フランスの悪魔   作:林部

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【前回までのあらすじ】
要塞都市ブールジュにて瀕死の英雄ジークフリートと合流した六香たちは、その解呪を急ぐ。
しかし、そこへ5騎もの敵サーヴァントが接近しているという絶望的な報告が届く。大元帥リッシュモンはブールジュの放棄と住民の避難を決断するが、避難の時間を稼ぐため、王妃マリー・アントワネットがたった1人で殿を務めることを志願し六香たちと別れるのだった。
一方、拠点のラ・シャリテでも六香たちが不在の隙を突いて敵サーヴァントが襲来するが、残されたマシュやエリザベート、そしてジャック・ブラウン将軍が投入した新型兵器によってこれを撃退する。その混乱の最中、ジャックは地下牢にて捕虜デオンを魔剣で葬り去るのだった。

それぞれの場所で決断と犠牲が交錯する中、ブールジュに残ったマリーの前には、かつての宿命の相手が姿を現そうとしていた。


第17話 1431年6月25日

ジャック・ブラウン - 6

 

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6月25日

24日、ラ・シャリテに敵サーヴァントの襲撃あり。クラスはアサシン。真名はファントム・オブ・ジ・オペラ。

400年後のパリを舞台にした小説のモデルとなった人物だが詳細は不明。

長大な鉤爪で襲いかかる事が得意のようで、その爪は剣よりも鋭いとのこと。しかしマシュ・キリエライトの盾はそれを上回る防御性を有していた事から戦いは優位性を維持したまま勝利した。

敵サーヴァントを直接的に叩いたのはエリザベート・バートリー。彼女の槍の威力は凄まじいものだったが、勝利へ導いたのは間違いなく、マシュ・キリエライトの盾だろう。

彼女は人間の身でありながらサーヴァントの能力を有する特殊な存在らしい。もし我が軍の中に、あるいは私が彼女のような存在になれたとしたら、これ以上の幸福な事はないだろう。

 

敵サーヴァントは大量のワイバーンや屍を率いていたが、こちらは連合軍で対処した。屍はリッシュモン軍の騎兵・歩兵が、ワイバーンは我が軍の弓兵・砲兵が殲滅した。この戦いにおいて、我が軍は新型兵器2機を試験的に投入した。結果として、2機とも戦果を上げたが改良すべき点も見つかった。

1つ目の新型兵器 鉄製砲弾型大砲は、相変わらずの命中率だった上に5発撃ったところで大破した。これは大砲自体の改良が間に合っていなかったせいである。しかし、大砲に車輪をつけた事で柔軟性が上がった事は確認できた。大砲自体の補給は出来ないため、今後は以前のままの砲弾で車輪をつけた状態がベストだろう。

2つ目の新型兵器 ペーパーカートリッジ型火縄銃は、装填速度が想像以上に早く多くのワイバーンの撃墜に成功した。1発当たりの威力も安定して弓矢より高い。だが、いくら装填速度が早くなったとはいえ、弓よりは圧倒的に遅く命中率も弓より低いため、銃は要所で使う程度に留めておくべきだろう。

現状では2機とも現役の武器に比べれば劣るという厳しい結果を突きつけられる形となったが、これは大きな戦果である。少なくとも火縄銃に関しては、装填速度さえ改善できれば次世代武器になり得る可能性は十分にあるのだから。

 

先日拘束した敵サーヴァント シュヴァリエ・デオンは制御不能になったため処分した。奴に与えたダメージは全て全快していたが、狂化が進行していたため奴はまともに口すら利けない状態であったためだ。よって、奴から聞き出した情報は先日記載した内容が全てである。

 

ブールジュでは、24日に敵サーヴァントの襲撃を受け要塞化計画を放棄。リッシュモン主導のもと、全住民を引き連れてラ・シャリテへ避難を進めている。ベッドフォード公爵夫人も同行しているため、移動時の被害は最小限に努める必要がある。なお、その間の時間稼ぎはマリー・アントワネットが担うとのこと。

危惧すべきは物資の枯渇である。バスティーユからの物資支援はブールジュでの避難民を除いた人数で15日分を要望している。

]

 

「……」

 

続きを書こうとして、止めた。この日記帳もいつ誰の手に渡るのか分からない。そんなものに、わざわざ本心を書くなんて馬鹿げている。

軽く息を吐き、気を抜いた隙をつくかのように煩わしい音に襲われる。分かってはいたが、これは中々にストレスだ。

 

"その剣は君を主人と認めていないだろ。その剣の放つ呪詛みたいな音は君の持つ音と何一つ一致していない。おそらく以前…いや、大分遠い過去の声かな"

 

ふと、アマデウスに言われたことを思い出した。結局何故、彼は知っていたのだろう。天才とはいえ、ただの音楽家がコレを知っていたとは思えない。あり得るとすれば、こちらの知らない未来の世界で、彼自身が経験した可能性だろうか。…音楽家が剣に触れる世界は想像しにくいが、音楽家が戦う世界を見らせられているのだ。無くはないのだろう。

 

「ッ……」

 

