魔法少女GAKUEN   作:MOPX

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朝ご飯はシャケ!? 参上、最強の魔法少女!!

 

「泥のように眠る」という言葉があるのなら、目を覚ますのは「泥ではなくなる」とでも言えばいいのだろうか。

 

雨宮千雨は泥ではなくなった。

 

自分の去就が決まる運命の日、その朝。

……もっとも、戦うのは自分ではないのだけれど。

 

二段ベットの上から覗き込むように時計を見れば、8時を回ったところだ。

 

(美雷、まだ眠ってそうね。起こすのも悪いけど……。起きたとしても文句は言われない時間かな……?)

 

パイプの梯子を、申し訳程度に慎重に降りる。

ふと、下の段のベッドを確認する。

 

鳴神美雷は、無垢な寝顔でそこにいた。

 

 

 

(寝心地そんな良くないでしょうに……さてと、着替えた後はどうしよっかな……)

 

その時、ゴミ箱が目に入った。

昨日食べた、インスタント食品の。

 

(こんなものばっかりじゃ気も滅入っちゃうかな……。今日だって頑張るのは美雷なんだし、私にできることは……)

 

 

 

(よし……!!)

 

千雨が支給された専用紙幣を確認する。

校長の顔が印字されていて「うげえ」となったが、『1000』と端に書かれたそれを財布に入れて部屋を出るのだった。

 

 

●

 

 

「むにゃ……む……起きたぜーーーー!! 目覚めばっちり究極起床なんだぜーーーー!!」

 

「目覚めに究極も何もないでしょ……もう……」

 

「あ、千雨おはようございますなんだぜ!! 千雨は早起きで偉いんだぜ!! ……あれ、その机の上にあるのは!! もしかして!!」

 

美雷の前には、白いご飯、目玉焼き、みそ汁、シャケの切り身。

 

伝統的な和の朝ご飯がそこに並んでいたのである。

 

 

「ち、千雨……これはいったい……!?」

 

「そんなに目を輝かせなくても……。こほん。寮の一階に食堂があるからそこで買ったわ。和食セット。私はもう食べたからあなたも着替えたら食べて」

 

二人分の購入で残ったのは「100」と書かれた硬貨のみになってしまった。

……ちなみに硬貨を裏返すとしっかり校長の顔が描かれている。

出しゃばりか。

 

「……!! もしかして千雨のお金で買ったんだぜ!? なんか申し訳ないんだぜ……」

 

「……いいわよ。今日だって頑張るのはあなたなんだし。気にせず食べて」

 

申し訳なさそうにしていた美雷だったが、何かに気づいたのか眉をピーンと伸ばした。

 

「じゃあ今日は千雨に甘えるんだぜ!! 明日からは私もご飯を準備するぜ!!」

 

「……明日」

 

「うん!! 明日……あ」

 

 

今日の決闘の結果によっては私は明日から――。

 

 

間。

 

 

どうやら、お互いに言いにくかったことがあるらしい。

 

 

美雷が着替えながら話す。

それは彼女なりの照れ隠しだったのかもしれない。

 

「……昨日も言ったけど私はまだまだ千雨といっしょにいたいんだぜ。でも私、千雨の気持ちを聞いてなかったんだぜ……。千雨はどうしたいんだぜ……?」

 

「私は……」

 

美雷と出会って、一緒の部屋になって。

正直、何かを期待していた。

 

自分も変われるんじゃないかって。

 

でも、それって他力本願そのもので。

 

「鳴神さん、私の武器(能力)まだ言ってなかったわよね。これなの……」

 

千雨は自分の武器を生成し、見せた。

 

ただの青い棒を。

 

「レイニー・バトン(冴えないただの棒)……これが私の能力よ。威力も射程も特筆することなし。一応、離れたところにも出せる特性はあるけど……それだけよ」

 

これが往年のアニメならステッキの先にオシャレな装飾でも付いてたのに。

千雨はそう言って苦笑した。

 

「鳴神さん、あなたは魔法少女なら全員主人公って言ったわよね? それって私も? こんな私でもあなたの隣に……」

 

「着替え終わったぜ!! 朝ご飯、冷めちゃうんだぜー!! 早く食べるぜー!!」

 

「聞けや!!」

 

 

 

ごめん、ごめんと美雷が手を合わせる。

そして朗らかな笑顔を見せるのだ。

 

