結束バンドが再結成してから、数日。
「もういやー!!」
喜多ちゃんの悲鳴がスターリーのスタジオに響いたのです。
「ギター辞めます!!
Fコード難しすぎる!! 上手く押さえられない!!」
「(早くも解散の危機!?)」
「もしかして不良品……? まさかまたベースじゃあ……」
「まっ間違いなくギターです……」
喜多ちゃんは初心者がまず躓くと言うFコードで挫折しかかっていました。
「あっ最初はちゃんと鳴らなくてもそれっぽく弾けてたらいいですから。
わっ私も要領悪いから、同じところで躓いたし、だからこそ教えられるって言うか!!」
私はそんな彼女に精一杯励ますことしかできませんでした。
彼女の挫折は私も通った道でした。
「(というか躓かなかったところがないレベルで、私にとってギターの上達は七転び八起きだったというか……)」
「……ごめんなさいね、弱音ばっかり吐いて。(そうよ、後藤さんだって最初から上手かったわけじゃないわよね)」
立ち直ってくれた喜多ちゃんに私は安堵していると。
「後藤さんに昼休みも放課後も教えて貰ってるし、リョウ先輩にもギター貸してもらったし、皆にも助けて貰ってる分、私が頑張らなくちゃ!!」
「そ、そうですね。リョウさんにあのベース買い取ってもらえましたし」
「うん、でも渡した時に──」
『これで一文無しになったので、これからは草でも食べて生きていきます』
「って。あれ、冗談よね?」
「(ほ、本気な気がする……一体どういう心境だったんだろう……)」
気を取り直して私たちは練習を再開しました。
「ダメねぇ」
「あ、いや、い、一応最後まで弾けてぇ」
「そこなんだけどね!!」
「あ、はい」
「考えてみたら、私ってボーカルもやるわけじゃない?
今は全神経ギターに言っちゃって歌どころじゃなくて……」
「ま、まあ、もともとギターボーカルは初心者がやるような難易度ではないので、喜多さんは努力してますし……」
一般的にギターとボーカルの兼任は難しいとされている。
今多くを彼女に求めるのは間違っているのだ。
「もういっそ、ボーカルだけの方がバンドの為かと思ったんだけど」
「(確かにバンドとしてはその方が完成度は上がるかもだけど……喜多さんがやりたいようにすればいいと思うな……)」
「(……ありがとう後藤さん)
でもボーカルだけだと、間奏の間なにしてればいいかわからないじゃない?」
「あっぎゃ、逆にパフォーマンスをしたくてボーカルだけをやるって人も居るらしいですし、人それぞれかと」
「そうなのねー。バンドって奥が深いわ」
だからボーカルは目立ってモテるんだろうか、とそんな取り留めのないことを考えていると。
キターン!!
「だから、私も皆に追いつけるように、頑張らないとね!!」
キターン!!
「(爽やか向上心パワー眩しすぎる!!)」
「?? そう言えば、私がボーカルやっても良いの?
後藤さんも歌ってみれば?」
「えッ、むむむ、無理です!! (そんな勇気絶対無い!!)」
だけど、私の中で抱いていた理想の自分は、間違いなくギターボーカルだったのです。
「(誰もが想像する、理想のバンドマンは喜多さんみたいな人だ。だけど私はギターヒーローには成れない……)」
私の動画投稿の名義はギターヒーロー。
ギターヒーロー、これは特定の誰かのことじゃない。
ギターの神様と称えられるジミ・ヘンドリックスやエリック・クラプトンを挙げる人も多いと思う。要するにギターヒーローとは、ロックに憧れる各々の“推し”なのだ。
太陽のように、ロックと言う光で誰もを照らすような、そんなギタリストに、私も成りたかった。
一人で三人分の演奏をしてると言われたジミ・ヘンドリックスに成りたかった。
抜群の歌唱力とギターの腕を持つエリック・クラプトンに成りたかった。
憧れは遠く、自分は余りにも小さい。そんなことを、私は“考えた”。
「(そんな筈無い、後藤さんのギターに私は心動かされた。ギターヒーローが誰かにとっての"推し”なら、私にとってギターヒーローは──)」
「二人とも、そろそろ集合だよ~~」
その時、虹夏ちゃんの呼ぶ声がした。
そろそろバンドミーティングの時間だった。
そこで、私は衝撃の光景を目の当たりにした。
「みんな、早いね」
リョウさんがスターリーの入り口から現れると、雑草をむしゃむしゃしていたのだ!!