煩い音に脳が揺らされる。日に日に増していく音は罪を見ろと訴えてくる。

煩い。そんなに全てを呪い殺してしまうほど悔いているのなら何故そんなことをしたんだ。何故、そんな事でそこまで苦しんでいるんだ。殺意が湧く。僕の方が、ずっと苦しい選択をさせられた。あんな事にならないために、頑張ってきたはずなのに。

 

脳裏をよぎるのは、そう。

牢にいる彼女をなんとか救おうと必死で、大切な人を殺してでも動いた、あの日____。

 

「…ちがう」

 

声が震える。

あれは、僕の記憶じゃない。あれは、人を破壊する記憶。僕のものじゃない。

僕は、牢にいる彼女を救わなかった。死へと導いた。全てを犠牲にしてでも救い出せる未来を簡単に描けるような人間に僕はなれなかった。

 

僕には勇敢さも誠実さもない。人の隙をついて、人を騙して生き延びている男だ。奴とは違う。

 

勢いよく頭を拳で殴る。脳が揺れ気分が悪くなった。でも、おかげでさっきまで見えていた、聞こえていたものは消えてくれた。

気をつけなければ。気付いたら記憶に忍び込もうとするこの呪いを自覚し続けなければ、いつかきっと僕もあの女のように正気を失うのだろう。

 

気を取り戻し、日記帳を捲る。

少し前まで日記に書ける事なんてほとんどなかった。おかげで1ヶ月前の日が記されたページには数行しか書かれていない。けれど最近は丸々1ページ使う事が多い。

 

[6月13日

パリに到着。シャルル王との謁見を終えた後、竜の魔女、フランソワ・プレラーティの襲撃を受ける。]

 

[6月14日

ジル・ド・レェ捕獲作戦準備開始。各隊指定されたポイントへ移動中。]

 

[6月17日

ジル・ド・レェ捕獲作戦開始。計画通りワイバーンをラ・シャリテへ集中させる事に成功したが、降伏させるのには、かなり時間を要した。ラ・シャリテへの突入後、自称ジャンヌ・ダルクとカルデアを名乗る組織と遭遇。この作戦に彼らが8時間も耐えられた理由に彼らが関連している可能性が高い。]

 

[6月18日

昨夜から早朝にかけてジル・ド・レェとジャンヌ・ダルクの尋問を実施。ジル曰く、敵に自分のサーヴァントがいる可能性が高いとのこと。リッシュモンが聞き取ったカルデアの情報から、彼の予測が当たっている可能性がある。カルデアとジルの説明から、推測されるサーヴァントの特性は以下である。]

 

「……」

 

ページを捲る。紙同士が引っ付きあっていたのか、最新ページまで飛んでしまった。これだから品質の良くないものは。

指先でくっついた紙を剥がそうとした時、その近くの文字が目に止まった。

 

"時間稼ぎはマリー・アントワネットが担う"

 

自分で書いておきながら疑ってくれといわんばかりの文字に失笑した。

あの六香という少女に仲間を売りに出す根性はない。マリー・アントワネット自ら希望したのだろう。カルデアの仲間達やリッシュモンを説得し民衆の為に5騎のサーヴァントと戦う理想の王族を演じきったに違いない。

王族に理想を抱いているのは、王族か、王族を知らぬ者だけだ。彼らに跪いたことがある者なら王族とはどういうものなのか良く知っている。彼らは横暴で傲慢で下品なまでに権力と己の命に固執する。

奴が本当に王族だというのならば、民衆を人柱にして自分は助かる方を選ぶはずだ。それが王族のあるべき姿なのだから。無責任に己の命を投げ出す選択肢など王族にはない。

奴は人柱になった訳ではなく、程よく別れる理由を手に入れただけだ。何故別れる必要があるのか。理由はかつての私と同じだろう。

思えば、初めから怪しい女だった。死んだにしても裏切ったにしても、内部から消えてくれた方がこちらとしても動きやすい。なにせ、宝具を持たぬ限り軍がサーヴァントを殺す事は不可能なのだから。

 

いなくなった女は今は放置でいい。それよりも重大な事がある。

竜の魔女の正体?物理攻撃が通じる彼女の正体は、もう仮説を立てている。今あえて考える事でもない。

敵サーヴァントの数?シュヴァリエ・デオンから敵の真名を聞き出せたが、後から別の人物を思い出していた事から、あれが全員ではないだろう。最低6人と思っておけばいい。

黒幕の正体?その通り。とはいえ、情報がないので、ほとんど妄想になってしまうが。プレラーティの”王”が黒幕ではないだろうかと考えていた。

 

"相手は誰だと思う?アーサー王かな?それとも獅子心王?まさかまさかの英雄王かもね。どうするジャック。皆強いよ。何せ神秘の度合いがこの時代とは比べものにならないからね。対する君は生身の人間だ。宝具を使うこともできない。君のお得意の奇策でも勝てるかな?"