「千雨は立派な魔法少女になれるぜ!! だってこんなにステキな食事を用意してくれたんだぜ!!」

 

千雨の頬がにわかに赤く染まる。

こんなにもストレートに褒めてくれるなんて。

さっき話を聞いてないかのように遮ったのも、この子なりの気遣いかもしれない。

暗い話題が続かないように、と。

 

「今日はシャケパワーで頑張るぜーーーー!!」

 

(まあ、喜んでくれてるならいいか……)

 

シャケを心底おいしそうにほおばる美雷を見て、千雨はそれっきり何も言えなかった。

 

 

●

 

 

スピーカーが今日の予定を知らせる。

目玉はやはりというか、鳴神美雷と桃ヶ崎晴菜の決闘であった。

 

初日から大立ち回りをした新入生に、GAKUEN最強を自称する魔法少女。

 

これ以上ない対戦カードに、早い時間から校庭に魔法少女達が集まっていく。

 

 

 

その様子を、校舎の屋上から見下ろす者たちがいた。

 

GAKUENの校長と、その忠実なる臣下たち――。

 

「はっはっは!! 今日の目玉も決闘か……元気があって良いことだ」

 

高笑いをあげる校長の横には白いローブを着た者たちが立っている。

その中の一人が口を開いた。

 

「しかし良かったでござるか? 校長ポイントも導入してまだ二日目。決闘など許可せず校長ポイント浸透の施策をした方が……」

 

「ふふ、心配せずともいい。魔法少女達が校長ポイントを意識せざるを得ない……その準備はしている。それにだ」

 

校長が校庭を見下ろす。

まるで、全ては我がものだと言わんばかりに。

 

「決闘など些事に過ぎぬ……究極の魔法少女は既に決まっているのだからな……はっはっは!!」

 

「……」

 

一際強い黄の光を放つ少女。

その横にぼんやりとした青の魔法少女。

 

二人が校庭へと歩を進めていた。

 

 

●

 

 

「お祭りみたいで賑わってるんだぜーーーー!!」

 

「鳴神さん、子供じゃないんだから……」

 

「肉まんの屋台があるんだぜーー!! 行ってみるぜーー!!」

 

「あ、ちょっと……!! 子供というか子犬ね、はあ……」

 

千雨がため息とともに周りを見渡す。

校庭の周囲は各種屋台に手作りのグッズ類の販売、はたまた自製した本の即売会までもが始まり、まさにお祭りの様相を示していた。

 

人が集まれば、口実はなんでもいいらしい。

当然ながら営んでいるのは全員、魔法少女だ。

 

(自由というか混沌としてるというか……ある意味、みんなたくましいわね……。……ん? あれは……)

 

千雨の視線の先には、黄のセーラー服を着たヤンキー。

トロッコのナツがそこにいた。

 

「さあーー張った張った!! 最強を自称している桃ヶ崎と昨日大暴れしやがった新入生鳴神美雷の世紀の決闘だ!! さあて、どっちが勝つー!?」

 

「な、なにやってるんですか、あなた!!」

 

「おやあ、あんたは……聞いたよ!! 明日から住むとこないんだってね!! きゃははは!!」

 

千雨の顔が赤くなる。

退寮の話がスピーカーで放送されて丸一日は経とうとしているのだ。

その間に顔と名前の情報が出回ってもおかしくない。

 

「……ちゃんと今日、どの部屋か決まります。それよりも!! 人の勝ち負けでこんなことするの恥ずかしくないんですか!?」

 

「あはは!! 言ってくれるねえ!! でも、GAKUENに流通しているカネ……『魔法少女円』、略して魔円はゲーセンのメダルみてえなもん!! このGAKUENにおいては自由に使うことが許されているのさ!!」

 

GAKUENの酷さ、ここに極まり。

千雨がそんな感想を持っていると、後ろの表が目に入る。

 

 

 

桃ヶ崎晴菜:1.01倍

鳴神美雷 : 100倍

 

 

 

「倍率の差!!」

 

「困ったもんだよ!! この倍率でもみーんな桃ヶ崎の方に入れてるよ!! これじゃあアタイが破産しちまうねえ!! ぎゃはははは!!」

 

「……に100魔円」

 

「え、なんだって?」

 

「……鳴神美雷に100魔円!!」

 

