いていた。

 

人は嬉しい時にも涙を流すんだ。

 

 

――千雨。

――美雷。

 

 

――行こう。

 

 

しっかりと手を握る。

 

 

今、千の雨に迎えられて。

私達が創る、私達の日常(未来)へ。

 

 

 

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