 

"もしかして今のイングランド王とかフランス王を疑ってる?大丈夫だよ心配しなくても。僕はその程度の王さまに仕えたりしない。そんな平凡な王に仕えるなんてこと退屈すぎて我慢できないよ。僕を最高に楽しませてくれる王じゃないとね"

 

奴の耳障りな言葉が脳裏をよぎる。思えば、あまり歴史に詳しくない私でも理解できるほど分かりやすい王の名前ばかり上げていたな。これは誘導だろうと思っている。

つまり私は、奴の”王”が本物の王とは限らないのではないかと疑っている。

サーヴァントが召喚されているという事は、魔術師が関与しているという事。今は状況が特殊だから、そうとは限らないというが、基本的な考えに立ち返るべきだと思う。

 

私は疑う。黒幕は、今を生きる我々の中にいるのではないのかと。

その場合、思い当たる人物は4名のみになる。サーヴァント召喚という偉業を成し遂げられる者は、それほどの魔術師を従える権力者か、魔術師張本人のみなのだから。

イングランド王 ヘンリー6世。フランス王 シャルル7世。フランス最大の大領主 ブルゴーニュ公。そのブルゴーニュ公のライバルとも言われるオルレアン公。

イングランド・フランスで権力者といえば、この4名。加えて、竜の魔女の主張からしてオルレアン公が最も怪しい。

 

そして、次点で疑わしいのは、その次に権力を持つベッドフォード公爵。公爵を裏で全面的にサポートしている夫人。

夫人は幼少期、一時だけだが魔女という噂が流れていたという。彼女に嫉妬した輩が流したみっともない噂話と皆受け止めているが、はたしてどうだろうか。

あの腹の底が知れない女性をこの城に受け入れなくてはならないのは苦痛だ。

彼女がこのタイミングで、ここへ来るだなんて、仕組まれたと思う方が自然だ。こちらがブールジュへ向かった事だって、彼女が向かわせたのではないだろうか。なにせ、ブールジュだけ明らかにサーヴァントがいると分かる情報が流れてきた。全ては、あの女がラ・シャリテへ入るために流された情報で、我々は彼女に踊らされているのではないか。

もし、黒幕が彼女なのだとしたら、

 

"オ前と、お、同ジ…カオ、があ、"

 

あれにも十分納得できる。

 

 

「閣下、よろしいでしょうか?」

 

扉をノックされた。この声はルイだ。

 

「あぁ、入ってくれ」

「失礼します。あの…」

 

予想通り我が軍唯一の少年兵が入ってくる。

 

「リッシュモン軍とカルデアが避難民を連れて門まで来ているようです」

「避難民の人数について変わりはないかい?」

「特にそのような報告は…」

「……そうか。全員無事なようで何よりだ。それで、本題は?」

「え?」

「真面目な君が仕事をサボってまで伝達しにきてくれたんだ。用はそれだけじゃないんだろう?」

「……すみません」

「いや、謝ってほしい訳じゃない。君は少し真面目すぎるから、もう少しサボってほしいくらいだよ」

 

落ち込んでいた顔がパッと明るくなる。少年らしい反応に思わず吹き出しそうになった。

 

「避難民の中に、ブラウン領の人達がいるって噂があって…」

「成程ね。それは嬉しいな」

「そうですよね!…元気、出ましたか?」

「!…あぁ、そうだね。ありがとう。ルイ」

 

正直にいうと、領民がいる事は知っていた。リッシュモンが早馬で届けてきた書面の中に記されていたからだ。自分のところの領民がいるから避難民全員受け入れろという意味なのか。それとも彼らしい純粋な善意なのかは分からないが、主張しておきたい内容である事は感じ取れた。

でも、それを一々言う必要もないので、知らぬふりをして笑い、彼においでと手招きする。

素直に近づいてきた彼の頭を撫でる。まだ幼いからか、細くて柔らかい髪質だ。数回撫でてやると、ルイは不満げな顔をしていた。流石に子供扱いが過ぎたのかもしれない。

 

ふと、脳裏に1人の女の子の顔がよぎった。

 

"子爵様!!"

 

イングランド人。だけど、私にも懐いてくれた優しい女の子。

避難民の中に、その子がいるといいなと思うのは、領主として失格かもしれない。

 

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藤丸六香 - 11

 

 

「子爵様!!」

「わっ!?」

 

ラ・シャリテに着き、一通りの手続きを終えリラックスしていると後ろから抱きつかれた。何事!?と思い振り返ると、私の腰に抱きついている女の子と目が合った。予想外の展開に首を傾げる。全く同じタイミングでその子も首を傾げた。この子、見覚えある。昨日会った子だ。名前は、確か…。

 

"オリヴィア。こちらは、君の領主がお世話になっている方々だよ"

 

そうだ。オリヴィアちゃん。将軍が持っている土地に住んでいる子だ。

 

「領主さまはどこ?」

 

オリヴィアちゃんは真っ直ぐ私を見て言う。そうか。私が将軍のマントを羽織っているから、将軍がいると勘違いしちゃったのか…それにしてもこの子、こんなに目を見て話す子だっけ?幼女なのに圧がすごい。流石将軍のところの子だ。

 

「えっと、ごめん。分からない」

 

私が知らないと理解すると、パッと離れて近くのブラウン兵のところまで走って行ってしまった。…子供ってこういうところあるよね。

後ろ姿を目で負っていると、彼女の右腕に黒いバンダナが目に入った。あれはラ・シャリテに入る直前、ブラウン兵から配られたバンダナだ。どこからの避難民かを区別するためのもので、はっきり言えば階級制度のようなものだった。