なかばヤケクソ気味に硬貨を叩きつける。

刻まれた校長の顔が二転三転した。

 

ナツの顔は確認せず、千雨は振り向いた。

 

いくら前評判が違うからって、この扱いはあんまりだろう。

昨日負けてたくせに。

 

しかし同時に思う。

 

桃ヶ崎晴菜はそこまでの強さをほこるのか、と。

 

 

 

「……千雨」

 

「あ、鳴神さん。肉まんどうだった?」

 

「おサイフを部屋に忘れてたんだぜ……」

 

「……。私もなけなしの100魔円、さっき使っちゃったわ」

 

 

――ふん、究極の魔法少女が聞いてあきれるわね。ま、私は朝ご飯もしっかり食べて万全だけど。

 

 

「……!! この自信の塊みたいな言動は……!!」

 

「朝ご飯をしっかり食べるの、大事なんだぜ!!」

 

 

桃色の光が一際強い光を放った。

横に束ねた髪を振り、空中に大ジャンプ。

綺麗な三回転を決めた後、千雨と美雷の前に降り立った。

 

「桃ヶ崎晴菜……今、ここに見参!!」

 

今日の決闘の相手――桃色の魔法少女がそこにいた。

 

 

●

 

 

黄の少女と桃の少女が離れて向かいあう。

 

雌雄を決する時は近づいていた。

 

二人の間には緑の少女――淡雪風花が立っている。

これまでの印象だと常に眠そうにしてたが、今日はきりっとした印象で千雨は意外に思った。

今回、合図を出す役目は彼女だ。

 

 

「じゃあ、ボクが合図を出したらスタートだよ……。晴菜も鳴神さんも、いいね?」

 

風花が借りてきたピストルを構える。

 

場の緊張感がいっそう高まる。

 

(昨日は私と目が合って美雷が出遅れたのよね……。今度は余計なことをしない……絶対にしない……)

 

 

 

「ふん、逃げずに来たことだけは褒めてあげる。言っとくけど合図のタイミングを口裏合わせてるとか、そんなしょうもない真似はしてないから」

 

「くちうらをあわす……? 口を合わす……? ……!! き、きす……!?」

 

「ばっ!! そんなワケないでしょ!! ああもう、とにかく!! あんたが究極を名乗っていられるのも今日までよ!! ……あ。あとひとつ言っておくことがあるわ」

 

「なんなんだぜ?」

 

 

 

「私の勝利、一瞬で決まるから」

 

 

 

号砲。

 

 

 

(美雷は……!!)

 

音で反射的に目を閉じた後、すぐにその姿を確認する。

美雷が半身を傾け、左手を前に突き出していた。

どうやら基本の構えらしく、少なくとも出遅れてはいない。

 

対する桃ヶ崎晴菜は――。

 

桃色の羽を背中から生やし、垂直に飛び上がっていた。

 

 

 

(え……? どういうこと……?)

 

あれだけ好戦的だった魔法少女がまずは様子見?

というか、そもそも飛べたんだ。

 

美雷が瞳を輝かせて桃の少女を見上げていた。

もう少し危機感を持った方が良いと思う。

 

「晴菜ちゃん、飛べたんだぜ!? とってもすごいんだぜ~」

 

「ふん、自分の置かれた状況がわかってないようね。いい? あなたの能力の特性はもう把握してるの? 確かに空間的にも時間的にも密度を高めて圧縮した一撃は脅威よ……そこは認めてあげる。でも、あんたには致命的な弱点があるわ」

 

鳴神美雷の致命的な弱点?

 

周囲の魔法少女がざわつき始める。

千雨とてわからない。

美雷のことは何となくすごい子だと、そう思ってばかりだった。

 

桃の少女が勝ち誇ったように言う。

 

「答えは射程よ!! あんたの特性は恐らく自分に接している部分についての魔法力圧縮……。つまりは触れさせなければ恐れるにあたわず!! 一瞬で勝負が付くって言ったのはそういう意味よ!!」

 

「おお……すごいんだぜ。確かにこの距離じゃ拳は届かないんだぜ!! 晴菜ちゃんは頭がいいんだぜ~」

 

「もう少し悔しがりなさい!! ああ、もう……調子がくるう……!!」

 

 

ある意味いつも通りの美雷。

対照的に千雨は背筋が冷たくなるのを感じていた。

 