「ホントに食べてる!?」
「先輩、ワイルド……!!」
「ええ!?」
憧れとは理解と最も遠い感情だと言うのは本当だと、私は喜多ちゃんを見てそう思ったのでした。
虹夏ちゃんに雑草を片付けさせられたリョウさんと共に、私達はいつものテーブルの前に着席しました。
「それでは、バンドミーティングを始めます。拍手!!」
リーダーの虹夏ちゃんの呼びかけによってミーティングがはじまりました。
彼女の提示した議題はこれでした。
『より一層バンドらしくなるには?』
「せっかく四人集まったんだし、より一層バンドらしくなっていきたいなと」
「な、なるほど」
「勿論、練習あるのみだってのは分かるよ。だけど、そればっかりってのもねぇ。
色々話し合ったりするのも大事かなって」
虹夏ちゃん的にはバンドメンバーはこれで十分だと判断したんだと思う。
でも正直、これ以上メンバーが増えても私の影が薄くなるだけだよね……。
「(もしかして虹夏ちゃん、最近練習頑張ってる喜多さんの息抜きに……)」
「まずは形から入ってみるのもアリでしょ!!」
「アリですね!! 流行ってるメイクとか真似してるうちに様になっていくって言うか!!」
「そうそう!!」
「(左利き奏法とか歯で弾くの真似したりするうちになんか出来ちゃったりする感じかな……)」
「(いや、そんなのマネできてたまるか!!)」
「((ひ、ひだ、左利き? 歯でギターって演奏できるの?))」
「(あとでやってもらおう)」
でもパフォーマンスで目立つっても、際限なくなっちゃうし。
私の場合、特に……。だから自重しよう。
「えー、というわけで、とりあえずバンドグッズ作ってきた!!」
「(予想以上に形から入ってきた!?)」
そう言って虹夏ちゃんが見せたのは、自分の腕に巻いた結束バンドでした。
「それ、ただ結束バンド巻いただけですよね?」
「かわいくない? いろんな色あるよ?」
「(ホームセンターに売ってたのかな……もっと細くて黒いのしか見たことないんだけど)」
「(今時は通販なんだよ、ぼっちちゃん)(どやッ」
「物販で500円で売ろう」
「(暴利過ぎる!? 絶対一束五百円しないはずなのに!?)」
「サイン付きは650円で」
「安いッ、買います!!」
「(喜多さん、それだと外貨の獲得になってないです……)」
「小銭が出ると面倒だし、やっぱり千円ぐらいにしよう」
「(コミケみたいな配慮の仕方!? しかも値上げしてるし!?)」
とか思いつつも、具体的な方策の無い私は黙っているだけでした。
「他には何かバンドらしくなるアイディアある人?」
「はい、イソスタとかやるなら、私やります!!」
「いいね!! SNS大臣に任命します!!」
「その時が来たら任せてください!! 毎日更新しますね!!」
SNSかぁ、家族内グループを作る時も、私だけは拒絶反応が出て最後の最後まで拒否してたなぁ。
「後は、ファンクラブの設立とか?」
「(すごく気が早い……)」
「年会費は三万円で行こう」
「いや、高すぎでしょ!!」
私が内心ツッコむより早く、虹夏ちゃんがそう言った。
流石にそれは高すぎる。喜多ちゃんも財布を広げて涙目になってる。
「大丈夫。どうせメンバーの会費は経費で落ちるから」
「あんたは国民の税金を何だと思ってるのさ!!」
なぜか二人はぼそぼそと小声で言葉を交わしました。
なにか不都合でもあったのでしょうか。
「メンバー会員特典として握手会や年に一度のたこ焼きパーティーを。材料は会員持ちで」
「何とかして入ります!!」
「喜多ちゃんはこっち側でしょ」
このままでは収拾がつかないので、この話題はここまでとなりました。