最初からラ・シャリテにいた人達は白。この人達は1番優遇されていて食事も避難民と比べて多い傾向がある。私達が来る前からラ・シャリテへ避難してきた人達は赤。この人達は避難民の中では1番優遇されている。私達が来た後、つまり、ブールジュからの避難してきた人達は青。

最後にブールジュからの避難民の中でも階級制度が出来たようで、イングランド側からブールジュに避難してきた人達。すなわち、将軍の領民は黒のバンダナを与えられていた。話を聞く限りでは、この人達が一番冷遇される事になるらしい。

この階級は故郷を失った順で悪くなっていくらしく、たとえ将軍の領民であっても例外とされないらしい。

 

「なんだこのガキは。邪魔だ。どっか行け」

「きゃっ!?」

 

手を掴まれ声をかけられたブラウン兵は乱暴に彼女を振り払った。その勢いで彼女が壁にぶつかる。

 

「ちょっと!?何してるんですか!!」

 

すぐさま彼女に駆け寄る。壁の表面はでこぼこしているため、おでこを怪我してしまったようだ。血が滲んでしまっている。

 

「領主さまはどこ?」

 

私に構わずオリヴィアちゃんは再度聞く。その酷い扱いに何も疑問を抱いていないように見えて、私の方が戸惑った。

 

「閣下はお忙しい。てめぇみたいなガキに構ってる時間なんざねぇよ」

「そんな事はありません」

「あ?」

 

ジャンヌが言い返した。

 

「伝えてくれませんか。この子が貴方がたの主人に会いたがっていると」

「何でそんな無駄なこと」

「無駄ではありません。伝えてくれれば彼はきっとこの子に会いにきてくれます」

 

自分よりもずっと背が高くガタイもいい兵士達にジャンヌは毅然とした態度で接する。

 

「寄るな魔女が。魔女は自分の立場ってもんが分からないのか?誇り高きイングランド人にフランスの魔女が話しかけるだなんて、よっぽど常識がないのかね」

「くははっ、止めとけよ。魔女に何を言っても理解できる頭持ってねぇって」

 

兵士達は嘲弄し出した。

 

「それもそうだな。そもそも目の前に魔女がいるってのに手出し禁止っていうのおかしいよな…魔女も武器にしないと勝てないだなんて情けない。あーあ…オスカー様だったら真っ先に魔女を火あぶりにしてただろうに。オスカー様も目が衰えたんじゃねぇの。あんな奴を養子に迎え入れるなんて」

「何を…貴方、自分の上官を侮辱するのですか!」

「煩ぇな。舌でも切っておくか。お前ら武器だって話だったよな。武器なら話すこと自体がおかしいもんなぁ?」

 

何でこんな酷いことが言えるのだろう。目の前の兵士達を睨んだが彼らは鼻で笑うだけだった。言葉通り本当に切ろうとしているのか彼らは剣を抜いた。

 

「っやめて!」

 

咄嗟にジャンヌの前に立つ。

 

「六香、危険です。下がってください」

「っでも…」

「魔女の言うことに従った方がいいんじゃねぇの?お前の舌も切られたくなかったらな」

「っ…!」

 

足がすくむ。怖い。でも、ここで下がったらジャンヌが危ない目に遭ってしまう。どうしよう。どうしよう。パニックに陥って頭が回らない。

そもそも何で味方同士でこんな争いなんて。

 

「その魔女の言う通り、その子供が会いたがっていると伝えろ。自分の命が惜しくなかったらな」

「!」

 

兵士達のすぐ後ろに男の子が立っていた。…あの子も見覚えある。確か、前にエイルさんが呼んでいた少年兵 ルイ君だ。いつからそこに立っていたんだろう。ルイ君は仲間のはずの兵士を鋭く睨み上げていた。

 

「ルイ…っは、閣下のお気に入りの玩具が。調子に乗るなよ」

「調子に乗ってんのはどっちだよオッサン。今までまともな戦果も上げていないくせに」

「っ貴様…!!」

「それに閣下のお気に入りは俺じゃなくて、あっちの女だろ」

 

ルイ君はダルそうに私に指出した。

 

「オッサン目悪いのか?あのマント、どなたのものか分からない程腐った目なら俺がくり抜いてやろうか?ゴミは持ち歩かない方がいいぜ」

「お前いい加減に…!」

「おい待て。あれ、閣下のだ」

「は…?」

 

ルイ君に向かって剣を振り上げた兵士をもう1人の兵士が慌てて止める。

 

「肩の方を見ろ…あれ、ブラウン家のものだ」

「はぁ…?嘘、だろ。閣下があの女に渡したってことか。あの男が」

 

サイズが大きすぎて肩からずり落ちそうなマントを見て兵士達が困惑していた。正直こちらも困惑している。やっぱり、この、将軍に押し付けられたマント、凄いものなんだろうか。

 

「オッサン、どうする?まだ剣を収めないって言うのなら、その腐った目と、閣下の大切な人を傷つけるような判断を下す無能な頭を斬ってやるけど」

「ッ…!」

「穏便に済ませてやるって言ってるんだよ。感謝しろよ。閣下にこの事がバレたら脳みそぶっさす程度じゃ許されないだろうからよ」

「くそがッッ!!」

 

兵士達は剣を鞘へ戻しこちらへ背を向け悪態をつく。

 