わずか一日にして鳴神美雷への適切な対策。

このままでは美雷の勝機は薄い。

 

(いや、違う……私が本当にショックを受けてるのは……)

 

 

戦う相手である桃ヶ崎晴菜のことを何ひとつ知らなかったこと。

 

 

時間はいくらでもあった。

決闘が決まった後に、他の魔法少女に晴菜について聞き回ってもよかった。

緑の少女――淡雪風花が晴菜と同室と知った時に、少しでも探りを入れたらよかった。

今日の朝も、校庭に着いてからも。

 

情報収集する時間は、いくらでもあった。

なのにやったことと言えば朝ご飯の和食を用意したくらいで――。

 

「どうも、隣もらうね」

 

「ひゃあっ!?」

 

千雨の隣にぬるりと緑の少女、淡雪風花が陣取った。

一仕事を終えたからか、晴菜が優勢だからか満足そうな表情をしている。

 

「淡雪さん……音もなく隣にくるのはやめて……心臓に悪い……」

 

「ごめん。でもボクもなるべく近くで二人の……晴菜の戦いをみたいから」

 

そうだ、決闘――。

 

千雨がその姿を見ようとした時には、美雷は駆けていた。

校舎の方へと一目散に――。

 

(え……?)

 

周囲の魔法少女たちもざわめく。

「勝ち目がなくなって逃げ出したか?」そんな声が聞こえてくる。

 

「させない!!」

 

晴菜が瞬時に桃色のステッキを取り出す。

空中から放たれた桃色光線が、美雷の行く手を遮った。

 

千雨にはそれぞれ何をしているのか、全くわからない。

 

「え、え? いったいどういうこと……?」

 

「鳴神さんは恐らく校舎の屋上へと向かった。決闘には距離の制限もないからね。昨日一瞬でマイクを取ったあの脚力で屋上から大ジャンプすれば晴菜に届くと踏んで。晴菜は当然そんなの織り込み済だから進路を断(た)った」

 

「な、なるほど解説助かるわ……」

 

「……」

 

風花の視線にも気づかず、千雨は戦闘の様子へと注意を戻す。

美雷は相変わらず、緊張感のない顔で「晴菜ちゃんはすごいんだぜー」などとのたまっている。

 

当の桃ヶ崎晴菜は文字通りの上から目線で吐き捨てた。

 

「ふん、究極の魔法少女なんて言ってた割に大したことなかったわね。もう終わりにしましょう……最強の私の、最強の変身形態(フォーム)で!!」

 

あたりがざわつく。

千雨の耳に聞き慣れない単語が飛び込む。

 

『やるのか、桃ヶ崎!! GAKUENで20人しかなれないスーパーフォーム……!!』

 

『それを更に超えた、エンジェルフォームを!!』

 

『GAKUENでエンジェルやれんのは桃ヶ崎だけだろ……!! 一瞬でケリがついちまうな……!!』

 

(スーパーフォームより強いエンジェルフォーム!? そもそもスーパーフォームを知らんけど!!)

 

 

 

喧噪の高まりに反して、当事者の黄の魔法少女は相手へと話しかけていた。

 

「晴菜ちゃーーーーん!! なんかすごい変身ができるんだぜーー!? 見てみたいぜーー!!」

 

「くくく、あはは……あーはっはっは!!」

 

 

天からの啓示のごとく。

桃ヶ崎晴菜は厳かにその一言を言い放った。

 

「エンジェルフォームなんてもう古いのよ」

 

(え……? スーパーフォームより強いエンジェルフォームより更に強い変身形態があるってコト!? 何一つわからないけど、そういう話の流れよね!?)

 

 

 

「そう、私はずっと退屈していた……あまりにも自分が最強で誰も私を越えようとしなかった」

 

桃ヶ崎晴菜が力強く拳を握る。

 

「だから私は自分で自分を越えた!! 1年間みっちり修行をして誰もたどり着けない境地を更に超えたのよ!!」

 

空に、桃色が輝いた。

 

太陽が人を苦しめることもある――。

 

そのフレーズが千雨の頭で反芻された。

 

「今から見せてあげるわ。スーパーフォームを越えたエンジェルフォームを更に超えた変身形態……!!」

 

 

 

 

 

「最強のクェーサー(恒星)フォームをね!!」

 

 

 

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