『はっはっは!! 魔法少女と忍者……!! まさに夢の対戦カードの始まりだな!!』
なおも視聴覚室に鳴り響く野太い声は、嫌悪感だけを運んでくる。
しかし、もはやその印象を気にしている場合ではない。
先ほどまで悠然と立っていた橙色の派手な忍者は不自然に床をぺたぺたと触っている。
やがて、ぼそりとつぶやいた。
「……。騒がしい……」
(……?)
「キキキ!! 何でもないでござる!! 騒がしい貴様ら魔法少女を静かにしてやるでござる!!」
「そんなことさせないんだぜ!! 千雨も、他の魔法少女も……私が守るんだぜ!!」
(……美雷)
千雨を守るように一歩進んだ美雷。
魔法少女らしい、友達を守ろうとする精神。
嗚呼、なんて美しいことだろう。
――だが、忍者には通用しない。
美雷は
突然!! そこから橙色の炎が噴き出したのだ!!
「うわああああぁぁああああぁぁ!?」
「美雷ーーーー!?」
「ニンジュツ……
美雷の体が小さく吹っ飛び、千雨が悲鳴をあげる。
そうだったのだ。
忍者が意味のない行動をするわけがない。
床を触っていたのは、文字通り罠を潜ませていたのだ。
地面を這い進み、忍び寄っていた。
夢みる魔法少女を吹き飛ばす、
「美雷!! 大丈夫!?」
「大したダメージじゃ……ないんだぜ……!!」
美雷の体を確認するも、目立った外傷はなかった。
その代わり、髪の黄色が心なしか薄い色になっている。
つまりこれは――。
(魔法力による攻撃!! 魔法力自体は魔法少女じゃなくても持ってるって聞いたけど……こんなに強い魔法力を大人が……!!)
「キキキ……もう終わりでござるか、魔法少女? 戦乱の世ではもっと強い相手がゴロゴロいたでござるよ?」
「まだまだこれからなんだぜ……!!」
「ちょ、ちょっと美雷!! もう少し落ち着いて……!!」
「大丈夫……!! ゴニョニョ……!!」
(作戦を聞かれないように小声でしゃべるんだぜ!! 足に力を入れて、ジャンプで一気に距離を詰めればあいつに近付けるんだぜ!!)
「え……? ゴニョニョ……」
(あなた変なところで頭が回るわよね……。それはさておき、確かにさっきみたいに変な術を踏んだりしないでしょうけど……その後のことは!? あなた、持続力は全然ないでしょう!?)
「ん……? ゴニョニョ……」
(考えてなかったぜ!!)
「ゴニョニョ!!」
(あなたねえ!! ……まあでもわかったわ。あなたは距離を詰めて、私は正面から援護。あなたの方が危険だけど……)
「それはわかってるぜ!!」
「キキキ……作戦タイムは終わったようでござるな……。さてさて、どんな
千雨と美雷が視線を合わせて頷く。
美雷の足が黄に輝く。
轟音。
雷が落ちたようなそれは、美雷が床を蹴った音だ。
GAKUENの初日、校庭のマイク争奪戦で見せた神速――。
それは、全く発揮されないまま終わった。
「うわあ!?」
「美雷!?」
勢いよく、美雷の体が前方へつんのめる。
何のことはない。
足が橙の糸に引っ掛かり、助走でこけてしまったのだ。
「ニンジュツ……
千雨が美雷に駆け寄る。
今回も大きなケガはないが、少し息を切らしているのがわかった。
同時に、混乱する頭の片隅で思考は進む。
どうして?
千雨は美雷と途中から小声で話していた。
作戦を聞かれないように。
なのに……。
「キキキ……そう、どんな策でくるか……」
四天王がひとり、橙忍者のオレンが耳をトントンと叩く。
「丸聞こえだったでござる」
(……!! そんな……)
そう、忍者は耳が良い。
千雨と美雷の立てた作戦は、全て筒抜けだったのだ。
「もっとも拙者からしてみれば、策とは呼べないようなものでござったが……。さあ、魔法少女たち、このままだと手も足も出ないまま『負け』でござるよ? 貴殿らの魂がそれを認めた時、TAIGAKU処分は速やかに実行されるであろう……」
(……っ)
千雨は唇を嚙んだ。
腕の中の美雷は、まだまだこれからと息巻いていた。
でも、どうやって?
しょせん、子供が考える策なんて、大人には通用してないじゃないか。
やっぱり魔法少女なんて――。
「隙ありでござる」
橙忍者の前に、オレンジ色の光が無数に浮かぶ。
ひとつひとつは握り拳程度の大きさ。
だが、視界を埋め尽くすほどとなれば脅威であることは容易に想像がつく。
「ニンジュツ……
忍者が印を結んだ。
同時に、橙の光が一斉に千雨と美雷に進軍する。
「あ……あ……」
千雨の目には、光のアトラクションが広がっていた。
橙色が織りなす、逃げ場なしの光の洪水。
「きゃああああぁぁぁぁああああぁぁーー!!」
「……!!」
自身の悲鳴とともに、千雨の視界は真っ暗になった。
あまりの恐怖に、自分から目を閉じたのだ。
感覚すらも麻痺していく中、千雨の思考は闇へと落ちていく。
忍者は強い。
魔法少女よりも、ずっと。
……。
…………。
……………………。
(あれ? ……私?)