「おい、分かってんだろうな。閣下に」

「煩ぇクソガキ!あぁ伝えればいいんだろ!何の価値もない子供が不相応にも閣下のお時間を頂きたいと言ってるってな!行くぞ」

「あぁ…」

 

苛立ちを隠さず2人は去っていく。行き先は多分将軍の執務室だ。ルイ君は大きな舌打ちをしながら私達の方へ歩いてきた。

 

「助けてくれたの…?」

「はぁ!?」

 

思わずそう聞くとルイ君はキッと睨んできた。

 

「勘違いするな!俺はただアイツらが気に食わないだけだ。アイツら、大した実力もなくて。訓練もよくサボって実戦では足引っ張るくせに金だけは貰って…今だってそうだ。魔女だ何だと侮辱して馬鹿にして、お前らはその魔女よりも劣る存在だっての。言い負かされて良い気味だ!」

「…もしかして、私が魔女だと罵倒された事を気にしているんですか?」

「う、煩い!!何であんたは一々言わなくてもいい事を言うんだ!」

 

ルイ君は顔を真っ赤にして叫ぶ。図星だったようだ。可愛い。ルイ君は伯爵の秘蔵っ子ってエイルさんは言ってたけど確かにコレは可愛がりたくもなる。

 

「へぇ珍しいもん見れたな」

 

後ろから意地の悪そうな声が聞こえた。振り返るとエイルさんとスペンサーさんがいた。

 

「ああいう奴は言い返す時間すら惜しいんじゃなかったのか?ルイ」

「奴らの無駄にデカい声がムカついただけですよ」

「ほー、今日は声小さい方だったけどなぁ?ガキが一丁前に恥ずかしがんなよ。素直にカルデアの子らが嫌がらせ受けてるのが嫌だったって言えばいいのになぁ」

「誰もそんな事言ってないですし、別にコイツらがどんな目に遭おうがどうだっていいですけど!」

「エイル、ルイで遊ぶな。ルイもムキになるな。…全く、君達は本当に騒がしい」

 

スペンサーさんは深くため息を吐く。この一連のやり取りで三人の関係性が見えてきた。スペンサーさんは間違いなく苦労人のポジションだろう。

 

「お前ん家よりマシだろ。その若さでガキ3人もいやがって」

「君達と一緒にするな。うちの子達は君達より100倍可愛いし100倍優秀だ」

「そりゃあ将来が楽しみだな。今嫁さん4人目妊娠中なんだっけか?」

「あぁ…まぁ休戦に入るまでは帰れないからな。私が帰る頃には腹の子が幾つになってることやら」

「え…何年も家に帰れないんですか?」

 

思わず口を挟む。

 

「帰れない事はないよ。おっと誤解すんなよ?閣下は理由次第では故郷へ帰るのを許可してくれる。これはただコイツが帰らないってだけだ」

「戦時中に呑気に家に帰れる訳ないだろ。仮にも第1班なんだからな。示しのつかない言動は閣下の足を引っ張るだけだ」

 

スペンサーさんは当たり前のように言い返した。きっと根がもの凄い真面目な人なのだろう。将軍からしてみれば、理想の部下なんだろうけれど、けれど何年も旦那さんが帰ってきてくれないお嫁さんの立場からすれば凄く寂しいだろうに。

 

「フランクなんて恋人すらいねぇってのに何かと理由つけて帰ってるぜ」

「呼んだかオッサン」

 

遠くから声が聞こえた。

 

「貴族様のくせに口が悪いんじゃないか?」

「おめぇだって貴族様だろうが。男爵様よぉ」

 

おちゃらけているように見えるけれど、歩き方からが洗練されているように見える。どんなに悪ぶっていても幼い頃から教育されていたことが丸わかりだ。それにしても、顔がいい。生まれが良い人は顔も良いのだろうか。

 

「テオとテディーと一緒にいたのではなかったのか?」

「2人とも自室に帰ったよ。信心深いあの2人のことだ。こんな状況でも部屋で祈ってるんだろ。引き篭もりめ」

「フランク。構ってくれなかったからと拗ねるのは寄せ」

「馬鹿が。何でそんな事で拗ねないといけないんだよ」

 

フランク、と呼ばれた男性は不機嫌そうな顔でスペンサーさんを睨んだ。

 

「そんな事より聞いたぜ、フランク。竜の魔女倒したら3日間戦場勤務から離れたいって申し出たんだってな」

 

エイルさんは2人の間に割って入り明るい調子で言った。

 

「その話か。別にいいだろ。元々戦場で人を斬り殺すよりも街中で可愛い子に愛の言葉を囁く方が得意だからな。閣下も許してくれたよ。その手で竜の魔女陣営全員殺せたら許可するってな」

「呆れられてないか…?」

「いいや、私なら奴らを壊滅させられるね」

「相変わらず凄まじい自信だな。その自信はどこからくるのやら」

「決まってる。私が、私の実力を信じているからだよ」

 

フランクさんは自信満々に微笑んだ。一見ナルシストにしか聞こえない台詞だが、様になっている。これが生粋の貴族か。

 

「なに、ぼんやりしてるんだよノロマめ。その大男の呪いを解くんじゃなかったのかよ」

 

ルイ君の鋭い声が飛んできた。

 