「それじゃ、ほかにバンドらしいことってある?」
「バンドらしい、とかじゃないけど」
今度はリョウさんが口火を切りました。
「バンドを続けるって、結構難しいことだよ」
「……リョウ」
「バンドってさ、楽しいからやるけど、続けるにはモチベーションがいるんだ」
それは実感のある言葉でした。
「このバンドで何をするのか、そういう目標を立てないと惰性で続けるだけだよ」
「リョウ……──なにか悪いモノでも食べた?」
急に真面目なことを言い出したリョウさんの顔を虹夏ちゃんは覗き込みました。
「あっ草食べてました」
「そう言えばお昼もそれでお腹壊してたね」
私がハッとなってそう言うと、彼女も納得したように頷きました。
「バンドの目標と言えば、メジャーデビューとかですか?」
「うん、それもあるけど、バンドにとってデビューは売れる為の通過点だから。
デビューそのものを目的にするのは寂しいかな」
喜多ちゃんの言葉も空しく、リョウさんは現実を口にした。
「……あッ」
何かに気づいた虹夏ちゃんは、さっとテーブルの下に手をやった。
すると、リョウさんのスマホを取り上げた。
「ああ」
「やっぱり、カンペを見てたな!!」
なにやらリョウさんらしくない語り口だと思ったら、ネットかどこかでそれっぽい文章を読んでいたらしい。
「(これ、役人さんからの助言じゃん……)
えーと、どれどれ、うーん、悔しいけど参考になる」
スマホの内容に目を通した虹夏ちゃんがそう言った。
────今より数か月後の未来、私達の活動はガチじゃない、と言ってくれた人が居ました。
実際、私はバンドを組んでちやほやされたかったけど、そこに至る為の明確なビジョンを持っていなかった。
いや、違うな。本当は半分くらい満足してたんだ。
ずっとできなかったバンドを組んで、メンバーが揃って、練習をする充実感。
私のこれまでの人生で、こんなに充実した日々は無かったから。
「漠然とライブに出て、漠然と続けても、気持ちが先細りになる。
いずれ何の為に続けているか分からなくなる。音楽一本で食べていくのは今の時代は難しい。明確な目標が必要、か。
悔しいけど、その通りだなぁ」
バンドっぽい活動じゃなく、バンドとしての活動。目標設定。
「よし、とりあえず、まずはオリジナル曲の作成なんてどうかな!!」
「あ、賛成です」
「うん」
「い、良いと思います」
「よーし、満場一致で決まり!!
結束バンドの当面の目標は、オリジナル曲でライブとします!!」
バンドとしては、まだ小さな一歩目だ。
だけど、私達には大きな一歩だ!!
「そう言うわけで作詞大臣。歌詞はよろしくね!!」
「え、後藤さんが歌詞を作るんですかぁ!!」
「うん、ぼっちちゃんが作詞、リョウが作曲って前に決まったんだ」
「えー、スゴイです!! 曲はもうできてるんですか、リョウ先輩!!」
「インスピレーションが湧いたらそのうち」
「(か、完全に忘れてたぁ……!!)」
そう言えば、以前そんなことを虹夏ちゃんが言っていた気がする!!
「後藤さん、スゴイ仕事任されてカッコいいね!!」
か、カッコいい!?
私は喜多ちゃんのその言葉で完全に舞い上がってしまいました。
「え、えへ、作詞なんて朝飯前、ちょちょいのチョイですよ~」
「(後藤さんってすぐ調子乗っちゃうのねー)」
「(よーし、大ヒット間違いなしのバンドらしい歌詞を書いちゃうぞ!!)」
一週間後。
白 紙 の ノ ー ト !!
もうダメだぁ、おしまいだぁ……。
今回はちょっと難産でした……。
アー写まで行きたかったんですが、それは次回に持ち越しになりそうです。
なるべく早く続き書くんで御許しを!!
それではまた、次回!!