視界を閉じたまま、千雨がある事実に気づく。
自分がまだ、無事であると。
そして、気づく。
自分がどうして無事であるのか――。
「美雷!?」
「う……ぐぐ……千雨……だいじょうぶ……なんだぜ……?」
「あなたが大丈夫じゃない!!」
千雨が目を開けた時に広がっていた光景。
それは、苦しそうに己をかばう鳴神美雷の姿だった。
(そんな……私はまた……)
美雷の背中には橙の手裏剣が無数に刺さっていた。
役割を果たしたといわんばかり、手裏剣は霧散していく。
しかし美雷の体にも異変が起こる。
彩度の高い黄色の髪と瞳が、急速にその色を失っていく。
「はあ……はあ……」
「美雷……!! 美雷!!」
魔法力欠乏症。
魔法少女が急速に魔法力を失った時に現れる症状だ。
「美雷……!! 本当にごめん……!! 私、あなたと頑張るって言ってたのに……結局今日だって身を張って戦っていたのはあなたで……!!」
いつもなら「そんなことはない」と励ましてくれる美雷は、苦しそうに息を吐くだけだ。
そして、千雨は思い至る。
鳴神美雷は、決して飛びぬけた強さを持っているわけではないと。
最初の決闘――トロッコのナツとの戦いでもそうだ。
美雷は背中にトロッコが激突する瞬間、防御をしてその勢いを利用して勝利した。
――だが、そのタイミングがわずかにでも遅れていたら?
鳴神美雷は、トロッコのナツに敗北していたのだ。
二回目の決闘、
千雨の用意した朝ご飯のシャケ――それこそが美雷に
――だが、もしも千雨の用意した朝ご飯が、和食じゃなかったら?
それだけで、鳴神美雷は手も足も出ずに、一方的に敗北していたのだ。
そして今、鳴神美雷に味方するような『偶然』は起こっていない。
溜まっていたツケのごとく、天秤は悪い方に振れていた。
それが今、美雷の体にのしかかっているのだ。
「わかっていたはずだったのに……それなのに、私は……」
「キキキ……魔法少女の『想い』など我がニンジュツの前では無為に過ぎず……さあ、幕引きにござる!!」
橙の光が再び無数に浮かぶ。
今度こそ魔法少女にトドメを刺すために。
光のアトラクションの第二幕。
それは物語の幕引きを意味する。
橙の光は合図もなく一斉に飛ぶ。
無造作に、無遠慮に、無慈悲に――。
「レイニー・バトン!!」
青い棒が、円を描くように高速で回転する。
即席の
むろん、完全とはいかないが。
「くううううぅぅうううう!!」
「ち……さめ……逃げるん……だぜ……」
防御を突き抜けてきた手裏剣が、千雨に命中していく。
一発ごとに体の力が抜けるかのような虚脱感。
それに耐えて、千雨はバトンを回し続けた。
役に立たないと思っていた、
「私は……もう逃げない!! 美雷!! あなたこそ究極の魔法少女になるんじゃなかったの!? こんなところで忍者に負けるなんて……そんなの私が認めない!!」
「ち……さめ……」
なおもバトンは回り続ける。
青い棒と、橙の手裏剣のせめぎ合い。
それも終わりを迎える。
「きゃああああぁぁ……」
「……千雨!!」
視聴覚室に少女の悲鳴がこだまする。
通り抜けた手裏剣のひとつが、勢いよく少女の体を弾いたのだ。
千雨と美雷は、並んで床にひざまつく形となった。
「キキキ……魔法少女たちが夢破れた姿……壮観でござるなあ。では、トドメといこう……!!」
橙の光が、三度集まる。
忍者は、容赦がない。
魔法少女たちが態勢を立て直す暇など与えない。
「ごめんね、美雷……。私が弱いばっかりに……」
「千雨は弱くなんかないんだぜ……だって、私を守ってくれた……」
二人が目を合わせる。
最初は、美雷が千雨をかばい、
二回目は、千雨が美雷を守り、
三回目は、二人で光を見ていた。
「その魔法力をチョウダイいたす!! そう、これが現実……!! 魔法少女……さらばでござる!!」
橙の光が二人へと押し寄せた――。
そして、すぐ消えた。
「え……?」「あれは……!!」
「……!! 我がニンジュツをかき消すとは……!! 貴様、何者でござるか!?」
「ふん、あんたみたいな変態くさいやつに名乗る義理はないけど。……ま、メイドのお土産に教えてあげるわ」
千雨と美雷の目の前に現れた人物。
桃色の輝きを放つその少女は、自身のエネルギーを高めることで周囲に防御フィールドを展開したのだ!!
脇から出てきた緑の少女も、千雨と美雷へと駆け寄る。
そう、桃色の魔法少女の正体は――。
「私の名前は桃ヶ崎晴菜!! このGAKUEN最強の魔法少女よ!!」