「そうだった。ジークフリートはエイルさんが医務室に運んでくれてるんですよね?行こう、早く呪い解かないと」

 

私の言葉にジャンヌは真面目な顔で頷いた。ふと彼女の隣が空白になっていることに気付いた。いつもならそこにマリーがいたから寂しく感じてしまう。もし、ここにマリーがいたらジャンヌの隣でにっこり笑い返してくれたんだろうな。

マリー、早く戻ってこないかな…。

 

《レイカちゃん、ちょっと良いかな。緊急事態という訳じゃないんだけど、不穏な動きをする敵サーヴァントを何度か検知していて。念の為に聞いておいてほしいんだ》

「何度か検知…?一体のサーヴァントを?」

《うん…検知してもすぐにどこかへ行ってしまう足の速いサーヴァントでね。おそらく最速のライダークラスのサーヴァントだ。今はまだ離れているけれど、いつ君の目の前に現れてもおかしくないほど、測定不可の速度を誇るサーヴァントが敵にいるみたいなんだ》

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

マリー・アントワネット - 1

 

 

ジャック・ド・フゥベー。国民にはフランスの悪魔だと言われてしまっている彼の存在をフランス王室は決して忘れてはならない。継承しなくてはならない。真実を言わなければならない。彼はフランスが誇る英雄であり、王室こそが悪だということを。けれど、私達は真実を国民に告白する日を迎えることができなかった。

 

私がその事を知ったのは、フランスへ迎えられ数年経ったある日のことだった。本来であれば王室とはいえフランス出身者でない私が真実を知る事は許されなかった。その部屋に近づくことすら許されないはずだった。王が特別に許可をしてくださなければ私は何も知らず、無知という罪を背負う事になっていただろう。

宮殿の礼拝堂。その2階には王室と宮殿建築に携わった一部の人間しか知らない隠し扉が存在する。その扉の先には王室の罪のみが存在した。その中でも王が1番重い罪だと語った出来事がある。1人の誇り高き英雄を悪魔に貶めた先代の話。

 

かつて100年以上隣国と争い続け国民を傷つけた戦争に終止符を打った人物がいる。彼はフランスを救うため、ありとあらゆる手段をとった。その中には聞くに耐えないものもあったが、多くの民が職を失い飢えに苦しんでいたその時代を立て直したのも、また彼である。彼は一貫してフランスを救うために戦い続けた。その生涯をフランスへ捧げ、ついに戦争は終わりを迎えた。彼は英雄として民に賞賛された。王も彼を英雄として接した。否、接するべきだった。

王は彼を英雄と認めていたが、褒美は与えず代わりに罪を押し付けた。王が犯した罪、他の公爵家の犯した罪を全て英雄である彼のものに仕立て上げた。無論、これは王家以外の人物も関わっている。少なくともブルゴーニュ公は関わっている。そうでなくては、ここまで彼に全ての悪事を背負わせる事等できないはずなのだから。

その結果、彼を養子として受け入れた公爵家は没落し最終的には爵位を奪われ、彼の義父は民によって殺され、義母はその後を追い自殺。義弟は精神を病み生涯孤独に過ごしたという。そして彼自身は処刑された。どのような形で刑が執行されたのかは不明だが非公開で刑が執行されたという事実だけで大体察しはつく。

何故王が彼を冷遇したのか。それは彼が人気者になり過ぎてしまったからに他ならない。王を圧倒的に上回るその人気ぶりは元々他の公爵家に比べ権力を持てなかったはずのフゥベー家を一気にフランス最大の権力を有する公爵家へと駆け上がらせた。皆が王よりフゥベー家の意志を尊重していた。このまま放置してはフゥベー家はいずれ王の座を奪うかもしれない。それを恐れた王室と、二番目に権力を有していたブルゴーニュ公はフゥベー家を没落させるために、彼を悪魔の役に押し付けた。

 

王家の計画は成功した。王は欲していた権力を取り戻した。けれど、その胸の内には常に罪の意識があった。この部屋には、罪に耐えられなくなったシャルル王の書記が現存していた。筆跡は震えている。晩年に書き記したものだからと王は説明したが、私はそれだけではないと思っていた。シャルル王のお心は分からないけれど、本当はシャルル王もこんな事はしたくなかったのではないか。ずっと、英雄を悪魔にしてしまったことを後悔し、誰にも言えぬその罪に苦しみ続けていたのではないかと思っていた。

 

 

王はもう一つ、私にあるものを見せてくれた。厳重な鎖で絶対に開かぬようにされている小さな棺だ。その中には、悪魔と言われている彼の肖像画に必ず描かれる、あの黒い剣が収められているという。その剣には王に裏切られた彼の怒りが宿っており、王族が触れれば恐ろしい事が起こる。過去、その剣に触れた王家の人間は皆錯乱状態となり、一生元の精神状態に戻る事はなかった。立て続けに起こったその事件以降、剣は絶対に触れぬよう棺の中に永遠に眠らせているのだという。王は、この剣こそが書記の内容が真実であると証明していると語った。そして、王家がこのような罪をひた隠しにしたままではいけない。我々はこの事実を国民に告白し罪と向き合うべきであるとも語った。私もその通りだと思った。告白すれば王家は国民からの信頼を失うかもしれない。罪と向き合ったところで、彼は永遠に王家を呪い続けるかもしれない。それでも、王家の人間として正しい事を行うべきだと思っていた。

しかし、王家が罪を告白する前に、フランス革命(あの日)が訪れた。数日後、罪の部屋は暴かれシャルル王の書記を含むいくつもの書物は燃やされ、彼の剣は行方知らずとなった。

 

私の罪は数多く存在する。この地へ現界した時、私は嬉しかった。今度こそ国民を守るために戦う事ができるのだと思っていた。彼と。ジャック・ブラウンと出会った際、私は私の罪を再認識した。彼の名誉を取り戻せなかったこと。彼の無実を証明する書記も、彼の大切な剣をも失ったこと。彼の姿を見るたび、罪悪感で身がすくんだ。まだ王に裏切られる前の彼に、この罪を告白していいのかと悩んだ。悩み続けて、今日まで来てしまった。囮を買って出たのは、その役割の一番の適任者が私であった事が一番の理由だけれど、彼への罪の意識も、理由の中に含まれていたのかもしれない。けれど、これでよかったのだと思う。そうでなければ、彼に告白することなんて出来なかっただろうから。

私は絶対に皆のいるあの砦に帰還する。帰還して、彼に私の罪を告白しよう。もし、許しが降りたら、この真実をカルデアに伝えよう。そのために私はギロチン(かつての恐怖)を乗り越え、皆のもとへ帰るのです。

 

 

「どうしてだ…?何故殺せない!?」

 

私の前に現れた敵サーヴァントは取り乱した。ここに現れたサーヴァントは一騎のみだった。他の3騎はきっと別行動をとり効率的に街を蹂躙しているのだろう。それを運が良いと言ってしまうほど割り切ることはできないけれど、私の勘は当たったと誇っても良いでしょう。最も今はそれどころではないのだけれど。

 

「ここに呼ばれて僕は何人も殺した!!生きてた頃よりも何倍も強くなった!!なのにどうして!!?」

 

きっと彼は聖女マルタと同じく狂化されているのだと思う。彼はもう私の知る生前の彼とは変わってしまった。

 

「哀しいわねシャルル=アンリ・サンソン。そんなだから私を殺せないの」

 

処刑人 シャルル=アンリ・サンソン。今は竜の魔女の配下 アサシンクラスで召喚されたサーヴァントで、生前は私を処刑した男。

 

「貴方は素晴らしい処刑人だった。罪人を決して蔑まず彼らが苦しまぬようギロチンだって開発した。でも今の貴方は違う。このフランスで多くの人を殺し殺人者となった。処刑人と殺人者は違うでしょう?サンソン。だから私を殺せないのは当然なの。だって本当に処刑人(あなた)の刃は錆び付いてしまったのだもの」

「っ違う!!!ずっと君に会えると信じてた…!!だから腕を磨き続けた…!!だって!そうしなければ僕は……!!僕はぁっ!!!」

 

サンソンは泣きながら叫ぶ。泣きながら私を求める。

 

「宝具展開!!」

 

そして無数の手が私へと伸ばされる。

 

死は明日へ(ラモール・)希望なり(エスポワール)!!!

 

真っ黒なその手は、かつて私を非難した国民の悲しみを思い出させた。裁判の場でどれだけ国民への愛を告げても拒絶されたあの日の後。私は無数の手に掴まれ、ギロチンの目の前へ連れられた。

あの宝具のあの黒い手は、あの時のものだ。あの手に捕まれば私は処刑台へ身体を拘束され、ギロチンを落とされる。

私は確実に死ぬ。

 

「……っ!!」

 

喉から悲鳴が溢れ出そうになるのを、必死に堪える。全身が震える。刃が私の首を絶つその瞬間を私は忘れる事ができない。あの時の恐怖はサーヴァントになったところで消えたりしない。愛する国民の前だから国民の名誉のために、どんな時でも王妃らしく振る舞おうとしていた。今だってフランスの王妃として頑張っているつもりだけれど。それでもどうやったって、あれへの恐怖は拭えない。

あぁ……怖いわ。とても怖い。2度目だっていうのに。とても怖い。

 

「……!」

 

歯を食いしばり必死で震えを抑えた。怖いけれど私はここから逃げない。怖いけれど私は真正面から彼と向き合う。何故なら今はあの時とは違う。私はまだ必要とされているのだから。

 

「さんざめく花のように 陽のようにーーー!!宝具!!!」

 

輝きはまだここにある。だから私はまだこの国のために戦える。

 

百合の王冠に栄光あれ(ギロチン・ブレイカー)!!!

 

勝敗は一瞬で決まった。私は勝った。私は彼の霊格を破壊した。

彼を殺した。

 

「……僕は…」

 

彼は泣いていた。ずっと苦しそうな顔で私を見ていた。生前から彼はそうだった。彼は私にギロチンを落とすその瞬間まで、見ているこちらが哀れに思うほど辛そうな顔をしていた。

 

「もっと巧く首を刎ねてもっともっと最高の瞬間を与えられたなら、君に許してもらえると思ったんだ…」

「……もう。本当に哀れで可愛い人なんだから。私は貴方を恨んでいない。初めから貴方は私に許される必要なんてなかったのに」

「マリア…!!僕は……」

 

子供のように大声で泣く彼はそこから先の言葉を発することはなく光の粒子となり、やがて空気に溶け込むように消えていった。彼が最後なんと言いたかったのか、それを私が読み取れるだなんて思わないけれど。きっと消える直前の彼の表情を見るに、彼は殺人者となってしまった自分を恥じ、終わらせた私に感謝してくれたように見えた。

 

どうか、彼の魂に安らぎを。

その場に座り、目を閉じ祈りを捧げる。さぁ行かなければ。私にはまだ私を必要としてくれている人がいるのだから。もうレイカ達とお別れして一日以上経っている。通信機は戦いの最中うっかり落として壊れてしまったから、ここで私が帰らないと、誤解したジャンヌや六香が泣いてしまう。それだけは、いただけないわ。

疲弊した身体に鞭を打ち、私は立ち上がる。魔力消費が激しい。皆のところへ行くまで霊基が持つといいのだけれど。

 

「素晴らしい。サーヴァントは死因には抗えないというのに、まさかその常識を覆すとは」

「っ!?」

 

いつからそこにいたのだろう。1人のサーヴァントがこちらを見ていた。白髪の男性。瞳の色は金色とも橙とも取れる綺麗な色。初めて見た顔だった。

 

「貴方は…」

「武装したままの姿での拝謁など許されたことではありませんが…どうか目を瞑っていただきますようお願いいたします、王妃」

「私のことを知っているのね……生前の知人かしら。ごめんなさい、私覚えていなくて」

「いいえ。ですが私が300年ほど長く生きていれば知人になり得たかもしれません」

 

300年。その数値に身の毛がよだつ。私が生きていた時代よりも300年ほど前のフランス。その頃のフランスは何をしていたのか、なんて考えるまでもない。今、この特異点こそがその時代なのだから。彼の腰にかけている、その剣を見て、確信に変わった。あの特徴的で大きな剣はこの特異点で見た事があった。

 

「あぁ…なんてこと……」

 

声が震える。きっとこの地に召喚されていると思っていた。けれど、こんな出会いなんて想像だにしていなかった。彼なら、きっと私達を導いてくれると思っていたのに。

 

「……そう。そういう事なのね。貴方は、竜の魔女の配下だったのね」

「…成程。貴方にはそう見えますか」

「違うというの?その様子では私達の味方とは思えないのだけれど……貴方は私を殺しにきたのでしょう?」

「まさか。我が祖国フランスの王妃 マリー・アントワネット。私は貴方をお迎えに上がりに馳せ参じたのです」

 

思えば、この時代を生きる彼は誰に対しても警戒心を解くことなく威圧的な態度だった。レイカはそんな彼を恐れているようだけれど、あんな態度になってしまうのは、きっと彼自身が1番恐怖を感じているからだろう。

対面する彼は、あの彼とは正反対に終始和やかな印象だ。綺麗な顔立ちが穏やかに微笑むその様は、見ている者を魅了する。だというのに、どうして私はずっと震えが止まらないのだろう。

 

「どういう事かしら。黒騎士 ジャック・ド・フゥベー。貴方の目的は一体何?」

「答えれば、こちらの願いを聞き入れてくださいますか?」

「…内容次第では考えなくもないわ」

 

彼はじっと私を見つめた。彼の瞳は、ゾッとするほど、きらきらと輝いていた。

 

「救済ですよ。この世界に生まれてしまった全ての人類を救うために、私はこの手を血で染める」

 




【TIPS】
・黒騎士の剣
元々はジャック・ブラウンの父が所有していた人を惹きつける不思議な力を持つ剣。アマデウス曰く、いつかどこか誰かのせいで所有者の精神を蝕む能力を持つ魔剣らしい。また、1431年のジャック・ブラウンは魔剣に主人とは認められていないらしい。
ジャック・ブラウンも例外なく剣に呪われており記憶を侵食され始めている。

【カルデア陣営の主なメンバー】
<ブールジュ撤退組>
・藤丸六香(マスター)
・ジャンヌ(ルーラー)
・清姫(バーサーカー)
・ゲオルギウス(ライダー)
・ジークフリート(セイバー)
 ┗重い呪いにより瀕死。ジャンヌとゲオルギウスによる解呪が必要
・ベッドフォード公爵夫人(人)
<ブールジュ>
・マリー・アントワネット(ライダー)
 ┗サンソンとの戦闘により、かなり消耗
<ラ・シャリテ組>
・藤丸立香(マスター)
・マシュ(シールダー)
・アマデウス(キャスター)
・エリザベート(ランサー)

【連合軍の主なメンバー】
・ジャック・ブラウン(人)
 ┗右手の指3本欠損。
・ユリウス・テイラー(人)
・フランク(人)
・スペンサー(人)
・エイル(人)
・ルイ(人)
<リッシュモン軍>
・アルテュール・ド・リッシュモン(人)
・ダニエル(人)

【竜の魔女陣営のメンバー】
・ジャンヌ(竜の魔女)
・ジル(キャスター)
・プレラーティ(キャスター)
・ヴラド3世(ランサー)
・エリザベート(アサシン/カーミラ)
・シャルル=アンリ・サンソン(アサシン)
 ┗消滅 ←NEW!!
ジャック・ド・フゥベー(????)←NEW!!
 
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